新約・精霊眼の少女外伝~蒼玉の愛~

みつまめ つぼみ

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129.第一次北方国家群視察団(1)

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 レナがユルゲン伯父様に尋ねる。

「王位継承者が国外に行くのに、本当にこの人数で大丈夫なんですか?」

 確かに、殿下たちの身に万が一のことがあれば大変だ。

 オリヴァー殿下の頼みとはいえ、よく国王陛下がうなずいたなぁ。

 ユルゲン伯父様がゆるく笑って応える。

「今のところ、北方国家群は情勢が安定してるからね。
 帝国は小さく分割され、レブナントには向かって無事で済むような国家も存在しない。
 きちんと護衛が付けば、危険はないという判断なんだろう。
 そして『真実その通りなのか』かを見極めるのが、今回の殿下の仕事だ」

 それは『もしかしたら、情勢が安定していない可能性がある』って言ってない?

 なんだか怖いなぁ。

 ユルゲン伯父様が優しく微笑んで告げる。

「だーいじょーぶだって」

 ……ほんとかなぁ?!

 伯父様がそう言うと、大丈夫に聞こえてくるんだけど。

 ララもユルゲン伯父様に尋ねる。

「こんな子供ばかりの視察団で、先方に怒られたりしませんか?」

 ユルゲン伯父様が、まあゆるりと笑って応える。

「第一王位継承者直々だから、一応かっこうは付いてるよ。
 成人前で少し早いが、国格の落差があれば、そう珍しいことでもない。
 格はこちらがはるかに上だからねぇ。
 殿下たちを送り出すことで、『そちらを信頼している』というアピールにもなる」

 王位継承者を送りつけるというのは、『安全を信じている』という意味になるらしい。

 危険視している国に、王位継承者を送り出すことなんて、普通はしないそうだ。

 まだ北方国家群は、成立して間がない。

 現在では大陸一番の勢力を誇るレブナント王国からの信頼を得る。

 それは成立間もない国家からすれば、とても大切な事なんだそうだ。

 特に旧帝都であるペテル共和国は、北方国家群の中心となっている。

 そんな国とパイプを作り上げるのも、大切な王族の仕事なんだって。

 一方で未成年の王位継承者による視察を受け入れるというのは、国家間の格付けを決定する行為らしい。

 レブナント王国よりペテル共和国が格下だと、国際的に認めることになる。

 今回の視察団には、そういった大人たちの様々な思惑が入り混じってるそうだ。

 うーん、なんだか気楽な旅行どころか、がっちり政治的な外交任務じゃないの? これ。

 私は思わず、小さくため息を漏らした。




****

 視察団は順調に旅程を進めた。

 王都を出発してから五日後、シュネーヴァイス山脈を南北に貫く、シュネーヴァイス街道に辿り着いていた。

 ふもとには宿場町が出来上がっていて、今日はそこに一泊してから街道を抜けるらしい。


 みんなで馬車から降りると、アラン様が感激した口ぶりで街道を眺めていた。

「これが、『大叔母上の逸話』にある街道ですかーっ!」

 全長百キロに及ぶ大街道と言われている。その道幅は、二百メートル弱ある。

 アラン様は、目を輝かせて一人で納得していた。

 私はその話、知らないなぁ?

 お母様も、教えてくれなかったし。

「アラン様、その逸話ってどんなものなの?」

「シュネーヴァイス山脈を魔法一発で貫いて作られた道を整備したのが、このシュネーヴァイス街道なんですよ。
 かつての帝国攻略戦で使われたそうです」

 私は街道を改めて眺めたあと、小さくこぼす。

「うっそだぁ……」

 いくらなんでも、人間技を遥かに超えすぎてる。

 たとえ古代魔法が使えると言っても、限度があると思う。

 だって、標高五千メートル級の山脈を、南北に百キロも貫くって……。

 何がどうなってそうなるの?

 ちょっとスケールが大きすぎて、信じることが難しい。

 だけど確かに、目の前には街道が広がっていて……。

 私はもう、それについて考えるのを放棄した。

 アラン様が楽しそうに告げる。

「その時に同行していたレブナント王国軍に、目撃者が大勢いるらしいですからね。
 『エドラウス侯爵の魔法』として、一部で有名だったそうですよ」

 えー……有名って、本当に?

 私はユルゲン伯父様に振り返って尋ねる。

「本当なんですか? その話」

 ユルゲン伯父様は、困ったように笑いながら応える。

「いやぁ、私は現場に居なかったからねぇ。
 でもまことしやかに噂されてる逸話ではあるねぇ」

 うーん、今度お母様に聞いてみるか……。




****

 宿場町の宿をひとつ貸し切った私たち一行は、同じフロアの三部屋に馬車と同じ組で分かれて宿泊することになった。

 ユルゲン伯父様やライナー様も、同じフロアだ。

 他の部屋には、従者や護衛たちが詰めている。

 私たちは食堂に集まり、夕食を取っていった。

 私はユルゲン伯父様に尋ねる。

「王族の一行って、ここまでやるんですか?」

「そうだねぇ。
 他の客を入れると、警備が面倒になるからねぇ。
 貸切ることが多いかな」

 一階にある食堂も貸し切られ、私たち以外に客の姿はない。

 護衛や従者は同時に食事を取らないので、ちょっと寂しい光景だ。

 窓の外を見ると、護衛の騎士が立っているのが見えた。

 ヴァルター様が、苦笑交じりにぼやく。

「やっぱり、旅行って雰囲気にはならないですね」

 『旅行は道中の交流も、醍醐味のひとつだよ』と、ユルゲン伯父様から聞いたばかりだ。

 旅先で、『夜の酒場で現地の人間と意気投合する』なんてことは、珍しいことじゃないらしい。

 そうして知り合った人間と友人になり、深い仲になったりもする。

 これもまた、珍しいことじゃないそうだ。

 そんな交流は今回、望むことが難しいだろう。

 オリヴァー殿下も苦笑を浮かべていた。

「王族の国外遠征だ。仕方ないさ。
 だが道中に立ち寄った北方国家、その街並みを見て回ることは、日程内なら許される。
 護衛は外せないが、多少は旅行気分を味わえるだろう」

 私はオリヴァー殿下に尋ねる。

「日程内って、ペテル共和国に辿り着くまで、どのくらい余裕があるんですか?」

「街道を抜けてからペテル共和国へ向かう途中、立ち寄る国ひとつに二泊三日かな。
 丸一日は、俺の公務で潰れる。
 その間みんなは自由時間だ」

 全部で三つの国を通過するらしい。

 およそ二週間の旅程ということになる。

 帰りは寄り道せず、十日もあればペテル共和国から街道まで戻ってこられるそうだ。

 ペテル共和国周辺には、一か月くらい滞在するらしい。

「――本格的な視察は、その時だ」

 今回の予定では、立ち寄った国に挨拶がてら視察をしていくらしい。

 せっかく近くを通るのだから、視察をしない手はないそうだ。

 その間、殿下の『お友達』である私たちが、視察に同行する訳にもいかない。

 だから自由に町を見て回っていてほしいと、そう言われた。

 私は率直に告げる。

「ちょっとオリヴァー殿下が可哀想なプランね」

「なに、これも王族の責務の内だ。仕方ないさ」

 オリヴァー殿下が、肩をすくめて応えた。
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