司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ

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第6章:司書ですが、何か?

80.

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 王宮に滞在し、私の王族教育がはじまった。

 とはいえ夜会で恥をかかない程度、身体の動かし方や挨拶の仕方に絞った講義だ。

 最初に講師が用意した教本を読破させてもらい、その上で動きを講師に見てもらう。

 最初は戸惑ったけれど、慣れてくれば王族の所作も簡単に思えた。

 午前の講義が終わる間際、講師が私に告げる。

「驚きました。ヴィルヘルミーナ王女には、教えることがほとんどありませんわ」

 そりゃまぁ、教本の内容は丸暗記してるし。

 本で書き切れてない細かい所を直してもらうだけで、あとは体に動きを覚えさせればそれで済む。

 必然的に講義の内容は反復練習が主になり、講師の見ている前でひたすら同じ動きを繰り返した。


 昼食を挟んだ午後の講義も、同様に進めていく。

 教本をあっという間に消化した私は、ひたすら反復練習に明け暮れた。


 そんな二週間があっという間に過ぎ、私の誕生日が訪れた。つまり、夜会当日だ。

 昼食の席で、私はアイリスに告げる。

「どう? アイリス。覚えきれた?」

 アイリスは不安気な表情で応える。

「そんな訳、ないじゃないですか」

 私とは別々に講義を受けていたので、アイリスがどこまで所作を覚えているのか、私にはわからない。

 お爺ちゃんが楽しそうにカカカと笑う。

「心配すんな、アイリスは俺が守ってやる。
 それよりヴィルマ、お前は平気なのか?
 今回お前は主役、アイリスみたいに後ろで隠れることができねぇ。
 問題はないんだな?」

「そこは大丈夫だよ。コツさえつかめば、所作なんて簡単だし」

 お爺ちゃんが頷いて告げる。

「よし、きっちり人生の大勝負、決めて来い!」

「大袈裟な……」

 お見合いと言っても、私には拒否権と選択権がある。

 そこは安心していられるはずだ。


 昼食後、私とアイリスは夜会のための準備に入った。

 アイリスのドレスは間に合わせのもの。前に出なければ、目立つこともないだろう。

 私のドレスは試着したドレスがそのままやってきた。

 試着時のメイクを施してもらい、鏡の前で「よし、可愛い!」と気合を入れる。

 私のエスコートはヴォルフガングさんが名乗り出てくれたらしい。

 アイリスを連れたお爺ちゃん、私を連れたヴォルフガングさんが、夜会会場に入場する。

 ――人が多いな?!

 この広い大ホールは以前も来たけど、今日の来客もやたらと多い。

 そういえば名目は『戦勝を祝う夜会』だったっけ。てことは軍人さんも参加してるのか。


 王様がステージに上がり、声を張り上げる。

「皆の者、グリュンフェルト王国攻略戦ご苦労だった!
 今日はそれを祝う夜会、楽しんでもらいたい!」

 会場から拍手が巻き起こり、それを王様が手で制止する。

「それと重大な発表がある。
 百年前に滅んだエテルナ王国、その王家の生き残りが見つかった。
 ――ラーズ・フォン・エテルナ国王、これに!」

 お爺ちゃんがステージに上がり、王様の横に並んだ。

 普段着じゃなく白いスーツに身を固めたお爺ちゃんは、なんだか別人みたいだ。

 お爺ちゃんがニヤリと微笑んで告げる。

「俺がエテルナの王、ラーズだ。
 今度から魔導教練の講師として、この国に力を貸してやる。
 お前らに魔導の深奥しんおうは到達できないだろうが、初歩の手ほどきぐらいはしてやろう。
 全員がヴォルフガング程度になれるよう、みっちりしごいてやるから覚悟しとけ」

 うわぁ~、見かけだけで、中身はいつものお爺ちゃんだった!

 会場が騒がしくなり、『大丈夫か?』とか『エテルナ?』とかいう声が聞こえてくる。

 王様が再び声を張り上げる。

「ラーズ王は我が盟友として今後扱う。
 エテルナ王国は我が国よりも格上、そのつもりで諸君も対応してもらいたい。
 そしてラーズ王には婚約者と孫娘が居る。その二人も紹介しよう!
 ――アイリス・ノクチルカ殿下、これへ!」

 アイリスがわたわたとステージ上に上がり、よろよろとお爺ちゃんの横に並んだ。

「えーと、アイリス・ノクチルカです。その、よろしく」

 アイリスに続いて、お爺ちゃんが声を張り上げる。

「アイリスは近いうちに俺の妻になる。つまりアイリス・フォン・エテルナ王妃だ。
 お前らはそのつもりでアイリスに接しろ。いいな?」

 小さな拍手がまばらに起こった。

 会場のざわめきは止まらない。アイリスとお爺ちゃんの年齢差に度肝を抜かれてるみたいだ。

 まぁ六十歳を超えたお爺ちゃんが、十六歳のアイリスを『妻だ』って紹介して驚かない訳もないんだけど。

 お爺ちゃんが会場を見渡して告げる。

「お前らは俺のことをよく知らねぇだろう。だからデモンストレーションをしてやる。
 ――来い! 『異界文書マギア・エクストラ』!」

 お爺ちゃんが手を掲げると、その手に一冊の魔導書――『異界文書マギア・エクストラ』が現れた。

 素早くお爺ちゃんがページをめくり、あるページを開いて『異界文書マギア・エクストラ』を床に置き、ページの上に手を置いた。

「――出でよ! 不死鳥!」

 お爺ちゃんの背後に炎が突如巻き起こり、渦巻きながら一つの形を作り上げていく――あれは何?!

 炎は巨大な鳥の形に変わっていき、熱気と共に圧倒的な存在感を放っていた。

 全長五メートルは有ろうかという巨大な鳥が静かにお爺ちゃんの背後に佇んでいる。

 お爺ちゃんが『異界文書マギア・エクストラ』を手に取り、立ち上がる。

「こいつぁ不死鳥、幻獣の一体だ。魔導士なら伝承ぐらいは聞いたことがあるだろう。
 俺の魔導ならこいつ程度の幻獣は自在に呼び出せる」

 ――幻獣の召喚。召喚魔術なんて、ほとんど研究されていない未知の領域だ。

 机上の空論とさえ言われているそれを、お爺ちゃんは苦も無く目の前で見せていた。

 しかも呼び出したのは、架空の存在と言われている幻獣、不死鳥。

 魔導の心得がある人間なら、これがどれだけ馬鹿げた話かわかるはずだ。

 会場が大きくざわつく中、お爺ちゃんがニヤリと微笑んで告げる。

「お前ら凡人は、ここまでの魔導に到達するこたぁできねぇ。
 これを再現できるとしたら、孫娘のヴィルマぐらいだ。
 お前らはそれを肝に銘じて国王の話を聞いてやれ」

 王様が声を張り上げる。

「ラーズ王の孫娘、ヴィルヘルミーナ王女は特等級の中でも規格外の魔力の持ち主!
 そしてラーズ王以上の魔導の素質を持つ女性だ!
 彼女は今日、十七歳の誕生日を迎えた!
 彼女との婚姻を望む者は名乗り出るが良い!
 ヴィルヘルミーナ王女の眼鏡にかなった者は、確たる地位を保証しよう!」

 会場中のざわめきが止まらない。

 ここに居るのはおそらく、魔導の心得を持つ人間が大半。

 目の前に現れた不死鳥という、信じられない現実。

 そしてそれを実現してしまうお爺ちゃんの魔導と、それを超える魔導の素質を持つ私という存在。

 とどめとばかりに王様が地位まで保証した。

 こんなに美味しい獲物は、滅多にないだろう。狙われる獲物わたしにとっては、たまったものではないけれど。

 王様が再び声を張り上げる。

「では夜会を始めよう!」




****

 お爺ちゃんは早々に不死鳥を追い返したらしく、今は炎の痕跡もない。

 アイリスはお爺ちゃんの背中に隠れるようにして気配を殺している。

 私はお爺ちゃんやヴォルフガングさんの傍で、挨拶に来る貴族たちと言葉を交わしていた。

 挨拶に来るのは上位貴族、その同年代の男性たち。多分一番年上で二十代前半だろう。

 伯爵令息、侯爵令息、辺境伯令息も居たかな。

 ほとんど全員が欲望をぎらつかせながら私を見ているのがなんとなくわかってしまう。彼らの話はそこそこに打ち切り、さっさとお帰り願った。

 何人かは静かに私を見定めようとしている様子も見て取れた。彼らは冷静な分、相手をするのも楽だ。

 下位貴族の令息は近づいて来ようともしない。

 最初から相手にされないと決めつけてるのか、会場にすら呼ばれていないのか。

 ……男爵令息なんて、いるわけがないか。

 ふぅ、と隠れてため息をついていると、私の前に新しい人影が現れた。

 ――また相手をしなきゃならないのか。疲れてきたな。

 そう思ってる私に、優しい声がかけられる。

「失礼、お話をよろしいかな? ヴィルヘルミーナ王女」

 聞き覚えのある声に慌てて顔を上げると、そこにはいつもよりめかし込んだフランツさんの姿が在った。
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