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第2章:横浜で空に一番近いカフェ
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初出勤の朝、千晴は早めに目を覚ました。
一週間以上経過し、一人暮らしにもだいぶ慣れた気がしていた。
そして今日からが本番、新しい職場での仕事が始まる。
スマホを確認すると、天流からショートメッセージが届いていた。
天流:家の前で待ってるから。
返事は返さずスマホをロックし、顔を洗いに行く。
白いブラウスとジーンズに着替えてから、化粧で顔を整える。
最後にグレーのカーディガンを羽織り、ショルダーバッグを肩にかけた。
「よし!」
気合の声を上げ、忘れ物が無いかを再点検して部屋を出た。
玄関前では、天流がスーツ姿で微笑んでいた。
「今日は一緒に通勤するけど、明日からはひとりで大丈夫かな?」
千晴が唇を尖らせて応える。
「子ども扱いしないでくれますか?」
天流が軽やかに笑いながら、千晴に社員証を手渡した。
「IDだよ。持っておいて。
それでラウンジに入れるから」
鞄にしまおうとした千晴に、天流が声をかける。
「ブラウスは胸ポケットのあるものが便利だよ。
出かける時に首から下げておけば、忘れて困ることが無いからね」
千晴が天流を見ると、首からグリーンのストラップが垂れ下がって胸ポケットにつながっていた。
小さく息をついた千晴が、振り返って応える。
「着替えてきます」
「うん、わかった。待ってるよ」
千晴が急いでカーディガンからグレーのジャケットに着替えていく。
貰った社員証を首から下げ、ジャケットの内ポケットにしまった。
急いで外に飛び出して千晴が告げる。
「お待たせしました」
「大丈夫、そんなに待ってないよ。
――それじゃあ行こうか」
うなずいた千晴が、天流と一緒にエレベーターホールに向かった。
****
千晴が天流と一緒に桜木町駅に向かって歩いて行く。
通勤するサラリーマンやOLの姿が、あちこちで見られた。
駅に向かう人の流れと、ランドマークに向かう流れ。
千晴たちはランドマークを目指し、エスカレーターを上り、動く歩道に乗る。
左端に寄っていると、右側をせかせかと歩いて行くサラリーマンたちが通り過ぎていく。
「なんであんなに急いでるんですか?」
「なんでだろうね?
あわてなくても職場は逃げないのに」
天流がランドマークタワーに向かって歩くのを千晴が呼び止めた。
「あれ? ラウンジはあっちじゃないんですか?」」
「それはお客さん用。
従業員はこっちだよ」
千晴は天流と一緒にランドマークタワーに入っていく。
奥まったところにある扉を抜けると、大きな搬入用エレベーターホールに出た。
「うわ……こんなところにエレベーターが?」
天流が楽しそうに口に指を当てた。
「内緒だからね?」
ホールには十人以上の人間が居て、黙ってエレベーターの到着を待っていた。
エレベーターの扉が開くと、窓のない殺風景な小部屋が現れる。
天井の高いエレベーターに乗りこむと、天流がカフェのある階のボタンを押した。
エレベーターは高速で上昇しながら、各階に人間を吐き出していく。
最後に千晴と天流だけが残り、エレベーターを降りた。
エレベーターホールを抜けた千晴が、辺りを見回して告げる。
「こんなところに出るんですね」
「まぁね。お客さんに気をつけてね。
――こっちだよ」
天流が先導し、千晴をカフェの事務所内に招き入れた。
****
事務所には二人の男女が制服に着替えて待機していた。
一人は快活に見える二十代前半の男性。
もう一人は千晴より年上に感じる髪の長い女性だ。
天流が二人に告げる。
「宮城、横山さん、新人を紹介するよ。
――広瀬さん、自己紹介」
千晴があわてて告げる。
「広瀬千春です! よろしくお願いします」
男性――宮城がニヤリと笑った。
「俺は宮城信太朗、バリスタだ」
女性――横山が柔らかく微笑んだ。
「私は横山さおり、同じくバリスタよ」
千晴はきょとんとして天流に尋ねる。
「バリスタってなんでしたっけ?」
天流が軽妙に笑い声をあげながら応える。
「カウンターの中で料理や飲み物をお客さんに渡す人間だよ。
ソフトクリームなんかは、カウンターキッチンで作るんだ。
ほかの料理は奥のキッチンで調理してるよ」
「と、いうことは料理を作る人もいるんですか?」
「いるよ? 今はキッチンで開店準備をしてる。
広瀬さんはまず、ホールスタッフだね。
経験を積んだらバリスタにもなれるよ」
きょとんとした千晴が、天流に尋ねる。
「天流さんはなにをするんですか?」
「私はなんでもできるけど、ホールスタッフとして動いてるよ。
一番大変な仕事だからね」
――そんな仕事、できるのかなぁ。
戸惑う千晴の背中を、天流が優しく叩いた。
「大丈夫、難しい訳じゃないから。
――横山さん、着替えを教えてあげて」
横山がうなずいて千晴を更衣室へ誘った。
****
千晴が自分のサイズに合う制服を選び着替えていく。
白いブラウスと黒いタイトスカート、こげ茶のエプロン。
ブラウスの胸ポケットに社員証をクリップで留めると、鏡の前で髪を整えた。
横山がポケットからヘアゴムを取り出して千晴に渡す。
「あなた、髪が少し長いから束ねちゃいましょう。
飲食業だから、長髪は気をつけてね」
「――あ、はい!」
横山も髪をバレッタで留めている。
――うっかりしてたなぁ。
セミロングの髪をヘアゴムで束ねた千晴が、横山に尋ねる。
「これで大丈夫ですか?」
「ええ、バッチリよ」
胸を撫で下ろした千晴が、横山と一緒に更衣室を出た。
****
事務所に戻った千晴を、天流と宮城が笑顔で迎えた。
「よく似合ってるね、広瀬さん」
宮城が口笛を吹いて告げる。
「いいね、職場が潤いそうだ」
天流が手を打ち鳴らして告げる。
「宮城と横山さんは業務に戻ってくれ。
私は広瀬さんとホールを回る」
宮城と横山が元気に返事をし、カウンターへ向かっていった。
天流が広瀬を手招きして告げる。
「私と一緒にホールスタッフの仕事を覚えて。
まずはそこから始めよう」
「はい!」
千晴は先導する天流の後を追いかけ、事務所の外へ向かった。
****
カフェの中を、天流はテーブルの拭き掃除をしながら千晴に教えていった。
「まずは座席の位置を覚えて。
――そっちのテーブル、拭いてもらえる?」
渡されたカウンタークロスを千晴が受け取り、指示されたテーブルを見よう見まねで拭いて行く。
一通りテーブルを拭き終わると、天流は別のカウンタークロスを取り出した。
「こっちはシート用だから、間違えないで。
色が違うから覚えやすいでしょ?」
千晴がうなずいて青いカウンタークロスを受け取った。
展望席に広がるカップルシートや、階段状になっている木製のベンチを二人で拭いて行く。
「これ! 重労働じゃないですか?!」
天流が楽し気に笑って応える。
「だからそう言っただろう?」
一通り清掃が終わる頃、ちらほらと客が入り始める。
「お客さんの邪魔にならないよう気をつけてね。
――さて、戻ろうか」
うなずいた千晴が、天流と共に事務所へ戻っていった。
****
その後、千晴はカウンターの中に入り簡単な飲み物の提供の仕方を天流から教わっていった。
だが定期的にホールに出ては、汚れている席を清掃していく。
千晴もそれに付き添い、清掃のタイミングをレクチャーされて行った。
午後三時になり、天流が告げる。
「今日はこのくらいかな。
お疲れ、広瀬さん。
これから一緒にご飯でも行こうか」
千晴がきょとんとした顔で尋ねる。
「どこで食べるんですか?」
天流が肩をすくめて応える。
「ここはランドマークだよ?
値段を選ばなければ、いくらでも場所はある。
――でもまぁ、プラザのファストフードでいいかな?」
千晴はうなずくと、天流と別々に更衣室に入っていった。
一週間以上経過し、一人暮らしにもだいぶ慣れた気がしていた。
そして今日からが本番、新しい職場での仕事が始まる。
スマホを確認すると、天流からショートメッセージが届いていた。
天流:家の前で待ってるから。
返事は返さずスマホをロックし、顔を洗いに行く。
白いブラウスとジーンズに着替えてから、化粧で顔を整える。
最後にグレーのカーディガンを羽織り、ショルダーバッグを肩にかけた。
「よし!」
気合の声を上げ、忘れ物が無いかを再点検して部屋を出た。
玄関前では、天流がスーツ姿で微笑んでいた。
「今日は一緒に通勤するけど、明日からはひとりで大丈夫かな?」
千晴が唇を尖らせて応える。
「子ども扱いしないでくれますか?」
天流が軽やかに笑いながら、千晴に社員証を手渡した。
「IDだよ。持っておいて。
それでラウンジに入れるから」
鞄にしまおうとした千晴に、天流が声をかける。
「ブラウスは胸ポケットのあるものが便利だよ。
出かける時に首から下げておけば、忘れて困ることが無いからね」
千晴が天流を見ると、首からグリーンのストラップが垂れ下がって胸ポケットにつながっていた。
小さく息をついた千晴が、振り返って応える。
「着替えてきます」
「うん、わかった。待ってるよ」
千晴が急いでカーディガンからグレーのジャケットに着替えていく。
貰った社員証を首から下げ、ジャケットの内ポケットにしまった。
急いで外に飛び出して千晴が告げる。
「お待たせしました」
「大丈夫、そんなに待ってないよ。
――それじゃあ行こうか」
うなずいた千晴が、天流と一緒にエレベーターホールに向かった。
****
千晴が天流と一緒に桜木町駅に向かって歩いて行く。
通勤するサラリーマンやOLの姿が、あちこちで見られた。
駅に向かう人の流れと、ランドマークに向かう流れ。
千晴たちはランドマークを目指し、エスカレーターを上り、動く歩道に乗る。
左端に寄っていると、右側をせかせかと歩いて行くサラリーマンたちが通り過ぎていく。
「なんであんなに急いでるんですか?」
「なんでだろうね?
あわてなくても職場は逃げないのに」
天流がランドマークタワーに向かって歩くのを千晴が呼び止めた。
「あれ? ラウンジはあっちじゃないんですか?」」
「それはお客さん用。
従業員はこっちだよ」
千晴は天流と一緒にランドマークタワーに入っていく。
奥まったところにある扉を抜けると、大きな搬入用エレベーターホールに出た。
「うわ……こんなところにエレベーターが?」
天流が楽しそうに口に指を当てた。
「内緒だからね?」
ホールには十人以上の人間が居て、黙ってエレベーターの到着を待っていた。
エレベーターの扉が開くと、窓のない殺風景な小部屋が現れる。
天井の高いエレベーターに乗りこむと、天流がカフェのある階のボタンを押した。
エレベーターは高速で上昇しながら、各階に人間を吐き出していく。
最後に千晴と天流だけが残り、エレベーターを降りた。
エレベーターホールを抜けた千晴が、辺りを見回して告げる。
「こんなところに出るんですね」
「まぁね。お客さんに気をつけてね。
――こっちだよ」
天流が先導し、千晴をカフェの事務所内に招き入れた。
****
事務所には二人の男女が制服に着替えて待機していた。
一人は快活に見える二十代前半の男性。
もう一人は千晴より年上に感じる髪の長い女性だ。
天流が二人に告げる。
「宮城、横山さん、新人を紹介するよ。
――広瀬さん、自己紹介」
千晴があわてて告げる。
「広瀬千春です! よろしくお願いします」
男性――宮城がニヤリと笑った。
「俺は宮城信太朗、バリスタだ」
女性――横山が柔らかく微笑んだ。
「私は横山さおり、同じくバリスタよ」
千晴はきょとんとして天流に尋ねる。
「バリスタってなんでしたっけ?」
天流が軽妙に笑い声をあげながら応える。
「カウンターの中で料理や飲み物をお客さんに渡す人間だよ。
ソフトクリームなんかは、カウンターキッチンで作るんだ。
ほかの料理は奥のキッチンで調理してるよ」
「と、いうことは料理を作る人もいるんですか?」
「いるよ? 今はキッチンで開店準備をしてる。
広瀬さんはまず、ホールスタッフだね。
経験を積んだらバリスタにもなれるよ」
きょとんとした千晴が、天流に尋ねる。
「天流さんはなにをするんですか?」
「私はなんでもできるけど、ホールスタッフとして動いてるよ。
一番大変な仕事だからね」
――そんな仕事、できるのかなぁ。
戸惑う千晴の背中を、天流が優しく叩いた。
「大丈夫、難しい訳じゃないから。
――横山さん、着替えを教えてあげて」
横山がうなずいて千晴を更衣室へ誘った。
****
千晴が自分のサイズに合う制服を選び着替えていく。
白いブラウスと黒いタイトスカート、こげ茶のエプロン。
ブラウスの胸ポケットに社員証をクリップで留めると、鏡の前で髪を整えた。
横山がポケットからヘアゴムを取り出して千晴に渡す。
「あなた、髪が少し長いから束ねちゃいましょう。
飲食業だから、長髪は気をつけてね」
「――あ、はい!」
横山も髪をバレッタで留めている。
――うっかりしてたなぁ。
セミロングの髪をヘアゴムで束ねた千晴が、横山に尋ねる。
「これで大丈夫ですか?」
「ええ、バッチリよ」
胸を撫で下ろした千晴が、横山と一緒に更衣室を出た。
****
事務所に戻った千晴を、天流と宮城が笑顔で迎えた。
「よく似合ってるね、広瀬さん」
宮城が口笛を吹いて告げる。
「いいね、職場が潤いそうだ」
天流が手を打ち鳴らして告げる。
「宮城と横山さんは業務に戻ってくれ。
私は広瀬さんとホールを回る」
宮城と横山が元気に返事をし、カウンターへ向かっていった。
天流が広瀬を手招きして告げる。
「私と一緒にホールスタッフの仕事を覚えて。
まずはそこから始めよう」
「はい!」
千晴は先導する天流の後を追いかけ、事務所の外へ向かった。
****
カフェの中を、天流はテーブルの拭き掃除をしながら千晴に教えていった。
「まずは座席の位置を覚えて。
――そっちのテーブル、拭いてもらえる?」
渡されたカウンタークロスを千晴が受け取り、指示されたテーブルを見よう見まねで拭いて行く。
一通りテーブルを拭き終わると、天流は別のカウンタークロスを取り出した。
「こっちはシート用だから、間違えないで。
色が違うから覚えやすいでしょ?」
千晴がうなずいて青いカウンタークロスを受け取った。
展望席に広がるカップルシートや、階段状になっている木製のベンチを二人で拭いて行く。
「これ! 重労働じゃないですか?!」
天流が楽し気に笑って応える。
「だからそう言っただろう?」
一通り清掃が終わる頃、ちらほらと客が入り始める。
「お客さんの邪魔にならないよう気をつけてね。
――さて、戻ろうか」
うなずいた千晴が、天流と共に事務所へ戻っていった。
****
その後、千晴はカウンターの中に入り簡単な飲み物の提供の仕方を天流から教わっていった。
だが定期的にホールに出ては、汚れている席を清掃していく。
千晴もそれに付き添い、清掃のタイミングをレクチャーされて行った。
午後三時になり、天流が告げる。
「今日はこのくらいかな。
お疲れ、広瀬さん。
これから一緒にご飯でも行こうか」
千晴がきょとんとした顔で尋ねる。
「どこで食べるんですか?」
天流が肩をすくめて応える。
「ここはランドマークだよ?
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――でもまぁ、プラザのファストフードでいいかな?」
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