司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ

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第4章:異界文書

40.

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 お昼になり、フランツさんと食堂に移動した私は小さなテーブルに二人で着席して肉料理を食べていた。

「いやー、生徒たちがほとんど居ない食堂って寂しいですねぇ」

 学生寮の生徒たちは居るけれど、その人数は限られている。

 普段の賑わいを知ってると、やっぱり寂しさが漂う。

「その分、ゆっくりと席を選べて、伸び伸びと食べられるじゃないか」

「まぁそうですけど――ところでフランツさんは、どこまで蔵書を把握できたんですか?」

 わずかに怯んだ様子のフランツさんが、言いづらそうに応える。

「あーそれは……『まだ把握できた』と言えるほど覚えちゃいないさ。
 だけどファビアンやシルビアの補助くらいなら、もうできるようになったはずだ」

 なんだか、フランツさんの動きが硬い。緊張してるのかな。

「フランツさん、まだ女性慣れしてないんですか?」

「どういう意味だ?! 私は別に、女性が苦手な訳じゃないぞ?!」

 私はフランツさんを指差しながら告げる。

「だって、今もこうして緊張してるじゃないですか。
 シルビアさんやサブリナさんが居るのに、なんで女性に不慣れなんですか」

 がっくりと肩を落としたフランツさんが、小さな声で応える。

「だから、私は別に女性が苦手なわけでも、不慣れでもないんだ。
 これでも貴族の息子で、十三歳の頃から社交界に出て、それなりに経験を積んでる」

 私は小首を傾げてフランツさんを見つめた。

「じゃあ、なんで今はそんなに緊張してるんですか?」

「それは……その、――と、一緒だから」

「え? なんですか? 小さい声でもごもご言われても、聞き取れませんよ?」

 フランツさんが真っ赤になりながら声を上げる。

「だから! 今はヴィルマと二人きりだから、それでだよ!」

 私はぱちくりと目をしばたかせて、フランツさんを見つめた。

「私と、二人きりだから?」

「……ああ」

「フランツさん、おいくつでしたっけ?」

「……二十三」

「七歳も年下の女子と二人きりで、緊張してるんですか?
 それってやっぱり、女性慣れしてないって言うのでは?」

 というか、七歳年下とか妹みたいなものじゃないのかな? なんで緊張するんだろう?

「まぁいいじゃないか! 料理が冷める前に食べてしまおう!」

「はぁ、そうですねぇ」

 しばらく私たちは、無言で食事を食べ進めた。

 だけど私が見つめ続けているからか、やっぱりフランツさんは挙動不審だ。

「ねぇフランツさん。年下の平民の女子を相手にそんなに緊張して、貴族が務まるんですか?」

「ぐっ、それを言わないで欲しい。頼む」

 ああ、自覚はあるのか。

 どことなく頼りないフランツさんは、もう少ししっかりした方がいいと思うけど。


 黙々とお昼を食べ終わった私たちは、お茶を一服してから席を立つ。

「それじゃあ、図書館にもどりましょうか」


 私たちは二人並んで、のんびりと図書館へ向けて歩き出した。




****

 ヴィルヘルミーナの祖父――ラーズが椅子に座り、ぽつりと呟く。

「俺の祖父はエテルナ王国から逃げてきた、とは聞いた。
 なぜだとか、自分が誰だとか、そういう話は聞いちゃいねぇ。
 ただ『グリュンフェルトに見つかるな』と厳しく言われてはいた」

 ヴォルフガングが微笑みながら頷いた。

「つまり、ご自分の出自は今まで知らなかったと、そういうことかな?」

「そうだな。だから王族なんて言われて驚いてるよ。
 ――だが、俺は親父から魔導の手ほどきを受けて育った。
 魔術の知識はないが、魔力を操る技術を色々とな。
 親父も祖父から教えを受けたそうだから、祖父が魔導士だったのは間違いねぇだろう」

 ヴォルフガングが「ふむ」と頷いた。

「なるほど。ヴィルマの魔導センスが高いのは、やはりあなた譲りだったようだね。
 正式な魔術を習得せずに、それだけのことができるのは恐れ入る」

 「へっ」とラーズが笑った。

「まぁそうだな。俺もそれなりに自信があったが、ヴィルマは俺よりさらにセンスが頭抜けてやがる。
 ヴィルマの父親はそれほどでもなかったから、やっぱり俺の影響が強いんだろう。
 魔力は俺より、ヴィルマの父親の方が強いんだがな」

「そのことでひとつ、疑問がある。
 十二歳で行われる魔力測定、あなたたちはどうやって潜り抜けていたのか」

 ラーズがニヤリと微笑んで応える。

「そんなことか? あれはちょっとコツが必要だが、計測器を誤魔化す技がある。
 それを使えば三等級未満に思わせることも可能なのさ。
 ――尤も、ヴィルマはそのコツを覚えることはなかったんだがな。
 十歳で両親を失ったあいつは、三年間塞ぎ込んじまった。
 そんな状態のあいつに、魔力制御を教えるのは無理だったからな」

「では、ヴィルマが公式記録で五等級、というのは偶然ということかな。
 彼女の魔力は飛び抜けている。おそらく我が王国で現在、彼女より強い魔力を持つ者は居ないだろう。
 ――あなたはどうかな。あなたもヴィルマのように高い魔力を持つのかな?」

 ラーズが手を横に振りながら応える。

「そんなわきゃねぇ。ヴィルマの魔力は俺の祖父譲りだ。俺の祖父も、ヴィルマと同じくらい強い魔力を持っていた。
 俺はそれほど高い魔力は持ってねぇし、ヴィルマの父親も俺より強いが、ヴィルマほどは高くなかったさ」

 ヴォルフガングが「ふむ」、と両手を組んでテーブルに両肘を乗せて尋ねる。

「では、記憶力はどうなのかな? ヴィルマは本ならば、一瞬でも一目見れば覚えられるらしい。
 あなたも、同じ記憶力を持つのかな?」

「あー、俺はその記憶力ってやつを持っちゃいねぇよ。
 ヴィルマの父親は持っていたが、それが司書を目指すきっかけにはなったんじゃねーかな。
 子供の頃から図書館に通うような、そんなガキだったよ」

 ヴォルフガングが頷いた。

「ありがとう。これでだいたいのことは理解ができた。
 ヴィルマの処遇について、何か希望はあるだろうか」

 ラーズがヴォルフガングを睨み付けながら告げる。

「ややっこしいことには決して巻き込むんじゃねーぞ?
 あいつは平民、それで充分だ。
 エテルナ王族の血も、五代を経てだいぶ薄くなってるはずだ。
 ずっと平民と交わってきたからな。外見じゃあもう、見分けがつかなくなってるだろう」

「そういう訳にはいかないさ。
 彼女ほど魔導に優れた人材を放置するのは、難しい選択だ。
 だが彼女が司書を続けたいと願うのを、私たちも見守っていきたいと思う。
 しかし司書を続ける中で、彼女は目覚ましい活躍を続けることになる。
 そうなれば必然的に注目され、その魔導の素質が脚光を浴びる。
 いつかは高位貴族や王族との縁談が舞い込むことにもなりかねない」

 ラーズが「チッ」と舌打ちをした。

「俺の息子は、うまいこと市井しせいで司書業を続けられたんだがな。
 ヴィルマはそこまで生きることに器用じゃねぇからなぁ。
 才能を隠して生きるなんざ、ヴィルマにはできねぇのかもな」

 ヴォルフガングが立ち上がりながら告げる。

「あなたの意向は理解した。ヴィルマもおそらく、目立つ人生は望むまい。
 私の力がどこまで及ぶかはわからないが、可能な限り善処すると約束しよう」

「そうしてくれ。もう一度言うが、ヴィルマを泣かせんじゃねーぞ?
 この約束を破るなら、俺はヴィルマを連れて姿を隠す」

 ヴォルフガングがニヤリと微笑んだ。

「承ろう。だが私たちの目から逃れられると、本気で思っているのかい?」

 ラーズもニヤリと微笑んだ。

「俺が親父から教えられた技はいくらでもある。
 ヴィルマには伝えちゃいねーが、中にはあんたらが知らねー技もあるだろう。
 ガキの頃は『なんでこんなことを知ってるんだ』と思っていたが、魔導王国の王族由来なら納得だ。
 術式が使えなくても、できることはごまんとあるもんさ」


 ヴォルフガングは静かに別れを告げ、その場を立ち去った。

 馬車に乗りこんだヴォルフガングは、御者に学院に向かうように指示を出し、馬車は静かに走り出した。
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