新約・精霊眼の少女外伝~蒼玉の愛~

みつまめ つぼみ

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「えええ?! もう一回やるんですかぁ?!」

 オリヴァー殿下がドベの理由?!

 そんなものを直感で言語化できるかなぁ?!

 アミン様相手には思わず言い過ぎちゃったし、あとが怖いんだよなぁ。

 だけど、思う浮かんだ言葉を黙ってる、なんて器用なこともできないし……。

 第一王子に失礼なことを言うことになる気がする。

 けど、第二王子の頼みだし……断れない。

 引き下がって……くれないかなぁ?

 ちらりと様子を見てみるけど、マーセル殿下に引く気はないみたい。


 オリヴァー殿下は、『私の評価が気になるけど、結果が怖い』といった様子。

 マーセル殿下に隠れるようにしてこちらの様子を窺っていた。

 ……女々しい。


 しょうがない、やるか!

 私はため息をついて、再び腕を組んだ。

 直感で手探りしながら、言葉を見つけ出していく。

 そうして言葉の穴埋めが終わり、私の脳内に『理由』が完成した。

 ……これ、口に出しちゃまずい奴では。

 マーセル第二王子に求められている状況ではある。

 だけどこれはあまりにも過激で、不敬と言われてしまう言葉だ。


 私は心を決めて、腕組みを解いた。

 顔を上げて、マーセル殿下に告げる。

「ものすごい失礼なことを口にしますが、大丈夫ですか?」

 マーセル殿下が一瞬ためらっていた。

 だけど私に向かってうなずいてみせた。

 私は一度深呼吸をしてから、改めてマーセル殿下の目を見て、言葉を口に乗せる。

「オリヴァー殿下は胡散臭いです。
 不穏な野望を抱いている匂いがします。
 オリヴァー殿下に国を任せるのは、危険だとすら思います」

 私の言葉に、二人の王子が驚愕したのがわかった。

 まぁそうだろう。

 私は『オリヴァー殿下に王位継承者の資格がない』と言ったのに等しい。

 こんなの、臣下が王族に言っていい言葉じゃない。

 子供の冗談で済む内容じゃないんだから。

 緊張で足が震える。だけど、もう言葉は口に出してしまった。

 気が遠くなるほど長い数秒が過ぎると、マーセル殿下がフッと笑った。

「……俺は兄上を信じている。
 今言えるのは、それだけだ」

 そうか、マーセル殿下も気づいてたのか。

 わかっていて、その言葉を口にしたんだね。

 私はマーセル殿下の力強い眼差しを見つめながら、レナに告げる。

「ねぇレナ。さっきの点数、訂正しておいて」

「何をどうするの?」

「マーセル殿下を三十五点にして」

 周囲のみんなが騒然となった。

「おい待て、それじゃアラン様に僅差じゃないか!」

「王族パワーかしら……一気に十点もジャンプアップよ?」

「その『王族パワー』ってのはオリヴァー殿下をなぶるからやめて差し上げろ」

 マーセル殿下は、戸惑いながらもどこか嬉しそうだ。


「……俺の、何が心に響いたんだ?」

「さぁ? 直感に聞いてください。
 ――あ、もう直感に理由を聞くのは駄目ですよ。
 私も懲りましたから」

 いくら私でも、あんな危ない言葉、二度と言いたくないわ。

 言葉を求められ、言葉を当てはめてしまえば口にしてしまうだろう。

 それがどんな結果になるかは、自分でもわからないのだから。

 それなら、言葉にしないのが一番だ。




****

 昼食を終え、ようやくお母様の魔術授業が開始された。

 今日はお昼から雨が降り出していた。

 みんなは屋敷の中にある魔術教練場に集合した。

 お母様は、一晩で心を立て直し、すっかり機嫌が元通りだ。

 たぶん、私が死にかけたショックで怒りが吹き飛んでしまったのだろう。

 その代わり心労で、昨日は授業どころじゃなかったんだな。


 お母様が私たちの顔を見回して告げる。

「二か月でできること、となると魔力制御鍛錬だけになるわ。
 親から聞いてるかもしれないけれど、昨日のマリーのように砂時計を使った鍛錬をします」

 お母様の手元には、人数分の砂時計を持っている。

 それをひとりずつ手渡ししていき、行き渡ると鍛錬のルールを説明していった。

 砂時計の砂を一粒掴むこと。

 それをゆっくりと天井に張り付けること。

 一度掴んだ砂は、最後まで離さないこと。

 砂をまとめて固定してはいけないこと。

 砂時計の中の砂をすべて天井に張りつけたら、ワンセットとすること。

 ルールを告げるたびに、みんなから驚きの声が上がる。

「うそ?!」

「そんなことやるのか?!」

「……聞いていた通りなのね」

 お母様の説明が終わる。

「――以上よ。何か質問がある人は居るかしら」

 ヴァルター様が不安気に小さく手を挙げた。

「それは、僕たちにもできることなんですか?」

 お母様は自信満々の笑顔で応える。

「大丈夫よ。クラウにルイズ、エマにリッドにも、これはできたのだから。
 でも最初の砂粒をひとつ掴むのに、おそらく一か月かかるわ。
 まずはそれを目標にしましょう」

 残り一か月で、他のルールを含めた通常の鍛錬を始める。

 おそらく、二か月後にはワンセットできるようになるはずだ、とお母様は言った。

「――他には?」

 親世代ができた、と聞いたことで、みんな安心したのだろうか。

 今度は誰も手を挙げなかった。

 お母様が両手を打ち鳴らした。

「よし! それじゃあ始めましょうか!
 ――マリー、あなたは私が常に見張っているから、私が止めたら休憩しなさい。
 無理をしては駄目よ」

「はい、お母様!」


 そうしてみんなが床に座り込み、砂時計に向かった。

 お母様は歩き回りながら様子を見て、口頭でアドバイスをしてるみたいだ。

 私は昨日と同じように鍛錬を行った。

 やっぱり、どうしても砂粒が途中で砕けちゃう。

 それでも昨日よりは砕ける回数が減ってる気がした。

 比較的早い段階で、天井に一粒を張り付けることができた。

 二粒メモ張り付け、三粒目に挑戦していたところ、お母様が声をかけてくる。

「マリー! そこまでよ! 三十分休憩して!」

 私はふぅ、と小さく息をついて、魔力制御を解除した。

 解き放たれた砂粒が、砂時計の中でポロリと落ちていく。

 時計を見ると、午後四時だ。

 だいたい三時間ぐらいで限界ってことかな。

 今度から、これくらいの疲労度や時間を目安にすればいいんだろうか。

 精神力は、鍛錬次第で大きく伸ばすことができる。

 いつかは測り直す必要があるだろうけど、今はこの基準で行こう。

 これほど精密な制御で三時間なら、普通に魔術を使う分には十分な時間を確保できる。


 他の子たちは、『三十分おきに休憩を十分挟む』」というペース配分が指示されていた。

 レブナント王国では、一般的な指針らしい。

 普通の子の魔力が尽きるのが、だいたいそのくらいなんだろうな。


 私は三十分の休憩を終え、また砂時計に向かう。

 徐々に砂粒を掴むペースが、早くなっていった気がした。


 午後六時になり、お母様が大きく手を鳴らす。

「はい、今日はここまでよ! 続きは明日ね」




****

 臨時女子部屋では、夕食と入浴を終えた女子たちがベッドの上でくつろいでいた。

 サニーは今すぐにでも抱き着いて、押し倒そうと隙を狙ってくる。

 それを私は、距離を取って必死に両手で牽制していた。

 サニーの魔手から逃れる方法を、何か考えておきたいわ……。

「ともかく! 今は夜の会話を楽しみましょう!」

 私が必死にサニーを説得すると、彼女も渋々ベッドに座り込んだ。

 よーし、それじゃあ夜の女子会、始めるかー!
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