神を拾った竜殺し~星の少年と炎の少女~・改訂版

みつまめ つぼみ

文字の大きさ
23 / 49
第2章:星の少年と炎の少女

第23話 編入試験

しおりを挟む
 アルテイル魔導学園――王都でも有数の名門校だ。

 建国以来の歴史を持つこの学校は、王侯貴族の子女が通う高学歴専用の学校でもある。

 卒業生の多くは王宮付きの職に就く。

 しかし規律は緩やかで、自由な校風が特徴の学校だった。

 ノヴァとアイリーンは試薬が完成した二日後、編入試験のために学園を訪れていた。

 応接間で待っている間、ニアから学園のおおおそを説明され、アイリーンは期待に胸を躍らせていた。

「私、学校に通うのなんて初めてよ!」

 ニアが目を見開いて聞き返す。

「あら、あなた十四歳よね? 学校には通ってなかったの?」

「私は『稀代の天才魔導士』として、幼い頃から神童しんどうと呼ばれて有名だったわ。
 『学校に通う必要はない』ってお父様に言われて、家庭教師だけで過ごしていたの。
 だから友人と呼べる人もいなかったわ。作る機会がなかったのよ」

 ノヴァがアイリーンに告げる。

「今度の学校で、友人ができるといいですね」

 ニアが不安そうに告げる。

「でも、あなたたちの素性は孤児よ?
 それはすぐに知れ渡るわ。
 二人とも『ウェルシュタイン』のファミリーネームを殿下から与えられている、ということに表向きはなっているけれど。
 貴族でもない平民が通える学校でもないのよ。
 周りは王侯貴族ばかり――友人は望み薄よ?」

 アイリーンが微笑ほほえんで答える。

「あら、私はちゃんと『アイリーン・ウェルシュタイン』として名乗れるのね!
 それに『ノヴァ・ウェルシュタイン』になるなんて、伴侶らしくて素敵よ?
 友人が作れるかは、やってみなければわからないわ。
 作る機会がないよりは、マシなはずよ」

「前にも説明したけど、この国では十五歳で成人。結婚できるのも、成人してからよ。
 せいぜい『婚約者』ということにしておきなさい?
 二人に血縁関係はないことにしてあるから、そこは気にしなくていいわ」

 ノヴァが確認するようにたずねる。

「では僕らは、『孤児でリストリットに引き取られ、ウェルシュタインの名を与えられた』ということですね。
 そして僕とアイリーンに血縁関係はない。
 僕らは婚約者として振る舞うことまでは許されている――これで間違いありませんね?」

 ニアがうなずいた。

「でも、そういうのは編入試験を無事に突破してからよ?
 まずは編入試験ね。あなたたち、ちゃんと勉強したの?
 昨日、参考書は渡したけど……昨日の今日で大丈夫?」

 ノヴァが余裕のある笑みで答える。

「僕らなら、あれくらいは何とかなると思いますよ。
 一般常識は難しいと思いますが、それくらいじゃないですか?
 特に不安は感じていません」

 ニアが小さくため息をついた。

「私が不安に思っているのは、『この時代の範囲を超えた知識を披露してしまわないか』ということよ。そこは大丈夫なの?」

 アイリーンがうなずいた。

「参考書で、おおよその範囲は把握したわ。
 あとはなるようになるだけよ。
 この時代を超えた知識も、今の人たちには理解ができないんじゃないかしら
 ただの誤答になるはずよ。
 それでダメだったら、素直にあきらめるわ」

 そして、応接間のドアがノックされた。




****

 応接間に入ってきたのは、なごやかな笑みをたたえた老年の男性だった。

「リストリット殿下の近衛魔導士、ニア様ですな?
 私は本校の理事長をつとめるウェシュゲットと申します。
 この子供たちが本日、編入試験を受けるノヴァくんとアイリーンさん、ということで間違いないですかな?」

 ニアは立ち上がり、ウェシュゲットに会釈した。

「ええ、彼らで間違いありません。
 理事長自らとは恐縮です」

 ウェシュゲットはなごやかな笑みのまま答える。

「いえいえ、リストリット殿下直々の要請とあらば、私が出るべきでしょう。
 ですが彼らは少し前まで言語を操ることすらできなかった孤児だと聞いています。
 本当に学園に通わせるおつもりですか?」

 ニアが苦笑を浮かべて答える。

「私も『問題が多いのでは』と進言したのですが……。
 殿下は『ここでも彼らの能力には不足だろう』と仰り、譲られなかったのです」

 ウェシュゲットが少し困ったように答える。

「確かに、本校より学力の高い学校は、そう多くはありません。
 その中ではもっとも規制が緩く、自由な校風が特徴の本校は、一番マシな選択でしょう。
 それでも問題は多いと思います。
 ですが、それも編入試験を突破して初めて問題となる。
 まず試験を受けて頂きましょう。
 そこで壁の厚さを実感して頂けると思います」

 ウェシュゲットの言葉は柔らかい。

 だが言ってることは『孤児風情がこの学園に通えるわけがないだろう』である。

 あまり歓迎されていないと感じたアイリーンが、不安を感じてニアにたずねる。

「ねぇニアさん。私たち歓迎されてないのね。なぜかしら?」

 ニアも困ったような微笑ほほえみで答える。

「ここは王侯貴族の名門校。
 格式と伝統に誇りがあるのよ。
 『孤児が通えるわけがない』と言われてしまうのは、仕方がないわ。
 悔しかったら試験で見返すしかないの」

 アイリーンがニコリと微笑ほほえんで答える。

「ではそうするわね。
 あの程度の水準で私たちを追い返せると思ったら大間違いだと、思い知らせてあげないといけないわ」

 ウェシュゲットが困惑するような顔でアイリーンたちを見つめていた。

「……いいでしょう。では試験会場へ案内します」




****

 ニアを応接間に残し、ノヴァとアイリーンはウェシュゲットのあとに続いて試験会場に入った。

 試験会場は無人の教室を利用するようだ。

 広い教室に机が段を作って並んでいる。

 普段はこの机に、生徒たちが大勢並んでいるのだろう。

 ウェシュゲットがアイリーンたちに告げる。

「君たちはその机に座って試験を受けてもらいます。
 試験官は私が自らつとめますから、不正行為があればすぐにわかりますよ」

 ノヴァとアイリーンは何も言い返さず、示された席に静かに着席した。

『不正行為ですって。失礼しちゃうわ』

『黙っておけ。聞かれるぞ』

 この教室には不正行為見地の魔法術式が張られている。

 それを見たノヴァは、すぐに認識阻害魔法を解除していた。

 先史文明言語を聞かれても意味は分からないだろうが、不正行為とみなされる可能性がある。

 アイリーンは仕方なく、黙って編入試験の問題を受け取り、机に広げた。

 筆記用具を用意し、準備万端である。

 ウェシュゲットが時計を確認しながら声を上げる。

「では開始してください!」

 ノヴァとアイリーンは静かに問題を解き始めた。


 三十分後、二人の回答用紙がウェシュゲットに提出された。

 ウェシュゲットが目を見開いてアイリーンたちにたずねる。

「もういいんですか? まだ時間は三十分残っていますよ?」

 アイリーンが微笑ほほえんで答える。

「だってもう、書くところが残ってないもの。
 問題は全て解いたわ。
 この後、私たちはどうしたらいいのかしら?」

 ウェシュゲットは素早く回答用紙に目を通していく。

「……いいでしょう。これから採点をします。
 少し待っていてください」

 ウェシュゲットはその場で素早く採点を開始した。

 採点を終えたウェシュゲットが、困惑しながらたずねる。

「二人とも、ほぼ満点です……。
 君たち、ここまでの学力をどうやって得たのですか?」

 アイリーンが微笑ほほえんで答える。

「昨日、ニアさんから参考書を受け取ったわ。それで充分よ」

 『一日あれば充分』――そう言い切られ、ウェシュゲットは言葉を失っているようだった。

「……いいでしょう。編入試験は問題なく合格です。
 では、応接間に戻りましょう」

 ウェシュゲットに連れられ、アイリーンたちは試験会場をあとにした。




****

 応接間に戻ったノヴァとアイリーンを、ニアが驚いた顔で迎えた。

「二人とも、もう終わったの?」

 アイリーンが微笑ほほえんでうなずいた。

「思った通り、簡単だったわ」

 ニアがウェシュゲットの顔を見てたずねる。

「二人は理事長の目から見て、どうでしたか?」

 ウェシュゲットが小さく感嘆のため息をもらした。

「……途方もない学力、というしかないですね。
 本校の授業で彼らに満足してもらえるのか、その自信すらなくなりそうです。
 あとは編入後、生徒たちと問題を起こさなければいいのですが、それは難しいでしょう。
 生徒たちは全て貴族子女です。
 孤児が通うとなれば、必ず軋轢あつれきが生まれます。
 色々と問題が発生するのは避けれられません。
 その覚悟が二人にはありますか?」

 アイリーンが笑顔で答える。

「実力で黙らせてみるわ」

 ウェシュゲットが再び言葉を失ったようだった。

「……わかりました。我が学園へようこそ、ノヴァくん、アイリーンさん。
 君たちの編入は一週間後の週明け、ということで間違いありませんか?」

 アイリーンがニアに振り向き、ニアがうなずいた。

 アイリーンがウェシュゲットに笑顔で答える。

「間違いないそうです。では、これからよろしくお願いします!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

処理中です...