聖域の森へ忍び寄る足音

花垣 雷

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第二十二章:祝福の夜と、黄金の灯火

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家族との再会、そして積年の誤解が解けたその日の夜。
セレーナの部屋には、十年前には想像もできなかったような、温かく賑やかな光景が広がっていました。ベッドを囲むようにして、国王、王妃、そしてアリオスが並び、家族水入らずの夕食の時間が流れます。

「不自由をさせてすまない。本来なら広間で祝宴を開きたいところだが、今はまだ、こうして君の傍にいたいのだ」

国王は、自らスープを運びながら苦笑しました。
聞けば、国を牛耳っていた汚職まみれの側近たちは、今回の事件を機に一掃されたといいます。今は城内が空っぽに近い状態ですが、団長をはじめ、メイドや料理長たちが

「自分たちの仕事は自分でやるから、陛下は姫様の傍にいてあげてください」

と、一致団結して王家を支えているのだと、エレインが嬉しそうに語りました。

「側近も騎士も、また一から信頼できる者を育てなければならない。……アリオス、君にも苦労をかけることになるよ」

王の言葉に、アリオスは背筋を正して「光栄です」と答えました。忙しくなることを嘆くのではなく、皆がどこか晴れやかな顔で笑い合っている。そんな奇跡のような空気に、セレーナだけが、まだどこか不安げな面持ちで俯いていました。

「……お父様。私は、本当に……このままここで、生きていてもいいのでしょうか」

セレーナの声は、小さく震えていました。

「国民の皆さんは、私の瞳を……あの不吉な光を見たはずです。死んだはずの王女が、あんな恐ろしい力を持って現れた。皆、私のことを怖がっているのではないですか?」

彼女の脳裏にあるのは、疎まれ、隠されるように生きた十年の月日。
そんな彼女に、アリオスがそっと歩み寄り、窓のカーテンを大きく開け放ちました。

「主。自分の目で、確かめてごらんよ」

促されるまま、セレーナはおぼつかない足取りで窓辺へと向かいました。
そこから見えたのは、闇に沈む静かな街ではありませんでした。
王宮の巨大な正門の前。そこには、夜だというのに溢れんばかりの花束が、壁に沿ってどこまでも積み上げられていたのです。
さらに視線を街へと向ければ、無数のランタンが星のように瞬き、遠くから楽しげな音楽と歓声が風に乗って聞こえてきます。

「君が眠っている間、ここには入りきらないほどの人が集まって、君の無事を祈り続けていたんだよ」

アリオスが、隣で優しく語りかけます。

「そして今日、『聖女様が目を覚まされた』という知らせが届いた瞬間、街中がお祭り騒ぎになったんだ。あの日、みんなが見たのは『不吉な光』なんかじゃない。自分たちを守ってくれた、慈しみ深い黄金の光だったんだから」

セレーナの瞳から、大粒の涙が零れ落ちました。
それは悲しみでも恐怖でもない、温かな安堵の涙でした。

「……ああ、なんて……綺麗なの……」

「これからは、もう何も隠さなくていいんだ。君は、この国の誇りなんだから」

窓の外で踊る光は、まるでセレーナの未来を祝福しているようでした。
アリオスの手に、セレーナがそっと自分の手を重ねます。
長い冬が終わり、ついに彼女の人生に、本当の春が訪れたのでした。
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