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128.夏季休暇の催し物(2)
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ただのわがままで、十二人で北方旅行を発案したの?!
マーセル殿下が、呆然とする私に笑いながら告げる。
「兄上はマリオンに会う時間を、もっと増やしたいのさ。
休日の魔術授業だけじゃ、物足りないのだろう」
オリヴァー殿下が、どこか恥ずかしそうに目をそらした。
……もっと酷いわがままじゃない? それ。
スウェード様が元気に声を上げる。
「俺たち低評価組は、早めに巻き返しを図りたいところだからな!
オリヴァー殿下だってこのままじゃ、マーセル殿下にマリオンを取られちまう。
なるだけポイントを稼いでおきたいところだ」
私は思わずオリヴァー殿下に突っ込む。
「えっ、オリヴァー殿下、野望は捨てられたんですか?
あれがある限り、ドベは変わらないと思いますよ?」
オリヴァー殿下が、苦笑でそれに応える。
「完全に、とはまだ言えない。
だが少しずつ、執着は薄れてきていると思う。
そうなるよう、努めている」
私はオリヴァー殿下の目を真っ直ぐ見つめた――嘘ではない、と思う。
今のままなら、あと一年か二年か。
そう遠くない時期に野望を振りきれる気がする――そう直感した。
「……二十五点ね」
私の一言に、ザフィーア一同が騒然となった。
四か月もの間、五点から動かなかったオリヴァー殿下の評価が動いたからだろう。
一番驚き、かつ喜んでいるのはオリヴァー殿下本人のようだった。
「――そうか」
一言、だけど噛み締めるように口にしていた。
その表情には、喜びの色が溢れていた。
マーセル殿下も、我が事のように喜んでいた。
「マリオンの直感が、兄上の野望が薄れていることを認めたんだな。
……良かった、本当に良かった」
一方で、不満顔なのはスウェード様だ。
「これで俺がドベか。
その旅行とやらで、巻き返せることを祈るしかないな」
肩をすくめ、おどけながら言っていた。
レナが厳しい一言を告げていく。
「スウェード兄様に機会があれば、当然みんなにも機会が与えられるのよ?
むしろ点差は広がるんじゃない?」
スウェード様は、がっくりとうなだれていた。
その様子に一通り笑いあったあと、オリヴァー殿下がまとめる。
「反対する者や、不参加を表明する者は居ないな?
ではこの話は、このまま進めていく」
形の上では『オリヴァー殿下の公務』ということになるらしい。
殿下が陛下たちの代理として、帝国解体後の北方国家を視察するのだ。
私たちは、それに同行する形になる。
「――お前たちは親を説得して来てくれ。
こちらからも、お前たちに参加させるよう要請を出しておく」
私は困惑しながら告げる。
「公務ですか? なんだか急に堅苦しくなりましたね」
私の言葉に、オリヴァー殿下の眉尻が下がった。
「仮にも王族だからな。
享楽で国外に行く、とはさすがに言えん。
視察先では、夜会に招かれることもあるだろう。
相応の準備をしてきてほしい」
旅行に行くにしても、王族は体裁を繕わないといけない、ということらしい。
サイ兄様が告げる。
「視察団なら、護衛も同行することになるのか?
第一王子と第二王子が居るんだ。万が一があったら困るだろう?
あまり旅行って感じには、なりそうもないな」
オリヴァー殿下がうなずいた。
「もちろん、最低限の護衛は付ける。
六年前にペルペテュエル帝国が北方国家群になってから、初の大規模視察だ。
外交上の情勢は安定しているが、実情はどうなっているのか、それはまだわからない」
だけど陛下が許可を出したのだから、表向きの問題はないはずだった。
諜報部も北方国家の監視を続けてるらしい。
不穏な情報を掴んでいたら、許可は下りなかっただろう。
「――公務にしろ享楽にしろ、王族が国外に行くのだ。
ノーガードという訳にはいかないさ」
アラン様がうなずいた。
「それは確かにそうですね。
多少物々しいのは、我慢するしかないでしょう」
殿下に次ぐ立場、ファルケンシュタイン公爵家嫡男である、アラン様も居るんだった。
最低限と言いつつも、相応の護衛は付くのだろう。
オリヴァー殿下が最後にまとめる。
「視察団は一か月後、七月の頭に出発する。
帰国は九月下旬予定だ。
他に質問はあるか?」
オリヴァー殿下の視線に、みんなは沈黙で応えた。
「では、一か月後を楽しみにしておくとしよう!」
****
待望の七月になった。
ザフィーアの親たちは、視察団傘下に快諾した。
つまり十二人が全員参加だ。
各自が家から馬車を連れてきて、必要な荷物や従者を乗せている。
護衛には、魔術騎士団から二十名、王宮騎士団から二十名が付いた。
たとえ有事でも、二人の殿下のいずれかは確実に逃がすことができる最低戦力だ。
ザフィーアのみんなは、三台の馬車に別れた。
私とサニー、レナにララ。
オリヴァー殿下とマーセル殿下、それにアラン様にサイ兄様。
アレックス様やヴァルター様、スウェード様にアミン様。
護衛のしやすさを考え、家格が高い人間が固まる形になった。
私たち一行は今、北方国家群のペテル共和国を目指していた。
街道のある、シュネーヴァイス山脈に向かっている途中だ。
ペテル共和国は、かつて『ペルペテュエル帝国の首都』だった地域だ。
なので、『旧帝都』とも呼ばれる。
巨大な帝都が、そのまま国家として独立した。
現在は議会制政治で運営されているらしい。
馬車の周囲を、騎士の乗る騎馬が付き従ってる――。
「うーん、やっぱり物々しいですねぇ……」
窓の外を覗きながら、本音が思わずポロリとこぼれ出た。
それにユルゲン伯父様が笑って応える。
「ハハハ! 視察団だからねぇ。多少は我慢しないといけないよ」
ユルゲン・フォン・ファルケンシュタイン。
お爺様の次男で、ディーター様の叔父。
そしてお母様の義兄にあたる。
かつては軍部で書記官を務めていたらしいのだけど、引退してしまったとか。
今は諸国を旅してまわっては、時々やって来てお土産話をしてくれる人だ。
老境に入ったユルゲン伯父様は、余生をのんびりと楽しんでるそうだ。
今回は殿下の国外視察に、旅行のエキスパートであるユルゲン伯父様が引率として付いた。
さすがに『子供たちだけを視察に行かせる』という訳にもいかないらしい。
ファルケンシュタイン公爵家本家当主の叔父であれば、引率としても問題がないだろう。
殿下たちの乗る馬車には、ライナー様も乗っている。
ライナー・フォン・ファルケンシュタイン。
ディーター様の兄で、お母様の甥だ。
ライナー様は魔術騎士団の前団長だった人でもある。
短い期間だったけど、優秀な人だったそうだ。
だけどペルペテュエル帝国攻略戦で怪我を負い、若くして現場を引退し、現在のフィル様に団長を引き継いだらしい。
今は軍部で文官として、書記官を務めているそうだ。
本視察団でも、彼が書記官を務める。
今回同行する大人は、護衛を除外すればユルゲン伯父様とライナー様だけ。
オリヴァー殿下の言う通り、本当に必要最低限の構成だ。
私たちを乗せた馬車は、北に向かって進んで行った。
マーセル殿下が、呆然とする私に笑いながら告げる。
「兄上はマリオンに会う時間を、もっと増やしたいのさ。
休日の魔術授業だけじゃ、物足りないのだろう」
オリヴァー殿下が、どこか恥ずかしそうに目をそらした。
……もっと酷いわがままじゃない? それ。
スウェード様が元気に声を上げる。
「俺たち低評価組は、早めに巻き返しを図りたいところだからな!
オリヴァー殿下だってこのままじゃ、マーセル殿下にマリオンを取られちまう。
なるだけポイントを稼いでおきたいところだ」
私は思わずオリヴァー殿下に突っ込む。
「えっ、オリヴァー殿下、野望は捨てられたんですか?
あれがある限り、ドベは変わらないと思いますよ?」
オリヴァー殿下が、苦笑でそれに応える。
「完全に、とはまだ言えない。
だが少しずつ、執着は薄れてきていると思う。
そうなるよう、努めている」
私はオリヴァー殿下の目を真っ直ぐ見つめた――嘘ではない、と思う。
今のままなら、あと一年か二年か。
そう遠くない時期に野望を振りきれる気がする――そう直感した。
「……二十五点ね」
私の一言に、ザフィーア一同が騒然となった。
四か月もの間、五点から動かなかったオリヴァー殿下の評価が動いたからだろう。
一番驚き、かつ喜んでいるのはオリヴァー殿下本人のようだった。
「――そうか」
一言、だけど噛み締めるように口にしていた。
その表情には、喜びの色が溢れていた。
マーセル殿下も、我が事のように喜んでいた。
「マリオンの直感が、兄上の野望が薄れていることを認めたんだな。
……良かった、本当に良かった」
一方で、不満顔なのはスウェード様だ。
「これで俺がドベか。
その旅行とやらで、巻き返せることを祈るしかないな」
肩をすくめ、おどけながら言っていた。
レナが厳しい一言を告げていく。
「スウェード兄様に機会があれば、当然みんなにも機会が与えられるのよ?
むしろ点差は広がるんじゃない?」
スウェード様は、がっくりとうなだれていた。
その様子に一通り笑いあったあと、オリヴァー殿下がまとめる。
「反対する者や、不参加を表明する者は居ないな?
ではこの話は、このまま進めていく」
形の上では『オリヴァー殿下の公務』ということになるらしい。
殿下が陛下たちの代理として、帝国解体後の北方国家を視察するのだ。
私たちは、それに同行する形になる。
「――お前たちは親を説得して来てくれ。
こちらからも、お前たちに参加させるよう要請を出しておく」
私は困惑しながら告げる。
「公務ですか? なんだか急に堅苦しくなりましたね」
私の言葉に、オリヴァー殿下の眉尻が下がった。
「仮にも王族だからな。
享楽で国外に行く、とはさすがに言えん。
視察先では、夜会に招かれることもあるだろう。
相応の準備をしてきてほしい」
旅行に行くにしても、王族は体裁を繕わないといけない、ということらしい。
サイ兄様が告げる。
「視察団なら、護衛も同行することになるのか?
第一王子と第二王子が居るんだ。万が一があったら困るだろう?
あまり旅行って感じには、なりそうもないな」
オリヴァー殿下がうなずいた。
「もちろん、最低限の護衛は付ける。
六年前にペルペテュエル帝国が北方国家群になってから、初の大規模視察だ。
外交上の情勢は安定しているが、実情はどうなっているのか、それはまだわからない」
だけど陛下が許可を出したのだから、表向きの問題はないはずだった。
諜報部も北方国家の監視を続けてるらしい。
不穏な情報を掴んでいたら、許可は下りなかっただろう。
「――公務にしろ享楽にしろ、王族が国外に行くのだ。
ノーガードという訳にはいかないさ」
アラン様がうなずいた。
「それは確かにそうですね。
多少物々しいのは、我慢するしかないでしょう」
殿下に次ぐ立場、ファルケンシュタイン公爵家嫡男である、アラン様も居るんだった。
最低限と言いつつも、相応の護衛は付くのだろう。
オリヴァー殿下が最後にまとめる。
「視察団は一か月後、七月の頭に出発する。
帰国は九月下旬予定だ。
他に質問はあるか?」
オリヴァー殿下の視線に、みんなは沈黙で応えた。
「では、一か月後を楽しみにしておくとしよう!」
****
待望の七月になった。
ザフィーアの親たちは、視察団傘下に快諾した。
つまり十二人が全員参加だ。
各自が家から馬車を連れてきて、必要な荷物や従者を乗せている。
護衛には、魔術騎士団から二十名、王宮騎士団から二十名が付いた。
たとえ有事でも、二人の殿下のいずれかは確実に逃がすことができる最低戦力だ。
ザフィーアのみんなは、三台の馬車に別れた。
私とサニー、レナにララ。
オリヴァー殿下とマーセル殿下、それにアラン様にサイ兄様。
アレックス様やヴァルター様、スウェード様にアミン様。
護衛のしやすさを考え、家格が高い人間が固まる形になった。
私たち一行は今、北方国家群のペテル共和国を目指していた。
街道のある、シュネーヴァイス山脈に向かっている途中だ。
ペテル共和国は、かつて『ペルペテュエル帝国の首都』だった地域だ。
なので、『旧帝都』とも呼ばれる。
巨大な帝都が、そのまま国家として独立した。
現在は議会制政治で運営されているらしい。
馬車の周囲を、騎士の乗る騎馬が付き従ってる――。
「うーん、やっぱり物々しいですねぇ……」
窓の外を覗きながら、本音が思わずポロリとこぼれ出た。
それにユルゲン伯父様が笑って応える。
「ハハハ! 視察団だからねぇ。多少は我慢しないといけないよ」
ユルゲン・フォン・ファルケンシュタイン。
お爺様の次男で、ディーター様の叔父。
そしてお母様の義兄にあたる。
かつては軍部で書記官を務めていたらしいのだけど、引退してしまったとか。
今は諸国を旅してまわっては、時々やって来てお土産話をしてくれる人だ。
老境に入ったユルゲン伯父様は、余生をのんびりと楽しんでるそうだ。
今回は殿下の国外視察に、旅行のエキスパートであるユルゲン伯父様が引率として付いた。
さすがに『子供たちだけを視察に行かせる』という訳にもいかないらしい。
ファルケンシュタイン公爵家本家当主の叔父であれば、引率としても問題がないだろう。
殿下たちの乗る馬車には、ライナー様も乗っている。
ライナー・フォン・ファルケンシュタイン。
ディーター様の兄で、お母様の甥だ。
ライナー様は魔術騎士団の前団長だった人でもある。
短い期間だったけど、優秀な人だったそうだ。
だけどペルペテュエル帝国攻略戦で怪我を負い、若くして現場を引退し、現在のフィル様に団長を引き継いだらしい。
今は軍部で文官として、書記官を務めているそうだ。
本視察団でも、彼が書記官を務める。
今回同行する大人は、護衛を除外すればユルゲン伯父様とライナー様だけ。
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