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第2章:星の少年と炎の少女
第48話 火竜の息吹
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ノヴァとアイリーンを乗せた馬が、ミドロアル王国軍に向かって駆けて行く。
ミドロアル王国軍は戸惑ったが、応戦しないわけにもいかない。
百騎の騎兵が、応じるように前へ出た。
二つの軍が接触し、ノヴァとアイリーンが切り捨てられる――そう思われた瞬間。
アイリーンの口から雲のように巨大な炎が吹きつけられ、接近する百騎ごと、背後のミドロアル王国軍を焼いた。
火竜の息吹だ。その炎は一瞬で人間を炭化させ、ミドロアル王国軍三千が地上から消えた。
そのまま、さらに切り込んでいくノヴァとアイリーンを恐れ、ミドロアル王国軍は恐慌状態に陥りかけた。
だが士官が叱咤し統制を取り、なんとか立て直してノヴァたちに向かっていく。
だが殺到する兵士たちの攻撃は、ノヴァにもアイリーンにも、そして乗馬にも通じなかった。
剣も槍も弓も効かず、魔導士部隊による魔法攻撃すら、彼らは意に介さない。
二人はあらゆる攻撃をそよ風のようにあしらいながら、敵陣奥深くへ進んでいく。
彼らの前に立ち塞がる者は、再び火竜の息吹で地上から姿を消した。
逃げ惑い始めるミドロアル王国軍に対して、空から無数の雷が降り注ぎ、次々とその姿を炭化させていった。
攻めることも、守ることも、そして逃げることすら許されなかった。
ミドロアル王国軍一万は呆気なく地上から姿を消した。
その様子を後方の高台で見ていた、後詰のミドロアル王国軍二千は直ちに退却していった。
****
戦場に残ったのは無傷のウェルバット王国軍二万と、二人の少年少女――ノヴァとアイリーンだ。
圧倒的すぎる力に、恐れおののき、逃げ出そうとする兵士もいた。
だが都度、リストリットが声を張り上げ『彼らが味方である』と言い含めた。
『彼らの加護がウェルバット王国軍にはあるのだ』と。
軍の形を何とか維持し、リストリットは胸を撫で下ろしていた。
そんなリストリットの元へ、ノヴァとアイリーンが戻ってくる。
その姿に、周囲の兵全員が下がった――近衛兵すら、役目を忘れて下がったのだ。
ノヴァとアイリーンを避けるように、リストリットの周囲から兵が居なくなった。
リストリットに近づいてきたアイリーンが、紅潮した笑顔で告げる。
「あー楽しかった。手加減せずにテディの力を使うと、こうなるのね」
戦場の命のやり取りを『楽しい』と言い切る少女に、リストリットは戦慄を覚えていた。
リストリットは平静を装って微笑んで答える。
「そうか、楽しかったか」
「ええ! 生前はこんな風に力を使う機会なんてなかったもの。
死んでしまった人たちは可哀想だけど、リストリットさんの国に敵対した時点で、死んでしまう運命だったのよ。
それは仕方のないことよ――大丈夫、彼らの魂は、正しく冥界に運ばれるわ。
次の人生では、平和な時代に生まれるといいわね」
アイリーンも、別に殺したくて殺しているわけではない。そこは依然と変わらない。
神同然の存在となって、人の命を軽んじるようになったわけでもないだろう。
これは戦争だ。『戦場で兵が死ぬ』のは、当然のことだ。そう割り切っているのだ。
割り切ったうえで、己の技能を確認し、満足している。
それはリストリットも同じはずだった。
『腕が鈍っていないか確かめたい』と言って先陣を切っているのだから。
戦場は人が死ぬ場所、それだけなのだ。
発言者が少女だと抵抗を感じるなど、男の傲慢もいいところだろう。
彼女は『守るべき存在』ではなく、『力ある存在』なのだから。
ノヴァが拡声魔法でウェルバット全軍に声を響かせる。
「これから先は、ウェルバット王国軍の仕事です。
アイリーンと同じ守りの力を、ウェルバット王国軍の全兵士に付与します。
見ていた通り、いかなる攻撃も通じません。
人も馬も、傷一つつかないことをお約束しますよ。
ただし、落とし穴には気を付けてくださいね。這い上がるのが面倒ですよ?」
たった今、目にしたばかりの神がかり的な力、それを兵士たちは保証された。
半信半疑だが、兵士たちから恐怖心が薄れ、士気が上がっていく。
既にミドロアル王国軍を恐れる気持ちは、ほとんどないようだった。
リストリットが声を張り上げる。
「見たか! 聞いたか! 我らを傷つけられる者は、この地上に存在しない!
このまままっすぐミドロアル王国の王都へ向かい、陥落させる!
恐れることはない! 私が先陣を切る!
お前たちはその背中を追ってこい! 必ずや勝利を手にして見せよう!」
その声に応えるように、次第に歓声も上がっていった。
傷つくことも死ぬことも無いと分かった以上、畏れることは何もなかった。
後は先陣を切る王の背中を追うだけで良いのだ。
戦争を経験したことのない兵士たちから緊張と恐怖が去り、高揚感に満ち溢れた。
リストリットは兵たちの士気を確認すると、馬首を巡らせ、駆け出した。
リストリットを先頭に、士気軒昂した兵士たちが進軍を続けていく。
ウェルバット王国軍は、ミドロアル王国の王都を目指して進んでいった。
****
ノヴァとアイリーン、テスティアは、テディの守りの力を強化して兵士たちに付与していた。
全軍二万に竜の加護を付与する大魔法である。
リストリットは久し振りに長剣を振るい、活き活きと剣士の姿を見せつけていた。
――よし、思ったよりは鈍ってない!
命がけとは言い難い戦いだが、剣を振るうごとに鋭さを増す己の剣閃に満足感を覚えていた。
ブルームスは傭兵部隊を指揮し、部隊の戦闘で敵を切り捨てていく。
彼は忠誠心のない傭兵たちを精神魔法で統率し、恐慌を抑え込んでいるようだった。
ノヴァが約束した通り、ウェルバット王国軍の兵士を傷つけられる者は居なかった。
ミドロアル王国軍はいくつもの罠を試みたが、ことごとく失敗していった。
無人の荒野を行くがごとくウェルバット王国軍は勝ち進んでいく。
一兵卒もかけることなくミドロアル王国の王都に辿り着いていた。
ミドロアル王国は王都の前に一万の兵士を布陣し、待ち構えた。
ここまでの戦いで全く勝ち目がないことを悟り、士気は壊滅的なようだった。
群の形を維持しているだけ立派と言える。
そんなミドロアル王国軍に対し、リストリットが拡声魔法で声を張り上げる。
「私はウェルバット国王、リストリットだ!
これから私が直々にミドロアル王国を終焉させても良い!
だが無条件降伏するのであれば、私はそれも飲もう!
ミドロアル王国の民に一切の手は出さないと、ここに誓おう!
我がウェルバットの軍門に降るか、亡国の道を歩むか、選択するがいい!
降伏したミドロアル王国には自治を許す!
ミドロアルの地はミドロアルの人間が治めよ!
私はこれ以上、ミドロアルの人間が血を流すのを良しとしない!
これは王族であろうと変わらない!
降伏すれば、これ以上ミドロアルの人間が命を落とすことはないとここに誓おう!
さぁ、答えを聞かせてもらおうか! 日が暮れるまでは待とう!」
****
ミドロアル王国軍の陣内では、国王を中心に重臣たちが集まり、意見を出し合っていた。
「陛下! あのような言葉は信じることなどできません!
ウェルバット王国ごときに無条件降伏するなど、屈辱以外の何物でもありません!」
別の重臣が告げる。
「だが奴らに今まで、傷一つでも負わせられたか?
武器も魔法も通用しない。試せるだけの罠も、足止めにすらならなかった。
打つ手はない。士気も壊滅的で、衝突する前に軍が瓦解するのは明らかだ」
「ならばせめて、ミドロアルの誇りをもって死のうではないか!
ウェルバットに降る屈辱など飲めぬ!」
別の重臣が告げる。
「落ち着け。死のうにも兵が付いて来ないだろうが。
貴公一人の誇りの為に、ミドロアルの民の命を失わせる気か」
また別の重臣が告げる。
「その通りだ。ウェルバット王は『我々が降伏すれば王族すら命を奪わぬ』と誓った。
屈辱さえ飲めば、まだ我々は立て直せる。
失った兵は多いが、国を守るだけの余力はまだある」
重臣たちの言葉を全て聞き終え、苦悩していたミドロアル国王が決断した。
「――私一人でウェルバット王と交渉してくる。
皆はそれを見守れ。奴が約束を破り、私に手を出すようであれば、全軍をもって抗え。
私の死後は息子に任せる。あいつを、皆で支えてやってほしい」
ミドロアル王国軍は戸惑ったが、応戦しないわけにもいかない。
百騎の騎兵が、応じるように前へ出た。
二つの軍が接触し、ノヴァとアイリーンが切り捨てられる――そう思われた瞬間。
アイリーンの口から雲のように巨大な炎が吹きつけられ、接近する百騎ごと、背後のミドロアル王国軍を焼いた。
火竜の息吹だ。その炎は一瞬で人間を炭化させ、ミドロアル王国軍三千が地上から消えた。
そのまま、さらに切り込んでいくノヴァとアイリーンを恐れ、ミドロアル王国軍は恐慌状態に陥りかけた。
だが士官が叱咤し統制を取り、なんとか立て直してノヴァたちに向かっていく。
だが殺到する兵士たちの攻撃は、ノヴァにもアイリーンにも、そして乗馬にも通じなかった。
剣も槍も弓も効かず、魔導士部隊による魔法攻撃すら、彼らは意に介さない。
二人はあらゆる攻撃をそよ風のようにあしらいながら、敵陣奥深くへ進んでいく。
彼らの前に立ち塞がる者は、再び火竜の息吹で地上から姿を消した。
逃げ惑い始めるミドロアル王国軍に対して、空から無数の雷が降り注ぎ、次々とその姿を炭化させていった。
攻めることも、守ることも、そして逃げることすら許されなかった。
ミドロアル王国軍一万は呆気なく地上から姿を消した。
その様子を後方の高台で見ていた、後詰のミドロアル王国軍二千は直ちに退却していった。
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戦場に残ったのは無傷のウェルバット王国軍二万と、二人の少年少女――ノヴァとアイリーンだ。
圧倒的すぎる力に、恐れおののき、逃げ出そうとする兵士もいた。
だが都度、リストリットが声を張り上げ『彼らが味方である』と言い含めた。
『彼らの加護がウェルバット王国軍にはあるのだ』と。
軍の形を何とか維持し、リストリットは胸を撫で下ろしていた。
そんなリストリットの元へ、ノヴァとアイリーンが戻ってくる。
その姿に、周囲の兵全員が下がった――近衛兵すら、役目を忘れて下がったのだ。
ノヴァとアイリーンを避けるように、リストリットの周囲から兵が居なくなった。
リストリットに近づいてきたアイリーンが、紅潮した笑顔で告げる。
「あー楽しかった。手加減せずにテディの力を使うと、こうなるのね」
戦場の命のやり取りを『楽しい』と言い切る少女に、リストリットは戦慄を覚えていた。
リストリットは平静を装って微笑んで答える。
「そうか、楽しかったか」
「ええ! 生前はこんな風に力を使う機会なんてなかったもの。
死んでしまった人たちは可哀想だけど、リストリットさんの国に敵対した時点で、死んでしまう運命だったのよ。
それは仕方のないことよ――大丈夫、彼らの魂は、正しく冥界に運ばれるわ。
次の人生では、平和な時代に生まれるといいわね」
アイリーンも、別に殺したくて殺しているわけではない。そこは依然と変わらない。
神同然の存在となって、人の命を軽んじるようになったわけでもないだろう。
これは戦争だ。『戦場で兵が死ぬ』のは、当然のことだ。そう割り切っているのだ。
割り切ったうえで、己の技能を確認し、満足している。
それはリストリットも同じはずだった。
『腕が鈍っていないか確かめたい』と言って先陣を切っているのだから。
戦場は人が死ぬ場所、それだけなのだ。
発言者が少女だと抵抗を感じるなど、男の傲慢もいいところだろう。
彼女は『守るべき存在』ではなく、『力ある存在』なのだから。
ノヴァが拡声魔法でウェルバット全軍に声を響かせる。
「これから先は、ウェルバット王国軍の仕事です。
アイリーンと同じ守りの力を、ウェルバット王国軍の全兵士に付与します。
見ていた通り、いかなる攻撃も通じません。
人も馬も、傷一つつかないことをお約束しますよ。
ただし、落とし穴には気を付けてくださいね。這い上がるのが面倒ですよ?」
たった今、目にしたばかりの神がかり的な力、それを兵士たちは保証された。
半信半疑だが、兵士たちから恐怖心が薄れ、士気が上がっていく。
既にミドロアル王国軍を恐れる気持ちは、ほとんどないようだった。
リストリットが声を張り上げる。
「見たか! 聞いたか! 我らを傷つけられる者は、この地上に存在しない!
このまままっすぐミドロアル王国の王都へ向かい、陥落させる!
恐れることはない! 私が先陣を切る!
お前たちはその背中を追ってこい! 必ずや勝利を手にして見せよう!」
その声に応えるように、次第に歓声も上がっていった。
傷つくことも死ぬことも無いと分かった以上、畏れることは何もなかった。
後は先陣を切る王の背中を追うだけで良いのだ。
戦争を経験したことのない兵士たちから緊張と恐怖が去り、高揚感に満ち溢れた。
リストリットは兵たちの士気を確認すると、馬首を巡らせ、駆け出した。
リストリットを先頭に、士気軒昂した兵士たちが進軍を続けていく。
ウェルバット王国軍は、ミドロアル王国の王都を目指して進んでいった。
****
ノヴァとアイリーン、テスティアは、テディの守りの力を強化して兵士たちに付与していた。
全軍二万に竜の加護を付与する大魔法である。
リストリットは久し振りに長剣を振るい、活き活きと剣士の姿を見せつけていた。
――よし、思ったよりは鈍ってない!
命がけとは言い難い戦いだが、剣を振るうごとに鋭さを増す己の剣閃に満足感を覚えていた。
ブルームスは傭兵部隊を指揮し、部隊の戦闘で敵を切り捨てていく。
彼は忠誠心のない傭兵たちを精神魔法で統率し、恐慌を抑え込んでいるようだった。
ノヴァが約束した通り、ウェルバット王国軍の兵士を傷つけられる者は居なかった。
ミドロアル王国軍はいくつもの罠を試みたが、ことごとく失敗していった。
無人の荒野を行くがごとくウェルバット王国軍は勝ち進んでいく。
一兵卒もかけることなくミドロアル王国の王都に辿り着いていた。
ミドロアル王国は王都の前に一万の兵士を布陣し、待ち構えた。
ここまでの戦いで全く勝ち目がないことを悟り、士気は壊滅的なようだった。
群の形を維持しているだけ立派と言える。
そんなミドロアル王国軍に対し、リストリットが拡声魔法で声を張り上げる。
「私はウェルバット国王、リストリットだ!
これから私が直々にミドロアル王国を終焉させても良い!
だが無条件降伏するのであれば、私はそれも飲もう!
ミドロアル王国の民に一切の手は出さないと、ここに誓おう!
我がウェルバットの軍門に降るか、亡国の道を歩むか、選択するがいい!
降伏したミドロアル王国には自治を許す!
ミドロアルの地はミドロアルの人間が治めよ!
私はこれ以上、ミドロアルの人間が血を流すのを良しとしない!
これは王族であろうと変わらない!
降伏すれば、これ以上ミドロアルの人間が命を落とすことはないとここに誓おう!
さぁ、答えを聞かせてもらおうか! 日が暮れるまでは待とう!」
****
ミドロアル王国軍の陣内では、国王を中心に重臣たちが集まり、意見を出し合っていた。
「陛下! あのような言葉は信じることなどできません!
ウェルバット王国ごときに無条件降伏するなど、屈辱以外の何物でもありません!」
別の重臣が告げる。
「だが奴らに今まで、傷一つでも負わせられたか?
武器も魔法も通用しない。試せるだけの罠も、足止めにすらならなかった。
打つ手はない。士気も壊滅的で、衝突する前に軍が瓦解するのは明らかだ」
「ならばせめて、ミドロアルの誇りをもって死のうではないか!
ウェルバットに降る屈辱など飲めぬ!」
別の重臣が告げる。
「落ち着け。死のうにも兵が付いて来ないだろうが。
貴公一人の誇りの為に、ミドロアルの民の命を失わせる気か」
また別の重臣が告げる。
「その通りだ。ウェルバット王は『我々が降伏すれば王族すら命を奪わぬ』と誓った。
屈辱さえ飲めば、まだ我々は立て直せる。
失った兵は多いが、国を守るだけの余力はまだある」
重臣たちの言葉を全て聞き終え、苦悩していたミドロアル国王が決断した。
「――私一人でウェルバット王と交渉してくる。
皆はそれを見守れ。奴が約束を破り、私に手を出すようであれば、全軍をもって抗え。
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