司書ですが、何か?

みつまめ つぼみ

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第6章:司書ですが、何か?

81.

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「フランツ……さん」

 目が覚めるような、夏の青空のような青いスーツ。

 シルクのシャツにフォグブルーのベスト、それに深い紺色のネクタイを合わせている。

 腕には銀のブレスレットを付け、白い手袋で上品にまとめていた。

 栗皮色の柔らかい髪の毛は丁寧に撫で付けられ、すっかり貴族令息らしいフォーマルな装いだ。

 いつもと違う装いのフランツさんが、いつものように爽やかに微笑んだ。

「ローレンツ男爵家、フランツと申します。よろしければ一曲、お相手願えますか」

 周囲から嘲笑が湧いた――男爵令息程度が手を出して良い女性ではない。そんな笑いが。

 フランツさんがスッと差し出した手を、私の手が勝手に取った。

「……喜んで、フランツさん」

 周囲が驚く中、私たちはホール中央に移動した。

 楽団の演奏がゆったりとしたワルツに切り替わり、私たちはステップを刻み始める。

「……来てるなんて思わなかった」

「来るつもりもなかったんだが、呼ばれたんだ」

 笑顔でワルツを踊りながら、フランツさんが告げた。

 私はこの二週間で覚えたステップをなんとか刻み、自分の心が落ち着いて行くのを感じた。

 さっきまで相手をしていた貴族令息たちと、明らかに違う。

 ただ傍に居るだけで、心が安らかになっていく。

 彼らとフランツさん、何が違うのだろう。

 ――ふと見ると、フランツさんが私の指にはまる指輪を見つめていた。

「つけてくれてたのか」

「だって、なんとなく心細くて」

 このペアリングを付けていると、まるで傍にフランツさんが居るような、そんな気がした。

 そんな安心感が欲しくて――なんで欲しかったのだろう?

 フランツさんが微笑みながら告げる。

「さっきの様子、遠くから見ていたよ。
 まるで王女様のような所作だったね」

「王女ですよ、一応。
 平民出身の司書ですが、王女には変わりありません」

「でもやっぱり、ヴィルマらしくないな。
 ヴィルマはもっと、元気一杯じゃないと」

「うるさいな! 元気だけが取り柄で悪かったですね!」

「ハハハ! そうそう、それくらいがヴィルマらしい」

 私たちが笑いあいながらくるくるとワルツを踊るのを、周囲の来客たちは驚いた様子で眺めていた。




****

 一曲踊り終わると、フランツさんはお辞儀をして私の前から去ろうとした――そのジャケットの裾を、私の手が捕まえていた。

「……行かないで」

 驚いた様子のフランツさんが、私に告げる。

「だが、お前はまだお見合いが続くだろう?
 この場は男爵令息ごときが居ていい場所じゃない」

「それでも――行かないで」

 私はフランツさんの目を見て呟いていた。

 自分がなんでこんな言葉を発してるのか、自分がわからない。

 それでも、言わずに居られなかった。

「……じゃあ、どうしたらいい?」

「傍に居てよ。図書館みたいに、カウンターに並んでる時みたいにさ。
 ただ静かに隣に居てくれれば、それでいいよ」

 フランツさんがいつもの笑顔で頷いてくれた。

「ああ、わかった。傍に居ればいいんだな」


 それから夜会の間、フランツさんは私の傍にずっといてくれた。

 私は穏やかな心のまま、その夜を過ごしていった。




****

 夜会の翌日、私たちは新居に移っていった。

 魔導学院並の敷地を誇る家に、私たちは圧倒されてしまった。

 王様が言うには『選定候補の中で一番狭い家』だそうだ。どんだけ大きな家を用意しようとしてたんだ?

 大きなお屋敷には使用人や従者も多く雇われた。

 それでも、お爺ちゃんがもらう俸禄で充分賄えるんだとか。どれだけの高給取りなんだろう。


 お爺ちゃんはあのあと、『異界文書マギア・エクストラ』の秘密も少しだけ話してくれた。

 エテルナ王国の国宝『異界文書マギア・エクストラ』は、異界に通じる門になるのだとか。

 中身の事は教えてくれなかったけど、きっとお爺ちゃんは何が書いてあるのかも知っているのだろう。


 新しい家でも、毎朝毎晩、お爺ちゃんとアイリスは仲睦まじく料理をしている。

 お爺ちゃんは夜会の前に、アイリスの両親に挨拶しに行っていたらしい。

 『娘をもらう』とお爺ちゃんは伝えたらしいけど、アイリスの両親はとんでもなく驚いてたそうだ。

 アイリスが本気だとわかると、アイリスの両親も二人を祝福してくれたらしい。

 王族と認められる前に挨拶に行くところが、お爺ちゃんらしいと思う。

 いつかは二人に子供ができるのだろうか――それはまだ、考えないようにしておこう。




 一か月の夏季休暇が終わり、魔導学院の新学期が始まった。

 邸宅から馬車で出勤し、八時に図書館に到着する。

 空調術式を調整し、最後の書架へ向かう。

 とうとう蔵書の全てを読破した私は、感無量で息をついた。

 これでどんな本をリクエストされても、私なら応じることが出来る。


 九時に近づくにつれてみんながやってくる。

 今では早朝蔵書点検も、毎日はやっていない。

 みんなも大まかに所定位置を覚えたので、日々の業務で精度を上げているようだ。

 ディララさんが始業前のミーティングで告げる。

「それじゃあ今日も、しっかりね!」

 みんなの元気な声が応じて、持ち場へ散っていった。




 カウンターの中でフランツさんと並びながら、私は頭の中の本を読む。

 恋愛譚をいくら読んでも、今の私の気持ちを説明してくれない。

 これは恋心なのだろうか? それとも、友情?

 ときめきとかは感じない。

 だけど、傍に居て欲しいとは感じる。

 答えが出なくて、もやもやとしていた。

「――実はさ」

 フランツさんの声に、振り向いて顔を見る。

 穏やかな微笑みを浮かべながら、フランツさんが私に告げる。

「実は、ヴォルフガング様から『養子に来ないか』という話を頂いてるんだ」

 私は小首をかしげて、フランツさんの顔を見つめた。

「それって、どういうこと?」

「私がエーヴェンシュヴァルツ伯爵家の嫡男になる、ということだよ。
 伯爵なら、王女とも付き合える」

「――それ、ほんと?!」

 思わず私の口から声が漏れていた。

 フランツさんがゆっくり頷く。

「小さいけれど領地を持つ、立派な領主だ。
 領主の仕事を勉強し直さないといけないけど、この話を受けようと思う」

「じゃあ、またデートに誘ってくれるの?」

「養子になったら、誘えるはずだよ」

 私はにんまりと微笑んで告げる。

「じゃあ伯爵令息のデートプラン、楽しみにしてるね?」

「え~?! いきなりプレッシャーがエグいなぁ! そこはもうちょっと手心を加えないか?!」

「だーめーでーすー! きっちり王女を楽しませてください!」


 今も私たちの指には魔法銀ミスリルのペアリングが輝いている。

 今はまだ、それだけで充分だ。

 私たちは司書。身分がどうなろうと、それだけは変わらない。

 いつか司書を続けられなくなる日が来ても、私は本を読み続ける。

 そして自分だけの図書館を作って、司書になってやる!




 学院の男子生徒がカウンターにやって来て、私に告げる。

「召喚魔術の論文を書くのに本を探しているんです」

 私は営業スマイルで応える。

「どんな本ですか?」

「えーと――って、あなたはヴィルヘルミーナ王女?! なんでここに?!」

 私はニッコリと微笑んで、男子生徒に告げる。

「司書ですが、何か?」
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感想 21

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みんなの感想(21件)

tnk
2024.11.23 tnk
ネタバレ含む
2024.11.23 みつまめ つぼみ

完結しておりますよ?

解除
わたっコ(アイコンは随時変更📷)
ネタバレ含む
2024.11.22 みつまめ つぼみ

感想、ありがとうございます!

完結まであともう少しです!

解除
柴たれ
2024.11.21 柴たれ

楽しく読ませていただいてます

現実のプラム(すもも)は枝にかたまって実りますが、枝ごとでないと房のように見えないので、読んでてちょっと違和感が😅

2024.11.21 みつまめ つぼみ

枝で持ってるイメージが伝わってなくてごめんなさい!
そして実際の実り方をきちんと把握してないのもばれましたね?
リサーチ不足でしたー!

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