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第1章:王立魔導学院付属図書館
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「え?! 歓迎夜会?! どういうことですか?!」
私の言葉に、ヴォルフガングさんが楽しそうに笑った。
「ハハハ! せっかくヴィルマが我が校に就職したんだ。
小さな宴会だが、一席設けた。
司書仲間と打ち解ける機会は、早い方がいいだろう?」
そんな言葉で私は今、夜の魔導学院にある小ホールに居た。
参加者はヴォルフガングさんとディララさん、それに司書であるフランツさん、カールステンさん、サブリナさん、そして知らない男女の二人組。
ヴォルフガングさんが音頭を取り、声を上げる。
「それではヴィルマの司書就職を祝って――乾杯!」
それに応じる声が上がり、私たちはグラスを呷った。
お代わりのシードルを私のグラスに注ぎながら、カールステンさんが私に尋ねてくる。
「昼間言っていた『あの本はばらしておくとまずい』ってのは、どういう意味なんだ?」
私はほろ酔い気分でニコニコしながら応える。
「あー、それですか? あの本は、最初と最後のページ、それと装丁に中の魔術を抑制する魔術が施されてるんです。
だから、ページを差し替える作業も素早く行う必要があるってだけですよ」
サブリナさんが驚いたように応える。
「そうなの?! 全然気が付かなかったわ……」
「あの本、ニールス・フィル・ヤコビの本ですよね?
あの著者は、よくそういうことをしてるんです。
――尤も、私が知ってるのは五冊だけですけどね」
「なんで著者名もわかるの……」
私はカラカラと笑いながら応える。
「そんなの、文字を見れば一発ですよお~。
あんな癖の強い文字を書く人の文章、見間違えませんって」
私は気持ちよくシードルをもう一度呷ると、お代わりを要求した。
今度はフランツさんが私のグラスにシードルを注いでいく。
「凄いな、話を聞いてるだけでも、君が司書歴一年とは思えない。
まるでこの道十年を超えるベテランみたいだ」
ヴォルフガングさんが楽しそうな含み笑いを浮かべた。
「まさか! たった十年でヴィルマと同じことができる訳がない。
高い魔導センスと精密な魔力制御、そして幅広い魔導知識に精通している必要がある。
これでヴィルマはまだまだ伸びしろがあるというのだから、末恐ろしいものだね」
私はお酒で気分が良くなったまま、ヴォルフガングさんの背中を音がするほど叩いていた。
「もう! そんなに褒めても何も出ませんよ!」
知らない男女二人組が、笑顔で話の輪に加わってきた。
「そんなに凄い作業だったのか、是非この目で見たかったな」
「ほんとね。私たちは蔵書のチェックで忙殺されてるから、これからも見る機会はないかも」
カールステンさんが、にこやかに二人を手で示した。
「ヴィルマ、紹介しよう。
男の方がファビアン・イリッチ男爵令息。
女の方がシルビア・コーン子爵令嬢だ。
どちらも普段は、蔵書の点検管理をしている」
点検管理――つまり、本が所定の場所にあるか、紛失していないか、そして破損していないかのチェックだ。
この作業はとても重要で、これを怠ると図書館の運営が滞るレベルだ。
そして破損度合いで優先順位をつけ、リソースが許す範囲で順次、本を修復していくことになる。
「うわぁ、そんな大事な仕事をしてるんですか~。お二人とも、優秀な方なんですねぇ」
ファビアンさんが苦笑するように微笑んだ。
「君の武勇伝を聞いた後では、胸を張るのが恥ずかしい気もするけどね」
「なにを言ってるんですか! 修復作業なんて、きちんと修復できればそれで充分なんです!
それよりも、本を管理するために毎日チェックして回ることの方がず~~~~っと大切なんですからね!
お二人とも、もっと自信を持ってください!」
私の言葉にファビアンさんとシルビアさんが顔を見合わせ、フッと笑いあった。
「どうやら、新しい司書殿は司書業のなんたるかをよく理解しているようだ」
「本当ね。これじゃあ教えることなんて、何もなさそう」
私はおつまみのソーセージにかぶりつきながら応える。
「むぐむぐ……とんでもないですよ! 私はまだ今日入ったばかりの新人ですよ?!
どこにどの本があるか、すぐにそらんじられない程度の、ぺーぺーの新人です!
だから皆さん、よろしくお願いします!」
私は深々と頭を下げていた。
周囲からクスクスと笑い声がこぼれてくる。
「どうやら、ヴィルマは酒に弱いみたいだな。
私が知っているヴィルマより、数割増しで賑やかだ」
この声、ヴォルフガングさんかな。
私は顔を上げてヴォルフガングさんに告げる。
「そうですか~? そうなのかな~? 確かに、普段はお酒なんて飲みませんけども」
ふわふわと微笑んでいると、ヴォルフガングさんはパチンと指を鳴らした。
「そうだ、せっかくだし、ちょっとしたゲームをしようじゃないか」
「ゲーム?」
私たち司書の声がハモり、視線がヴォルフガングさんの顔に集中した。
「そう、ゲームだ。
これから私が、即興で刻印魔術を新しく作る。
それを見て、一番早く複製できた者に優勝賞金を進呈しよう。
どうだい? 余興としては悪くないだろう?」
****
ディララさんが用意してきた紙に、ヴォルフガングさんがサラサラと魔術文字を記していく。
即興というのが信じられないくらい流麗に描かれた魔法陣が三枚作られ、それをヴォルフガングさんが私たちに見えるようにかざした。
「さぁ、誰が最初に正確な複製を作れるか、スタートだ!」
その声を皮切りに、みんなの視線が魔法陣に集中した。
当然、全員が防魔眼鏡をかけている。
みんなの動きが止まっている中、私はいち早く手を動かして手元の紙に魔術文字を記していく。
「――嘘だろ?! もう読み解いたのか?!」
フランツさんの声が聞こえた。
続いてカールステンさんの声も聞こえる。
「負けてられないな。こうなったら一か八か、推測交じりで書いてみるか」
サブリナさんがシルビアさんと会話する声が聞こえる。
「本当にあの子、酔っぱらってるの?! 嘘みたいに正確な文字を書いてるんだけど?!」
「……修復作業の時より、書く速度が遅いわ。間違いなく酔ってるわよ」
ヴォルフガングさんが楽しそうに笑みをこぼす。
「フフフ。即興とはいえ、私が作った刻印魔術だ。簡単に読み解けると思わない方がいいね」
ファビアンさんの声が聞こえる。
「これは……対消滅魔術か。寸分たがわず同じ刻印魔術を作れば、打ち消し合って両方の刻印が消えるんだな」
「こらこら、種明かしを口走るんじゃない」
ヴォルフガングさんが苦笑しながら告げた。
「――できました!」
私は手を挙げて、三枚の紙をかかげた。
ヴォルフガングさんが頷いて私の紙を受け取り、他の五人のゲーム参加者に告げる。
「これが正解かどうかは、最後に確認するとしよう。
あまりにも力量差があって、このままではゲームにならないからね。
君たちは正確にこれを写し取ることだけを考えなさい」
静まり返った小ホールでは、ヴォルフガングさんが掲げる刻印魔術を真剣に睨み付ける五人の司書たちの姿が在った。
私は一人、シードルをお代わりしてほろ酔い気分を楽しんでいた。
****
「では書きあがった順に答え合わせをしていこう。
――まずはカールステン!」
カールステンさんが三枚の紙をヴォルフガングさんの紙に重ね合わせると、静電気が走ったかのようにカールステンさんが飛び上がっていた。
「――いってぇ?! ヴォルフガング様、何を仕込んだんですか?!」
「フフフ、雑な複製をすれば、罰として電気ショックが身体に走るよ。
それは拙速に走り過ぎた君への戒めだ。
刻印魔術を見極めるなんて、君たち司書なら最も得意としなければならない作業だ。
それをそんな粗雑な作業をしているようでは、司書失格と言われても仕方がないよ?」
落ち込んだカールステンさんが元の席に戻っていく。
「――次、シルビア!」
前に出てきたシルビアさんが、恐る恐る刻印魔術を合わせていく。
……何も起こらず、シルビアさんは胸をなでおろしていた。
「ふぅ、罰はこなかったわね。でも正解でもなかったみたい。残念ね」
「――次、ファビアン!」
ファビアンさん、フランツさん、サブリナさんが続いて行く。
「あれ、最後がサブリナさんなんですか? ちょっと意外ですね」
私の言葉に、サブリナさんが苦笑を浮かべて応える。
「慎重に写していったもの。フランツより遅くなってでも、慎重にね。
――それでも、正解じゃないのね。
私は完璧に仕上げた自信があったのだけれど、何が違うのかしら」
ヴォルフガングさんが、私の紙を取り出した。
「では、ヴィルマの答え合わせだ」
ヴォルフガングさんが刻印魔術を合わせると、二つの紙からインクがスッと消え去った。
二枚目、三枚目も同じように消え去っていき、フランツさんたち五人は唖然として真っ白になった紙を見つめていた。
サブリナさんが動揺しながら声を上げる。
「どういうこと?! 魔術文字の形は、私のものと一言一句同じだったはずよ?!」
私はほろ酔い気分のままサブリナさんに告げる。
「あー、字形だけじゃだめですよ~?
そこに込める魔力の波長も精密に複製しないと、あの対消滅魔術は成立しないんです。
刻印魔術は因果の魔術。
因果は魔導の基本ですが、まるで魔導の深奥を覗くようなゲームでしたねぇ」
私がケラケラと笑っていると、サブリナさんが唖然とした顔で私を見つめてきた。
「まさか、その酔っ払い具合で、遠くで見た刻印魔術に込められた魔力まで正確に複製したというの?!」
「そうですよ~? だって、これはそういうゲームでしょう?
私もさすがに、魔力の波長を読み解くのにちょっと時間がかかっちゃいましたけど、お酒が入ってなければ、見た瞬間に書き写せましたよ~?」
言葉が無くなったサブリナさんたち五人に、ヴォルフガングさんが楽し気に告げる。
「どうだね? これでヴィルマの素質、そして実力が窺い知れたと思う。
彼女はこの図書館を盛り立てるのに必要な人材だ。
ぜひとも有効活用して欲しい」
ずっと黙って微笑んでいたディララさんが、ようやく口を開く。
「本当に頼もしい限りね。
普通ならこんな逸材、宮廷魔導士に奪われてしまう所よ。
それが司書をしてくれるというのだから、願ったり叶ったりだわ。
これで長年の人手不足も、解消できるんじゃないかしら」
ディララさんが拍手をはじめると、次第に司書の五人も苦笑いを浮かべながら拍手をしていった。
小ホールに響き渡る拍手を聞きながら、私の意識は遠くなり、記憶がそこで途切れてしまった。
私の言葉に、ヴォルフガングさんが楽しそうに笑った。
「ハハハ! せっかくヴィルマが我が校に就職したんだ。
小さな宴会だが、一席設けた。
司書仲間と打ち解ける機会は、早い方がいいだろう?」
そんな言葉で私は今、夜の魔導学院にある小ホールに居た。
参加者はヴォルフガングさんとディララさん、それに司書であるフランツさん、カールステンさん、サブリナさん、そして知らない男女の二人組。
ヴォルフガングさんが音頭を取り、声を上げる。
「それではヴィルマの司書就職を祝って――乾杯!」
それに応じる声が上がり、私たちはグラスを呷った。
お代わりのシードルを私のグラスに注ぎながら、カールステンさんが私に尋ねてくる。
「昼間言っていた『あの本はばらしておくとまずい』ってのは、どういう意味なんだ?」
私はほろ酔い気分でニコニコしながら応える。
「あー、それですか? あの本は、最初と最後のページ、それと装丁に中の魔術を抑制する魔術が施されてるんです。
だから、ページを差し替える作業も素早く行う必要があるってだけですよ」
サブリナさんが驚いたように応える。
「そうなの?! 全然気が付かなかったわ……」
「あの本、ニールス・フィル・ヤコビの本ですよね?
あの著者は、よくそういうことをしてるんです。
――尤も、私が知ってるのは五冊だけですけどね」
「なんで著者名もわかるの……」
私はカラカラと笑いながら応える。
「そんなの、文字を見れば一発ですよお~。
あんな癖の強い文字を書く人の文章、見間違えませんって」
私は気持ちよくシードルをもう一度呷ると、お代わりを要求した。
今度はフランツさんが私のグラスにシードルを注いでいく。
「凄いな、話を聞いてるだけでも、君が司書歴一年とは思えない。
まるでこの道十年を超えるベテランみたいだ」
ヴォルフガングさんが楽しそうな含み笑いを浮かべた。
「まさか! たった十年でヴィルマと同じことができる訳がない。
高い魔導センスと精密な魔力制御、そして幅広い魔導知識に精通している必要がある。
これでヴィルマはまだまだ伸びしろがあるというのだから、末恐ろしいものだね」
私はお酒で気分が良くなったまま、ヴォルフガングさんの背中を音がするほど叩いていた。
「もう! そんなに褒めても何も出ませんよ!」
知らない男女二人組が、笑顔で話の輪に加わってきた。
「そんなに凄い作業だったのか、是非この目で見たかったな」
「ほんとね。私たちは蔵書のチェックで忙殺されてるから、これからも見る機会はないかも」
カールステンさんが、にこやかに二人を手で示した。
「ヴィルマ、紹介しよう。
男の方がファビアン・イリッチ男爵令息。
女の方がシルビア・コーン子爵令嬢だ。
どちらも普段は、蔵書の点検管理をしている」
点検管理――つまり、本が所定の場所にあるか、紛失していないか、そして破損していないかのチェックだ。
この作業はとても重要で、これを怠ると図書館の運営が滞るレベルだ。
そして破損度合いで優先順位をつけ、リソースが許す範囲で順次、本を修復していくことになる。
「うわぁ、そんな大事な仕事をしてるんですか~。お二人とも、優秀な方なんですねぇ」
ファビアンさんが苦笑するように微笑んだ。
「君の武勇伝を聞いた後では、胸を張るのが恥ずかしい気もするけどね」
「なにを言ってるんですか! 修復作業なんて、きちんと修復できればそれで充分なんです!
それよりも、本を管理するために毎日チェックして回ることの方がず~~~~っと大切なんですからね!
お二人とも、もっと自信を持ってください!」
私の言葉にファビアンさんとシルビアさんが顔を見合わせ、フッと笑いあった。
「どうやら、新しい司書殿は司書業のなんたるかをよく理解しているようだ」
「本当ね。これじゃあ教えることなんて、何もなさそう」
私はおつまみのソーセージにかぶりつきながら応える。
「むぐむぐ……とんでもないですよ! 私はまだ今日入ったばかりの新人ですよ?!
どこにどの本があるか、すぐにそらんじられない程度の、ぺーぺーの新人です!
だから皆さん、よろしくお願いします!」
私は深々と頭を下げていた。
周囲からクスクスと笑い声がこぼれてくる。
「どうやら、ヴィルマは酒に弱いみたいだな。
私が知っているヴィルマより、数割増しで賑やかだ」
この声、ヴォルフガングさんかな。
私は顔を上げてヴォルフガングさんに告げる。
「そうですか~? そうなのかな~? 確かに、普段はお酒なんて飲みませんけども」
ふわふわと微笑んでいると、ヴォルフガングさんはパチンと指を鳴らした。
「そうだ、せっかくだし、ちょっとしたゲームをしようじゃないか」
「ゲーム?」
私たち司書の声がハモり、視線がヴォルフガングさんの顔に集中した。
「そう、ゲームだ。
これから私が、即興で刻印魔術を新しく作る。
それを見て、一番早く複製できた者に優勝賞金を進呈しよう。
どうだい? 余興としては悪くないだろう?」
****
ディララさんが用意してきた紙に、ヴォルフガングさんがサラサラと魔術文字を記していく。
即興というのが信じられないくらい流麗に描かれた魔法陣が三枚作られ、それをヴォルフガングさんが私たちに見えるようにかざした。
「さぁ、誰が最初に正確な複製を作れるか、スタートだ!」
その声を皮切りに、みんなの視線が魔法陣に集中した。
当然、全員が防魔眼鏡をかけている。
みんなの動きが止まっている中、私はいち早く手を動かして手元の紙に魔術文字を記していく。
「――嘘だろ?! もう読み解いたのか?!」
フランツさんの声が聞こえた。
続いてカールステンさんの声も聞こえる。
「負けてられないな。こうなったら一か八か、推測交じりで書いてみるか」
サブリナさんがシルビアさんと会話する声が聞こえる。
「本当にあの子、酔っぱらってるの?! 嘘みたいに正確な文字を書いてるんだけど?!」
「……修復作業の時より、書く速度が遅いわ。間違いなく酔ってるわよ」
ヴォルフガングさんが楽しそうに笑みをこぼす。
「フフフ。即興とはいえ、私が作った刻印魔術だ。簡単に読み解けると思わない方がいいね」
ファビアンさんの声が聞こえる。
「これは……対消滅魔術か。寸分たがわず同じ刻印魔術を作れば、打ち消し合って両方の刻印が消えるんだな」
「こらこら、種明かしを口走るんじゃない」
ヴォルフガングさんが苦笑しながら告げた。
「――できました!」
私は手を挙げて、三枚の紙をかかげた。
ヴォルフガングさんが頷いて私の紙を受け取り、他の五人のゲーム参加者に告げる。
「これが正解かどうかは、最後に確認するとしよう。
あまりにも力量差があって、このままではゲームにならないからね。
君たちは正確にこれを写し取ることだけを考えなさい」
静まり返った小ホールでは、ヴォルフガングさんが掲げる刻印魔術を真剣に睨み付ける五人の司書たちの姿が在った。
私は一人、シードルをお代わりしてほろ酔い気分を楽しんでいた。
****
「では書きあがった順に答え合わせをしていこう。
――まずはカールステン!」
カールステンさんが三枚の紙をヴォルフガングさんの紙に重ね合わせると、静電気が走ったかのようにカールステンさんが飛び上がっていた。
「――いってぇ?! ヴォルフガング様、何を仕込んだんですか?!」
「フフフ、雑な複製をすれば、罰として電気ショックが身体に走るよ。
それは拙速に走り過ぎた君への戒めだ。
刻印魔術を見極めるなんて、君たち司書なら最も得意としなければならない作業だ。
それをそんな粗雑な作業をしているようでは、司書失格と言われても仕方がないよ?」
落ち込んだカールステンさんが元の席に戻っていく。
「――次、シルビア!」
前に出てきたシルビアさんが、恐る恐る刻印魔術を合わせていく。
……何も起こらず、シルビアさんは胸をなでおろしていた。
「ふぅ、罰はこなかったわね。でも正解でもなかったみたい。残念ね」
「――次、ファビアン!」
ファビアンさん、フランツさん、サブリナさんが続いて行く。
「あれ、最後がサブリナさんなんですか? ちょっと意外ですね」
私の言葉に、サブリナさんが苦笑を浮かべて応える。
「慎重に写していったもの。フランツより遅くなってでも、慎重にね。
――それでも、正解じゃないのね。
私は完璧に仕上げた自信があったのだけれど、何が違うのかしら」
ヴォルフガングさんが、私の紙を取り出した。
「では、ヴィルマの答え合わせだ」
ヴォルフガングさんが刻印魔術を合わせると、二つの紙からインクがスッと消え去った。
二枚目、三枚目も同じように消え去っていき、フランツさんたち五人は唖然として真っ白になった紙を見つめていた。
サブリナさんが動揺しながら声を上げる。
「どういうこと?! 魔術文字の形は、私のものと一言一句同じだったはずよ?!」
私はほろ酔い気分のままサブリナさんに告げる。
「あー、字形だけじゃだめですよ~?
そこに込める魔力の波長も精密に複製しないと、あの対消滅魔術は成立しないんです。
刻印魔術は因果の魔術。
因果は魔導の基本ですが、まるで魔導の深奥を覗くようなゲームでしたねぇ」
私がケラケラと笑っていると、サブリナさんが唖然とした顔で私を見つめてきた。
「まさか、その酔っ払い具合で、遠くで見た刻印魔術に込められた魔力まで正確に複製したというの?!」
「そうですよ~? だって、これはそういうゲームでしょう?
私もさすがに、魔力の波長を読み解くのにちょっと時間がかかっちゃいましたけど、お酒が入ってなければ、見た瞬間に書き写せましたよ~?」
言葉が無くなったサブリナさんたち五人に、ヴォルフガングさんが楽し気に告げる。
「どうだね? これでヴィルマの素質、そして実力が窺い知れたと思う。
彼女はこの図書館を盛り立てるのに必要な人材だ。
ぜひとも有効活用して欲しい」
ずっと黙って微笑んでいたディララさんが、ようやく口を開く。
「本当に頼もしい限りね。
普通ならこんな逸材、宮廷魔導士に奪われてしまう所よ。
それが司書をしてくれるというのだから、願ったり叶ったりだわ。
これで長年の人手不足も、解消できるんじゃないかしら」
ディララさんが拍手をはじめると、次第に司書の五人も苦笑いを浮かべながら拍手をしていった。
小ホールに響き渡る拍手を聞きながら、私の意識は遠くなり、記憶がそこで途切れてしまった。
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