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第2章:星の少年と炎の少女
第23話 編入試験
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アルテイル魔導学園――王都でも有数の名門校だ。
建国以来の歴史を持つこの学校は、王侯貴族の子女が通う高学歴専用の学校でもある。
卒業生の多くは王宮付きの職に就く。
しかし規律は緩やかで、自由な校風が特徴の学校だった。
ノヴァとアイリーンは試薬が完成した二日後、編入試験のために学園を訪れていた。
応接間で待っている間、ニアから学園のおおおそを説明され、アイリーンは期待に胸を躍らせていた。
「私、学校に通うのなんて初めてよ!」
ニアが目を見開いて聞き返す。
「あら、あなた十四歳よね? 学校には通ってなかったの?」
「私は『稀代の天才魔導士』として、幼い頃から神童と呼ばれて有名だったわ。
『学校に通う必要はない』ってお父様に言われて、家庭教師だけで過ごしていたの。
だから友人と呼べる人もいなかったわ。作る機会がなかったのよ」
ノヴァがアイリーンに告げる。
「今度の学校で、友人ができるといいですね」
ニアが不安そうに告げる。
「でも、あなたたちの素性は孤児よ?
それはすぐに知れ渡るわ。
二人とも『ウェルシュタイン』のファミリーネームを殿下から与えられている、ということに表向きはなっているけれど。
貴族でもない平民が通える学校でもないのよ。
周りは王侯貴族ばかり――友人は望み薄よ?」
アイリーンが微笑んで答える。
「あら、私はちゃんと『アイリーン・ウェルシュタイン』として名乗れるのね!
それに『ノヴァ・ウェルシュタイン』になるなんて、伴侶らしくて素敵よ?
友人が作れるかは、やってみなければわからないわ。
作る機会がないよりは、マシなはずよ」
「前にも説明したけど、この国では十五歳で成人。結婚できるのも、成人してからよ。
せいぜい『婚約者』ということにしておきなさい?
二人に血縁関係はないことにしてあるから、そこは気にしなくていいわ」
ノヴァが確認するように尋ねる。
「では僕らは、『孤児でリストリットに引き取られ、ウェルシュタインの名を与えられた』ということですね。
そして僕とアイリーンに血縁関係はない。
僕らは婚約者として振る舞うことまでは許されている――これで間違いありませんね?」
ニアが頷いた。
「でも、そういうのは編入試験を無事に突破してからよ?
まずは編入試験ね。あなたたち、ちゃんと勉強したの?
昨日、参考書は渡したけど……昨日の今日で大丈夫?」
ノヴァが余裕のある笑みで答える。
「僕らなら、あれくらいは何とかなると思いますよ。
一般常識は難しいと思いますが、それくらいじゃないですか?
特に不安は感じていません」
ニアが小さくため息をついた。
「私が不安に思っているのは、『この時代の範囲を超えた知識を披露してしまわないか』ということよ。そこは大丈夫なの?」
アイリーンが頷いた。
「参考書で、おおよその範囲は把握したわ。
後はなるようになるだけよ。
この時代を超えた知識も、今の人たちには理解ができないんじゃないかしら
ただの誤答になるはずよ。
それでダメだったら、素直に諦めるわ」
そして、応接間のドアがノックされた。
****
応接間に入ってきたのは、和やかな笑みを湛えた老年の男性だった。
「リストリット殿下の近衛魔導士、ニア様ですな?
私は本校の理事長を務めるウェシュゲットと申します。
この子供たちが本日、編入試験を受けるノヴァくんとアイリーンさん、ということで間違いないですかな?」
ニアは立ち上がり、ウェシュゲットに会釈した。
「ええ、彼らで間違いありません。
理事長自らとは恐縮です」
ウェシュゲットは和やかな笑みのまま答える。
「いえいえ、リストリット殿下直々の要請とあらば、私が出るべきでしょう。
ですが彼らは少し前まで言語を操ることすらできなかった孤児だと聞いています。
本当に学園に通わせるおつもりですか?」
ニアが苦笑を浮かべて答える。
「私も『問題が多いのでは』と進言したのですが……。
殿下は『ここでも彼らの能力には不足だろう』と仰り、譲られなかったのです」
ウェシュゲットが少し困ったように答える。
「確かに、本校より学力の高い学校は、そう多くはありません。
その中では最も規制が緩く、自由な校風が特徴の本校は、一番マシな選択でしょう。
それでも問題は多いと思います。
ですが、それも編入試験を突破して初めて問題となる。
まず試験を受けて頂きましょう。
そこで壁の厚さを実感して頂けると思います」
ウェシュゲットの言葉は柔らかい。
だが言ってることは『孤児風情がこの学園に通えるわけがないだろう』である。
あまり歓迎されていないと感じたアイリーンが、不安を感じてニアに尋ねる。
「ねぇニアさん。私たち歓迎されてないのね。なぜかしら?」
ニアも困ったような微笑みで答える。
「ここは王侯貴族の名門校。
格式と伝統に誇りがあるのよ。
『孤児が通えるわけがない』と言われてしまうのは、仕方がないわ。
悔しかったら試験で見返すしかないの」
アイリーンがニコリと微笑んで答える。
「ではそうするわね。
あの程度の水準で私たちを追い返せると思ったら大間違いだと、思い知らせてあげないといけないわ」
ウェシュゲットが困惑するような顔でアイリーンたちを見つめていた。
「……いいでしょう。では試験会場へ案内します」
****
ニアを応接間に残し、ノヴァとアイリーンはウェシュゲットの後に続いて試験会場に入った。
試験会場は無人の教室を利用するようだ。
広い教室に机が段を作って並んでいる。
普段はこの机に、生徒たちが大勢並んでいるのだろう。
ウェシュゲットがアイリーンたちに告げる。
「君たちはその机に座って試験を受けてもらいます。
試験官は私が自ら務めますから、不正行為があればすぐにわかりますよ」
ノヴァとアイリーンは何も言い返さず、示された席に静かに着席した。
『不正行為ですって。失礼しちゃうわ』
『黙っておけ。聞かれるぞ』
この教室には不正行為見地の魔法術式が張られている。
それを見たノヴァは、すぐに認識阻害魔法を解除していた。
先史文明言語を聞かれても意味は分からないだろうが、不正行為とみなされる可能性がある。
アイリーンは仕方なく、黙って編入試験の問題を受け取り、机に広げた。
筆記用具を用意し、準備万端である。
ウェシュゲットが時計を確認しながら声を上げる。
「では開始してください!」
ノヴァとアイリーンは静かに問題を解き始めた。
三十分後、二人の回答用紙がウェシュゲットに提出された。
ウェシュゲットが目を見開いてアイリーンたちに尋ねる。
「もういいんですか? まだ時間は三十分残っていますよ?」
アイリーンが微笑んで答える。
「だってもう、書くところが残ってないもの。
問題は全て解いたわ。
この後、私たちはどうしたらいいのかしら?」
ウェシュゲットは素早く回答用紙に目を通していく。
「……いいでしょう。これから採点をします。
少し待っていてください」
ウェシュゲットはその場で素早く採点を開始した。
採点を終えたウェシュゲットが、困惑しながら尋ねる。
「二人とも、ほぼ満点です……。
君たち、ここまでの学力をどうやって得たのですか?」
アイリーンが微笑んで答える。
「昨日、ニアさんから参考書を受け取ったわ。それで充分よ」
『一日あれば充分』――そう言い切られ、ウェシュゲットは言葉を失っているようだった。
「……いいでしょう。編入試験は問題なく合格です。
では、応接間に戻りましょう」
ウェシュゲットに連れられ、アイリーンたちは試験会場を後にした。
****
応接間に戻ったノヴァとアイリーンを、ニアが驚いた顔で迎えた。
「二人とも、もう終わったの?」
アイリーンが微笑んで頷いた。
「思った通り、簡単だったわ」
ニアがウェシュゲットの顔を見て尋ねる。
「二人は理事長の目から見て、どうでしたか?」
ウェシュゲットが小さく感嘆のため息をもらした。
「……途方もない学力、というしかないですね。
本校の授業で彼らに満足してもらえるのか、その自信すらなくなりそうです。
あとは編入後、生徒たちと問題を起こさなければいいのですが、それは難しいでしょう。
生徒たちは全て貴族子女です。
孤児が通うとなれば、必ず軋轢が生まれます。
色々と問題が発生するのは避けれられません。
その覚悟が二人にはありますか?」
アイリーンが笑顔で答える。
「実力で黙らせてみるわ」
ウェシュゲットが再び言葉を失ったようだった。
「……わかりました。我が学園へようこそ、ノヴァくん、アイリーンさん。
君たちの編入は一週間後の週明け、ということで間違いありませんか?」
アイリーンがニアに振り向き、ニアが頷いた。
アイリーンがウェシュゲットに笑顔で答える。
「間違いないそうです。では、これからよろしくお願いします!」
建国以来の歴史を持つこの学校は、王侯貴族の子女が通う高学歴専用の学校でもある。
卒業生の多くは王宮付きの職に就く。
しかし規律は緩やかで、自由な校風が特徴の学校だった。
ノヴァとアイリーンは試薬が完成した二日後、編入試験のために学園を訪れていた。
応接間で待っている間、ニアから学園のおおおそを説明され、アイリーンは期待に胸を躍らせていた。
「私、学校に通うのなんて初めてよ!」
ニアが目を見開いて聞き返す。
「あら、あなた十四歳よね? 学校には通ってなかったの?」
「私は『稀代の天才魔導士』として、幼い頃から神童と呼ばれて有名だったわ。
『学校に通う必要はない』ってお父様に言われて、家庭教師だけで過ごしていたの。
だから友人と呼べる人もいなかったわ。作る機会がなかったのよ」
ノヴァがアイリーンに告げる。
「今度の学校で、友人ができるといいですね」
ニアが不安そうに告げる。
「でも、あなたたちの素性は孤児よ?
それはすぐに知れ渡るわ。
二人とも『ウェルシュタイン』のファミリーネームを殿下から与えられている、ということに表向きはなっているけれど。
貴族でもない平民が通える学校でもないのよ。
周りは王侯貴族ばかり――友人は望み薄よ?」
アイリーンが微笑んで答える。
「あら、私はちゃんと『アイリーン・ウェルシュタイン』として名乗れるのね!
それに『ノヴァ・ウェルシュタイン』になるなんて、伴侶らしくて素敵よ?
友人が作れるかは、やってみなければわからないわ。
作る機会がないよりは、マシなはずよ」
「前にも説明したけど、この国では十五歳で成人。結婚できるのも、成人してからよ。
せいぜい『婚約者』ということにしておきなさい?
二人に血縁関係はないことにしてあるから、そこは気にしなくていいわ」
ノヴァが確認するように尋ねる。
「では僕らは、『孤児でリストリットに引き取られ、ウェルシュタインの名を与えられた』ということですね。
そして僕とアイリーンに血縁関係はない。
僕らは婚約者として振る舞うことまでは許されている――これで間違いありませんね?」
ニアが頷いた。
「でも、そういうのは編入試験を無事に突破してからよ?
まずは編入試験ね。あなたたち、ちゃんと勉強したの?
昨日、参考書は渡したけど……昨日の今日で大丈夫?」
ノヴァが余裕のある笑みで答える。
「僕らなら、あれくらいは何とかなると思いますよ。
一般常識は難しいと思いますが、それくらいじゃないですか?
特に不安は感じていません」
ニアが小さくため息をついた。
「私が不安に思っているのは、『この時代の範囲を超えた知識を披露してしまわないか』ということよ。そこは大丈夫なの?」
アイリーンが頷いた。
「参考書で、おおよその範囲は把握したわ。
後はなるようになるだけよ。
この時代を超えた知識も、今の人たちには理解ができないんじゃないかしら
ただの誤答になるはずよ。
それでダメだったら、素直に諦めるわ」
そして、応接間のドアがノックされた。
****
応接間に入ってきたのは、和やかな笑みを湛えた老年の男性だった。
「リストリット殿下の近衛魔導士、ニア様ですな?
私は本校の理事長を務めるウェシュゲットと申します。
この子供たちが本日、編入試験を受けるノヴァくんとアイリーンさん、ということで間違いないですかな?」
ニアは立ち上がり、ウェシュゲットに会釈した。
「ええ、彼らで間違いありません。
理事長自らとは恐縮です」
ウェシュゲットは和やかな笑みのまま答える。
「いえいえ、リストリット殿下直々の要請とあらば、私が出るべきでしょう。
ですが彼らは少し前まで言語を操ることすらできなかった孤児だと聞いています。
本当に学園に通わせるおつもりですか?」
ニアが苦笑を浮かべて答える。
「私も『問題が多いのでは』と進言したのですが……。
殿下は『ここでも彼らの能力には不足だろう』と仰り、譲られなかったのです」
ウェシュゲットが少し困ったように答える。
「確かに、本校より学力の高い学校は、そう多くはありません。
その中では最も規制が緩く、自由な校風が特徴の本校は、一番マシな選択でしょう。
それでも問題は多いと思います。
ですが、それも編入試験を突破して初めて問題となる。
まず試験を受けて頂きましょう。
そこで壁の厚さを実感して頂けると思います」
ウェシュゲットの言葉は柔らかい。
だが言ってることは『孤児風情がこの学園に通えるわけがないだろう』である。
あまり歓迎されていないと感じたアイリーンが、不安を感じてニアに尋ねる。
「ねぇニアさん。私たち歓迎されてないのね。なぜかしら?」
ニアも困ったような微笑みで答える。
「ここは王侯貴族の名門校。
格式と伝統に誇りがあるのよ。
『孤児が通えるわけがない』と言われてしまうのは、仕方がないわ。
悔しかったら試験で見返すしかないの」
アイリーンがニコリと微笑んで答える。
「ではそうするわね。
あの程度の水準で私たちを追い返せると思ったら大間違いだと、思い知らせてあげないといけないわ」
ウェシュゲットが困惑するような顔でアイリーンたちを見つめていた。
「……いいでしょう。では試験会場へ案内します」
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ニアを応接間に残し、ノヴァとアイリーンはウェシュゲットの後に続いて試験会場に入った。
試験会場は無人の教室を利用するようだ。
広い教室に机が段を作って並んでいる。
普段はこの机に、生徒たちが大勢並んでいるのだろう。
ウェシュゲットがアイリーンたちに告げる。
「君たちはその机に座って試験を受けてもらいます。
試験官は私が自ら務めますから、不正行為があればすぐにわかりますよ」
ノヴァとアイリーンは何も言い返さず、示された席に静かに着席した。
『不正行為ですって。失礼しちゃうわ』
『黙っておけ。聞かれるぞ』
この教室には不正行為見地の魔法術式が張られている。
それを見たノヴァは、すぐに認識阻害魔法を解除していた。
先史文明言語を聞かれても意味は分からないだろうが、不正行為とみなされる可能性がある。
アイリーンは仕方なく、黙って編入試験の問題を受け取り、机に広げた。
筆記用具を用意し、準備万端である。
ウェシュゲットが時計を確認しながら声を上げる。
「では開始してください!」
ノヴァとアイリーンは静かに問題を解き始めた。
三十分後、二人の回答用紙がウェシュゲットに提出された。
ウェシュゲットが目を見開いてアイリーンたちに尋ねる。
「もういいんですか? まだ時間は三十分残っていますよ?」
アイリーンが微笑んで答える。
「だってもう、書くところが残ってないもの。
問題は全て解いたわ。
この後、私たちはどうしたらいいのかしら?」
ウェシュゲットは素早く回答用紙に目を通していく。
「……いいでしょう。これから採点をします。
少し待っていてください」
ウェシュゲットはその場で素早く採点を開始した。
採点を終えたウェシュゲットが、困惑しながら尋ねる。
「二人とも、ほぼ満点です……。
君たち、ここまでの学力をどうやって得たのですか?」
アイリーンが微笑んで答える。
「昨日、ニアさんから参考書を受け取ったわ。それで充分よ」
『一日あれば充分』――そう言い切られ、ウェシュゲットは言葉を失っているようだった。
「……いいでしょう。編入試験は問題なく合格です。
では、応接間に戻りましょう」
ウェシュゲットに連れられ、アイリーンたちは試験会場を後にした。
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応接間に戻ったノヴァとアイリーンを、ニアが驚いた顔で迎えた。
「二人とも、もう終わったの?」
アイリーンが微笑んで頷いた。
「思った通り、簡単だったわ」
ニアがウェシュゲットの顔を見て尋ねる。
「二人は理事長の目から見て、どうでしたか?」
ウェシュゲットが小さく感嘆のため息をもらした。
「……途方もない学力、というしかないですね。
本校の授業で彼らに満足してもらえるのか、その自信すらなくなりそうです。
あとは編入後、生徒たちと問題を起こさなければいいのですが、それは難しいでしょう。
生徒たちは全て貴族子女です。
孤児が通うとなれば、必ず軋轢が生まれます。
色々と問題が発生するのは避けれられません。
その覚悟が二人にはありますか?」
アイリーンが笑顔で答える。
「実力で黙らせてみるわ」
ウェシュゲットが再び言葉を失ったようだった。
「……わかりました。我が学園へようこそ、ノヴァくん、アイリーンさん。
君たちの編入は一週間後の週明け、ということで間違いありませんか?」
アイリーンがニアに振り向き、ニアが頷いた。
アイリーンがウェシュゲットに笑顔で答える。
「間違いないそうです。では、これからよろしくお願いします!」
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