神を拾った竜殺し~星の少年と炎の少女~・改訂版

みつまめ つぼみ

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第2章:星の少年と炎の少女

第28話 国王対策会議

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 リストリットの執務室に、国王の侍従が姿を見せた。

「殿下、陛下から言伝ことづてです。
 『週末の茶会にはテスティア女皇も招いてほしい』とのこと。
 調整をお願いできますか」

 リストリットがうなずいて答える。

「わかった、陛下には『お任せください』とお伝えしろ」

 侍従が辞去した後、リストリットはうつむいて深く息を吐きだした。

「……ニア、人払いをしてくれ」

 ニアはうなずくと、部屋に控える従者たちを室外へと送り出し、執務室のドアを閉めた。

 ドアが閉まる音を確認し、リストリットが声を上げる。

「あ~! どうしてこう勘付くかなぁ?! もう!」

 ニアが苦笑しながら答える。

「殿下は隠し事が下手ですからね。
 それに、テスティア女皇がノヴァくんたちと夜会で会話していたのが目撃されています。
 ノヴァくんは『会話の内容までは認識させていない』と言ってました。
 そうなると『長い間、彼らが見つめ合ったあとに控室に向かった』ように見えるはず。
 噂にならない訳がありません」

 リストリットは執務机の上で頭を抱えていた。

「ほんと、どうするかなぁ……さすがにこれは、俺だけじゃ対策を考え付かん。
 ノヴァたちに相談に行くか」

 立ち上がったリストリットは、ニアを伴いノヴァたちの居室へと向かった。




****

「ノヴァ、ちょっといい……か……」

 リストリットがノヴァの居室に入るなり目に飛び込んできたのは、異様な光景だった。

 ソファに座り穏やかに会話を交わすノヴァとアイリーン。

 その背後に、うやうやしく控えるテスティア女皇の姿。

 世話係の侍女たちは、そのことに気づいていないようだ。

 リストリットは戸惑いながらノヴァたちに近づき、ぽつりとつぶやく。

「なんで、テスティア女皇がここに居るんだ?」

 テスティアが静かに答える。

「私はノヴァ様のそばづかえです。
 そばに控えるのは、至極当然でしょう」

 ニアも茫然ぼうぜんたずねる。

「なんで誰も騒がないの……」

 ノヴァが軽く笑いながら答える。

「テスティアは今、人間が認識できないように神の力で認識を阻害しています。
 彼女がここに居ることを認識できる人間は、リストリットとニアだけですよ」

 そんな器用な魔導を、リストリットは見たことも聞いたことも無い。

 ――でたらめだな、神様ってのは。

 リストリットは頭をきながら、ノヴァたちの正面に腰を下ろし、ニアも続いた。

 侍女たちによって紅茶が給仕されるが、侍女たちがテスティアに気づく様子はない。

 リストリットは侍女が下がると同時にノヴァにたずねる。

「じゃあ、俺たちがしている会話はどうなってるんだ?」

「僕たちの会話は、僕が認識阻害魔法で認識させていません。
 当たりさわりのない会話をしているように感じているはずです。
 それこそ『会話の内容も記憶に残らない』ほどの、ね」

 アイリーンが微笑ほほえんでたずねる。

「それで、急にどうしたの?
 忙しいリストリットさんが朝からここに来るだなんて、珍しいわね」

 リストリットが疲れたように小さく息をつく。

「陛下にお前たちのことを隠蔽いんぺいして説明した。
 だが何かに勘付かれて、『お前たちと直接会いたい』と言われている。
 加えて『その時にテスティア女皇も招いてほしい』とも言われた。
 どうしたらいいと思う?」

 ノヴァが苦笑を浮かべながら答える。

「僕らのことを、なんと説明したのですか?」

「『言語も操れない孤児が珍しいから、教育するために連れて来た』と説明した。
 『名前以外、何も覚えていない』とも」

「では、古代遺物ロスト・アーツのことはなんと?
 必ず聞かれたでしょう?」

 リストリットがうなずいて答える。

「『既に遺跡は荒らされた後で、何も成果はなかった』と伝えた。
 竜峰山ドラゴンズ・ピークは未だ、竜が多数生息する難所だ。
 あそこに調査に行ける国は少ない。
 少なくとも、我が国にそんな人材は居ない」

 ノヴァが紅茶に目を落とし、思案しながら答える。

「……僕らのような古代遺物ロスト・アーツは、よくあるのですか?」

「少なくとも、俺は聞いたことがない」

 ノヴァの背後からテスティアが答える。

「これまで人間が所有してきた古代遺物ロスト・アーツは全て把握しております。
 ですが『生体』は初めてです。
 古代遺物ロスト・アーツといえば通常、持ち運べる魔導機材や構造物から取り外せる魔導装置でした。
 古代遺跡ベリド・アークそのものが古代遺物ロスト・アーツと同じ『先史文明の叡智えいちの結晶』という認識も一般的ではないくらいです。
 先史文明の技術は未だ、謎に包まれた神秘の世界。
 ウェルバット国王も生体であるノヴァ様たちを、すぐに古代遺物ロスト・アーツと結びつけることは難しいでしょう」

 ノヴァが思案しながら答える。

「……では、僕らは『アルトゲイルから流れて来た孤児』ということにでもしましょうか。
 テスティアは僕らに『アルトゲイルの血統を感じたので観察していた』とでも言えば、なんとかなるでしょう。
 僕らの身体的特徴に、アルトゲイル独特のものがあったりしませんか」

 テスティアが恐縮しながら答える。

「いえ、特にこれと言ってそのような特徴はありません。
 『知り合いの面影を感じた』、とでもするしかないかと」

 ニアが小首をかしげて告げる。

「女皇の知り合いって、王侯貴族にならないの? 大丈夫?」

 テスティアが背後からノヴァを見つめて告げる。

「ならばいっそ、おそれながらノヴァ様とアイリーン様を『我が子』とさせて頂けませんか。
『乳母に預けていた我が子が、賊にさらわれ行方不明になっていた』と。
 『不名誉なことなので伏せていた』と言えば、通用するかと」

 アイリーンが紅茶を一口飲んで告げる。

「んー、それならいつ頃さらわれたのかしら?
 物心がつく頃なら、アルトゲイルのお言葉を話せてもおかしくないわ。
 それにアルトゲイル皇国の女皇の子供なんて、他国に存在が知られているはずよ?」

 ノヴァが小さく息をついて答える。

「となれば、『私生子』とするしかないでしょう。
 国内ですら存在を隠されるような子供でなければなりません。
 さらわれて名前以外を忘れるほど幼い頃――十年前が妥当でしょうか。
 そのくらいにさらわれた僕らは、『人買いからなんとか逃れ、ピークスに流れ着いた』。
 これならなんとか通用するでしょう。
 僕とアイリーンが兄妹になってしまいますが、そこは諦めるしかないでしょう」

 テスティアがノヴァに答える。

「いえ、アイリーン様は『乳母の子』とすれば問題はありません。
 これならば血縁関係はなくなります。
 アルトゲイルは秘密主義に国家、他国に国内の情報はほとんど漏れません。
 調査をしても露呈ろていすることはないでしょう」

 リストリットが大きく息を吐いた。

 ゆっくりとカップを傾けて紅茶を飲み干したあと、吐き出すように告げる。

「なんとかなりそうだな!
 じゃあ詳しい事情はお前たちの口から説明することにしよう。
 俺は嘘が苦手らしいから、なるだけ事情は知らないことにする。
 茶会は明日の午後だ」

 リストリットとニアはソファから立ち上がると、ノヴァたちの居室をあとにした。




****

 第一離宮の研究室に、ウェルト第一王子の姿があった。

 不健康そうな顔色をした、手入れをろくにされていない黒髪の男だ。

 彼はいつものように机に向かい、魔導薬学の本を読み込んでいた。

 だが突然立ち上がると、机の上の物をぎ払って床に叩き落し始めた。

 本やペン、インクが無残に絨毯じゅうたんの上に散乱していく。

 一通りヒステリックに暴れたウェルトが、荒い息でつぶやく。

「なぜだ……どういうことなんだ」

 ウェルトが開発した魔力装填薬カートリッジを上回る新薬――魔力充填薬チャージ

 その噂はウェルトの耳にも入ってきていた。

 魔力装填薬カートリッジの問題点である依存性を克服した上、効能も上回るという。

 さらに原価も安く、大量生産に向く素材ばかりだとも聞いていた。

 魔力充填薬チャージが中央審査会に認可されれば、魔力装填薬カートリッジは市場から姿を消すだろう。

 ウェルトが残せた、唯一『己がこの世に存在した証』。

 それを完全に否定する魔導薬を、子供が開発したと聞いた。

 ウェルトが魔力装填薬カートリッジを開発したのも、十五歳になる前だ。

 近い年齢の子供が新薬を開発したとしても、そう不思議ではないだろう。

 だが自分の能力の低さを突き付けるような結果に、ウェルトは納得ができなかった。

 十年以上、魔導薬学に打ち込んだ。それでも魔力装填薬カートリッジを改良することができなかった。

 ウェルトはただ、この国の窮状きゅうじょうを救いたい一心だった。

 そんな思いがむくわれず、時間だけが過ぎていく。

 今はもう若さも失われた。人望がないことも、ウェルトは自覚している。

 『そんな自分には、何も残すことなどできない』のだと、突き付けられいら立っていた。


 一通り部屋の中で暴れまわり、研究室が無残な姿に変わった頃、ようやくウェルトは床に腰を下ろした。

 ――救いが、救いが欲しい。

 それは、この王宮にはない。

 エウセリア正教の教会に通っても、求めるものは得られなかった。

 それでも救いを求め続けるウェルトは、外出用の黒い長衣ローブを着込み、頭巾を目深まぶかに被った。

 これだけでもう、ウェルトを王族だと気づける者は、誰一人としていなくなる。

 ウェルトは研究室から抜け出し、第一離宮の廊下を歩いていく。

 彼の命令で、第一離宮には人影がなかった――『気が散るから中に入るな』と厳命したのだ。

 そばづかえも、従者も使用人も、誰一人としていない。

 掃除もろくにされておらず汚れ放題で、内部は廃墟と呼ばれても否定できないありさまだ。

 守衛は離宮正門に、申し訳程度に一名立つのみ。

 ウェルトはいつものように離宮の裏口から王宮を抜け出し、町へ向かって歩いていった。
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