司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ

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第4章:異界文書

45.

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 私は封印庫に入ると、再び『異界文書マギア・エクストラ』に語りかける。

「ただいまー。悪さはしてなかった?」

『へっ、そんなことすればお前が気付くだろうが。
 この俺にまとわりついてるのは、お前の魔法――いや魔術、だったか。
 ほのかにお前の香りがして、多少は気分がよくなるな』

「こらこらこらー! 変態みたいなこと言わないで!
 私の匂いで落ち着くとか、怖いよ?!」

『そんなに変な事か?
 両親の匂いとか、落ち着くだろ。そんな気分だよ』

 ――両親の、匂い。

 お父さんの匂いが好きで、いつも抱き着いていた幼い頃の思い出が胸をよぎった。

 お母さんの匂いに包まれていた幼い日々――そんな記憶も、かすかにある。

「……ねぇマギー。あなたにも両親が居たの?」

『なんだよその”マギー”ってのは』

「だって、『異界文書マギア・エクストラ』じゃ長いんだもん。
 私たちの間でくらい、別の名前があっても良いじゃない?」

『んー、お前がそう呼びたいなら、呼べばいいさ。
 どっちにしろ俺の本当の名前じゃない。どっちで呼ばれようが、大した差なんてないからな』

「それで、マギーには両親の記憶があるの?」

『なんとなく、だけどな。
 お前らが思う両親かはわからないが、それに相当する存在が居た気がする。
 その匂いを思い出すと、懐かしくて胸が熱くなる――そんな存在だ』

「……私の匂いは、同じ気持ちになる、ってこと?」

『そうだなー、なんか懐かしいんだよ。お前の香り。
 この魔力の香りは、昔どこかで嗅いだことがある。
 いつだったかなぁ。思い出せねーなー』

 私の魔力に匂いを、昔嗅いだことがある?

 どういう意味だろう?

「それ、どれくらい前の話?」

『少なくとも、十年や二十年じゃないな。
 もっとずっと昔だ』

「百年とか二百年?」

『んー、なんとなく、もっと昔のような気がするな。
 でも百年くらい前にも、似たような香りを嗅いだ気がする』

「マギーは五百五十五年前に、この世界に現れたの?」

『ん~~~~~~、お前たちの概念で言う年月を、数えてたわけじゃないからなぁ。
 今はイメージでお前から時間の概念が伝わってくるから、それで応えてるけどもな』

 そっか、≪精神感応≫はイメージで意思疎通できちゃう術式だもんなぁ。言葉が通じなくても意思が通じる魔術だ。

 魔導書だったマギーは、年月なんて数えてる訳もないか。

 コツリ、と階段を降りてくる音がして振り返った。

 降りてきたのはヴォルフガングさん――と、アルフレッド殿下?!

「なんで殿下が一緒に来てるんですか?!」

 ヴォルフガングさんがニコリと微笑んで応える。

「物が物だからね。殿下に仮承認をもらっておこうと、そう思ったんだよ。
 正式承認は明日、私が陛下からもらってくるとしよう」

 私は小首を傾げて尋ねる。

「承認って、どういうことですか?」

「君が『異界文書マギア・エクストラ』を持ち出しても構わない――そういう認可だ。
 ヴィルマの司書としての信頼と実績を担保に、『君なら損傷させることはないだろう』という判断の元、君にその本を預けよう。
 なるだけ『異界文書マギア・エクストラ』を持ち歩き、暴走することがないよう努めて欲しい」

 ――二十四時間、魔導書と一緒?!

「ちょっと待ってください! さすがに怖いですよ?!
 汚さない保証とかできませんからね?!
 それに、ここまで老朽化してる魔導書を持ち歩くとか、自殺行為ですよ!」

「だが君が魔導書から離れれば、また大雪による異常気象がこの王都を襲う。
 冬場とは言え、あれでは都市機能がマヒしてしまうからね。
 それにヴィルマの魔導なら、魔導書を保護することも可能じゃないかな?」

 え?! どういう期待?!

「まさか、≪保管≫で対応しろとか、そういう話ですか?!」

「別に≪保管≫に限る必要もないさ。
 ヴィルマが必要だと思う対応をすればいい。
 そもそも君は学院の敷地内から外に出ない。
 ならば大きな問題にもならないだろう」

 私は慌てて声を上げる。

「司書業務をしてる時も、お昼ご飯を食べてる時もずっとですか?!」

「まぁ、それが現実的だろうね。
 どうしても厳しいようなら、そこは『異界文書マギア・エクストラ』と相談しなさい。
 少しの時間なら我慢をしてくれるだろう」

 そんなぁ……責任重大すぎる。

 アルフレッド殿下がニヤリと微笑んで口を開く。

「どうやら今回も、お前の腕前を見せてもらうことになりそうだな。
 衛兵と教職員には通達を出しておく。
 お前が魔導書を持ち歩いても、咎めんようにな」

 殿下がマギーに向かって告げる。

「おい、『異界文書マギア・エクストラ』よ。これで満足か?」

『……』

 私は慌てて声をかける。

「ちょっとマギー! 返事くらいしてあげなさいよ!」

『チッ、しょーがねーなー。わかったよ。
 そいつの傍に居られるなら、俺に文句はないからな』

 なんでここまで懐かれてるの……≪魅了≫のせい?

 なんでこんな術式、思い付きで組み込んじゃったんだ?

 ヴォルフガングさんがクスリと笑った。

「名前まで付けたのかい? まるで愛玩動物だね。
 その調子で、写本が終わるまで仲良くしているといい。
 夕方までには魔導具の構築が終わる。それまで待っていて欲しい」

 身を翻したヴォルフガングさんたちに、私は声をかける。

「あの! マギー、じゃなかった『異界文書マギア・エクストラ』はどうしたらいいんですか?!」

 アルフレッド殿下が私に振り向き、ニヤリと微笑んだ。

「持ち歩けばいいだろう。私が許す。ただし破損はさせるなよ」

「――ええ?! ちょっと?! いきなり任されても心の準備が!」

 殿下は気にする様子もなく階段を上っていく。

 その後を追うように、ヴォルフガングさんもゆっくりと階段を上っていった。

 ……マジかー。『二十四時間、魔導三大奇書と一緒!』のスタート?

 私はため息を一つ付くと、マギーに「ちょっと待ってて」と伝え、ブックバンドを取りに階段を上った。




****

 私は布製のブックバンドでマギーを優しく縛り、背中に背負いながら地下室から上がっていった。

 ――これは、赤ん坊を背負う母親の気分?!

 だって司書の仕事をするのに片手じゃできないし、背中に背負うしかないじゃない……。

 マギーを傷つけないか不安だったけど、傷んでいるように見えて案外丈夫なのか、ブックバンドで紙片がこぼれてくることもなかった。

 背中からマギーが語りかけてくる。

『これいいなぁ! なんだか落ち着くな! この調子でよろしく頼むぜ!』

 ……気が重い。

 ともかく、午後の修復作業を少しでも進めないと!

 私は修復室に足を向けた。


「あははは! 赤ん坊をあやしてる母親みたいじゃない!」

 作業中のサブリナさんに修復作業をしながら事情を説明したら、思いっきり笑われてしまった。

 そりゃあ、ベルトで背中に意思のある存在を背負いながら魔導書の修復作業とか、どこの子持ちのお母さんだって様相だろう。

「サブリナさん、手が止まってますよ?」

「だって! その恰好が面白くて!」

 お腹を抱えて笑っているサブリナさんを横目で睨み付けたあと、ため息をついた。

「ちょっとマギー、だからさー。背中から下ろしてもいいかなぁ?」

『いやだね。俺はこの場所が気に入った。なるだけこうして居てくれよ』

「ちょっと! なんでそんなわがまま言うの?!」

『こうしてると、お前の魔力がよく伝わってくる。
 お前の香りに包まれて、気分よく眠れそうだ』

「またそれなのー?! こうなったら、≪魅了≫の術式を抜こうかなぁ?!」

 サブリナさんが笑いながら私に告げる。

「フフ、いいじゃない。お母さんの気分が味わえて。
 育児が大変だって実感できるでしょ?」

「この年齢で子供を持ちたくありません!」


 結局その日の午後は、作業が予定の半分くらいしか進まずに終わった。
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