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第2章:華麗な舞踏会
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大ホールの中は、大勢の貴族子女たちでごった返していた。
どれだけ参加者が居るんだろう……百人は優に超えてる。
着飾った女子たちが平然とドレスで歩き回るのを見て、私は戦慄すら覚えていた。
ディララさんが先導していく後に、私たち司書六人が続いて行く。
辿り着いた先の人混みが横に割れて、その中から金髪の青年が前に出てきた。
艶やかな金髪を緩やかに伸ばし、凛々しい顔つきには若さが漲っている。
ペリドットのような深い緑色の瞳が、不遜な表情で私たちを見つめていた。
「ご苦労、オットー子爵夫人。後ろに居るのが件の平民か」
スッとディララさんが腰を落とし、カーテシーで告げる。
「はい。ご要望通り、ヴィルヘルミーナを連れてまいりました」
ということは、この金髪の青年が第二王子、アルフレッド殿下か。
悪い人には見えない、気がする。
彼は私だけを見つめて、ニヤニヤと微笑んでいた。
「――ヴィルヘルミーナ、お前は挨拶ができるか」
え、挨拶って言われても……。
私はぺこりとお辞儀をして応える。
「ヴィルヘルミーナ・シュライバーです」
クスリ、とアルフレッド殿下が笑みをこぼした。
「そうも見事に貴族令嬢の装いをしていて、振る舞いは庶民のそれか。
そのギャップ、中々に興味深い。
――ローレンツ男爵令息、ヴィルヘルミーナを借りるぞ」
つかつかと近寄ってきた殿下が、私の手を取った。
そのまま私をホール中央へ連れて行き、今度は向かい合って私と組みあう。
「ダンスは……まぁ、踊れまい。
だが心配するな、お前は誘導されるままに動け」
「え?! なにをするつもりですか?!」
殿下が片手を挙げると楽団の演奏が緩やかな円舞曲に切り替わり、私の身体は殿下に引っ張られるように動かされた。
「うわ、そんな引いたら倒れます!」
「倒れん。安心して動かされていろ」
えー? 本当に?
身体を引っ張られ、重心を崩された私は、殿下が思うように動かされていった。
どうやら殿下は相手の動きを操る技術を持っているらしく、私は殿下が誘導するように動くだけでワルツを踊れているようだった。
ステップ一つ知らない私が、くるくると大ホール中央で殿下とワルツを踊っていく。
「うわぁ……こんなこと、できるんですねぇ」
「武術の応用だ。これができると便利でな」
そりゃあ便利だろうなぁ。
相手がダンスを苦手だったり、私みたいにダンスを知らなくても、一緒に踊れてしまう。
こういう世界で生きていくなら、持っておいて損はない技術だろう。
……今度、武術の教本を図書館に入れてもらおうかな?
そんなことを考えていると、殿下が私の顔の間近で告げる。
「ヴィルヘルミーナ、お前は美しいな」
吐息がかかるほど近い殿下の顔に、私は気のない声で応える。
「はぁ、ありがとうございます」
殿下が楽しそうに笑みをこぼした。
「フッ、なんだその反応は。
私は嘘偽りなく、今のお前を美しいと褒めたのだが」
「そう言われても、お化粧で塗り固められた顔ですし。
普段の私と、まるで違う顔ですから」
「それはそうだろうが、化粧といえど限界はある。
そして皆が化粧をしてる中で秀でるなら、化粧がなくても秀でているのだ。
お前は確かに、今夜来ている貴族子女の中で屈指の美を誇るだろう」
「はぁ……そんなこと言われたのは、初めてですねぇ」
クスクスと殿下が笑みをこぼしながら応える。
「お前は楽しいな。平民だからか? それとも、それがお前の個性か?」
「どちらでしょう? 自分ではそんなこと、わかりませんし」
だんだんと膝が怪しくなってくる。
足に力が入らなくなってきて、息も上がってきた。
そんな私を見て、殿下が足を止めた。
「――ふむ。無理は良くないな。
ダンスはここまでにしておこう」
殿下が私の手を引いて、大ホール中央からみんなの居る場所へと戻っていった。
****
アルフレッド殿下は、従者に命じて椅子を持って来させ、私を座らせた。
「すまんな、楽しくてつい、慣れぬお前を振り回した」
「いえ、別にそれは構わないんですけど、その……」
私は、右手をしっかりと掴んでくる殿下の左手を見つめた。
なんで? どうして捕まえるかのように手を離さないの?
私の意図を察して……くれる様子は、ないなぁ。
殿下は私の傍で、笑顔で周囲と会話している――私の手を捉えたまま。
私はディララさんたちに視線で必死に助けを求めてみた。
だけど、手を掴んでるだけで何かをされてるわけでもない殿下に、ディララさんたちも何と言っていいのかわからないようだ。
困惑した顔で困ったようにこちらを見るみんなを見て『あ、これはもしかして、逃げられない奴?』と覚悟を決めた。
周囲の貴族子女も、チラチラと私たちが手を繋いでいることに視線を寄越してくる。
殿下はそれすら気にする様子もなく、会話を続けているようだった。
「あのー、アルフレッド殿下。そろそろ手を放してくれませんか」
周囲がぎょっとした顔で私の顔を見てきた。
愕然とした顔が並ぶ中、殿下は満足気な笑みで私に振り向き、応える。
「断る」
シンプルだな?! なんだその一刀両断!
「いやでも、これだと私、動けないんですけど?」
「そもそもお前は、まだ足腰が回復していないだろう。
無理に立ち上がろうとせず、大人しく私の傍に座っているがいい」
そりゃそうなんだけどさぁ。
私が眉をひそめて殿下を見つめていると、シルビアさんが大きな声で殿下に告げる。
「アルフレッド殿下、お戯れが過ぎますよ。
ヴィルマが困っています。彼女の心を思うのであれば、どうか解放してください」
「ん? ヴィルマとは誰のことだ?」
私はおずおずと手を挙げた。
「私のことですよ。親しい人には、そう呼んでもらってるので」
「そうか、ヴィルヘルミーナという名前も美しいと思うのだがな。
だがヴィルマという名前もまた、愛らしい名前だ。
愛らしいお前には、そちらの方が似合っているように感じる。
では私も、これからはお前をヴィルマと呼ぼう」
「え? 私は別に、殿下と親しくないんですけど?」
周囲が一気に騒然とした。
ざわざわとした波が広がっていく中、殿下は不敵な笑みで私に告げる。
「ではこれから親しくなれば良い。
私はヴィルマを気に入った。そしてお前は我が王立学院の職員。
親密になって損はないと、そうは思わないか」
「いや~? 別に思わないなぁ。殿下と親しくなって、私になんのメリットがあるんです?」
意表を突かれた様子の殿下が、楽しそうに笑い声をあげた。
「ハハハ! やはりヴィルマよ、お前は楽しい女だ。
これは間違いなく、お前の個性だろう。
――時にヴィルマよ、魔導書を写本できるという噂があるが、それは本当か」
え? これまた唐突だな?
「そりゃまぁ、できますけど。司書業務の一環ですし。
原本があれば、寸分違わず写本してみせますよ?」
殿下がニヤリと笑った。
「言ったな? では宮廷図書館から、『神霊魔術』を持って来させよう。それを写本してみせろ」
「――その名前、まさかエドワルド・ステファン・モーリッツ著作の、魔導三大奇書のひとつですか?!
読み解ける魔導士すらほとんど居ないと言われる、国宝級の魔導書じゃないですか!
そんな魔導書、この国にあったんですか?!」
アルフレッド殿下が満足そうに頷いた。
「よく知っているな、現物を見た事はないだろうに」
「いくつもの文献で、その存在に触れていましたので。
神霊魔術は、魔導の中でも特に神秘性が高くて、使えた術者が居ないとされる机上の空論です。
その理由の一つが、モーリッツ公爵の残したその魔導書を読み解ける人間が居ないからだとされています。
彼は時代が生んだ異端の天才、彼以外に理解ができない理論だと」
「うむ、そのようだな。宮廷魔導士たちでも、あの魔導書を読破できた者は居ないらしい――ヴォルフガングを含めてな。
そうだな? ヴォルフガング」
殿下が横を振り向くと、少し離れて控えていたヴォルフガングさんが難しい顔で頷いた。
「確かにその通りだ。私も読み解こうとしたが、七割を解読するのが精一杯だった。
あれを写本できる魔導士は、おそらく現代に存在しないだろう」
あ、ヴォルフガングさん、口調は対等なんだな。
王家の血を引く元公爵家当主だから許されるんだろうけど、貴族としては珍しく感じる。
殿下が満足げに頷き応える。
「その魔導書をヴィルマに写本させたい。
貴重な魔導書だ、写本できればその価値は莫大なものとなろう。
その報酬として、私はヴィルマに我が学院付属図書館で司書をする権利を与えようと思う。
――これなら、平民でも我が王立魔導学院付属図書館で働く大義名分が生まれると、そうは思わんか?」
ディララさんが、緊張した面持ちで前に出て声を上げる。
「恐れながら殿下、あまりにも非現実的すぎます。
写本できる訳がないではないですか」
殿下がディララさんに振り向き、笑顔で応える。
「ヴィルマが『原本があればなんでも写本できる』と豪語したのだ。
我が前でそのような大言壮語をした以上、きちんと責任を取ってもらわねばならぬ。
できもしないことを言いきったのだとしたら、少し己の実力を過信しすぎたと反省してもらわねばな」
「殿下! ヴィルマはまだ十六歳、未熟な司書です!
己の実力を見誤ることもありましょう!
魔導三大奇書のような物が、この国にあるのも想像していませんでした!
そこはお目こぼしを頂けませんか!」
殿下がふっと笑みを浮かべた。
「できんな。我が王家の施設で働く職員には、誠実であってもらわねばならん。
それが平民だとするなら尚のことだ。
身分で保証されない分、言動で己の価値を示してもらわねば、示しが付かんだろう」
私はふと気になって、殿下に尋ねる。
「もし写本に失敗したら、私は解雇ですか?」
殿下が片手を顎に当て、少し考えこんだ。
「そうだな……不誠実なものを雇用するのは、信用問題につながる。
だが若いヴィルマにとって過酷な試練だというのも考慮しよう。
そこで折衷案だ、ヴィルマよ。お前は写本に失敗したら、我が公妾となるが良い」
大きなどよめきが、大ホールに広がっていった。
どれだけ参加者が居るんだろう……百人は優に超えてる。
着飾った女子たちが平然とドレスで歩き回るのを見て、私は戦慄すら覚えていた。
ディララさんが先導していく後に、私たち司書六人が続いて行く。
辿り着いた先の人混みが横に割れて、その中から金髪の青年が前に出てきた。
艶やかな金髪を緩やかに伸ばし、凛々しい顔つきには若さが漲っている。
ペリドットのような深い緑色の瞳が、不遜な表情で私たちを見つめていた。
「ご苦労、オットー子爵夫人。後ろに居るのが件の平民か」
スッとディララさんが腰を落とし、カーテシーで告げる。
「はい。ご要望通り、ヴィルヘルミーナを連れてまいりました」
ということは、この金髪の青年が第二王子、アルフレッド殿下か。
悪い人には見えない、気がする。
彼は私だけを見つめて、ニヤニヤと微笑んでいた。
「――ヴィルヘルミーナ、お前は挨拶ができるか」
え、挨拶って言われても……。
私はぺこりとお辞儀をして応える。
「ヴィルヘルミーナ・シュライバーです」
クスリ、とアルフレッド殿下が笑みをこぼした。
「そうも見事に貴族令嬢の装いをしていて、振る舞いは庶民のそれか。
そのギャップ、中々に興味深い。
――ローレンツ男爵令息、ヴィルヘルミーナを借りるぞ」
つかつかと近寄ってきた殿下が、私の手を取った。
そのまま私をホール中央へ連れて行き、今度は向かい合って私と組みあう。
「ダンスは……まぁ、踊れまい。
だが心配するな、お前は誘導されるままに動け」
「え?! なにをするつもりですか?!」
殿下が片手を挙げると楽団の演奏が緩やかな円舞曲に切り替わり、私の身体は殿下に引っ張られるように動かされた。
「うわ、そんな引いたら倒れます!」
「倒れん。安心して動かされていろ」
えー? 本当に?
身体を引っ張られ、重心を崩された私は、殿下が思うように動かされていった。
どうやら殿下は相手の動きを操る技術を持っているらしく、私は殿下が誘導するように動くだけでワルツを踊れているようだった。
ステップ一つ知らない私が、くるくると大ホール中央で殿下とワルツを踊っていく。
「うわぁ……こんなこと、できるんですねぇ」
「武術の応用だ。これができると便利でな」
そりゃあ便利だろうなぁ。
相手がダンスを苦手だったり、私みたいにダンスを知らなくても、一緒に踊れてしまう。
こういう世界で生きていくなら、持っておいて損はない技術だろう。
……今度、武術の教本を図書館に入れてもらおうかな?
そんなことを考えていると、殿下が私の顔の間近で告げる。
「ヴィルヘルミーナ、お前は美しいな」
吐息がかかるほど近い殿下の顔に、私は気のない声で応える。
「はぁ、ありがとうございます」
殿下が楽しそうに笑みをこぼした。
「フッ、なんだその反応は。
私は嘘偽りなく、今のお前を美しいと褒めたのだが」
「そう言われても、お化粧で塗り固められた顔ですし。
普段の私と、まるで違う顔ですから」
「それはそうだろうが、化粧といえど限界はある。
そして皆が化粧をしてる中で秀でるなら、化粧がなくても秀でているのだ。
お前は確かに、今夜来ている貴族子女の中で屈指の美を誇るだろう」
「はぁ……そんなこと言われたのは、初めてですねぇ」
クスクスと殿下が笑みをこぼしながら応える。
「お前は楽しいな。平民だからか? それとも、それがお前の個性か?」
「どちらでしょう? 自分ではそんなこと、わかりませんし」
だんだんと膝が怪しくなってくる。
足に力が入らなくなってきて、息も上がってきた。
そんな私を見て、殿下が足を止めた。
「――ふむ。無理は良くないな。
ダンスはここまでにしておこう」
殿下が私の手を引いて、大ホール中央からみんなの居る場所へと戻っていった。
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アルフレッド殿下は、従者に命じて椅子を持って来させ、私を座らせた。
「すまんな、楽しくてつい、慣れぬお前を振り回した」
「いえ、別にそれは構わないんですけど、その……」
私は、右手をしっかりと掴んでくる殿下の左手を見つめた。
なんで? どうして捕まえるかのように手を離さないの?
私の意図を察して……くれる様子は、ないなぁ。
殿下は私の傍で、笑顔で周囲と会話している――私の手を捉えたまま。
私はディララさんたちに視線で必死に助けを求めてみた。
だけど、手を掴んでるだけで何かをされてるわけでもない殿下に、ディララさんたちも何と言っていいのかわからないようだ。
困惑した顔で困ったようにこちらを見るみんなを見て『あ、これはもしかして、逃げられない奴?』と覚悟を決めた。
周囲の貴族子女も、チラチラと私たちが手を繋いでいることに視線を寄越してくる。
殿下はそれすら気にする様子もなく、会話を続けているようだった。
「あのー、アルフレッド殿下。そろそろ手を放してくれませんか」
周囲がぎょっとした顔で私の顔を見てきた。
愕然とした顔が並ぶ中、殿下は満足気な笑みで私に振り向き、応える。
「断る」
シンプルだな?! なんだその一刀両断!
「いやでも、これだと私、動けないんですけど?」
「そもそもお前は、まだ足腰が回復していないだろう。
無理に立ち上がろうとせず、大人しく私の傍に座っているがいい」
そりゃそうなんだけどさぁ。
私が眉をひそめて殿下を見つめていると、シルビアさんが大きな声で殿下に告げる。
「アルフレッド殿下、お戯れが過ぎますよ。
ヴィルマが困っています。彼女の心を思うのであれば、どうか解放してください」
「ん? ヴィルマとは誰のことだ?」
私はおずおずと手を挙げた。
「私のことですよ。親しい人には、そう呼んでもらってるので」
「そうか、ヴィルヘルミーナという名前も美しいと思うのだがな。
だがヴィルマという名前もまた、愛らしい名前だ。
愛らしいお前には、そちらの方が似合っているように感じる。
では私も、これからはお前をヴィルマと呼ぼう」
「え? 私は別に、殿下と親しくないんですけど?」
周囲が一気に騒然とした。
ざわざわとした波が広がっていく中、殿下は不敵な笑みで私に告げる。
「ではこれから親しくなれば良い。
私はヴィルマを気に入った。そしてお前は我が王立学院の職員。
親密になって損はないと、そうは思わないか」
「いや~? 別に思わないなぁ。殿下と親しくなって、私になんのメリットがあるんです?」
意表を突かれた様子の殿下が、楽しそうに笑い声をあげた。
「ハハハ! やはりヴィルマよ、お前は楽しい女だ。
これは間違いなく、お前の個性だろう。
――時にヴィルマよ、魔導書を写本できるという噂があるが、それは本当か」
え? これまた唐突だな?
「そりゃまぁ、できますけど。司書業務の一環ですし。
原本があれば、寸分違わず写本してみせますよ?」
殿下がニヤリと笑った。
「言ったな? では宮廷図書館から、『神霊魔術』を持って来させよう。それを写本してみせろ」
「――その名前、まさかエドワルド・ステファン・モーリッツ著作の、魔導三大奇書のひとつですか?!
読み解ける魔導士すらほとんど居ないと言われる、国宝級の魔導書じゃないですか!
そんな魔導書、この国にあったんですか?!」
アルフレッド殿下が満足そうに頷いた。
「よく知っているな、現物を見た事はないだろうに」
「いくつもの文献で、その存在に触れていましたので。
神霊魔術は、魔導の中でも特に神秘性が高くて、使えた術者が居ないとされる机上の空論です。
その理由の一つが、モーリッツ公爵の残したその魔導書を読み解ける人間が居ないからだとされています。
彼は時代が生んだ異端の天才、彼以外に理解ができない理論だと」
「うむ、そのようだな。宮廷魔導士たちでも、あの魔導書を読破できた者は居ないらしい――ヴォルフガングを含めてな。
そうだな? ヴォルフガング」
殿下が横を振り向くと、少し離れて控えていたヴォルフガングさんが難しい顔で頷いた。
「確かにその通りだ。私も読み解こうとしたが、七割を解読するのが精一杯だった。
あれを写本できる魔導士は、おそらく現代に存在しないだろう」
あ、ヴォルフガングさん、口調は対等なんだな。
王家の血を引く元公爵家当主だから許されるんだろうけど、貴族としては珍しく感じる。
殿下が満足げに頷き応える。
「その魔導書をヴィルマに写本させたい。
貴重な魔導書だ、写本できればその価値は莫大なものとなろう。
その報酬として、私はヴィルマに我が学院付属図書館で司書をする権利を与えようと思う。
――これなら、平民でも我が王立魔導学院付属図書館で働く大義名分が生まれると、そうは思わんか?」
ディララさんが、緊張した面持ちで前に出て声を上げる。
「恐れながら殿下、あまりにも非現実的すぎます。
写本できる訳がないではないですか」
殿下がディララさんに振り向き、笑顔で応える。
「ヴィルマが『原本があればなんでも写本できる』と豪語したのだ。
我が前でそのような大言壮語をした以上、きちんと責任を取ってもらわねばならぬ。
できもしないことを言いきったのだとしたら、少し己の実力を過信しすぎたと反省してもらわねばな」
「殿下! ヴィルマはまだ十六歳、未熟な司書です!
己の実力を見誤ることもありましょう!
魔導三大奇書のような物が、この国にあるのも想像していませんでした!
そこはお目こぼしを頂けませんか!」
殿下がふっと笑みを浮かべた。
「できんな。我が王家の施設で働く職員には、誠実であってもらわねばならん。
それが平民だとするなら尚のことだ。
身分で保証されない分、言動で己の価値を示してもらわねば、示しが付かんだろう」
私はふと気になって、殿下に尋ねる。
「もし写本に失敗したら、私は解雇ですか?」
殿下が片手を顎に当て、少し考えこんだ。
「そうだな……不誠実なものを雇用するのは、信用問題につながる。
だが若いヴィルマにとって過酷な試練だというのも考慮しよう。
そこで折衷案だ、ヴィルマよ。お前は写本に失敗したら、我が公妾となるが良い」
大きなどよめきが、大ホールに広がっていった。
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