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第2章:星の少年と炎の少女
第27話 国王の帰還
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ノヴァたち五人は控室から出て、各々で分散した。
ノヴァとアイリーンはそのまま居室へと戻った。
リストリット、ニア、テスティアは夜会へ戻り、他の人間と言葉を交わしていく。
テスティア女皇を歓迎する夜会は無事に終わり、テスティアは滞在先へ帰った。
リストリットは私室ではなく、執務室へと戻ってきていた。
溜まった政務をもう少し片付けたかったのだ。
リストリットは部屋に入るなり、執務席に乱暴に腰掛け、静かに息を吐いた。
「はぁ。疲れた。ノヴァの側近を名乗っていたな。
これから一週間、テスティア女皇が滞在する愛だ、ノヴァの傍に居ようとするかもしれん。
そうなるとあんな空気が続くのかねぇ」
傍に控えるニアも、疲れを隠し切れない表情だ。
「いまだに信じられません。
でも女皇に言われたように、工房用地の選定を早く進めないといけません。
やることが増えましたね」
「まったくだ。陛下もそろそろ帰国する。
そうしたらお前との婚姻の話も進めにゃならん。
目が回る忙しさだな」
リストリットの目が、一通の報告書に落とされた。
「この上で、また新しい問題か。頭が痛いよ」
「殿下? 何があったのですか?」
リストリットが小さく息をついた。
「どうやら国内で『異教』が勢力を増しているらしい。
エウセリア正教から信徒を奪い、着実に力をつけているそうだ。
だが教義に問題があってな。見過ごすわけにはいかん」
ニアが小首を傾げた。
「問題とは、どのような?」
リストリットの表情が険しくなる。
「人間を生贄にする儀式を行うらしい。
最近増えて来た行方不明者は、儀式の犠牲者ではないか、と報告にある。
だが、なぜか貧しい民衆を中心に信徒が増え続けている、とな。
内部に入り込んだ諜報員は、ことごとく連絡が途絶える。厄介泣いてだ。
連絡が途絶える前に集められた情報が『人間を生贄にするらしい』というところまでだ。
どうも、儀式を経験した後、すぐに連絡が途絶えるようだな。
儀式の内容を報告できた諜報員が居ない。
儀式の最中か、その帰りで何かあるんだろう」
ニアの表情が強張る。
「恐ろしいですね。どう対処なさるんですか?」
「我が国の諜報部は貧弱だ。
これ以上、人員を欠損するわけにはいかない。
しばらくは内部潜入するのを控えて、外部から攻略するしかあるまい。
他国でも活動している異教かもしれん。
国外の活動状況を調査させ、そちらを優先させる。指示はすでに出してある」
「その異教の名は、なんというのですか?」
リストリットが忌々しそうに告げる。
「――デルグ・エスト教。俺たちからすれば、邪悪な宗教だな。
この報告も、陛下にしなきゃならんな」
****
三日後、ウェルバット国王ビディコンスと王妃てな―が共に王都に戻った。
帰国当日、国王と王妃は早速テスティア女皇と面会し、不在を詫びた。
その後、溜まっていた国王の決済を求める書類を片付けていった。
翌朝、リストリットはビディコンス、そしてテナーと朝食をともにしていた。
「父上、こうしてテーブルを共に囲むのは久し振りですね」
ビディコンスは疲れ切った笑顔で頷いた。
「そうだな。お前も私も、あまり共に食事をすることがなかった。
――それで、改まってどうした?
報告書は読んだが、問題は山積みのままだな」
リストリットは咳払いをしてから、改めて父親の顔を見た。
「実は、伴侶となるべき女性を決めました。
父上には彼女との婚姻許可を頂きたい」
ビディコンスはわずかに笑みを柔らかくした。
「そうか、ニアと所帯を持つ決断を、ようやくしたのか。
十年――長くかかったな」
リストリットは照れながら答える。
「申し訳ありません。友人に背中を押され、ようやく結果を出せました。
――では、許可を頂けるということでよろしいですか?」
ビディコンスは微笑んで頷いた。
「もちろんだとも。
王子妃ともなれば、ニアも苦労が多いことだろう。
お前がきちんと支えてやりなさい」
テナーもまた、嬉しそうに微笑んだ。
「傍からみていて『いつくっつくのかしら』とやきもきしていたのよ?
ようやくケリがついて、心配事が一つ減ったわね」
リストリットも笑い、明るい雰囲気が場に流れた。
再び食事を食べ進めようとするビディコンスに、リストリットが真剣な顔で尋ねる。
「父上、ミドロアル王国との交渉はどうなりましたか」
ビディコンスは難しい顔になり、ゆっくりと口を開く。
「やはり『献上金を寄越せ』ということになった。
減額や期限延長を交渉したが、応じてはもらえなかった。
三か月以内に再び献上金を渡さねばならん。
軍事予算を割けば、なんとか応じられる学ではあるが、来年の増税は免れん。
国民の不満は大きくなるだろう。
――リストリット、お前は竜峰山の古代遺跡へ赴いたそうだな?
古代遺物を手に入れることはできなかったのか?」
リストリットは渋面になって答える。
「申し訳ありません、父上。
古代遺跡はすでに荒らされ、古代遺物は持ち去られた後でした。
目ぼしいものは見つからず、成果は何もありません」
ビディコンスは落胆を見せ、大きくため息をついた。
「そうか。『もしかしたら』と思ったのだがな。
古代遺物があれば、この窮状も脱する可能性があるのだが。
――ところで、お前は孤児を二人、ピークスで拾ってきたそうだな。
お前の奇行はいつものことだが、どういった理由で連れて来た子供なんだ?」
リストリットが薄く微笑んで答える。
「彼らは見たところ、十四歳前後です。
成人間近で言葉も満足に話せぬ孤児というのも珍しいと思いまして。
見るに見かねて、彼らに教育を施そうと連れてまいりました。
そうしあら彼らには、高い学力を修める能力があると分かり、胸を躍らせているところです。
週明けから彼らはアルテイル魔導学園に通わせることになっています」
テナーが驚き、手で口元を押さえた。
「あら、あの学園の編入試験を突破したというの?
言葉を話せなかった孤児が?
どういった生まれの子なのかしら……不思議ね」
リストリットが頷いて答える。
「ウェルバット語も短期間で習得してしまいましたし、とても高い能力を持っていますね。
ですが、彼らは自分の名前以外を覚えていないそうです。
素性を辿るのは難しいでしょう」
ビディコンスは納得するように頷いた。
「そうか、お前が『難しい』というのであれば、そうなのだろう。
だが一度、直接会ってみたい。場を設定してくれないか」
リストリットが頷いて答える。
「分かりました。父上がそう仰るのであれば、この週末に一席設けましょう。
では私は政務が溜まっておりますので、これで失礼いたします」
そう言うとリストリットは朝食を中断し、足早にその場を後にした。
残された国王ビディコンスと王妃てな―が、静かに食事を続ける。
スープの皿に向かうビディコンスに、テナーが顔を向けて尋ねる。
「ねぇあなた、どう思う?」
「あいつは隠し事が下手だからな。
事情がある子供なのだろう。
裏で調べさせたが、あいつが口にしたこと以上の情報は得られなかった。
子供の世話係も、怪しいところはないと言っている。
あいつにしては珍しく、相当慎重に事を進めたようだな」
テナーが目を伏せて告げる。
「アルトゲイル皇国のテスティア女皇が『歓迎夜会で子供たちと見つめ合っていた』という話も耳にしています。
あの国と何か、関係がある子供たちなのかもしれませんね」
ビディコンスが頷いて答える。
「おそらくは、な。
後でリストリットに『茶会にはテスティア女皇も招くように』と伝えておくか。
その方が話が早そうだ」
国王と王妃はその後、静かに朝食を平らげ、それぞれの執務室へと向かっていった。
ノヴァとアイリーンはそのまま居室へと戻った。
リストリット、ニア、テスティアは夜会へ戻り、他の人間と言葉を交わしていく。
テスティア女皇を歓迎する夜会は無事に終わり、テスティアは滞在先へ帰った。
リストリットは私室ではなく、執務室へと戻ってきていた。
溜まった政務をもう少し片付けたかったのだ。
リストリットは部屋に入るなり、執務席に乱暴に腰掛け、静かに息を吐いた。
「はぁ。疲れた。ノヴァの側近を名乗っていたな。
これから一週間、テスティア女皇が滞在する愛だ、ノヴァの傍に居ようとするかもしれん。
そうなるとあんな空気が続くのかねぇ」
傍に控えるニアも、疲れを隠し切れない表情だ。
「いまだに信じられません。
でも女皇に言われたように、工房用地の選定を早く進めないといけません。
やることが増えましたね」
「まったくだ。陛下もそろそろ帰国する。
そうしたらお前との婚姻の話も進めにゃならん。
目が回る忙しさだな」
リストリットの目が、一通の報告書に落とされた。
「この上で、また新しい問題か。頭が痛いよ」
「殿下? 何があったのですか?」
リストリットが小さく息をついた。
「どうやら国内で『異教』が勢力を増しているらしい。
エウセリア正教から信徒を奪い、着実に力をつけているそうだ。
だが教義に問題があってな。見過ごすわけにはいかん」
ニアが小首を傾げた。
「問題とは、どのような?」
リストリットの表情が険しくなる。
「人間を生贄にする儀式を行うらしい。
最近増えて来た行方不明者は、儀式の犠牲者ではないか、と報告にある。
だが、なぜか貧しい民衆を中心に信徒が増え続けている、とな。
内部に入り込んだ諜報員は、ことごとく連絡が途絶える。厄介泣いてだ。
連絡が途絶える前に集められた情報が『人間を生贄にするらしい』というところまでだ。
どうも、儀式を経験した後、すぐに連絡が途絶えるようだな。
儀式の内容を報告できた諜報員が居ない。
儀式の最中か、その帰りで何かあるんだろう」
ニアの表情が強張る。
「恐ろしいですね。どう対処なさるんですか?」
「我が国の諜報部は貧弱だ。
これ以上、人員を欠損するわけにはいかない。
しばらくは内部潜入するのを控えて、外部から攻略するしかあるまい。
他国でも活動している異教かもしれん。
国外の活動状況を調査させ、そちらを優先させる。指示はすでに出してある」
「その異教の名は、なんというのですか?」
リストリットが忌々しそうに告げる。
「――デルグ・エスト教。俺たちからすれば、邪悪な宗教だな。
この報告も、陛下にしなきゃならんな」
****
三日後、ウェルバット国王ビディコンスと王妃てな―が共に王都に戻った。
帰国当日、国王と王妃は早速テスティア女皇と面会し、不在を詫びた。
その後、溜まっていた国王の決済を求める書類を片付けていった。
翌朝、リストリットはビディコンス、そしてテナーと朝食をともにしていた。
「父上、こうしてテーブルを共に囲むのは久し振りですね」
ビディコンスは疲れ切った笑顔で頷いた。
「そうだな。お前も私も、あまり共に食事をすることがなかった。
――それで、改まってどうした?
報告書は読んだが、問題は山積みのままだな」
リストリットは咳払いをしてから、改めて父親の顔を見た。
「実は、伴侶となるべき女性を決めました。
父上には彼女との婚姻許可を頂きたい」
ビディコンスはわずかに笑みを柔らかくした。
「そうか、ニアと所帯を持つ決断を、ようやくしたのか。
十年――長くかかったな」
リストリットは照れながら答える。
「申し訳ありません。友人に背中を押され、ようやく結果を出せました。
――では、許可を頂けるということでよろしいですか?」
ビディコンスは微笑んで頷いた。
「もちろんだとも。
王子妃ともなれば、ニアも苦労が多いことだろう。
お前がきちんと支えてやりなさい」
テナーもまた、嬉しそうに微笑んだ。
「傍からみていて『いつくっつくのかしら』とやきもきしていたのよ?
ようやくケリがついて、心配事が一つ減ったわね」
リストリットも笑い、明るい雰囲気が場に流れた。
再び食事を食べ進めようとするビディコンスに、リストリットが真剣な顔で尋ねる。
「父上、ミドロアル王国との交渉はどうなりましたか」
ビディコンスは難しい顔になり、ゆっくりと口を開く。
「やはり『献上金を寄越せ』ということになった。
減額や期限延長を交渉したが、応じてはもらえなかった。
三か月以内に再び献上金を渡さねばならん。
軍事予算を割けば、なんとか応じられる学ではあるが、来年の増税は免れん。
国民の不満は大きくなるだろう。
――リストリット、お前は竜峰山の古代遺跡へ赴いたそうだな?
古代遺物を手に入れることはできなかったのか?」
リストリットは渋面になって答える。
「申し訳ありません、父上。
古代遺跡はすでに荒らされ、古代遺物は持ち去られた後でした。
目ぼしいものは見つからず、成果は何もありません」
ビディコンスは落胆を見せ、大きくため息をついた。
「そうか。『もしかしたら』と思ったのだがな。
古代遺物があれば、この窮状も脱する可能性があるのだが。
――ところで、お前は孤児を二人、ピークスで拾ってきたそうだな。
お前の奇行はいつものことだが、どういった理由で連れて来た子供なんだ?」
リストリットが薄く微笑んで答える。
「彼らは見たところ、十四歳前後です。
成人間近で言葉も満足に話せぬ孤児というのも珍しいと思いまして。
見るに見かねて、彼らに教育を施そうと連れてまいりました。
そうしあら彼らには、高い学力を修める能力があると分かり、胸を躍らせているところです。
週明けから彼らはアルテイル魔導学園に通わせることになっています」
テナーが驚き、手で口元を押さえた。
「あら、あの学園の編入試験を突破したというの?
言葉を話せなかった孤児が?
どういった生まれの子なのかしら……不思議ね」
リストリットが頷いて答える。
「ウェルバット語も短期間で習得してしまいましたし、とても高い能力を持っていますね。
ですが、彼らは自分の名前以外を覚えていないそうです。
素性を辿るのは難しいでしょう」
ビディコンスは納得するように頷いた。
「そうか、お前が『難しい』というのであれば、そうなのだろう。
だが一度、直接会ってみたい。場を設定してくれないか」
リストリットが頷いて答える。
「分かりました。父上がそう仰るのであれば、この週末に一席設けましょう。
では私は政務が溜まっておりますので、これで失礼いたします」
そう言うとリストリットは朝食を中断し、足早にその場を後にした。
残された国王ビディコンスと王妃てな―が、静かに食事を続ける。
スープの皿に向かうビディコンスに、テナーが顔を向けて尋ねる。
「ねぇあなた、どう思う?」
「あいつは隠し事が下手だからな。
事情がある子供なのだろう。
裏で調べさせたが、あいつが口にしたこと以上の情報は得られなかった。
子供の世話係も、怪しいところはないと言っている。
あいつにしては珍しく、相当慎重に事を進めたようだな」
テナーが目を伏せて告げる。
「アルトゲイル皇国のテスティア女皇が『歓迎夜会で子供たちと見つめ合っていた』という話も耳にしています。
あの国と何か、関係がある子供たちなのかもしれませんね」
ビディコンスが頷いて答える。
「おそらくは、な。
後でリストリットに『茶会にはテスティア女皇も招くように』と伝えておくか。
その方が話が早そうだ」
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