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第四章 救聖戦線 世界の宿敵放浪編
二百五十一日目~二百八十日目のサイドストーリー
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【とある中年獣人攻略者視点:二百五十三日目】
陳列棚に並べられた商品を手に取り、真剣に吟味する。
連戦などにより切れ味の落ちた得物の手入れに使用する携帯砥石、迷宮内でヤバくなった時に使えば起死回生も有りえる爆炎魔玉、逃走時に役立つ閃光玉石や煙幕玉石、長持ちして美味い携帯食料、やや高額だが効能の強い魔法薬の類など、選ぶ商品は多種多様だ。
日帰りできないほど深く潜り、連泊する事が多々ある迷宮内では、戦闘で使用する武具の他にも必要な道具は数多い。
収納系のマジックアイテムを手に入れてからは持ち込む品が増えてもどうにかなるが、若い時は背嚢に必要な物を詰め込んで潜っていたものだ。
とはいえ、持ち込む道具の取捨選択は今も昔も変わらない。
なにせ、迷宮に潜る時の準備不足は自身の命を危険に晒すという事である。
必要な時に必要な物が手元に無ければ、その時に後悔してもどうしようもない。
しかし持ち込める量には限りがある。持って帰るドロップアイテムについても、戦闘時に邪魔にならないかどうかも考慮する必要がある。
だから道具は自分自身が納得したものしか使わない。
これはある意味、攻略者の常識だと言えるだろう。
だが、それを知らずに潜る新人は意外と多い。
まあ、それは浅いからそこまで道具が必要ではない、という事も関係しているだろうが。
戦闘能力だけ高ければいい、などと思っている想像力の足りない馬鹿はどこにでも一定数は居るものだ。
確かに戦闘能力の高さは生き残るに重要な要素ではある事は間違いない。
結局最後に頼れるのは自分の腕っ節だ。
だが戦闘能力の高さだけが誇りの脳筋が生き残れるほど、迷宮という魔境は甘くない。
いや、それどころか迷宮に潜る前に搾取される場合も多いだろう。
事前に情報収集すれば分かる程度の常識や物の良し悪しすら知らなければ、悪徳商会に粗悪な道具を高額で買わされたり、ドロップアイテムを相場よりも安く買い叩かれたり、無駄なトラブルに遭遇したりするものだ。
まあ、そういう常識の無かった奴等も生きていれば自然に学んでいく。
だが、その経験すら積むことが出来ず、龍の逆鱗に触れてしまう者はやはりいる。
現に、俺が今商品を吟味している、最近開店したばかりの迷宮商会≪蛇の心臓≫では、その店長である青年に威圧交渉を行っている馬鹿三人組がいた。
見るからに田舎から出てきたという風貌の、山賊か盗賊崩れに見える雑魚だ。
恐らく、一見しただけでは軟弱そうな店長なら、脅せばどうにでもなると踏んだのだろう。
脅迫慣れが伺える動作で迫り、一般人なら屈していたかもしれない迫力がある。
しかし、だからこそ馬鹿だとしか思えなかった。
現在、≪蛇の心臓≫はかなり注目されている新興商会だ。
今は店舗に改造されている≪蛇の心臓≫の屋敷は、元々昔名を馳せた攻略者が贅を尽くして建てたという歴史があり、都市内にある三つの【派生ダンジョン】を結んだ中心近くに存在するという好立地から、都市有数の二つの大手商会が獲得に乗り出し、一方が手に入れた。
その時から所有している側に対し、嫌がらせとしてライバルであるもう一方が汚い仕事でも金さえ払えばなんでも行う攻略者集団を住まわせていた屋敷、という過去がある。
裏事情に少しでも通じていればそのくらいすぐに分かる程度には有名で、諍いが数ヶ月続き、そろそろ抗争が裏に留まらず表にまで出てくるのではないか、とも言われていた。
しかし、つい最近それが唐突に終わったのだ。
丁度、ここの店長がやって来たのと合致している。
屋敷を不当に占拠していた攻略者達の中には、なかなかの実力者もいた。都市内でも、上位に位置する実力者だろう。
しかし、それが呆気なく殺されたらしい。しかも、死体は確認されていない。
調べた限りでは屋敷の内部には特に争った形跡もなかったらしいので、あれほどの実力者がアッサリと、それも抵抗すら許されずに消されたと予想するのは難しくなかった。
誰が消したのか。当然、怪しいのは店長だ。
なよなよしている風で、しかしその目は絶対強者のそれだ。
計り知れない何かが秘められている、と俺の鼻が言っている。
それだけで敵にしたくない。
加えて、先日見かけた集団と懇意にしている様子をみれば、尚更だ。
今まで見た事もないもないような、強力な種族だけで構成された集団。思わず平伏しそうになる程の存在感は、遠くから拝見した事のある【魔帝】様などを彷彿とさせるものだった。
そんな存在達と関わりがあり、どこか不気味な店長が経営する、しかし取り扱う商品は一級品が多くて何より安い商会。
普通なら出入りしている【魔帝】様のような強者のご利益にあやかったり、もしくは何かしらの縁が結べないだろうかと期待して、仲良くしようとしたり思うのが当然だろうに。
間抜け面を晒しながら店の裏に誘い込まれていく馬鹿達を見ながら、俺は『好奇心は猛虎を殺す』という諺に従い、自分の目的に邁進する。
うむ、やはり見事な商品を揃えているな。
これは、買いだなッ。
・生き残る事には定評のある、熟練の攻略者。
・ドロップアイテムを売りに来たりと、長い付き合いになりそうな予感。
・後輩には比較的優しい、孤児院出の苦労人。
・狼系なので厳ついが、根は優しい方。
・犬系獣人の美人な奥さんが居る。
【新世代の小鬼組長視点:二百六十二日目】
薮に潜み、そっと短弓に矢を番えて集中する。
イヤーカフスで三鬼の組員と連絡を取り合い、準備が出来たと返答があったので、まずは先制の一矢を放つ。
放たれた矢は狙い違わず、餌として放置していた“アカシカ”の死体に群がる“ブラックウルフ”の内の一頭の胴体に着弾。
深々と突き刺さる矢による激痛で悲鳴が上がり、それに反応して追撃を警戒したブラックウルフ達は大きく飛び退く。
しかし手負いのブラックウルフだけは回避距離が短く、あらかじめ近くに掘っていた穴の中に隠れて待ち構えていたゴブ努が姿を現した。
ブラックウルフが振り返った時にはもう遅く、走り寄るゴブ努は手に持つ戦斧を振りかぶり、ブラックウルフの頭部めがけて振り下ろした。
直撃した戦斧の一撃はその威力を物語るようにブラックウルフの毛皮を断ち、硬い頭蓋骨を粉砕し、圧力によって眼球を飛び出させている。
一頭はゴブ努が狩った。
しかし、獲物の数はこちらと同じく四頭。
一頭を殺しても、まだ三頭残っている。
その内の二頭は矢を撃った私に向かって突進して来る。残りの一頭はゴブ努の方に向かっているが、それは後回しだ。
向かってくる二頭の内、私から見て左側のブラックウルフに向けて即座に迎撃の矢を放つ。
右側のブラックウルフよりも速い左側のブラックウルフは若干速度を落としつつも、やはり真正面からだったので簡単に避けられてしまう。
ただそれは分かっていた事なので、慌てずさらにもう一射。それも避けられるが、二頭の速度は大体同じくらいになり、肩と肩が触れそうなほどの距離で向かってくる。
動きを誘導されたとも分からない左右から迫る二頭のブラックウルフ達は、まるで一塊の毛玉のような状態のまま仲間を撃った私を殺そうと爪牙を剥いた。
しかし爪牙が私に届くよりも速く、私の左右にある藪から勢い良く突き出された二本の槍。
完全に意識が私に向いていたブラックウルフ達が避けられるはずもなく、土手っ腹を貫かれながらぶつかり合い、地面を転がる。
私から見て右側に潜んでいたゴブ貫と、左側に潜んでいたゴブ通が手に持つ角短槍が、ブラックウルフ達に致命傷を負わせたのだ。
角短槍の穂先には痺れ毒が塗布されていたので、地面に転がったブラックウルフ達はもう動く事ができない。
私は即座に止めを刺す為、腰に下げたボウィー・ナイフを抜く。
そして首を掻き斬り、呆気なく絶命させる。
もう一頭の方はゴブ貫が新たに抜いたククリナイフで首を切り落としている。
気を抜く間もなくゴブ努の方に向かった最後の一頭はどうなったのか見てみれば、前足を切断された状態のようだ。止めはゴブ通にさせ、全員に大体均等に経験値が入る。
私達四鬼で、戦果はブラックウルフ四頭。
アカシカを餌にした狩場の効率は中々上出来で、今日の狩猟訓練の成果に満足し、ホクホク顔で拠点に戻る事にした。
骸骨台車に解体して乗せたブラックウルフや、少し食われたがアカシカの素材は拠点で適切に処理され、全て活用される事になる。
狩った獲物の一部は狩った者に回されるので、ブラックウルフの毛皮は防具に、アカシカの角やブラックウルフの牙などは飾り物にするのもいい。
しかしそれ等の大半は手元に来るのはまだ先であり、今最も重要な事は今日の晩飯が少し多くなる事だ。
分厚いアカシカのもも肉なんかは特に美味いので、今からそれが楽しみで仕方ない。
狩ってきた獲物を所定の場所に持っていった後、組員と共に涎を拭いながら大食堂へ向かう。
そこで初めて俺達は長を遠くから見て、絶対の忠誠を誓う事になる。
・新しく生まれた小鬼などは、四鬼一組で大森林で行動する場合がある。
・訓練だけでなく、実戦で経験を積み、経験値を蓄える。
・生き抜く為、サバイバル技術などもそこで磨かれる。
・若いほど成長しやすいので、訓練と狩猟を繰り返せば比較的簡単に使い物に。
・ただ、時には調子に乗ってクマなどに喰われる場合あり。
・弱肉強食、仕方なし。
【とある秘密持ちの岩勇視点:二百七十日目】
早朝、まだ薄暗く多くの者達が寝ている時間帯だが、自然と目が覚めたので身体を起こし、私は寝台の端まで移動して腰掛けた。
癖で周囲に誰もいないかと伺い、気配を探る。
寝室は寝る前と変わりなく、誰もいないと確信してから、最早ある種の儀式めいたように両手を頭部に伸ばす。
両手には、確かに頭髪の感触がある。
太くしっかりとした、立派な髪だ。
それに安堵し、寝台から立ち上がると日々の習慣になっている洗顔の為、そのまま部屋に備えられている洗面所まで移動する。
【保温石】と呼ばれる常に一定の温度を保つ【派生ダンジョン】産の石材で造られた洗面所にて、設置された大瓶型マジックアイテム【イグラシムの聖瓶】に手を入れる。
聖瓶の中に満ちる聖水は冷たく、ブルリと身体が震え、僅かに残っていた眠気が急速に退いた。
ふう、と少しだけ精神を整え、手で掬った聖水で顔を洗う。よく冷えた聖水は温まっていた身体から急速に熱を奪っていく。
冷えた身体は自然と引き締まる。
最近は年のせいか、以前よりも冷水が身に染みるようになってきた。やはり老いからは逃れられないらしい。
とはいえ、私もまだまだ現役だ。
【水震の勇者】であるフリードの若造や、【闇守の勇者】アルリッヒの小娘にはまだまだ負けていない。
【樹砦の勇者】であるフュフュには劣るが、年齢で言えば私の方が下である。だから仕方あるまい。
などと益もない事を思いながら、洗面台に設置されている鏡を見た。
鏡に映る、自分の顔。今までの激戦で疲弊し、しかし誇れるだけの戦いを積み上げてきた、聖水を滴らせる戦士の顔である。
それをしばし見つめた後、おもむろに上着を脱ぐ。
服の下にある肉体は細部に渡って鍛えられ、贅肉などほとんど無い。過去の戦いにて負った傷痕は大小無数に存在するが、弾けんばかりの生命力で漲っていた。
しばし異常は無いかを確認し、徐に両腕の上腕二頭筋を強調するダプルバイセップスや、横から見た胸の厚みを強調するサイドチェストなど、鏡の前でしばしのポージング。
うむ、やはり私の肉体は素晴らしい。
今は聖水に濡れているので、より良くなっている。
そう自画自賛したくなるほど、私が鍛錬してきた成果である肉体は誇らしかった。
しかし、だが、残念な事に、一部分だけが違う。違っている。
それに気分が下がりつつも、ポージングを止めた私はそっと、再び頭部に両手を添えた。そのまま少し力を込め、上に持ち上げる。
するとしばしの抵抗の後、鏡に映る私から、頭髪が分離した。
――そう、私はカツラを被っている。もう二度と毛が生えぬ禿頭を隠すために。
私がこうなったのは、そう、今から三十年は前だっただろうか。
当時の【勇者】に選ばれたばかりで慢心もあった私は、とある貴族の依頼を受けて【体毛の亜神】が創造した【亜神】級の【神代ダンジョン】である【誘惑と欲望の毛脱回廊】へと、潜る事となった。
今にして思えば、実力が不足していただけでなく、装備も仲間もアイテムも何もかも足りていなかった。
ともかく、多くのモノが足りていない事を自覚する事もなく、私は行ってしまった。
【誘惑と欲望の毛脱回廊】に出没するダンジョンモンスターは毛で身体の大半を構成されたような、他ではほぼ見る事はない特殊な種族ばかりであり、攻略は困難を極めた。
それでも目的だった地下十階に座す階層ボス【踊る毛刈り髪人】まで辿り着く事ができ、そこで激闘を繰り広げたのだ。
今ならばもっと余裕のある戦いになるはずだが、当時の私の実力はやや劣っていたので、本当に厳しいモノだった事を覚えている。
仲間が一人、また一人と倒れ、最後まで立っていられたのは私と、ヘアーマンだけ。
打撃が中心の私の攻撃は、纏めていた髪を解くように身体を緩めて衝撃を受け流すヘアーマンとの相性は悪く、難儀したが、それでも解けない急所を捉えた事で最終的には私達の勝利で終わった。
だが、最後の一撃を入れたあの時。
私は、油断してしまったのだ。
力尽き、絶命する寸前、ヘアーマンは最後の力を振り絞って私に攻撃した。
その攻撃の名は【頭髪絶命光】。弱々しくも禍々しい一条の光が私の頭部に直撃した。
そして光を浴びた瞬間に、私の頭髪は全て抜け落ち、ツルリとした頭皮が晒された。
あの瞬間は、忘れる事が無いだろう。まだ若かった私の毛が、ふさふさだった毛が、ズルリと全て抜け落ちたのだ。
何が起きたのか理解した瞬間の絶望は、何と表現すればいいのだろうか。足元の大地が消失し、天に向かって落ちていくかのようだった。
もし女性だったなら発狂死していた可能性すらあるだろう。
私でさえ数日自室に引きこもる事になったのだ、否定はできない。
ただ不幸中の幸いで、それを知るのは私一人だけである。
仲間達は気絶していてその瞬間を見ていなかったし、ヘアーマンを討伐した事でとある貴族が欲していた依頼の品――【生命宿す偽頭髪】と呼ばれるマジックアイテムを得る事が出来た為、誰にも見られない間に装着し、あれからズッと愛用し続けている。
最初の頃はバレやしないかとドキドキしたものだが、【バイオカツラ】は装着すれば頭皮と一体化し、本物と変わりない頭髪になる。装着者の微弱な魔力を吸って成長するので、髪は伸びるし切る事も出来る。
その為、疑われる事すら無かった。
ちなみに依頼の品である【バイオカツラ】は私が使っているので納品できない訳だが、そもそもドロップ率が悪いし、道中手に入れた【増毛薬・ケハエルン】を代わりに提出したので、依頼人も納得してくれた。
本当に、あの時の事は詳細に思い出せるのだから、何だかな、と思ってしまう。
ともあれ、この長年隠してきたこの頭部の秘密こそ、残念な部分――私の慢心の証拠である。
憂鬱そうな表情を浮かべる鏡の私に向けて自然とため息を吐き出し、頭皮も聖水で軽く洗った後、洗面所に元々用意されていたタオルを手に取り、顔や頭部を優しく拭う。
【バイオカツラ】は頭部を清潔に保つ効果もあるが、やはりこうして拭いておいた方が気分がいい。
タオルでキュキュキュと擦れば、キラリと光る頭皮。照明器具から発せられる光が反射し、キラリと輝いた。
しばし見て、バイオカツラを装着する。
ピタリと吸い付くように一体化し、傍目から見ても違和感は無い。
最終確認した後、運動着に着替えて朝の鍛錬に向かう事にした。
仲間達も、そろそろ訓練所に向かう為、用意をしている頃合だろうか。
最近では【世界の宿敵】――その正体には心当たりがある――が誕生し、ごく一部では色々と活発化している。
改めて、心身を引き締める必要がありそうだ。
・昼前、王都にやって来たメッセンジャーの黒いワイバーンを見て、一撃で頭部を爆砕しつつ、色々確信。
・と同時に絶望。アレと本気で戦うとか、喰われますやん、という考えに似たような事を思う。
・とりあえず、お転婆姫に話に向かう。話が通じる相手だと理解していたので、話しやすい人を頼った結果。
・歴戦の【勇者】だけに、状況判断は早かった。
【バリバリ食べられちゃうシャークヘッド視点:二百七十三日目】
フハハハハハハハハハハハハハハハッ。
新たな獲物が一匹、我が領域に落ちて来たようだな。
以前の我は敗れたが、しかし新たなる我は一味違うぞ。
容易にやられたりせぬ故、心してかかって参れッ。
それい、衝撃流をお見舞いしてくれるッ。ぬ、避けるとは生意気な。
ならば突進して、すり潰してくれようぞ。ぬな、またもや避けるとはッ。
ええい、避けるばかりかチョロチョロと密着して挑発してくるとはッ、なんて奴ぞッ。
……え、いや、ちょ、待って、なんで引っ付いて離れないのッ。
ヌゥオオオオオオオオオッ! これほどの速度で泳いでも離れぬなど、どういう理屈だッ。
しかも何か以前の我の一部みたいなの食いながらだとッ。少し美味しそうなのがまた腹の立つ奴ぞなッ。
って、ちょ、ま、それ我の落とすアイテムやんけ。
イダダダダダダダダダッ、雷痛いッ! 亜龍鱗や亜龍殻が砕かれてるからッ、筋肉や内臓までダメージ届いてるからッ。だから密着した状態で能力を解放せんといてッ。
ぶはぁ、ぶはぁ、ぶはぁ。ようやく離れたけど、凄まじく痛いぞ。
回復まではまだ少しの時間が……おうふ。
黒い断裂から這い出る我、と似て非なる怪物。
我を倒す事で得られる【召雷支龍・鮫縄】によって召喚されるのは、我と同じで違う存在だとは知っておったが、これはなんとも、凄まじい化け物が出てきたものよな。
明らかに生物としての格が違っている。
覆しようのない、隔絶した差がある。根源的な恐怖に、我は屈した。
しかし、怯えたままで終われるものか。
乾坤一擲、全力全開、我が足掻きを見るがいいいいいいいいいいッ!
・呆気なく頭から食べられたシャークヘッド=さん。
・オバ朗に召喚されたデスシャークヘッド=さんが美味しく頂きました。
・弱肉強食、世に情けなし。
【聖地の第五区にて賭博という泥にハマった凄腕青年攻略者視点:二百八十九日目】
コインを入れ、スロットを回す。
チップを掛け、ルーレットの結果を目で追う。
外でモンスターを狩って得た素材を売買し、チップに変えてまたギャンブルに突っ込む。
勝っては負けて、負けては負けて、負けては勝ってを繰り返す。
ここは【賭博の聖地】。
勝者が一瞬の油断で奈落に堕ち、乞食が一度の幸運で成り上がる。
ゲームをした分だけ富と栄光を掴む機会と同時に破産と破滅を齎す、最高に刺激的な場所である。
目まぐるしい人間ドラマ。運命の筋書きなど容易く改変される可能性の坩堝。
おお、ココこそが俺の戦場か。ここが欲望の壷の底か。
山積みとなったチップを切り崩し、コール。ディーラーから配布されたトランプはスペードの10とクローバーのキング。合計点数は20。
よしッ。今やっているゲームはブラックジャック。
簡単に言えば21を超えないようにするゲームであり、20は非常にいい手札だ。
対してディーラーの手札はハートの6とスペードの5で11。ルールに従い一枚引いたクローバーの5で16になる。
ディーラーは17以上になるまでカードをヒットしなければならないので、次のカードでバストする可能性が高い。
よし、今回は勝ったなッ。
そう確信したのに、ディーラーが引いたのはダイヤの5。つまり21となり、20の俺は負けた。
クソッ。次だ次ッ。
しばらくゲームを繰り返し、少し負けが続いたので引き上げる事にした。
ゲームをしていて我を忘れるのは厳禁だ。
勝負の流れが自身に向いていない時に我を忘れてしまえば、その先にあるのはドロドロと足掻くほどに抜け出せない底無し沼である。
素人は引き時を間違う。そして破綻する。
玄人は引き時を間違えない。そして成功する。
心理戦を交える勝負は楽しく、心底嵌まっているが、しかし勝算のないゲームをするほど俺は馬鹿ではない。
だからここでゲームを止めたのは正しい判断だった。そう俺は思っている。
例え、俺の座っていた席に代わりに座った男が、連勝していてもッ。
それも大勝していて、山のようにチップが積まれていったとしてもッ。
俺の判断は、正しかったんだッ。(血涙)ッ。
クソッ、次だ次ッ。
気を取り直して次はどうしようかと回っていると、とある集団が目についた。
とんでもない存在感を放つ黒い鬼人を中心とした集団が向かう先は、第五区の中央、つまり【賭博の聖地】の中心に居るダンジョンボス“伝説の賭博師”のようだ。
今まで見かけた事もなし、付き合いのある賭博師達との話にも全く出た事はないので、恐らく初めてここに来た新参者ではないだろうか。
それにしても、“伝説の賭博師”に挑むなんで、なんとも身の程知らずだろうか。
俺は前に一度挑戦し、呆気なく負けた経験があるので、その強さをよく知っている。
あれはもう、勝てる光景すら見る事のできない圧倒的な賭博師だ。
丁度いいので、あの集団が挑んでいるのを見学しよう。
そのついでに勝敗予想で賭けをするのもいい。他の顔見知りも同じような考えらしく、目があったので軽く笑い合う。
――鴨が来た、と言っているのだ。
勝敗が分かりきった、勝利が約束されたゲームを行ってくれる鴨が。
見やすい位置にある椅子に座ったりジュースを用意したりと観戦の準備をしていると、どうやら準備が整ったらしい。
“伝説の賭博師”戦では最初に賭ける方を決めなければならないと決められているので、集計を行っている黒服を慌てて呼び、とりあえず手持ちのチップの全てを“伝説の賭博師”に賭ける。
これは鉄板の選択だ。
戦闘能力なら今回挑戦する黒い鬼人――もしかしたら鬼の【帝王】類かもしれない。どこぞのお偉いさんなのは間違いないだろう――が圧勝だろう。
生まれ持っての才能があり、そこそこの実力を誇る俺でも、せいぜいカスリ傷を負わせられれば御の字というほど、その力は圧倒的だ。
外で敵として遭遇した場合は、決死の覚悟で挑んでも容易に捻り潰されるに違いない。
しかし、ここの攻略にそんな力は意味が無い。
なら、ダンジョンボスの勝利は揺るがない。
同じようなのが周囲に多いので倍率は低いが、それでも多少の稼ぎにはなるのだ。
せいぜい、稼がせてもらうとしようか。
・賭に負けて文無しになるものが続出。阿鼻叫喚の地獄絵図。
・青年は戦闘能力は高いので、とりあえず外に出て難しい依頼をこなしつつ売れる素材を集めるなどの金策に奔走。
・実力があって稼ぎも顔もいい青年を狙う女性は多いが、それを無視して再び五区へ。
・外がどんなに酷くても、多分関係ない賭博中毒末期系。
・今日も今日とてチップを賭けて、一喜一憂世は無情。
陳列棚に並べられた商品を手に取り、真剣に吟味する。
連戦などにより切れ味の落ちた得物の手入れに使用する携帯砥石、迷宮内でヤバくなった時に使えば起死回生も有りえる爆炎魔玉、逃走時に役立つ閃光玉石や煙幕玉石、長持ちして美味い携帯食料、やや高額だが効能の強い魔法薬の類など、選ぶ商品は多種多様だ。
日帰りできないほど深く潜り、連泊する事が多々ある迷宮内では、戦闘で使用する武具の他にも必要な道具は数多い。
収納系のマジックアイテムを手に入れてからは持ち込む品が増えてもどうにかなるが、若い時は背嚢に必要な物を詰め込んで潜っていたものだ。
とはいえ、持ち込む道具の取捨選択は今も昔も変わらない。
なにせ、迷宮に潜る時の準備不足は自身の命を危険に晒すという事である。
必要な時に必要な物が手元に無ければ、その時に後悔してもどうしようもない。
しかし持ち込める量には限りがある。持って帰るドロップアイテムについても、戦闘時に邪魔にならないかどうかも考慮する必要がある。
だから道具は自分自身が納得したものしか使わない。
これはある意味、攻略者の常識だと言えるだろう。
だが、それを知らずに潜る新人は意外と多い。
まあ、それは浅いからそこまで道具が必要ではない、という事も関係しているだろうが。
戦闘能力だけ高ければいい、などと思っている想像力の足りない馬鹿はどこにでも一定数は居るものだ。
確かに戦闘能力の高さは生き残るに重要な要素ではある事は間違いない。
結局最後に頼れるのは自分の腕っ節だ。
だが戦闘能力の高さだけが誇りの脳筋が生き残れるほど、迷宮という魔境は甘くない。
いや、それどころか迷宮に潜る前に搾取される場合も多いだろう。
事前に情報収集すれば分かる程度の常識や物の良し悪しすら知らなければ、悪徳商会に粗悪な道具を高額で買わされたり、ドロップアイテムを相場よりも安く買い叩かれたり、無駄なトラブルに遭遇したりするものだ。
まあ、そういう常識の無かった奴等も生きていれば自然に学んでいく。
だが、その経験すら積むことが出来ず、龍の逆鱗に触れてしまう者はやはりいる。
現に、俺が今商品を吟味している、最近開店したばかりの迷宮商会≪蛇の心臓≫では、その店長である青年に威圧交渉を行っている馬鹿三人組がいた。
見るからに田舎から出てきたという風貌の、山賊か盗賊崩れに見える雑魚だ。
恐らく、一見しただけでは軟弱そうな店長なら、脅せばどうにでもなると踏んだのだろう。
脅迫慣れが伺える動作で迫り、一般人なら屈していたかもしれない迫力がある。
しかし、だからこそ馬鹿だとしか思えなかった。
現在、≪蛇の心臓≫はかなり注目されている新興商会だ。
今は店舗に改造されている≪蛇の心臓≫の屋敷は、元々昔名を馳せた攻略者が贅を尽くして建てたという歴史があり、都市内にある三つの【派生ダンジョン】を結んだ中心近くに存在するという好立地から、都市有数の二つの大手商会が獲得に乗り出し、一方が手に入れた。
その時から所有している側に対し、嫌がらせとしてライバルであるもう一方が汚い仕事でも金さえ払えばなんでも行う攻略者集団を住まわせていた屋敷、という過去がある。
裏事情に少しでも通じていればそのくらいすぐに分かる程度には有名で、諍いが数ヶ月続き、そろそろ抗争が裏に留まらず表にまで出てくるのではないか、とも言われていた。
しかし、つい最近それが唐突に終わったのだ。
丁度、ここの店長がやって来たのと合致している。
屋敷を不当に占拠していた攻略者達の中には、なかなかの実力者もいた。都市内でも、上位に位置する実力者だろう。
しかし、それが呆気なく殺されたらしい。しかも、死体は確認されていない。
調べた限りでは屋敷の内部には特に争った形跡もなかったらしいので、あれほどの実力者がアッサリと、それも抵抗すら許されずに消されたと予想するのは難しくなかった。
誰が消したのか。当然、怪しいのは店長だ。
なよなよしている風で、しかしその目は絶対強者のそれだ。
計り知れない何かが秘められている、と俺の鼻が言っている。
それだけで敵にしたくない。
加えて、先日見かけた集団と懇意にしている様子をみれば、尚更だ。
今まで見た事もないもないような、強力な種族だけで構成された集団。思わず平伏しそうになる程の存在感は、遠くから拝見した事のある【魔帝】様などを彷彿とさせるものだった。
そんな存在達と関わりがあり、どこか不気味な店長が経営する、しかし取り扱う商品は一級品が多くて何より安い商会。
普通なら出入りしている【魔帝】様のような強者のご利益にあやかったり、もしくは何かしらの縁が結べないだろうかと期待して、仲良くしようとしたり思うのが当然だろうに。
間抜け面を晒しながら店の裏に誘い込まれていく馬鹿達を見ながら、俺は『好奇心は猛虎を殺す』という諺に従い、自分の目的に邁進する。
うむ、やはり見事な商品を揃えているな。
これは、買いだなッ。
・生き残る事には定評のある、熟練の攻略者。
・ドロップアイテムを売りに来たりと、長い付き合いになりそうな予感。
・後輩には比較的優しい、孤児院出の苦労人。
・狼系なので厳ついが、根は優しい方。
・犬系獣人の美人な奥さんが居る。
【新世代の小鬼組長視点:二百六十二日目】
薮に潜み、そっと短弓に矢を番えて集中する。
イヤーカフスで三鬼の組員と連絡を取り合い、準備が出来たと返答があったので、まずは先制の一矢を放つ。
放たれた矢は狙い違わず、餌として放置していた“アカシカ”の死体に群がる“ブラックウルフ”の内の一頭の胴体に着弾。
深々と突き刺さる矢による激痛で悲鳴が上がり、それに反応して追撃を警戒したブラックウルフ達は大きく飛び退く。
しかし手負いのブラックウルフだけは回避距離が短く、あらかじめ近くに掘っていた穴の中に隠れて待ち構えていたゴブ努が姿を現した。
ブラックウルフが振り返った時にはもう遅く、走り寄るゴブ努は手に持つ戦斧を振りかぶり、ブラックウルフの頭部めがけて振り下ろした。
直撃した戦斧の一撃はその威力を物語るようにブラックウルフの毛皮を断ち、硬い頭蓋骨を粉砕し、圧力によって眼球を飛び出させている。
一頭はゴブ努が狩った。
しかし、獲物の数はこちらと同じく四頭。
一頭を殺しても、まだ三頭残っている。
その内の二頭は矢を撃った私に向かって突進して来る。残りの一頭はゴブ努の方に向かっているが、それは後回しだ。
向かってくる二頭の内、私から見て左側のブラックウルフに向けて即座に迎撃の矢を放つ。
右側のブラックウルフよりも速い左側のブラックウルフは若干速度を落としつつも、やはり真正面からだったので簡単に避けられてしまう。
ただそれは分かっていた事なので、慌てずさらにもう一射。それも避けられるが、二頭の速度は大体同じくらいになり、肩と肩が触れそうなほどの距離で向かってくる。
動きを誘導されたとも分からない左右から迫る二頭のブラックウルフ達は、まるで一塊の毛玉のような状態のまま仲間を撃った私を殺そうと爪牙を剥いた。
しかし爪牙が私に届くよりも速く、私の左右にある藪から勢い良く突き出された二本の槍。
完全に意識が私に向いていたブラックウルフ達が避けられるはずもなく、土手っ腹を貫かれながらぶつかり合い、地面を転がる。
私から見て右側に潜んでいたゴブ貫と、左側に潜んでいたゴブ通が手に持つ角短槍が、ブラックウルフ達に致命傷を負わせたのだ。
角短槍の穂先には痺れ毒が塗布されていたので、地面に転がったブラックウルフ達はもう動く事ができない。
私は即座に止めを刺す為、腰に下げたボウィー・ナイフを抜く。
そして首を掻き斬り、呆気なく絶命させる。
もう一頭の方はゴブ貫が新たに抜いたククリナイフで首を切り落としている。
気を抜く間もなくゴブ努の方に向かった最後の一頭はどうなったのか見てみれば、前足を切断された状態のようだ。止めはゴブ通にさせ、全員に大体均等に経験値が入る。
私達四鬼で、戦果はブラックウルフ四頭。
アカシカを餌にした狩場の効率は中々上出来で、今日の狩猟訓練の成果に満足し、ホクホク顔で拠点に戻る事にした。
骸骨台車に解体して乗せたブラックウルフや、少し食われたがアカシカの素材は拠点で適切に処理され、全て活用される事になる。
狩った獲物の一部は狩った者に回されるので、ブラックウルフの毛皮は防具に、アカシカの角やブラックウルフの牙などは飾り物にするのもいい。
しかしそれ等の大半は手元に来るのはまだ先であり、今最も重要な事は今日の晩飯が少し多くなる事だ。
分厚いアカシカのもも肉なんかは特に美味いので、今からそれが楽しみで仕方ない。
狩ってきた獲物を所定の場所に持っていった後、組員と共に涎を拭いながら大食堂へ向かう。
そこで初めて俺達は長を遠くから見て、絶対の忠誠を誓う事になる。
・新しく生まれた小鬼などは、四鬼一組で大森林で行動する場合がある。
・訓練だけでなく、実戦で経験を積み、経験値を蓄える。
・生き抜く為、サバイバル技術などもそこで磨かれる。
・若いほど成長しやすいので、訓練と狩猟を繰り返せば比較的簡単に使い物に。
・ただ、時には調子に乗ってクマなどに喰われる場合あり。
・弱肉強食、仕方なし。
【とある秘密持ちの岩勇視点:二百七十日目】
早朝、まだ薄暗く多くの者達が寝ている時間帯だが、自然と目が覚めたので身体を起こし、私は寝台の端まで移動して腰掛けた。
癖で周囲に誰もいないかと伺い、気配を探る。
寝室は寝る前と変わりなく、誰もいないと確信してから、最早ある種の儀式めいたように両手を頭部に伸ばす。
両手には、確かに頭髪の感触がある。
太くしっかりとした、立派な髪だ。
それに安堵し、寝台から立ち上がると日々の習慣になっている洗顔の為、そのまま部屋に備えられている洗面所まで移動する。
【保温石】と呼ばれる常に一定の温度を保つ【派生ダンジョン】産の石材で造られた洗面所にて、設置された大瓶型マジックアイテム【イグラシムの聖瓶】に手を入れる。
聖瓶の中に満ちる聖水は冷たく、ブルリと身体が震え、僅かに残っていた眠気が急速に退いた。
ふう、と少しだけ精神を整え、手で掬った聖水で顔を洗う。よく冷えた聖水は温まっていた身体から急速に熱を奪っていく。
冷えた身体は自然と引き締まる。
最近は年のせいか、以前よりも冷水が身に染みるようになってきた。やはり老いからは逃れられないらしい。
とはいえ、私もまだまだ現役だ。
【水震の勇者】であるフリードの若造や、【闇守の勇者】アルリッヒの小娘にはまだまだ負けていない。
【樹砦の勇者】であるフュフュには劣るが、年齢で言えば私の方が下である。だから仕方あるまい。
などと益もない事を思いながら、洗面台に設置されている鏡を見た。
鏡に映る、自分の顔。今までの激戦で疲弊し、しかし誇れるだけの戦いを積み上げてきた、聖水を滴らせる戦士の顔である。
それをしばし見つめた後、おもむろに上着を脱ぐ。
服の下にある肉体は細部に渡って鍛えられ、贅肉などほとんど無い。過去の戦いにて負った傷痕は大小無数に存在するが、弾けんばかりの生命力で漲っていた。
しばし異常は無いかを確認し、徐に両腕の上腕二頭筋を強調するダプルバイセップスや、横から見た胸の厚みを強調するサイドチェストなど、鏡の前でしばしのポージング。
うむ、やはり私の肉体は素晴らしい。
今は聖水に濡れているので、より良くなっている。
そう自画自賛したくなるほど、私が鍛錬してきた成果である肉体は誇らしかった。
しかし、だが、残念な事に、一部分だけが違う。違っている。
それに気分が下がりつつも、ポージングを止めた私はそっと、再び頭部に両手を添えた。そのまま少し力を込め、上に持ち上げる。
するとしばしの抵抗の後、鏡に映る私から、頭髪が分離した。
――そう、私はカツラを被っている。もう二度と毛が生えぬ禿頭を隠すために。
私がこうなったのは、そう、今から三十年は前だっただろうか。
当時の【勇者】に選ばれたばかりで慢心もあった私は、とある貴族の依頼を受けて【体毛の亜神】が創造した【亜神】級の【神代ダンジョン】である【誘惑と欲望の毛脱回廊】へと、潜る事となった。
今にして思えば、実力が不足していただけでなく、装備も仲間もアイテムも何もかも足りていなかった。
ともかく、多くのモノが足りていない事を自覚する事もなく、私は行ってしまった。
【誘惑と欲望の毛脱回廊】に出没するダンジョンモンスターは毛で身体の大半を構成されたような、他ではほぼ見る事はない特殊な種族ばかりであり、攻略は困難を極めた。
それでも目的だった地下十階に座す階層ボス【踊る毛刈り髪人】まで辿り着く事ができ、そこで激闘を繰り広げたのだ。
今ならばもっと余裕のある戦いになるはずだが、当時の私の実力はやや劣っていたので、本当に厳しいモノだった事を覚えている。
仲間が一人、また一人と倒れ、最後まで立っていられたのは私と、ヘアーマンだけ。
打撃が中心の私の攻撃は、纏めていた髪を解くように身体を緩めて衝撃を受け流すヘアーマンとの相性は悪く、難儀したが、それでも解けない急所を捉えた事で最終的には私達の勝利で終わった。
だが、最後の一撃を入れたあの時。
私は、油断してしまったのだ。
力尽き、絶命する寸前、ヘアーマンは最後の力を振り絞って私に攻撃した。
その攻撃の名は【頭髪絶命光】。弱々しくも禍々しい一条の光が私の頭部に直撃した。
そして光を浴びた瞬間に、私の頭髪は全て抜け落ち、ツルリとした頭皮が晒された。
あの瞬間は、忘れる事が無いだろう。まだ若かった私の毛が、ふさふさだった毛が、ズルリと全て抜け落ちたのだ。
何が起きたのか理解した瞬間の絶望は、何と表現すればいいのだろうか。足元の大地が消失し、天に向かって落ちていくかのようだった。
もし女性だったなら発狂死していた可能性すらあるだろう。
私でさえ数日自室に引きこもる事になったのだ、否定はできない。
ただ不幸中の幸いで、それを知るのは私一人だけである。
仲間達は気絶していてその瞬間を見ていなかったし、ヘアーマンを討伐した事でとある貴族が欲していた依頼の品――【生命宿す偽頭髪】と呼ばれるマジックアイテムを得る事が出来た為、誰にも見られない間に装着し、あれからズッと愛用し続けている。
最初の頃はバレやしないかとドキドキしたものだが、【バイオカツラ】は装着すれば頭皮と一体化し、本物と変わりない頭髪になる。装着者の微弱な魔力を吸って成長するので、髪は伸びるし切る事も出来る。
その為、疑われる事すら無かった。
ちなみに依頼の品である【バイオカツラ】は私が使っているので納品できない訳だが、そもそもドロップ率が悪いし、道中手に入れた【増毛薬・ケハエルン】を代わりに提出したので、依頼人も納得してくれた。
本当に、あの時の事は詳細に思い出せるのだから、何だかな、と思ってしまう。
ともあれ、この長年隠してきたこの頭部の秘密こそ、残念な部分――私の慢心の証拠である。
憂鬱そうな表情を浮かべる鏡の私に向けて自然とため息を吐き出し、頭皮も聖水で軽く洗った後、洗面所に元々用意されていたタオルを手に取り、顔や頭部を優しく拭う。
【バイオカツラ】は頭部を清潔に保つ効果もあるが、やはりこうして拭いておいた方が気分がいい。
タオルでキュキュキュと擦れば、キラリと光る頭皮。照明器具から発せられる光が反射し、キラリと輝いた。
しばし見て、バイオカツラを装着する。
ピタリと吸い付くように一体化し、傍目から見ても違和感は無い。
最終確認した後、運動着に着替えて朝の鍛錬に向かう事にした。
仲間達も、そろそろ訓練所に向かう為、用意をしている頃合だろうか。
最近では【世界の宿敵】――その正体には心当たりがある――が誕生し、ごく一部では色々と活発化している。
改めて、心身を引き締める必要がありそうだ。
・昼前、王都にやって来たメッセンジャーの黒いワイバーンを見て、一撃で頭部を爆砕しつつ、色々確信。
・と同時に絶望。アレと本気で戦うとか、喰われますやん、という考えに似たような事を思う。
・とりあえず、お転婆姫に話に向かう。話が通じる相手だと理解していたので、話しやすい人を頼った結果。
・歴戦の【勇者】だけに、状況判断は早かった。
【バリバリ食べられちゃうシャークヘッド視点:二百七十三日目】
フハハハハハハハハハハハハハハハッ。
新たな獲物が一匹、我が領域に落ちて来たようだな。
以前の我は敗れたが、しかし新たなる我は一味違うぞ。
容易にやられたりせぬ故、心してかかって参れッ。
それい、衝撃流をお見舞いしてくれるッ。ぬ、避けるとは生意気な。
ならば突進して、すり潰してくれようぞ。ぬな、またもや避けるとはッ。
ええい、避けるばかりかチョロチョロと密着して挑発してくるとはッ、なんて奴ぞッ。
……え、いや、ちょ、待って、なんで引っ付いて離れないのッ。
ヌゥオオオオオオオオオッ! これほどの速度で泳いでも離れぬなど、どういう理屈だッ。
しかも何か以前の我の一部みたいなの食いながらだとッ。少し美味しそうなのがまた腹の立つ奴ぞなッ。
って、ちょ、ま、それ我の落とすアイテムやんけ。
イダダダダダダダダダッ、雷痛いッ! 亜龍鱗や亜龍殻が砕かれてるからッ、筋肉や内臓までダメージ届いてるからッ。だから密着した状態で能力を解放せんといてッ。
ぶはぁ、ぶはぁ、ぶはぁ。ようやく離れたけど、凄まじく痛いぞ。
回復まではまだ少しの時間が……おうふ。
黒い断裂から這い出る我、と似て非なる怪物。
我を倒す事で得られる【召雷支龍・鮫縄】によって召喚されるのは、我と同じで違う存在だとは知っておったが、これはなんとも、凄まじい化け物が出てきたものよな。
明らかに生物としての格が違っている。
覆しようのない、隔絶した差がある。根源的な恐怖に、我は屈した。
しかし、怯えたままで終われるものか。
乾坤一擲、全力全開、我が足掻きを見るがいいいいいいいいいいッ!
・呆気なく頭から食べられたシャークヘッド=さん。
・オバ朗に召喚されたデスシャークヘッド=さんが美味しく頂きました。
・弱肉強食、世に情けなし。
【聖地の第五区にて賭博という泥にハマった凄腕青年攻略者視点:二百八十九日目】
コインを入れ、スロットを回す。
チップを掛け、ルーレットの結果を目で追う。
外でモンスターを狩って得た素材を売買し、チップに変えてまたギャンブルに突っ込む。
勝っては負けて、負けては負けて、負けては勝ってを繰り返す。
ここは【賭博の聖地】。
勝者が一瞬の油断で奈落に堕ち、乞食が一度の幸運で成り上がる。
ゲームをした分だけ富と栄光を掴む機会と同時に破産と破滅を齎す、最高に刺激的な場所である。
目まぐるしい人間ドラマ。運命の筋書きなど容易く改変される可能性の坩堝。
おお、ココこそが俺の戦場か。ここが欲望の壷の底か。
山積みとなったチップを切り崩し、コール。ディーラーから配布されたトランプはスペードの10とクローバーのキング。合計点数は20。
よしッ。今やっているゲームはブラックジャック。
簡単に言えば21を超えないようにするゲームであり、20は非常にいい手札だ。
対してディーラーの手札はハートの6とスペードの5で11。ルールに従い一枚引いたクローバーの5で16になる。
ディーラーは17以上になるまでカードをヒットしなければならないので、次のカードでバストする可能性が高い。
よし、今回は勝ったなッ。
そう確信したのに、ディーラーが引いたのはダイヤの5。つまり21となり、20の俺は負けた。
クソッ。次だ次ッ。
しばらくゲームを繰り返し、少し負けが続いたので引き上げる事にした。
ゲームをしていて我を忘れるのは厳禁だ。
勝負の流れが自身に向いていない時に我を忘れてしまえば、その先にあるのはドロドロと足掻くほどに抜け出せない底無し沼である。
素人は引き時を間違う。そして破綻する。
玄人は引き時を間違えない。そして成功する。
心理戦を交える勝負は楽しく、心底嵌まっているが、しかし勝算のないゲームをするほど俺は馬鹿ではない。
だからここでゲームを止めたのは正しい判断だった。そう俺は思っている。
例え、俺の座っていた席に代わりに座った男が、連勝していてもッ。
それも大勝していて、山のようにチップが積まれていったとしてもッ。
俺の判断は、正しかったんだッ。(血涙)ッ。
クソッ、次だ次ッ。
気を取り直して次はどうしようかと回っていると、とある集団が目についた。
とんでもない存在感を放つ黒い鬼人を中心とした集団が向かう先は、第五区の中央、つまり【賭博の聖地】の中心に居るダンジョンボス“伝説の賭博師”のようだ。
今まで見かけた事もなし、付き合いのある賭博師達との話にも全く出た事はないので、恐らく初めてここに来た新参者ではないだろうか。
それにしても、“伝説の賭博師”に挑むなんで、なんとも身の程知らずだろうか。
俺は前に一度挑戦し、呆気なく負けた経験があるので、その強さをよく知っている。
あれはもう、勝てる光景すら見る事のできない圧倒的な賭博師だ。
丁度いいので、あの集団が挑んでいるのを見学しよう。
そのついでに勝敗予想で賭けをするのもいい。他の顔見知りも同じような考えらしく、目があったので軽く笑い合う。
――鴨が来た、と言っているのだ。
勝敗が分かりきった、勝利が約束されたゲームを行ってくれる鴨が。
見やすい位置にある椅子に座ったりジュースを用意したりと観戦の準備をしていると、どうやら準備が整ったらしい。
“伝説の賭博師”戦では最初に賭ける方を決めなければならないと決められているので、集計を行っている黒服を慌てて呼び、とりあえず手持ちのチップの全てを“伝説の賭博師”に賭ける。
これは鉄板の選択だ。
戦闘能力なら今回挑戦する黒い鬼人――もしかしたら鬼の【帝王】類かもしれない。どこぞのお偉いさんなのは間違いないだろう――が圧勝だろう。
生まれ持っての才能があり、そこそこの実力を誇る俺でも、せいぜいカスリ傷を負わせられれば御の字というほど、その力は圧倒的だ。
外で敵として遭遇した場合は、決死の覚悟で挑んでも容易に捻り潰されるに違いない。
しかし、ここの攻略にそんな力は意味が無い。
なら、ダンジョンボスの勝利は揺るがない。
同じようなのが周囲に多いので倍率は低いが、それでも多少の稼ぎにはなるのだ。
せいぜい、稼がせてもらうとしようか。
・賭に負けて文無しになるものが続出。阿鼻叫喚の地獄絵図。
・青年は戦闘能力は高いので、とりあえず外に出て難しい依頼をこなしつつ売れる素材を集めるなどの金策に奔走。
・実力があって稼ぎも顔もいい青年を狙う女性は多いが、それを無視して再び五区へ。
・外がどんなに酷くても、多分関係ない賭博中毒末期系。
・今日も今日とてチップを賭けて、一喜一憂世は無情。
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