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第4章 魔導学院の来訪者
第27話 見守り隊
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その後も私とケーニヒは、『カリナ』と『ゾーン』の記憶にある勇者パーティの昔語りを続けていった。
八十万の魔王軍精鋭部隊を相手にした魔王城攻略、その後の幹部や魔王との闘い。
およそ半年間に及ぶ激戦の思い出を、かいつまんで話していった。
ステファンもベルンハルトも、青い顔をして話を聞いていた。
話が終わって紅茶を飲み干した私に、ステファンが震える声で告げる。
「……叙事詩そのままの世界なんだな」
「ま、そんな感じだね。なんせ古き神々が地上に力を貸せた時代だし。
今はもう、神の力がほとんど感じられない。
神様が居なくなってるのかもね」
「俺は、魔王軍精鋭八十万を退けた防御結界で守られてたのか……」
「あはは、今は神様の力がほとんど感じられないから、昔ほどの力はないけどね?」
ベルンハルトが震える声で告げる。
「すまんが……それは人間の戦いだったのか?」
私は眉をひそめて答える。
「神々に選ばれ祝福された勇者や聖女と、魔王の息子が魔王軍精鋭を相手に縦横無尽に駆け巡る戦いだよ?
付近の地形は変わるのが当たり前、そんな世界だからね?
普通の人間なんて、荒れ狂う波間に漂う木の葉みたいに蹂躙されちゃうよ?」
なんせ大陸中央の山脈部から山という山が丸ごと消えるような戦いだったし。
魔王たちも遠距離魔導術式で攻撃仕掛けてくるから気が抜けないし、ほんと大変だった。
ベルンハルトが眉をひそめて尋ねてくる。
「なんでそんな凄腕魔導士が、叙事詩で脇役なんだ?」
私は顎に指をあてて天井を見上げた。
「んー、最初に叙事詩を編纂したのが『聖女コルネリア』だったんじゃないかな。
『コルネリア』にとって、『私』は本当に殺しちゃうほど憎い恋敵だったわけだし。
『私』は殺された後のことを知らないから、詳しくは分からないけど」
ケーニヒが鼻を鳴らして告げる。
「『コルネリア』はメルフィナを引き立て役に、『俺』の存在をなかったことにした。
その分の手柄は自分と『ハインツ』に分散していたようだがな。
それを写本していった後の世の叙事詩は、お前たちが知っての通りだ」
ステファンが眉をひそめて告げる。
「聖女が魔導士を……殺した? その凄腕魔導士をか?」
私はため息をついて答える。
「魔王も強かったし、長い戦いだったもん。倒した時にはもう、魔法なんて使えないくらい疲れ切ってたんだ。
でもみんな、帰り道でお祝いしたい気分になったから宴会を始めたんだよ。
――で、崖の上で酔い醒まししてたら『コルネリア』に突き落とされちゃった」
ケーニヒがニヤリと微笑んだ。
「実に間抜けな話だな。メルフィナのドジは昔から変わらんということだ」
ステファンが私に尋ねる。
「確か、聖女の生まれ変わりは……」
「そう、サラ様だね。
夜会でサラ様が私に襲い掛かってきたときの顔が、あの時の『コルネリア』そっくりでさ。
いやほんと、女の嫉妬には近寄りたくないよね……」
ケーニヒが高らかに笑った。
「前世と今世で、同じ女に嫉妬で殺意を抱かれるなどお前くらいだろう。
よほどお前たちは相性が悪いんだな」
私はため息をついて答える。
「しかも前回も今回も、同じ男性を取り合ってるんだよ?
『どんだけ?』って感じだよー」
その日の貴賓室は、ずっと昔話に花が咲いていた。
****
次の日も学院は大変騒々しかった。
放課後になると、私はリアンに引きずられるようにお茶会に連行されていった。
私はテーブルを見回して告げる。
「――それで、なぜ『このメンバー』なのですか?」
「むしろ、これ以外のメンバーがあり得まして?」
リアンといつものご友人たちに私、ステファンそして――ケーニヒである。
周囲のテーブルにもぎっしり貴族令嬢たちが陣取っている。
私以外の女子の視線の先にあるのは、もちろんケーニヒだ。
リアンが恍惚としながら呟く。
「やはり近くで見ても、眼福ですわね……」
リアンとそのご友人たちは、ただ静かに目に焼き付けているようだった。
周囲の貴族令嬢たちも同様で、一種異様な空気を醸し出していた。
「リアン……この周囲のご令嬢たちは?」
「ああ、これは『ケーニヒ様見守り隊』の仲間たちですわ。
今日はケーニヒ様がお茶会にいらっしゃるはず、ということで招集をかけましたのよ?
私たちだけが抜け駆けするわけにもいきませんもの」
なんだそれは……。
思わず脱力してしまった。
でも声も立てずに静かに見守るだけなら、まぁ許容範囲かもしれない。
私はジロリ、と隣で紅茶を飲むケーニヒを睨んだ。
「ケーニヒ、どうして貴方がここにいらっしゃるのかしら?」
「見えていなかったのか? お前に付いてきただろう。見たままだ」
何も理解してないな?!
「……なぜ、私に付いてきたのかしら――そう尋ねているのですわ」
ケーニヒが鼻を鳴らして答える。
「メルフィナ、性に合わない言葉遣いはよせ。お前らしくない」
「私だって使いたくて使ってるんじゃないの!
貴族令嬢の嗜みとして覚えたんだよ!」
ケーニヒが不敵に微笑んだ。
「口調が戻ったな――そうだ、それがお前だ。もっと気楽に生きろ」
リアンのご友人が告げる。
「メルフィナ様、落ち着いてくださいませ」
ハッとして口元を押さえる。
危ない、ケーニヒのペースに飲まれるところだった……。
軽く咳払いをして告げる。
「ケーニヒ? 貴方も貴族なら分かっておいででしょう?
その場に応じて守る作法というものがあるのです」
「いや? 俺は帝国に居る時からこのままだが?」
「自由人かああああああああああああああ!!」
私の怒りの手刀がケーニヒの眉間にヒットした。
「男子だからってズルいぞ?!
女子がどんだけ血の滲む努力をしてると思ってるんだ!」
「いや、俺以外の兄弟はきちんとしているようだが?
親父もそうだな。
一族で好きに生きてるのは、俺くらいだろう」
「君は第一皇子だろおおおおお?!
そんなんで帝国は大丈夫なの?!」
ケーニヒがフッと笑った。
「なに、既に諦められている。
皇位は弟たちの誰かが継ぐだろう」
「君はどうするのさ?!」
「放っておけば、適当な辺境の領地を与えられるんじゃないか?」
「それでいいわけ?!」
「別に構わんが? 言っただろう?
俺はお前にしか興味がないし、『お前だけの味方』だ。
帝国がどうなろうと、知ったことじゃない」
ほんっとに自由人だなぁ?!
「……ちなみに今、君はどのくらいの強さが残ってるんだい?」
前世である魔王の息子、その魔導の知識はあるはずだけど、魔力はどれくらいだろう?
ケーニヒが眉をひそめて小さく息をついた。
「昔の強さを測ったことがないからなぁ。
まぁ、昔に比べれば塵芥みたいなものさ」
まぁそっかー。私だって『カリナ』と比べたら、信じられないくらい弱くなってるしなー。
ん? ステファンが手招きしてる?
顔を近づけると、彼がそっと耳打ちをしてきた。
「ケーニヒには『帝国の災厄』という異名がある。
真偽は不明だが、一人で一軍に匹敵する魔導士として、一部で噂されてるんだ」
私はステファンに耳打ちを返す。
「……一軍って、どれくらい?」
ステファンが耳打ちを返してくる。
「帝国基準だと、一万人じゃないかな」
「――一個師団並みの戦力?!」
私は思わず驚いて立ち上がってしまった。
ケーニヒが飲んでいた紅茶を置いて私を見た。
「ん? 俺のことか? 俺の戦力なら、それぐらいらしいな」
「そんな化け物戦力、帝国がみすみす地方に封じるわけないでしょー?!」
一人で一万人に匹敵とか、軍事バランスめちゃくちゃだよ?!
「そうか? 俺は『好きにしていい』と言われているぞ?」
「それは『好きにさせるしかない』っていうんだよ!
誰だって一個師団のお守りなんてやりたくないよ!」
「そう言われてみれば、侍従のルーウェンはいつも青い顔をして胃薬を飲んでいたな。
他の従者は長くても一年で辞めていく中、あいつだけは幼い頃からの付き合いだ。
噂では親父直々に、辞めたがっているルーウェンを慰留しているとも聞く」
私はそのルーウェンさんの胃が持ちこたえられるよう、知識の神に祈りをささげた。
八十万の魔王軍精鋭部隊を相手にした魔王城攻略、その後の幹部や魔王との闘い。
およそ半年間に及ぶ激戦の思い出を、かいつまんで話していった。
ステファンもベルンハルトも、青い顔をして話を聞いていた。
話が終わって紅茶を飲み干した私に、ステファンが震える声で告げる。
「……叙事詩そのままの世界なんだな」
「ま、そんな感じだね。なんせ古き神々が地上に力を貸せた時代だし。
今はもう、神の力がほとんど感じられない。
神様が居なくなってるのかもね」
「俺は、魔王軍精鋭八十万を退けた防御結界で守られてたのか……」
「あはは、今は神様の力がほとんど感じられないから、昔ほどの力はないけどね?」
ベルンハルトが震える声で告げる。
「すまんが……それは人間の戦いだったのか?」
私は眉をひそめて答える。
「神々に選ばれ祝福された勇者や聖女と、魔王の息子が魔王軍精鋭を相手に縦横無尽に駆け巡る戦いだよ?
付近の地形は変わるのが当たり前、そんな世界だからね?
普通の人間なんて、荒れ狂う波間に漂う木の葉みたいに蹂躙されちゃうよ?」
なんせ大陸中央の山脈部から山という山が丸ごと消えるような戦いだったし。
魔王たちも遠距離魔導術式で攻撃仕掛けてくるから気が抜けないし、ほんと大変だった。
ベルンハルトが眉をひそめて尋ねてくる。
「なんでそんな凄腕魔導士が、叙事詩で脇役なんだ?」
私は顎に指をあてて天井を見上げた。
「んー、最初に叙事詩を編纂したのが『聖女コルネリア』だったんじゃないかな。
『コルネリア』にとって、『私』は本当に殺しちゃうほど憎い恋敵だったわけだし。
『私』は殺された後のことを知らないから、詳しくは分からないけど」
ケーニヒが鼻を鳴らして告げる。
「『コルネリア』はメルフィナを引き立て役に、『俺』の存在をなかったことにした。
その分の手柄は自分と『ハインツ』に分散していたようだがな。
それを写本していった後の世の叙事詩は、お前たちが知っての通りだ」
ステファンが眉をひそめて告げる。
「聖女が魔導士を……殺した? その凄腕魔導士をか?」
私はため息をついて答える。
「魔王も強かったし、長い戦いだったもん。倒した時にはもう、魔法なんて使えないくらい疲れ切ってたんだ。
でもみんな、帰り道でお祝いしたい気分になったから宴会を始めたんだよ。
――で、崖の上で酔い醒まししてたら『コルネリア』に突き落とされちゃった」
ケーニヒがニヤリと微笑んだ。
「実に間抜けな話だな。メルフィナのドジは昔から変わらんということだ」
ステファンが私に尋ねる。
「確か、聖女の生まれ変わりは……」
「そう、サラ様だね。
夜会でサラ様が私に襲い掛かってきたときの顔が、あの時の『コルネリア』そっくりでさ。
いやほんと、女の嫉妬には近寄りたくないよね……」
ケーニヒが高らかに笑った。
「前世と今世で、同じ女に嫉妬で殺意を抱かれるなどお前くらいだろう。
よほどお前たちは相性が悪いんだな」
私はため息をついて答える。
「しかも前回も今回も、同じ男性を取り合ってるんだよ?
『どんだけ?』って感じだよー」
その日の貴賓室は、ずっと昔話に花が咲いていた。
****
次の日も学院は大変騒々しかった。
放課後になると、私はリアンに引きずられるようにお茶会に連行されていった。
私はテーブルを見回して告げる。
「――それで、なぜ『このメンバー』なのですか?」
「むしろ、これ以外のメンバーがあり得まして?」
リアンといつものご友人たちに私、ステファンそして――ケーニヒである。
周囲のテーブルにもぎっしり貴族令嬢たちが陣取っている。
私以外の女子の視線の先にあるのは、もちろんケーニヒだ。
リアンが恍惚としながら呟く。
「やはり近くで見ても、眼福ですわね……」
リアンとそのご友人たちは、ただ静かに目に焼き付けているようだった。
周囲の貴族令嬢たちも同様で、一種異様な空気を醸し出していた。
「リアン……この周囲のご令嬢たちは?」
「ああ、これは『ケーニヒ様見守り隊』の仲間たちですわ。
今日はケーニヒ様がお茶会にいらっしゃるはず、ということで招集をかけましたのよ?
私たちだけが抜け駆けするわけにもいきませんもの」
なんだそれは……。
思わず脱力してしまった。
でも声も立てずに静かに見守るだけなら、まぁ許容範囲かもしれない。
私はジロリ、と隣で紅茶を飲むケーニヒを睨んだ。
「ケーニヒ、どうして貴方がここにいらっしゃるのかしら?」
「見えていなかったのか? お前に付いてきただろう。見たままだ」
何も理解してないな?!
「……なぜ、私に付いてきたのかしら――そう尋ねているのですわ」
ケーニヒが鼻を鳴らして答える。
「メルフィナ、性に合わない言葉遣いはよせ。お前らしくない」
「私だって使いたくて使ってるんじゃないの!
貴族令嬢の嗜みとして覚えたんだよ!」
ケーニヒが不敵に微笑んだ。
「口調が戻ったな――そうだ、それがお前だ。もっと気楽に生きろ」
リアンのご友人が告げる。
「メルフィナ様、落ち着いてくださいませ」
ハッとして口元を押さえる。
危ない、ケーニヒのペースに飲まれるところだった……。
軽く咳払いをして告げる。
「ケーニヒ? 貴方も貴族なら分かっておいででしょう?
その場に応じて守る作法というものがあるのです」
「いや? 俺は帝国に居る時からこのままだが?」
「自由人かああああああああああああああ!!」
私の怒りの手刀がケーニヒの眉間にヒットした。
「男子だからってズルいぞ?!
女子がどんだけ血の滲む努力をしてると思ってるんだ!」
「いや、俺以外の兄弟はきちんとしているようだが?
親父もそうだな。
一族で好きに生きてるのは、俺くらいだろう」
「君は第一皇子だろおおおおお?!
そんなんで帝国は大丈夫なの?!」
ケーニヒがフッと笑った。
「なに、既に諦められている。
皇位は弟たちの誰かが継ぐだろう」
「君はどうするのさ?!」
「放っておけば、適当な辺境の領地を与えられるんじゃないか?」
「それでいいわけ?!」
「別に構わんが? 言っただろう?
俺はお前にしか興味がないし、『お前だけの味方』だ。
帝国がどうなろうと、知ったことじゃない」
ほんっとに自由人だなぁ?!
「……ちなみに今、君はどのくらいの強さが残ってるんだい?」
前世である魔王の息子、その魔導の知識はあるはずだけど、魔力はどれくらいだろう?
ケーニヒが眉をひそめて小さく息をついた。
「昔の強さを測ったことがないからなぁ。
まぁ、昔に比べれば塵芥みたいなものさ」
まぁそっかー。私だって『カリナ』と比べたら、信じられないくらい弱くなってるしなー。
ん? ステファンが手招きしてる?
顔を近づけると、彼がそっと耳打ちをしてきた。
「ケーニヒには『帝国の災厄』という異名がある。
真偽は不明だが、一人で一軍に匹敵する魔導士として、一部で噂されてるんだ」
私はステファンに耳打ちを返す。
「……一軍って、どれくらい?」
ステファンが耳打ちを返してくる。
「帝国基準だと、一万人じゃないかな」
「――一個師団並みの戦力?!」
私は思わず驚いて立ち上がってしまった。
ケーニヒが飲んでいた紅茶を置いて私を見た。
「ん? 俺のことか? 俺の戦力なら、それぐらいらしいな」
「そんな化け物戦力、帝国がみすみす地方に封じるわけないでしょー?!」
一人で一万人に匹敵とか、軍事バランスめちゃくちゃだよ?!
「そうか? 俺は『好きにしていい』と言われているぞ?」
「それは『好きにさせるしかない』っていうんだよ!
誰だって一個師団のお守りなんてやりたくないよ!」
「そう言われてみれば、侍従のルーウェンはいつも青い顔をして胃薬を飲んでいたな。
他の従者は長くても一年で辞めていく中、あいつだけは幼い頃からの付き合いだ。
噂では親父直々に、辞めたがっているルーウェンを慰留しているとも聞く」
私はそのルーウェンさんの胃が持ちこたえられるよう、知識の神に祈りをささげた。
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