21 / 27
第二十一章:目覚めと、扉の向こうの絆
しおりを挟む精霊たちの柔らかな光がゆっくりと室内に溶け込んでいった、その時。
「……アリオス……」
唇をわずかに動かし、セレーナが彼の名を呼びました。まだ瞳は瞑(つむ)ったままでしたが、その声は以前のような孤独な響きではなく、どこか安堵に満ちた甘やかな響きを湛えていました。
アリオスは、こぼれそうになる涙を必死にこらえ、世界で一番優しい声で微笑みました。
「——小さな主(あるじ)。おはよう」
その呼び名に、セレーナの睫毛が震え、ゆっくりと黄金の瞳が開かれました。視界が定まるにつれ、彼女は目の前の少年に意識を集中させます。しかし、再会の喜びよりも先に、彼女は彼の異変を察知しました。
「アリオス、……体から血の匂いがするわ。それに、その包帯……。あ、そういえば!」
記憶が濁流のように蘇ります。森の小屋を囲んだ炎、下劣な笑みを浮かべた男たち、そして自分を庇って斬りつけられたアリオスの背中。
「ごめんなさい、私のせいで。それに……見られたのよね? 私の瞳を。あんな恐ろしい光を……。嫌わないで、アリオス」
セレーナは怯えたように、彼の手を握りしめました。しかし、アリオスは困ったような、それでいて深い慈しみを込めた眼差しで彼女を見つめ、躊躇いながらも真実を切り出しました。
「セレーナ、落ち着いて聞いて。君を嫌うことなんて、一生ありえない。……ただ、一つだけ伝えなければならないことがあるんだ。ごめん、実はここ……王宮なんだ」
「……え?」
セレーナの表情が、一瞬にして凍りつきました。
「王宮? どうして……。嫌よ、私は死んだことにされているはずなのに。またあの冷たい檻(おり)に戻されるの?」
パニックに陥り、震え出した彼女の肩を、アリオスは優しく、しかし力強く包み込みました。
「違うんだ、セレーナ。君を閉じ込めるためじゃない。みんな、君に謝りたがっている。……そして、君を愛している人たちが、ずっと待っていたんだ」
誤解を解くには、自分の言葉だけでは足りない。アリオスはそう判断すると、廊下で待機していた国王と王妃を呼びに、静かに席を立ちました。
扉が開き、国王と王妃が室内へと足を踏み入れました。
二人の顔を見た瞬間、セレーナは息を呑みましたが、そこにはかつて自分を森へ送った時の冷徹な「王」の姿はありませんでした。そこにあるのは、ただひたすらに娘を案じ、涙で顔を濡らした一組の夫婦の姿でした。
アリオスは彼らに深々と一礼すると、セレーナへ向けて一度だけ温かく頷きました。
「ここからは、家族の時間だ。……僕は外で待っているよ、主」
アリオスは、再会を待ちわびた親子のために部屋を後にしました。彼が扉を閉める直前、背後から
「セレーナ、許しておくれ……!」
という王の震える声と、王妃が娘を抱きしめる衣擦れの音が聞こえてきました。
一人の騎士として、そして彼女を愛する者として。
アリオスは扉に背を預け、ようやく訪れた「家族の夜明け」の気配を感じながら、静かに、深く息を吐くのでした。
0
あなたにおすすめの小説
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
私は、聖女っていう柄じゃない
蝋梅
恋愛
夜勤明け、お風呂上がりに愚痴れば床が抜けた。
いや、マンションでそれはない。聖女様とか寒気がはしる呼ばれ方も気になるけど、とりあえず一番の鳥肌の元を消したい。私は、弦も矢もない弓を掴んだ。
20〜番外編としてその後が続きます。気に入って頂けましたら幸いです。
読んで下さり、ありがとうございました(*^^*)
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪
鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。
「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」
だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。
濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが…
「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」
ある日、私は聖女召喚で呼び出され悪魔と間違われた。〜引き取ってくれた冷血無慈悲公爵にペットとして可愛がられる〜
楠ノ木雫
恋愛
気が付いた時には見知らぬ場所にいた。周りには複数の女性達。そう、私達は《聖女》としてここに呼び出されたのだ。だけど、そこでいきなり私を悪魔だと剣を向ける者達がいて。殺されはしなかったけれど、聖女ではないと認識され、冷血公爵に押し付けられることになった。
私は断じて悪魔じゃありません! 見た目は真っ黒で丸い角もあるけれど、悪魔ではなく……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
綱渡り
真麻一花
恋愛
異世界へ聖女として召喚された私。
家族から引き離されて辛い時、王子と彼の側近たちがそばにいて私を支えてくれた。みんなが好きって言ってくれたけど、よくわからない。でも一番そばで支えてくれた王子様に求婚されて……。
それは、浮かれきっていた私が現実を知る前の、話。
噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される
柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。
だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。
聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。
胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。
「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」
けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」
噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情――
一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。
黒の聖女、白の聖女に復讐したい
夜桜
恋愛
婚約破棄だ。
その言葉を口にした瞬間、婚約者は死ぬ。
黒の聖女・エイトは伯爵と婚約していた。
だが、伯爵は白の聖女として有名なエイトの妹と関係をもっていた。
だから、言ってはならない“あの言葉”を口にした瞬間、伯爵は罰を受けるのだった。
※イラストは登場人物の『アインス』です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる