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168.閑話~蒼玉の兄(5)~
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秒針の音が静かに響き渡る室内。
ついに三分ほどで、サイモンが耐えきれずに口を開く。
「レナもララも、遅いな」
その声は外に漏れないよう、抑えたものだった。
サイモンの目は、ずっと部屋の絨毯を見つめている。
正面に座るサンドラを直視できず、目のやり場に困っていた。
仕方なく、床を見つめていたのだ。
サンドラが楽しそうにサイモンに告げる。
「そんなに小さな声じゃなくても大丈夫よ。
テーブルの上をよく見てごらんなさい」
ようやくサイモンの目が床から離れ、テーブルに視線が映った。
そこには、マーセル王子の私物である≪遮音≫の結界を張る魔導具が置いてあった。
これがあれば、室内の音が外に漏れることはない。
驚いたサイモンがサンドラに尋ねる。
「なぜ、これがここに?」
「昼間のうちに借りておいたのよ。
『遊びに使うから』って」
――用意周到だな。
視線をテーブルの上に移した時、サイモンは自分の失策に気が付いた。
視界の中にサンドラの部屋着姿が入ってしまったのだ。
武術を修めているサイモンは、視界の隅にあるものでも正確に把握できる。
彼は思わず、サンドラの姿を査定してしまう。
少女らしさと女性らしさを危うい均衡で兼ね備えた肢体が、惜しげもなくさらされている。
豊満な胸と腰だが、必要なくびれを兼ね備え、魅惑天気な曲線がサイモンを苛んだ。
床に座っていると、椅子に座ったサンドラの腰が目の高さに来る。
今までまったく気にしていなかったが、余りに無防備な位置取りだった。
サイモンも健全な年頃の男子だ。
こんなものは、目の毒にしかならない。
彼は異性として意識してしまった少女の誘惑に、必死に抗っていた。
耳には秒針の音だけが聞こえてくる。
レナやララが部屋にやってくる様子はない。
サイモンが疑問を覚え始めた頃。
「ねぇ、知ってる?」
サンドラが突然語りかけた。
その声はまるで、猫が獲物をなぶるかのように楽し気なものだった。
「……何をだ」
「女ってね。見られることに敏感なの。
すぐにどこを見られてるのかわかるのよ。
たとえば今、サイモンが私の胸を見てるのもわかってる。
さっきまでは足だったわね」
サイモンの顔が、弾けるようにサンドラの顔に向いた。
視界の隅で、気付かれないように見ていたはずだった。
それを見抜かれていた周知で、顔が真っ赤に染まっていた。
『何かを言わなければ』と口を開くが、言葉を見つけられずに言い淀んだ。
ようやく言い訳を諦めたサイモンが、うつむいて大きなため息をついた。
「……何がしたいんだ?」
「今のサイモンが私の部屋着にどういう反応をするのか、ちょっと知りたくなっただけよ。
想像以上に楽しい結果になったわね?」
サンドラは実に楽しそうに、目を細めてニヤリと微笑んだ。
うつむいたサイモンを相手に、勝利を確信したようだ。
それでもなお、攻撃の手を緩める気配はない。
――こいつ、嗜虐嗜好者の気でもあるんじゃないのか?
なぶられている。
その事実を感じながらも、サイモンの脳裏には先ほどまで視界に納めていたサンドラの姿が焼き付いて離れなかった。
――確かに、この部屋着は刺激的だ。認めよう。降参だ。
サイモンは、完全に白旗を挙げていた。
さらにサンドラのなぶる言葉が続く。
「実はね。レナもララも呼んでないの。
だからいくら待っても、誰も助けに来てはくれないわ」
再び弾けるようにサイモンが顔を上げ、その目がサンドラの瞳を捉えた。
「……何を考えてるんだ?
こんなことがばれたら大問題だぞ?
お前の嫁入りに支障をきたす」
たとえ手を出さなくても、婚前の貴族子女の男女が部屋に二人きりだ。
これは家同士の諍いに発展しかねない、大問題だった。
ここに来るまで誰に見られたのか。
誰にここに来ることを教えたのか。
必死にサイモンは記憶をさかのぼっていた。
サンドラが余裕のある笑みで告げる。
「ばれなければ問題にはならないし、ばれても問題にならない方法もあるのよ?」
サイモンはサンドラの言葉で、頭が一瞬停止した。
だがすぐに、『罠にはめられた』ことを理解した。
「お前を婚約者にしろと、そう言いたいのか」
婚前に関係を匂わせた男女がそのまま婚姻する。
それが唯一、問題をうやむやにする手段だ。
サンドラがニンマリと微笑んだ。
「三日前、サイモンは私を『美しい女』と認識した。
私も今、こうして取り乱すサイモンを見て『可愛らしい男』と認識できたわ。
お互いを伴侶として認める条件は、クリアできたんじゃない?」
「何を馬鹿なことを?!
だとしても、ばれないうちに部屋から抜け出せば問題にはならないだろう?!」
サンドラの笑みが、さらに嗜虐の色に染まる。
「あら、今のあなたが立ち上がれるのかしら?
さっきまで堪能していた私の体、その目に焼き付いているのでしょう?」
サイモンは何も言い返せず、ただその瞳を見つめ返した。
男の生理現象を隠すには、男子寄宿生が着る部屋着はあまりにも心もとなかった。
追い詰められたサイモンは、内心で途方に暮れていた。
ついに三分ほどで、サイモンが耐えきれずに口を開く。
「レナもララも、遅いな」
その声は外に漏れないよう、抑えたものだった。
サイモンの目は、ずっと部屋の絨毯を見つめている。
正面に座るサンドラを直視できず、目のやり場に困っていた。
仕方なく、床を見つめていたのだ。
サンドラが楽しそうにサイモンに告げる。
「そんなに小さな声じゃなくても大丈夫よ。
テーブルの上をよく見てごらんなさい」
ようやくサイモンの目が床から離れ、テーブルに視線が映った。
そこには、マーセル王子の私物である≪遮音≫の結界を張る魔導具が置いてあった。
これがあれば、室内の音が外に漏れることはない。
驚いたサイモンがサンドラに尋ねる。
「なぜ、これがここに?」
「昼間のうちに借りておいたのよ。
『遊びに使うから』って」
――用意周到だな。
視線をテーブルの上に移した時、サイモンは自分の失策に気が付いた。
視界の中にサンドラの部屋着姿が入ってしまったのだ。
武術を修めているサイモンは、視界の隅にあるものでも正確に把握できる。
彼は思わず、サンドラの姿を査定してしまう。
少女らしさと女性らしさを危うい均衡で兼ね備えた肢体が、惜しげもなくさらされている。
豊満な胸と腰だが、必要なくびれを兼ね備え、魅惑天気な曲線がサイモンを苛んだ。
床に座っていると、椅子に座ったサンドラの腰が目の高さに来る。
今までまったく気にしていなかったが、余りに無防備な位置取りだった。
サイモンも健全な年頃の男子だ。
こんなものは、目の毒にしかならない。
彼は異性として意識してしまった少女の誘惑に、必死に抗っていた。
耳には秒針の音だけが聞こえてくる。
レナやララが部屋にやってくる様子はない。
サイモンが疑問を覚え始めた頃。
「ねぇ、知ってる?」
サンドラが突然語りかけた。
その声はまるで、猫が獲物をなぶるかのように楽し気なものだった。
「……何をだ」
「女ってね。見られることに敏感なの。
すぐにどこを見られてるのかわかるのよ。
たとえば今、サイモンが私の胸を見てるのもわかってる。
さっきまでは足だったわね」
サイモンの顔が、弾けるようにサンドラの顔に向いた。
視界の隅で、気付かれないように見ていたはずだった。
それを見抜かれていた周知で、顔が真っ赤に染まっていた。
『何かを言わなければ』と口を開くが、言葉を見つけられずに言い淀んだ。
ようやく言い訳を諦めたサイモンが、うつむいて大きなため息をついた。
「……何がしたいんだ?」
「今のサイモンが私の部屋着にどういう反応をするのか、ちょっと知りたくなっただけよ。
想像以上に楽しい結果になったわね?」
サンドラは実に楽しそうに、目を細めてニヤリと微笑んだ。
うつむいたサイモンを相手に、勝利を確信したようだ。
それでもなお、攻撃の手を緩める気配はない。
――こいつ、嗜虐嗜好者の気でもあるんじゃないのか?
なぶられている。
その事実を感じながらも、サイモンの脳裏には先ほどまで視界に納めていたサンドラの姿が焼き付いて離れなかった。
――確かに、この部屋着は刺激的だ。認めよう。降参だ。
サイモンは、完全に白旗を挙げていた。
さらにサンドラのなぶる言葉が続く。
「実はね。レナもララも呼んでないの。
だからいくら待っても、誰も助けに来てはくれないわ」
再び弾けるようにサイモンが顔を上げ、その目がサンドラの瞳を捉えた。
「……何を考えてるんだ?
こんなことがばれたら大問題だぞ?
お前の嫁入りに支障をきたす」
たとえ手を出さなくても、婚前の貴族子女の男女が部屋に二人きりだ。
これは家同士の諍いに発展しかねない、大問題だった。
ここに来るまで誰に見られたのか。
誰にここに来ることを教えたのか。
必死にサイモンは記憶をさかのぼっていた。
サンドラが余裕のある笑みで告げる。
「ばれなければ問題にはならないし、ばれても問題にならない方法もあるのよ?」
サイモンはサンドラの言葉で、頭が一瞬停止した。
だがすぐに、『罠にはめられた』ことを理解した。
「お前を婚約者にしろと、そう言いたいのか」
婚前に関係を匂わせた男女がそのまま婚姻する。
それが唯一、問題をうやむやにする手段だ。
サンドラがニンマリと微笑んだ。
「三日前、サイモンは私を『美しい女』と認識した。
私も今、こうして取り乱すサイモンを見て『可愛らしい男』と認識できたわ。
お互いを伴侶として認める条件は、クリアできたんじゃない?」
「何を馬鹿なことを?!
だとしても、ばれないうちに部屋から抜け出せば問題にはならないだろう?!」
サンドラの笑みが、さらに嗜虐の色に染まる。
「あら、今のあなたが立ち上がれるのかしら?
さっきまで堪能していた私の体、その目に焼き付いているのでしょう?」
サイモンは何も言い返せず、ただその瞳を見つめ返した。
男の生理現象を隠すには、男子寄宿生が着る部屋着はあまりにも心もとなかった。
追い詰められたサイモンは、内心で途方に暮れていた。
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