天衣無縫の公爵令嬢・改訂版~月下の瞳~

みつまめ つぼみ

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第4章 魔導学院の来訪者

第25話 異質な青年

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 ケーニヒは休み時間のたびに貴族令嬢たちに囲まれていた。

 今度はリアンも輪に加わって質問を投げかけている。

 ステファンがぽつりと告げる。

「なんのつもりなんだ、あいつは」

「わかんない……」

 ベルンハルトが近づいてきて私にたずねる。

「知り合いみたいだが、メルフィナはヴィシュタット帝国と縁があるのか?」

「あはは……いや、ないんだけど、知り合いなんだよ」

 苦しい言い訳である。

「そうか、婚約直後なんだから気を付けた方がいいぞ」

「……はい」

 私はしゅんとしながら答えた。

 そうだよね、私がしっかりしないと。

 でも――そっとステファンの横顔を盗み見る。

 婚約、続けられるのかな。まだ自信を取り戻せない。

 私は憂鬱な気分で小さくため息をついた。




****

 お昼になると、リアンが勢いよく私を捕まえた。

「約束ですわよメルフィナ!
 お昼を食べながら、お箸を効かせていただきますわ!」

「あ、はい……わかってますわ、リアン」

 私はリアンやその友人たちに囲まれ、食堂へと向かった。

 ケーニヒは――平然と私たちの後を付いてきているようだ。

 距離はあるけど、女子の輪に追従するとか……相変わらずマイペースだな、あいつ。


 食堂のテーブルに着き、辺りを見回した。

 途中からぞろぞろとケーニヒを遠巻きに監視するかのように女子生徒たちが付いてきていた。

 ケーニヒは私たちのテーブルから少し離れたところに座っている。

 そしてその周囲を貴族令嬢たちが距離を確保しながらも取り囲んでいた。

 一定距離をびっしり、女子生徒が陣取っているのだ。

「ケーニヒ、あれだけの視線に晒《さら》されてるのに、よく平然と食事できるなぁ……」

 実に図太い神経をしている。

 『カリナ』と旅をしていた『ゾーン』は町に入る時、フードで顔を隠していた。

 だから、あまりこういうことはなかったんだけど。

 リアンが私に答える。

「あれほどの美貌びぼうですもの。
 目の保養に来られる方も、いらっしゃるみたいですわよ?」

 リアンの視線も例にもれず、ケーニヒに注がれていた。

「でもあいつ、性格悪いよ?」

「あら、でもケーニヒ様とお話ししている時のメルフィナは、とても生き生きしてますわよ?
 仲がよろしいのね」

 リアンはケーニヒを見つめながら食べ物を口に運びつつ、私に話しかけている。

 なんとも器用な……。

「そうかな? 昔からああだったから、よくわかんないや」

「……気づいてらして?
 ケーニヒ様のことを話す時、メルフィナは素が出てますわよ?」

「…………コホン、気を付けますわ」

 いけない、全く気付いてなかった。

 前世、村娘の『カリナ』が表に出てきちゃうのかな。

 本当に気を付けないと。

「そ・れ・で!」

 急にリアンがぐりんと振り返ってこちらを見た。

「どちらですの?! どちらを選ばれるんですの?!」

「えーと……リアン? 私、ステファンの婚約者でしてよ?」

「でも、ケーニヒ様からの指輪をめてらっしゃるわよね?」

「これはお守りですのよ? 私を守ってくださるものですの」

 今の私に、なくてはならない物だ。

 リアンが感激したように声を上げる。

「まぁ! ケーニヒ様からお守りの指輪を頂いていたんですの?!
 それで嬉しそうに撫でまわしていらしたのね?!」

 やっべ、机の下に隠して撫でてたの、しっかり見られてた。


 その後も、私は必死にリアンたちの追跡をかわす努力を続けていた。

「――メルフィナ、食べ終わったなら少しいいか」

 背後から聞こえるケーニヒの声を、耳を塞いで聞こえない振りをした。

「おいメルフィナ……そんなことをしていると、『夜の話』に応えてやらんぞ」
「ごめん! 付き合うからそれだけは許して!」

 音速マッハで振り返り、食い気味にすがり付いた。

 今の私には、『あれ』が必要なのだ。

 リアンが大きな声で私にたずねる。

「夜の会話って、どういうことですの?!」

 何か叫んでるけど、聞こえない振りをした。

 そのままケーニヒの背中を押して、足早に食堂をあとにした。




****

 食堂から離れて歩いていても、ケーニヒは視線を集めていた。

 こいつ、異様に存在感があるんだよな……。

「それで、用事ってなに?」

「なに、あそこにいたらお前が辛そうだったからな。
 お前を連れ出したかっただけだ」

 ありがたい、ありがたいんだけど、その代償としてリアンの猛追撃が約束されてしまった。

 そんなことをこいつに言っても、わかんないだろうなぁ……。

 ため息をついて、ケーニヒにたずねる。

「お昼休みはあまり時間が残ってないけど、どこか行きたいところはある?」

 ケーニヒは少し考えたみたいだ。

「……特にないな。お前以外に興味がない。
 教室に戻ればいいだろう?」

 他に行くところも時間もない、か。

 しょうがない。

 私たちはまっすぐ、自分たちの教室に戻っていった。




****

 自分の席でお昼休みが終わるのを待つ。

 昼食を終えた生徒たちが、ちらほら帰ってきていた。

 ステファンは――まだ、か。

 ふと机に圧迫感を感じて目の前を見ると、そこにはケーニヒの腰があった。

 私はケーニヒの腰を見つめながら告げる。

「ケーニヒ? そこ、私の机なんだけど?」

「そうだな、知っている」

「机は腰を下ろすところじゃないんだよ?」

「腰を下ろせる場所ではあるだろう。問題ない」

「……そこに腰を下ろして、君は何をしたいんだい?」

「お前の顔を近くでながめているだけだ。
 お前は気にせず、好きに過ごして居ろ。
 ――それとも、何か話したいことがあるのか? 聞いてやる」

 私は頭痛を覚えて額に手を当てた。

「……君さ、もう少し目立たないように行動することって、できないの?」

「する必要を感じないな。なぜだ?」

 私は立ち上がってケーニヒに告げる。

「周りがやかましくて落ち着かないんだよ!
 気が休まらないの!」

「だが、お前は元気そうだぞ?
 昨日と比べても雲泥の差だ。
 すっかりいつものお前に戻ったな」

 はたと気が付いた。

 そう言われれば、完全にいつもの私だ。

 驚いている私に、ケーニヒが告げる。

「なんだ、自覚がなかったのか?
 まぁいい。お前がお前らしいなら、それでいい」

「う゛ー、なんでだろう。すっごい負けた気分」

「俺は負かしたつもりはない。気にするな」


 私たちの静かなやり取りは、お昼休みが終わるまで続けられた。




****

 どうやらケーニヒは、とても厄介なことを学習してしまったらしい。

 彼が私の席に近づくと、ご令嬢方が近づいてこないのだ。

 彼女たちにとって、私とケーニヒの仲は絶好の観察対象らしい。

 黙って遠巻きに、興味津々の視線を向けてくる。

 授業が終わるたびに、ケーニヒは私の机に腰かけていた

「……さすがのケーニヒも、ご令嬢方に囲まれるのは鬱陶うっとうしかったのかな?」

「ああも囲まれては、お前の顔が見えないからな」

 そっちかーい!

 ステファンが席から立ち上がり、私の席のそばまで来た。

「ケーニヒ、ちょっといいか」

 彼はケーニヒをにらみつけながら告げる。

「メルフィナは俺の婚約者だ。そうみだりに近づくな」

 ケーニヒは飄々ひょうひょうと答える。

「そうか、知っている。それがどうした?
 嫉妬するくらいなら、貴様もそばに居ればいいだろうに」

 ステファンは悔しそうに歯を噛み締めていた。

 私はおずおずとたずねる。

「あのー。二人とも?
 どうして私の席でにらみあうのかな?」

 ケーニヒが私の頭にポンと手を乗せた。

「お前は気にするな。このポンコツ王子がお子様なだけだ」

 ステファンが顔に怒りをにじませて叫ぶ。

「誰がポンコツだ!」

 ケーニヒの胸倉を掴もうとしたステファンの手は、今回も防御結界で弾かれていた。

「……ここはメルフィナの席だ。
 そんな場所で暴力はやめてもらおう。
 メルフィナに迷惑だ」

 私は思わず抗議の声を上げる。

「それが分かってるなら、私の席から降りてくれないかな?!」

「そんなことをしたら、取り囲まれてお前の顔が見れないだろう? それはお断りだ」

「じゃあせめて、ステファンとケンカするのはやめて?!」

 ケーニヒが鼻を鳴らして答える。

「俺は相手をするつもりはない。
 ステファンが勝手に突っかかってきているだけだろう。
 俺の忠告が届いたと思ったのだが、どうやら勘違いだったようだ」

 それを聞いたステファンは、音が鳴るほど葉を噛み締めたあと、自分の席へ戻っていった。

 私は席を立ってステファンに駆け寄る。

「ステファン、ごめん! ケーニヒが騒ぎを起こして。
 なんとかしてしつけるから、それまで待ってて!」

「……いや、メルフィナが謝らないでくれ。頼む」

 ステファンはなんだか、悔しそうな顔で目を伏せてしまった。

「ねぇステファン。放課後、貴賓室きひんしつに行こう。そこで話そう?」

 彼はそれを聞いて、顔を上げてくれた。

「来て……くれるのか」

「うん。今なら行ける気がするから」

「……わかった」

 ステファンはまた目を伏せてしまった。

 私はステファンの顔を見ながら、自分の席へ戻っていく。

 ケーニヒが私に告げる。

「お前が気にすることじゃない。
 あの男が、自分で解決しなければならないことだ」

 私は席に着いてから、思いっきり目の前のお腹にパンチした。

「君がステファンの心を乱してるんだろおおおおお!!!」


 私の叫びは、教室に響き渡っていた。
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