聖域の森へ忍び寄る足音

花垣 雷

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第十二章:暗転する静寂と、黄金の導き

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「……そうか」

アリオスの独白を聞き終えた国王は、短くそれだけを言い放ちました。感情の読み取れないその瞳は、窓の外の遠い空を見つめています。

「このことは他言無用。下がれ」

「……は。失礼いたしました」

アリオスは深く一礼し、嵐の去った後のような静けさの残る執務室を後にしました。
稽古場に戻ったアリオスを、団長や同僚たちが一斉に取り囲みました。

「アリオス! 無事だったのか!」

「陛下に何を言われたんだ?」

仲間たちの安堵の声に、アリオスは力なく首を振ることしかできませんでした。その表情は、怒られたというよりは、何か巨大な運命の渦に巻き込まれたかのように強張っています。

「……なんでもないよ。少し、考え事をしていただけだ」

そのあまりの様子の変貌に、仲間たちは

「じゃ、じゃあ……メシでも行くか」

と、それ以上踏み込むのをやめ、不器用な気遣いを見せることしかできませんでした。
そして迎えた、次の休日。
アリオスは早る鼓動を抑えながら、いつものように森の霧を切り裂いて走りました。しかし、視界に小屋が飛び込んできた瞬間、彼の心臓が冷たく凍りつきました。

(……灯りが、ついていない?)

最近ではアリオスが来る時間に合わせて、灯りが灯り、カーテンが開けられていたはずでした。しかし、今日の小屋は以前のような、拒絶の沈黙を守ったまま。
するとそこへ、一羽の金色の小鳥が狂ったように羽ばたきながら飛んできました。小鳥はアリオスの袖をくちばしで激しく引っ張り、扉の方へと彼を誘います。

「どうしたんだ、何があった!?」

アリオスが扉を叩きますが、内側から鍵がかかっており、返事はありません。小鳥の焦燥した様子に、アリオスは最悪の事態を直感しました。

「主! 開けてくれ! 入るぞ!」

アリオスは肩を強く入れ、騎士としての全力を込めて扉に体当たりをしました。
激しい音と共に扉が跳ね返り、中へ飛び込むと、そこには変わり果てた光景がありました。

「セレーナ……っ!」

彼女は床に倒れ伏していました。呼吸は荒く、銀色の髪はうっすらと汗で張り付き、その頬は異常なほどに赤く火照っています。声をかけても、意識はなく、ただ苦しげな吐息が漏れるばかりでした。

「しっかりしてくれ! すぐに助ける!」

アリオスが狼狽しながら立ち上がると、金色の小鳥が枕元でさえずり、外へと飛び出しました。

「薬草か? 案内してくれるのか!」

小鳥の導きに従い、アリオスは森を駆けました。崖の縁、大樹の根元……小鳥が指し示す場所には、熱病に効く貴重な薬草がひっそりと生えていました。
必要な分をむしり取るように採取し、小屋へ引き返したアリオスは、震える手で薬草をすり潰しました。

「頼む……効いてくれ……」

必死の思いで薬を煎じ、まだ熱い液体を冷ましながら、少しずつ、意識のないセレーナの唇へと流し込みました。
彼女の命を繋ぐために。かつて彼女がこの国を守ったように、今度は自分が彼女を守るために。

アリオスは祈るような心地で、彼女の細い手を固く握りしめました。
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