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第十章:父の怒りと、熱を帯びる白
しおりを挟む「また道に迷ってしまったよ~! 主、いるかな?」
小屋の前に到着するなり、アリオスは屈託のない声を上げ、慣れた手つきでドアを叩きました。中から「どうぞ」という声が響くやいなや、彼は吸い込まれるように扉の向こうへと消えていきました。
その様子を物陰から見ていた国王は、衝撃のあまりその場にへたり込みそうになりました。
「道に……迷っただと? ふざけるな!」
王の額には青筋が浮かびました。あのアリオスという少年は、街では聖者のように振る舞いながら、娘の前では平然と嘘をついて入り込んでいる。
「セレーナは騙されている! あんな見え透いた口実に……。明日だ。明日、あやつを王室に呼び出し、この十年の機密と嘘のすべてを吐かせてやる!」
王は鼻息を荒くし、娘を悪い虫(しかも自分の部下)から守らねばという使命感と怒りに燃え、大急ぎで王宮へと引き返しました。明日の尋問の準備をするために。
一方、外の不穏な気配など露知らず、小屋の中には穏やかな紅茶の香りが漂っていました。
「……また、いらしたのですか。毎週毎週、そんなに迷いやすいのでしたら、騎士はお辞めになったほうがよろしいですよ」
セレーナは呆れたような口調で応じましたが、その口元には隠しきれない笑みがこぼれていました。
アリオスが来る。ただそれだけのことが、モノクロだった彼女の毎日に色を与えていたのです。こんな日々がずっと続いてくれたら……そんな淡い願いが、胸の奥で芽生え始めていました。
「いやあ、面目ない。でも、迷ったおかげでいいものを見つけたんだ」
アリオスは椅子に座ると、ゴソゴソとポケットから丁寧に包まれた小箱を取り出しました。
「はい、これ。……君の部屋、白い家具が多いだろう? だからきっと白が好きなんだと思って。贈り物だよ」
差し出されたのは、先日アリオスが街で選んだ、雪のように白く、滑らかな手触りのハンカチでした。
「……っ」
セレーナの心臓が大きく跳ねました。
贈り物なんて、十年前の誕生日を最後に、一度も受け取ったことなどありませんでした。しかも、自分の好みを観察して選んでくれたという事実に、顔に一気に熱が込み上げてくるのを自覚します。
(……大丈夫。レースで目元は隠れているから、バレないはず……)
セレーナは動揺を悟られぬよう、少しぶっきらぼうに「ありがと」と言って、ひったくるようにそれを受け取りました。
しかし、彼女は知らなかったのです。
目元が隠されていても、真っ白な銀髪から覗く耳たぶや、細い首筋が、夕焼けのように真っ赤に染まっていることを。
アリオスはそれを見て、茶化す代わりに、胸が締め付けられるような愛おしさを感じていました。
「……よく似合っているよ、主」
彼の優しい声が、熱を持ったセレーナの頬をさらに赤く染め上げていきました。
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