20 / 27
第二十章:黄金の朝と、精霊の祝福
しおりを挟む扉の向こう、廊下に残った国王と親族たちは、部屋から漏れ聞こえるアリオスの慟哭を、身を切られるような思いで聞いていました。
それは、騎士の仮面を脱ぎ捨てた一人の少年による、魂の叫びでした。その激しい嗚咽が静まるまで、誰もその場を離れようとはせず、ただ共に深い悲しみの夜に沈んでいきました。
夜が更けても、セレーナが目を開けることはありませんでした。
アリオスは、彼女の細い手を両手で包み込んだまま、祈るように椅子に腰掛けていました。やがて極限の疲労と安堵、そして消えない痛みが彼を微睡(まどろ)みへと誘い、彼はセレーナのベッドに突っ伏したまま、深い眠りに落ちていきました。
「……チュンチュン……チチチ……」
耳元で、懐かしいさえずりが聞こえました。
アリオスは、頬をなでる柔らかな陽光を感じながら、ゆっくりと意識を浮上させました。
(ああ……僕は、寝てしまったのか……)
目覚めると同時に、背中に心地よい重みと温かさを感じました。驚いて振り返ると、そこには上質な毛布が掛けられていました。
(これは……陛下が? それとも、王妃様だろうか……)
誰が掛けたにせよ、そこに込められた静かな慈しみが、アリオスの凍えた心を少しだけ温めました。
ぼんやりとさえずりの主を探していると、不意に窓ガラスを激しく叩く音が聞こえました。
「コン、コン、コン!」
窓の外に目をやると、そこにはあの日、自分をあの小屋へと導いた金色の小鳥が羽ばたいていました。
しかし、今日はそれだけではありませんでした。
小鳥の周囲が、見たこともないほどの輝きに満ち溢れているのです。
「なんだ……この光は……?」
アリオスの目には、無数の小さな光の玉が、意思を持っているかのように宙を舞っているのが見えました。森に住まう精霊たちが、小鳥に連れられて、かつての友を救うために王宮の奥深くへと集まってきたのです。
アリオスは痛む体を引きずりながら、窓辺へと急ぎました。重い窓枠を押し上げると、待っていたかのように、金色の光が濁流となって室内へとなだれ込みました。
光の粒は、キラキラと空中で踊りながら、ベッドに横たわるセレーナを包み込んでいきました。それは、かつて彼女を蝕んでいた黒い暴走の影を、優しく、、丁寧に拭い去っていくような、清らかな再生の光でした。
「……セレーナ……」
光の渦の中心で、銀色の髪が眩しく輝きました。
精霊たちの歌声のような微かな羽音に包まれて、セレーナの指先が、再び命の熱を帯びて動き始めました。
0
あなたにおすすめの小説
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
私は、聖女っていう柄じゃない
蝋梅
恋愛
夜勤明け、お風呂上がりに愚痴れば床が抜けた。
いや、マンションでそれはない。聖女様とか寒気がはしる呼ばれ方も気になるけど、とりあえず一番の鳥肌の元を消したい。私は、弦も矢もない弓を掴んだ。
20〜番外編としてその後が続きます。気に入って頂けましたら幸いです。
読んで下さり、ありがとうございました(*^^*)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪
鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。
「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」
だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。
濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが…
「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」
ある日、私は聖女召喚で呼び出され悪魔と間違われた。〜引き取ってくれた冷血無慈悲公爵にペットとして可愛がられる〜
楠ノ木雫
恋愛
気が付いた時には見知らぬ場所にいた。周りには複数の女性達。そう、私達は《聖女》としてここに呼び出されたのだ。だけど、そこでいきなり私を悪魔だと剣を向ける者達がいて。殺されはしなかったけれど、聖女ではないと認識され、冷血公爵に押し付けられることになった。
私は断じて悪魔じゃありません! 見た目は真っ黒で丸い角もあるけれど、悪魔ではなく……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
綱渡り
真麻一花
恋愛
異世界へ聖女として召喚された私。
家族から引き離されて辛い時、王子と彼の側近たちがそばにいて私を支えてくれた。みんなが好きって言ってくれたけど、よくわからない。でも一番そばで支えてくれた王子様に求婚されて……。
それは、浮かれきっていた私が現実を知る前の、話。
噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される
柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。
だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。
聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。
胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。
「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」
けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」
噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情――
一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。
黒の聖女、白の聖女に復讐したい
夜桜
恋愛
婚約破棄だ。
その言葉を口にした瞬間、婚約者は死ぬ。
黒の聖女・エイトは伯爵と婚約していた。
だが、伯爵は白の聖女として有名なエイトの妹と関係をもっていた。
だから、言ってはならない“あの言葉”を口にした瞬間、伯爵は罰を受けるのだった。
※イラストは登場人物の『アインス』です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる