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外伝

外伝-3

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 そして陣の中心に居たのは、白い〝何か〟だった。
 鼻や耳のような何かは付いている。しかし口や目や体毛などは一切無く、武具の類は何も装備していない。ただ白い物体がヒトを形作っているだけにしか思えない〝何か〟である。
 己が生きてきた中で、一度も見た事の無い敵だった。というよりも、想像した事も無い敵だ。
 普段の癖で気配を探ってみるが、呼吸すらしていないようで全く読めない。存在があまりにも希薄過ぎて、目を逸らしてしまえばどこに居るのかも知覚できなかった。
 本当に生物なのかどうか、己には判断しかねる存在だ。
 これがラミーア、という奴なのか。何とも気持ちが悪い奴である。
 が、外形などどうだってよい。小難しい事を考えるのは得意ではないのだ。とりあえず魔力が集束し始めているので、敵は魔術を行使しようとしているに違いない。
 見かけからして力はあまりないだろう。とにかく魔術を構築する余裕を与えるのは良くないと判断し、己は駆け出した。
 それと同時にラミーアの集中力をぐべく、赤いホブゴブリンを相手にした時のような手抜きではない、本気の咆哮を上げる。

「グガァアアアアアアッ!」

 [オガ吉は鬼能【赤銅大鬼の咆撃オーガ・フレイアン・ローア】を繰り出した]

 白い奴の動きが僅かに止まる。しかしそれで充分だった。
 その間に距離を縮め、上段に構えた斧を振り下ろす。それに合わせ、斧の刃から青い炎が噴き出した。

[魔斧【魔焼の断頭斧】の固有能力【青い罪ブルー・クライム】が発動しました]

 青い炎によって攻撃範囲が拡張された斧。それを無防備な相手に叩き込む。
 確実に殺した、と己は思った。
 しかし、現実は違った。
 目標の身体が一瞬かすんで消える。斧が敵を切り裂く事は無かった。
 あの状態で、斧を避けられたのである。
 そして斧を振り下ろした後にできた僅かな隙を縫うように走った白銀の閃光が、己の喉を切り裂いた。
 血が流れ出る。少し遅れて痛みが走った。

「――ッガ!!」

 反射的に首を後ろに傾けた事が幸いして、斬られたのは皮一枚だけだった。数歩ヨタヨタと後ろに下がる。
 喉の傷は数秒もすればふさがり、ダメージとしては有って無いようなものであった。
 それよりも問題なのは、目の前の相手の姿だった。

「……なぜ、オガ朗がココに居る?」

 黒い皮膚と、全身に走る赤い刺青いれずみ。銀色の左腕を持つ、己よりも小さなオーガが、先ほどまで白い奴が居た場所に居る。手には白銀のハルバードがあり、そのとうの先には己の血が付着していた。これが今、己の首の皮を切り裂いた凶器なのだ。
 一瞬目を疑ったが、見間違えるはずが無い。
 生まれた時から共に歩み、自分もこうありたいと密かに願い憧れた、オガ朗がそこに居る。身体のアチコチに僅かに残る傷痕も含め、己が知るオガ朗と寸分たがわぬ姿である。
 ただ一点違うのは、その無機質な眼だろう。あの他者を魅了してやまない力強さが溢れた瞳から、まるで大切な何かがこぼれ落ちたような、そんな眼である。

「ほら、来いよオガ吉」

 目の前のオガ朗が、オガ朗そのままの声でそう言った。そして無機質な眼で己を見てくる。
 それに、どうしようもない腹立たしさを覚える。
 コレは違う。コイツはオガ朗じゃないッ。
 そんな思いが爆発した。
 何か、大切なモノをけがされているように思えたからだ。

「ガアアアアアッ!!」

 無意識のうちに、憤怒の咆哮を上げていた。
 盾を前面に出して、斧を敵の死角に隠すように構える。既にオガ朗は――否、敵は己が殺傷範囲に入っている。大きく動く必要はない。素早く敵を殺す態勢を整える。
 一振りでコイツを叩き殺す、その為の準備を。

「だから頭に血が上ると側面の守りが甘くなる、といつも言っているだろうに」

 脇腹に衝撃が走った。不意打ちの衝撃に耐えきれず、己の肉体が傾く。
 幸い腹に力を込めていたので肉をごっそりとえぐり取られる事こそなかったが、それでも皮膚が弾けて肉をガリガリと削られた感覚がある。結構な血が流れ、苦痛で顔が歪んだ。

「ゥッが――ガアアアアアアアアアアアアアアッ」

 [オガ吉は鬼能【赤銅大鬼の灼咆オーガ・フレイアン・フィオーロ】を繰り出した]

 痛みに耐えきれず声が漏れたが、ハルバードの追撃を視界の隅に捉え、咄嗟とっさに口から炎を吐き出して迎撃する。
 あえなく避けられてしまったが、敵は炎を回避する為に後方へ下がり、距離を置く事には成功した。それに合わせ、己も後方に下がる。
 普段ならば距離をつめて畳みかけていただろうが、今は脇腹を削った攻撃がどういったモノなのか知るのを優先したい。そして敵がなぜオガ朗の姿をしているのか、それも気にかかる。

「一体、どンナ攻撃を……」

 脇腹の怪我は数十秒もすれば血が止まり、痛みも多少引くだろう。しかしそれなりのダメージはあるし、傷口を見ただけではどんな攻撃をされたのかは分からない。
 攻撃された時には敵の四肢を視界に捉えていた。だから武器で攻撃された訳ではない。
 魔術かとも思ったが、魔力は感じなかったのでそれも違うだろう。魔術ならば必ず魔力による予兆があるはずだ。
 ならば、何だ? 考えるが、まるで分からない。

「相変わらず、オガ吉は豪快だな」

 敵が語る。オガ朗の声で。まるで己を昔から知っているように。
 思考が中断される。
 どうしても気に喰わない。ただそこに居るだけで腹立たしくすらある。一刻も早く、コイツを殺さねばならない。何故だか、そう思う。そう思えてならない。
 一瞬でも早くコイツを消さねばならない。殺したい。そんな思考が頭に溢れそうになる。

「貴様は、誰ダ?」
「俺はオガろ……」
「その名ヲ貴様が語るナッ!!」

 オガ朗、と言いかけた敵に我慢ならず、思わず叫んでいた。その名を簡単に語られる事は、それを許容する事は、到底不可能だった。
 斧の柄を握る力が強過ぎて、ギシギシと音が鳴る。無機質な眼をした敵を、視線で射殺すように睨みつける。
 しばしの睨み合いが続くが、やがて入口付近から響いてきたアス江の声によって中断された。

「吉や~~ん! そいつが〝心象の仇敵マインドミラー〟やッ。そいつは、吉やんが一番強いと思ってる奴にける。しかも吉やんが想像する通りの攻撃手段を持っているそうやぁ!!」

 なるほど、確かに己が一番強いと思っているのはオガ朗だ。オガ朗なら、色んな攻撃方法を持っていて当然である。脇腹に受けた攻撃は熱くもなく、また冷たくもなかった。恐らくは風を操って攻撃してきたのだろう。以前にも、そうやって弱点を指摘されていた事を思い出した。
 そこまで思考し、咄嗟とっさに盾を構える。一瞬で距離を詰めてきた敵が、ハルバードで突きを繰り出したからだ。穂先が僅かに帯電している。やはりこのハルバードも、オガ朗が持っているモノと同じ事ができるようだ。
 防御は何とか間に合ったものの、かなり重い衝撃が全身を走った。それに加え、雷槍らいそうほとばしる。電気は金属で造られた盾すら通過してきそうだったので、急いで盾の能力を発動させる。

[魔盾【黒鬼くろおに俎板まないた】の固有能力【衝撃反射ショックリフレクション】が発動しました]

 この盾には三つの能力があった。
 普段から発動させている【重量軽減】と【突破困難】、それに今回の【衝撃反射】だ。これで守りはより一層堅くなった。
 繰り返すが、【衝撃反射】は確かに発動した。己が耐えた衝撃は間違い無く敵に返った。しかし次の瞬間、己の身を電気が貫いていた。
 どうやら【衝撃反射】は、電気などは効果対象外のようだ。身体が痺れ、内側から焼かれるような痛みが走る。何度味わっても、気分のいいモノではない。
 だが悪い事ばかりでもない。衝撃を反射した結果、敵のハルバードのとうが砕け、ただの棒になっている。
【衝撃反射】はどうやら武器破壊にも使えるようだ。
 奥の手の一つとしてあまり使用するな、とオガ朗に言われていたので、この効果は今初めて知った。敵の攻撃から受ける衝撃を感じなくなる訳ではないが、十分使い勝手が良い能力と言えるだろう。
 敵の得物えものは半壊した。コレは好機チャンスだ。
 身体はまだ痺れて痛むが、それを押し殺して再度、炎をまとう斧を振るった。
 ココから、長いようで短い戦いが始まった。


 敵の得物であるハルバードは切断能力を失った。
 それに引き換え、己には盾と斧がある。
 しかしその程度では、オガ朗の戦闘能力はいささかの衰えも見せなかった。

「ぐ――オオオオッ」
「敵が前に居ても、全方向の警戒を怠るな」
「グガアッ!!」

 自在に変形できる銀腕で盾を殴りつけて【衝撃反射】によって生身の部分が破壊されないようにし、前方に意識を集中させた後に後頭部と膝裏を何かで攻撃してくる。
 それを完全に防げず、体勢が崩れ、意識が飛びそうになる。それを何とか堪えて、首を狙って斧を一薙ひとなぎ。しかしそれを読んでいたのか、既に敵は後方に退避していた。
 そしてリーチの長い棒の突きが、己の喉を狙った。
 高速回転しているそれは、当たればただではすまないだろう。咄嗟とっさに首を捻って避けるが、余波だけで肉が抉られそうだった。
 荒い息を吐き出しながら、歯痒さと同時に燃えるような殺意が湧き上がる。
 敵の行動は全て、憎らしいまでにオガ朗がしてきそうな事だった。
 正面から己を殺せるだけの実力がありながら、あえて最低限の消耗で最大の成果を――つまりは己の殺害を達成しようとする、その姿勢。自分よりも弱い獲物を前にしても、完全に息絶えるまで油断しないその姿。
 己が想像する通りのオガ朗の行動だ。


 戦闘が始まって既に十分が過ぎていた。
 以前本気で戦った時は三分ほどで敗れた事を考えれば、大きな進歩とも言えるのかもしれない。だが、敵はオガ朗ではない。己が内心を読み取ってできた偽物だ。何ら誇れるモノではない。
 余計な事を考え始めた思考を振り払い、己の状態を確認する。
 肋骨ろっこつが何本か折れて激しく痛み、右足の骨は踏み砕かれて素早く動く事は不可能だ。頭部の角は一本斬り落とされてしまったし、盾を構える左腕には小さなナイフが突き刺さっている。引き抜きたいが、その隙をもらえないのでそのままになっていた。
 それが原因で血が止まらず、もう左手の感覚は無くなりかけている。盾を保持するのも辛い。あと一、二分もすれば、盾を構える事はできなくなるだろう。そうして武器を一つ失ってしまえば、攻撃の手段は更に限られる。
 全身に付けられた大小様々な裂傷はもはや数え切れず、打撃を受けた箇所は紫色に腫れている。流した血が多過ぎて、目眩めまいもしてきた。
 状況は最悪だった。
 それに引き換え、オガ朗の姿をした敵は殆ど無傷と言っていい。
 いや、何度か良い攻撃は入ったが、与えた端からダメージが回復していったのだ。
 生身の右腕を斬り落とせば落ちた腕を拾ってそれを喰い、新しい腕を即座に生やした。噛みついた状態で炎を浴びせ、何とか皮膚を燃やせたかと思えば、がれ落ちた皮膚の下にはすでに新しい皮があった。
 細かいかすり傷など殆ど一瞬で治癒し、ダメージとして認識すらしていないようだ。
 唯一顎に打撃が決まった時は足をふらつかせていたが、畳みかける前に水球や雷撃で足止めされ、その隙に回復された。
 ハッキリ言って、オガ朗は色々と反則だ。

「さて、そろそろ終わりにしよう」

 オガ朗が――否、敵は腰を落とし、半身になった。邪魔になった棒を地面に突き刺し、銀腕を引き、生身の右腕を前に突き出す。見た事がある構えだった。
 敵が床を蹴ると茶褐色の床がめくれ上がり、まるで風のような速さで、それでいて無音で迫ってくる。
 己は咄嗟とっさに盾を構えた。そうしなければ死ぬと直感したからだ。
 しかしこの一撃の前では、既にボロボロの守りなど無意味だった。恐らく万全の状態にあってさえ、この攻撃を受け止めるのは困難だったに違いない。それほどの攻撃だった。


「――【重撃無双】から【連撃怒涛】の繋ぎ十八連」

 銀色の残像が残るほどの速度で、銀腕が振り抜かれた。
 拳が盾に撃ち込まれた瞬間、殺しきれなかった衝撃に負けて、盾が己に衝突した。まるで壁で圧殺されるような感覚だった。攻撃に耐えきれなかった為か、【衝撃反射】が発動する気配はない。
 この一撃で全身の骨が軋み、あるいはヒビがあった場所は折れた。左腕に突き刺さっていたナイフは衝撃によって砕け、刀身の欠片かけらが左腕を内部からズタズタに引き裂く。
 間髪入れず今度は生身の右腕で攻撃され、その勢いで盾はどこかに飛んでいってしまった。盾が無くなると、再び銀腕が振るわれる。直撃だ。腹にめり込んだ拳は、内臓が全て口から溢れ出るような錯覚さえ抱くほどに強烈だった。
 だが攻撃はまだ終わらない。己が全身をり潰すように、凄まじく強烈な攻撃の連打が全身に叩き込まれていく。己の肉体が徹底的に破壊されていくのを感じる。
 六発目までは知覚できたが、それ以上はよく分からなくなった。
 ただ全身を殴打されている曖昧な感覚があるだけで、痛みはもはや無い。痛みを感じる段階は既に過ぎていた。
 意識が白く染まり、何も感じなくなっていく。その事に恐怖は無かった。あれほどあった敵に対する怒りも、今はあまり感じない。
 感じるのはただ、オガ朗の偽物にすら負けて殺されようとしている、己の不甲斐ふがいなさだけだ。
 確かに、オガ朗を模した敵は果てしなく強い。己が想像した通りの強さで、今の己が勝てるとは思えない敵だった。
 しかしそれでも、あくまでも敵は己の想像を超えてはいない。己が想像できる程度の攻撃しか、敵はしてこないのだ。だからある程度は攻撃を想像し、防ぐ事はできていたのだ。
 だから思う、コレは違うと。
 本物のオガ朗の本当の力は、こんなモノではない。この程度のはずがない。己にはその確信があった。
 オガ朗は、ずっと己の想像を超えたところで生きていた。己が想像すらできない場所を見ている気さえする。
 だから己は憧れているし、惹かれているのだ。友として、共に在りたいと思っているのだ。
 それ故か、死の間際になってより一層己は強く欲した。
 不甲斐ない己を変えるだけの、変えられるだけの〝力〟が欲しいと。
 軽々と想像を超えていくオガ朗のように、己も、誰かの想像を超えるような力が欲しいと。
 全身がボロボロになりながらも、斧を放さなかった右腕を前に伸ばす。斧にまとわり付く青い炎がユラユラと揺れるのが見え、ついで天井がボンヤリと見えた。そしてその向こうに、誰かが居るような気がした。それはとても巨大な何かで、気が付くと、背中には金属の感触があった。どうやら飛ばされて床に突き刺さった盾に、崩れ落ちた己は背を預けて座っているらしい。
 その姿を、己は遠く離れた場所から見下ろしていた。
 あまりにも無様な姿だ、と自嘲すら、できない。
 いや、そんな事は、どうでも、いいのだ。
 今更、何を、どうでも、いい事、を考えて、いるのだろうか。
 己、はただ、オガ朗、のような、強さが、〝力〟が、欲し、くて。
 ああ、ダメ、だ。意識、が、消、えて、いく。


[オガ吉が迎えようとした【致死の運命】はオガ朗の【運命略奪フェイト・プランダー】によって執行猶予があります]
[一定時間以内に新しい神の加護を得られれば【致死の運命】の回避が可能です]
[一定時間以内に新しい神の加護を得られれば【致死の運命】の回避が可能です]
[一定時間以内に新しい神の加護を得られれば【致死の運命】の回避が可能です]
[一定時間以内に新しい神の加護を得……]

 [オガ吉は【雷光らいこうの神の加護】を新しく獲得しました]

[オガ吉は【致死の運命】の回避に成功しました]
[これに伴いオガ吉は世界詩篇〔黒蝕鬼物語こくしょくきものがたり〕第三章第一節【斧滅大帝ふめつたいていの目覚め】をクリアしました]
[オガ吉は新しく称号【斧滅大帝】の能力が付与されました]
[称号【斧滅大帝】には固有能力が設定されています]
[オガ吉は固有能力【斧滅なる者】を獲得した!!]
[オガ吉は固有能力【渇望かつぼうし天上へ至る者】を獲得した!!]

 [固有能力【斧滅なる者】の効果により【魔焼の断頭斧】の情報が改変されました]

[固有能力【斧滅なる者】の効果により【黒鬼の俎板】の情報が改変されました]
[魔斧【魔焼の断頭斧】は霊斧れいふ霊焼れいえん免罪斧めんざいふ】に成りました]
[魔盾【黒鬼の俎板】は霊盾れいじゅん雷炎牛鬼らいえんぎゅうき城盾じょうたて】に成りました]

 [レベルが規定値を突破しました。
 特殊条件《大群虐殺たいぐんぎゃくさつ》《戦力渇望せんりょくかつぼう》《運命反転うんめいはんてん》《万夫不当ばんぷふとう》《神話補正しんわほせい》をクリアしている為、【牛頭鬼・新種ニュスペシス】に【存在進化ランクアップ】が可能です。

【運命略奪】により、強制的に《YES》が選択されました]

 [オガ吉は特定階位にまで【存在進化】した為、※※※より〝真名マナ〟が与えられます]

[オガ吉は【真名・雷炎牛皇ケラウノス】が与えられました]
[真名・雷炎牛皇には固有能力が設定されています]
[ケラウノスは固有能力【雷天神牛ゼウスの系譜】を獲得した!!]
[ケラウノスは固有能力【神殺しの雷炎】を獲得した!!]

 [ケラウノスは特定条件種、特定条件行動、選定の刻印をクリアしている為、※※※から特殊能力スペシャルスキルが二つ与えられます]

[ケラウノスは【武勇蒐集ぶゆうしゅうしゅう】を獲得した!!]
[ケラウノスは【蹂躙制覇じゅうりんせいは】を獲得した!!]

 [ケラウノスは復活しました]


 ◆◆◆


 重いまぶたを開け、背を預けていた盾からまだ重だるい身体を離して起き上がる。
 何か、夢を見ていた気がする。
 誰かが己を深い底から引っ張り上げてくれたような、そんな夢だったはずだが、よく思い出せない。
 ふと、手の中に収まっている斧と、床に突き刺さったままの盾を見る。
 どちらも以前とは形が変わっていた。
 斧は白銀と黄金の装飾が多くなり、より切れ味が上がっているように見える。そして持っているだけで感じる力強さは、以前とは桁外れだ。
 しかしそれも、盾に比べれば些細な変化と言えた。
 力強さの上昇は同じだが、飾り気が無く、ただ平らで強度のみを追求していたような盾に、黄金で牛頭の紋様が新しく刻まれているのだ。その美しさのしなどは分からないが、己としてはその紋様は気に入るものだった。
 そして不意に気が付いたのだ。己の変化に。
 腰から下には黄金色の体毛が皮膚を覆い隠すように生え、足首から先はバイコーンのような黒いひずめになっていた。尻に違和感を覚えて触れてみると、そこには尻尾があった。尻尾は己の意思で自在に動かせるようだ。
 肌は変わらず赤銅色だったが、オガ朗の刺青に似た紋様が全身に、黒と黄金のラインによって新たに描かれている。これでやっとアス江やダム達と同じようになれたと感じられ、嬉しくなった。
 それにしても、周囲を見回せば何もかもが小さくなっているように感じられる。
 気絶した間に何が起きたのだろうか? 疑問が浮かぶばかりで、答えが導き出せない。


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