神を拾った竜殺し~星の少年と炎の少女~・改訂版

みつまめ つぼみ

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第2章:星の少年と炎の少女

第32話 国王説得会議

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 午後になり、歴史の授業が始まる。

 ウェルバット王国建国以来の歴史を覚える科目だ。

 今日の範囲は百年前の王朝らしい。いわゆる近代史だ。

 この授業は退屈なりに眠気を耐えきり、アイリーンは初めて座学を最後まで聞いていた。

 ノヴァがアイリーンに告げる。

『凄いじゃないか、居眠りせずに済んだな』

『でも、暗記物なんて本を一度読めば覚えてしまうわ。
 歴史の小話があるから、なんとか耐えられたけど。
 そういう意味では、ムシュメルトさんは良い教師ね』

『頭が良すぎるのも考えものだな。人として生きるのがつらそうだ』

 アイリーンが小さく息をついて答える。

『子供の生活はそんなものだって、お父様は言ってたわ。
 大人になってやっと自由に振る舞えたって。
 お父様はこんな学校生活を経験してたから、私に“行かなくていい”と言ったのね』

 ムシュメルトが教本を閉じ、大きく手を叩いた。

「では、本日の授業はこれまでです。
 皆さん、気を付けて帰るように」

 その声を皮切りに、生徒たちが続々と教室をあとにしていった。

 ノヴァとアイリーンも荷物をまとめ、自分たちの馬車が待つ場所へと向かった。




****

 送迎馬車の前には、侍女の代わりにニアが立っていた。

 アイリーンが驚いてたずねる。

「あら、ニアさんじゃない。侍女たちはどうしたの?」

 ニアが苦笑を浮かべながら答える。

「ちょっと邪魔だから、彼女たちには遠慮してもらったわ。
 中で話したいことがあるの」

 アイリーンは小首をかしげながら、ニアの手を借りて馬車に乗り込む。

 ノヴァも続いて馬車に乗り込み、ドアが閉まって馬車が離宮を目指した。




****

 ノヴァがニアを見て告げる。

「それで、話とは何ですか?」

 ニアがうなずいて答える。

「学校の様子はどうだった? 何か、変わったことはあった?」

 ノヴァがフッと笑みを浮かべて答える。

「朝から急に皇族として扱われ、学園中に知られていましたね」

 ニアがため息をついた。

「やっぱりそうなのね。
 王宮でも同じように、『貴方あなたたちがアルトゲイルの皇族だ』と陛下から布告があったわ」

 ノヴァが肩眉を上げてたずねる。

「国王は何を要求して、テスティアは何をけたんですか? 知っていますか?」

 ニアがきょとんとした顔で答える。

「あら、鋭いわね。
 陛下は経済援助と軍事支援を求めたらしいの。
 テスティアさんも経済援助にはうなずいたわ。
 でも軍事支援にはうなずかなかった。それで陛下が実力行使に出たみたいね」

 ノヴァが嘲笑するように笑った。

「ハハハ! この国からしたら軍事支援が本命でしょうに!
 大方、軍事技術の供与でも求めたのではないですか?
 テスティアは技術流出を嫌がります。決してうなずかないでしょう。
 ――テスティアの様子はどうでしたか?」

「様子を見に行った時は、かなり機嫌が悪そうだったわ。
 殿下が『貴方あなたたちが戻り次第、すぐに執務室に顔を出してほしい』と言ってるの。
 このことを相談したいみたい」

 ノヴァがうなずいて答える。

「では、テスティアもその場に呼びましょう。その方が話が早いでしょう?」

 ニアは黙ってうなずいた。




****

 馬車が離宮に着いてすぐ、ニアはテスティアを呼びに馬を走らせた。

 ノヴァとアイリーンはニアと分かれ、リストリットが待つ執務室へと向かう。

 執務室では、ぐったりとしたリストリットが椅子で頭を抱えていた。

 ノヴァがリストリットに告げる。

「かなり疲れてますね。国王の説得に失敗しましたか」

 リストリットは顔を上げ、力なくうなずいた。

「ああ。『こんなことをすれば、逆に支援を得られなくなる』と、何度も伝えたんだがな。
 かたくなで結局、ご理解いただけなかった」

「では、この続きはテスティアが来てからにしましょう。すぐに来るでしょう」

 もなく、ニアとテスティアが執務室に姿を現した。

 テスティアの顔は不機嫌を隠そうともしていない。

 ノヴァが微笑みながらたずねる。

「どうしました? テスティア。いつも冷静な貴女あなたらしくないですね」

「やはり、人間というものは信用がなりません」

「まぁそう怒らないでください。
 それで、何を要求されたんですか?」

 テスティアが小さく息をついて答える。

「経済援助と軍事支援です。
 経済援助は『無期限無利子で』という話でしたが、こちらは飲みました」

「それで、軍事支援は?」

「一個師団の駐屯ちゅうとんと、軍事技術の供与を要求されました。
 これを飲むわけにはまいりません。
 ――ノヴァ様、この国を見捨て、我が国に来てください」

 ノヴァが不敵に微笑ほほえんだ。

「予想通りですね。確かに軍の駐屯ちゅうとんならまだしも、技術供与は飲めないでしょう。
 大方、アルトゲイル皇国は先史文明に近い技術水準を維持させているのでしょう?」

 テスティアがうなずいて答える。

「仰る通りです。
 古代遺物ロスト・アーツを確保して暴走した国家が現れた場合、力でねじ伏せる必要があります。
 ある程度の軍事力が必要だと判断しました」

「そんな国家が現れたら、貴女あなた自ら手を下せば良いじゃないですか。
 そうは思わなかったんですか?」

「その手も考えましたが、選択肢の一つ、最後の手段としております。
 『人間たちに分かりやすい抑止力は必要だ』と判断しました」

 ノヴァが小さく息をついて答える。

「なるほど、抑止力ですか。では仕方ありませんね」

 リストリットがノヴァにたずねる。

「それで、この問題をどうしたらいい?
 お前らも突然皇族扱いされて、困惑しただろう?」

 ノヴァがリストリットに振り向いてたずねる。

「リストリット、貴方あなたはどうするべきだと思いますか?
 貴方の中にある選択肢を言ってみてください」

 リストリットがうつむいて答える。

「……ひとつはテスティア女皇の言う通り、お前らがアルトゲイル皇国に行くことだ。
 それが一番確実だ。だが嬢ちゃんの新生活が始まったばかりで、俺には決断が難しい」

「もう一つは? 本当はそれで悩んでいるのでしょう?」

 リストリットが深いため息をついた。

「……陛下に退位して頂く。ああも目が曇り、なりふり構わなくなった陛下は見てられん。
 だがこれは俺に王位を譲ってもらわねばならない。陛下がそれにうなずくかはわからん。
 それに、ニアが王妃になる。ニアにかかる負担が王子妃の比較にならない」

 ノヴァが顎に手を当てて告げる。

「国王とは一度会いましたが、ここまで強引な手を打つ人間には見えませんでした。
 何か新しい情報があったのではないですか? 急を要する事情が」

「……おそらく、ミドロアル王国が動いている。
 陛下の元に、ミドロアル王国の軍部が動いている情報が入ったんだと思う。
 ならば近いうちに国境沿いに部隊を配置されることになる」

 ノヴァがうなずいて告げる。

「では取り急ぎ、一個師団とはいかなくても、アルトゲイルから軍を派遣させてください。
 それで少しは時間が稼げるでしょう。
 技術供与だけは、飲ませるわけにはいきませんね。
 今のこの国にアルトゲイルの技術を扱うだけの素養はありません。暴走して終わるだけです」

 テスティアが目を見張って告げる。

「そのご意志でよろしいのですか?!
 ノヴァ様は『たとえ人間がどのような結末を選択しようと、それを見守る』と仰ったではありませんか!」

 ノヴァが苦笑を浮かべながら答える。

「それではテスティア、貴女が納得しないでしょう。
 それにアルトゲイルの人間も納得しません。
 貴方の意思に従わず、アルトゲイルの人間がこの国に攻め込むでしょう。
 そうなれば泥沼です。仕方ありませんね。
 しばらくは貴女あなたの言う通り、『神の管理社会』を続けるしかないでしょう。
 変化する時間が必要です」

 リストリットが唖然あぜんとしてノヴァにたずねる。

「いいのか? あれほど怒りをあらわにするほど、管理社会を嫌っていたお前がそれで」

「僕も納得したわけではないですが、今だアイリーンの体は再調整が住んでいません。
 戦火に巻き込まれれば命を落としかねない。
 今、この国を戦乱の泥沼に巻き込むわけにはいきません。
 ――魔導工房の手配はどうなっていますか?」

 リストリットがうなずいて答える。

「あ、ああ。用地の選定は終わった。離宮のそばにある林を崩して、そこに建てる。
 魔導工房でやることも、持ち込む技術も、この国の人間に知られるわけにはいかない。
 王宮の敷地内の方が都合がいいだろう」

 ノヴァがうなずいて答える。

「わかりました。それで良いでしょう――テスティア、魔導工房の工期はどれくらいですか?」

 テスティアがノヴァに答える。

「はい、既に技師と資材の準備は進めております。
 もなくこの国に到着しますので、それから一か月あれば構築して御覧に入れます」

 ニアが目を見張って声を上げる。

「高度な魔導工房を、一か月で構築するの?! 嘘でしょう?!
 普通、魔導工房なんて最低でも半年はかかるわよ?!」

 テスティアは自信のある笑みでニアを見つめ返した。
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