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第2章:星の少年と炎の少女
第47話 開戦
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第二離宮にあるノヴァとアイリーンの居室。
そこには引き続き、テスティアとブルームスの姿があった。
テスティアは姿を変え、一人の魔導士として傍に控えて居た。
テスティア女皇は『表向き』帰国し、本国で内省を行っていることになっている。
実態はテスティアが遠隔通話魔法で本国の高官に意思を伝え、国家を運営していた。
ブルームスは一人の傭兵として傍に控えて居る。
傭兵の伝手を使い人員を集め、ウェルバット王国軍の傭兵部隊体調を務めている。
ノヴァとアイリーンは共にソファに腰かけ、ゆっくりと紅茶を口に運んでいた。
『ねぇノヴァ、いつ頃、どこに攻め込むと思う?』
『やはり最初はミドロアル王国だろう。
エウルゲーク王国、エグザム帝国は災害復興があり、軍事だけに国力を注力できん。
どうしても対応が遅れる。ならば後回しだ。
こちらの兵が疲弊する前に、最大戦力で無傷のミドロアル王国軍を叩くだろうな。
時期は……一か月以内だろう』
アイリーンが微笑んで告げる。
『私たち夫婦、最初の共同作業ね! 楽しみだわ!』
ノヴァが楽し気な笑みを漏らして答える。
『そうだな。テディも張り切っているようではないか。
存分に力を使ってやるが良い』
『そうするわ。守りの力はテディに借りるつもりよ。
さすがに火竜の息吹まで使うのは、ミドロアル王国軍が可哀想かしら?』
『いや、初手だからこそ、きちんと全力で力を見せつけてやれ。
だが“殺しすぎないように気を付けろ”とも言われたな。
せいぜい最初の戦闘で見せつける程度にしておこう』
『テディも遺跡で火竜の息吹を使えば、負けることはなかったのに。
あの魔導工房を傷つけたくなかったのね』
『お前との思い出が詰まった、大切な場所だからな。
お前と再会するまで、奴にとって何物にも代え難い宝物だったのだ。仕方あるまい』
テディの命を奪ったミドロアル王国の部隊。
そんなミドロアル王国軍相手に、火竜の息吹が見舞われる――因果応報、だろうか。
アイリーンは胸にあるテディの鱗を大切に手で包み込んだ。
思い出を命よりも大切に想っていたテディに、感謝の念を伝えていた。
ノヴァはそんなアイリーンの頭を、ゆっくりと優しく撫でていた。
****
――ある朝、ウェルバット王国の第一離宮。
今では前国王ビディコンスと前王妃テナーが管理する場所である。
前の持ち主だった第一王子ウェルトは、今だ消息不明だった。
国内での目撃情報もなく、国外に身を潜めたのではないかと言われた。
元々、外見も王族らしからぬ王子だった。
市井に紛れたウェルトを探し出すのは、難しいだろう。
彼が自分から戻ってくるまで、見つかることはないだろうと思われた。
持ち主が変わった第一離宮は全て改装された。
ビディコンスが管理する現在は見違えるように清潔になっていた。
王の重責から解き放たれて一年。ビディコンスには往年の輝きが戻っていた。
人を惹きつけ、率いる力――全てではなくとも、それを取り戻していた。
たった一年の静養でここまで回復したのだ。表情も若々しい。
もうそこに、疲れ切った老人の姿はなかった。
その姿に妻であるテナーも、また臣下たちも胸に熱い思いを抱いていた。
そこまでの重責を背負わせて、また王の力になれなかったことに負い目を感じてもいた。
だがビディコンスはそんな彼らを笑い飛ばし、日々を笑顔で過ごしている。
「我が国もリストリットに任せておけば、なんの問題もない。
肩の荷が下り、ようやく目が覚めた。私はどれだけ目が曇っていたのだろうな。
テスティア女皇に働いた無礼の数々も、いつか詫びねばなるまい。
あの子供たちにも迷惑をかけた。
彼らにも詫びを入れ、いつかまた茶を共にしたいものだ」
テナーはその笑顔に、かつての王の姿を見た。
『自分が支えていくのだ』と決意させた、若き頃の姿を。
喜びの涙を浮かべつつ、ビディコンスに告げる。
「そうね……でも、ウェルトの行方が知れないのよ? 心配ではないの?」
ビディコンスはそれにも笑顔で答える。
「ウェルトに王族は荷が重すぎた。あいつは市井に紛れ、庶民として生きる方が幸せな男だ。
ならば好きなように生きさせてやろう。
今はきっと、どこかで伸び伸びと暮らしていると願っておこう」
前国王、前王妃として二人は、リストリットやニアの力になりながら暮らしていた。
ビディコンスは幸福な余生を妻テナーと共に過ごしていた。
そんな両親の姿を見て、改めてリストリットは『あれが潮時だったのだ。アイリーンは正しい選択をしたのだ』と思い知り、感謝をしていた。
****
ある日を境に、ウェルバット王国の軍部が慌ただしく動き始めた。
開戦の準備が速やかに進められていく。
ミドロアル王国に宣戦布告を行い、両軍が国境に部隊を展開していた。
ミドロアル王国軍一万に対して、ウェルバット王国軍一万五千と傭兵部隊五千。
合計二万の兵力が、互いに睨みを利かせていた。
ウェルバット王国内の全兵力を動員し、国内の守りをアルトゲイル皇国軍に全て任せる。
最初で最後の、大きな一手だ。
兵の質は明らかにウェルバット王国軍の分が悪い。
それを数で補い、互角に持ち込んでいる――傍目にはそう見えていた。
ミドロアル王国はアルトゲイル皇国軍の動きに目を光らせている。
伏兵の可能性を捨てることはできなかったようだ。
兵の一部を後詰に回し、小高い丘に布陣させていた。
これでウェルバット王国軍がわずかに有利だ。
陣頭指揮は国王リストリットが自ら執り五千の兵を率いて先陣を切ることになっていた。
その傍にはニアが付き従う。
ノヴァやアイリーン、テスティアやブルームスの姿もあった。
全員が騎乗し、戦場を一望していた。
六人が馬を寄せ、リストリットが告げる。
「まず、俺が第一軍五千で切り込む。
その後ろから後続の部隊がなだれ込むから、ノヴァたちはそれを補佐してくれ」
ノヴァがリストリットを手で制した。
『まぁ待て。最初の一撃だ。大暴れできる最後の機会とも言える。
あまり兵士を殺してはならんのだろう?
だがこの場にいるミドロアル王国軍は壊滅させる。
ここは俺とアイリーンに任せておけ。お前は兵士が怯えぬよう努めろ』
リストリットが逡巡してから頷いた。
「……わかった、そうしよう。
だがそこから先は俺たちに任せると約束してくれ」
ノヴァが不敵な笑みで答える。
『もちろんだとも。ウェルバット王国の兵士が勝たなければ意味がないからな。
敵の王都を陥落させるまでがお前たちの仕事だ。
俺たちはそれをやりやすいように、奴らに恐怖を植え付けるだけだ。
ついでにウェルバットの兵士にも、自分たちが受ける加護を心に刻み込んでもらうとしよう』
リストリットが頷き、ウェルバットの兵士たちに声をかける。
「ウェルバットの勇敢なる兵士たちよ!
これより我が友が敵軍を壊滅させる!
だがそれは、この一度きりだ! 彼らの力を、その目でしかと確かめよ!
ここから先は彼らの助力を得られる!
お前たちに力を貸してくれる存在の偉大さを、その目に焼き付けよ!」
ニアが拡声魔法で全軍に伝達した内容に、兵士たちは戸惑いを見せた。
リストリット王の友――ノヴァとアイリーンのことは、王宮でもよく知られている。
その年若い二人だけで、ミドロアル王国軍一万を壊滅させるなど、夢物語としか思えないだろう。
神話にしか登場しないほど非現実的な話だ。
再びリストリットが声を張り上げる。
「信じられない気持ちは分かる! だが彼らにはその力がある!
そのことは、これから現実として目にするだろう! だが決して恐れるな!
彼らは我が友、我が盟友だ! 決して我が国を害する存在ではない!
彼らを信じられなくとも、私を信じて付いてきて欲しい!
我が軍に一人の死者も出すことなく、必ずや勝利することをここに約束しよう!」
リストリットの人望は厚い。
その王がここまで言うのだから信じようではないか、そんな空気が流れ始めた。
そして王が言う『友の力』を目に焼き付けようと、彼らも状況を見守り始めた。
ノヴァは楽しそうに笑みをこぼしていた。
『ククク……上出来だ。これなら脱走兵は出まい。後は都度、声をかけてやれ。
――ではいくぞアイリーン。
テスティアとブルームスは、ウェルバット王国軍の面倒を見てやれ』
ノヴァとアイリーンを乗せた馬が、二騎のみで敵陣へ駆け出した。
そこには引き続き、テスティアとブルームスの姿があった。
テスティアは姿を変え、一人の魔導士として傍に控えて居た。
テスティア女皇は『表向き』帰国し、本国で内省を行っていることになっている。
実態はテスティアが遠隔通話魔法で本国の高官に意思を伝え、国家を運営していた。
ブルームスは一人の傭兵として傍に控えて居る。
傭兵の伝手を使い人員を集め、ウェルバット王国軍の傭兵部隊体調を務めている。
ノヴァとアイリーンは共にソファに腰かけ、ゆっくりと紅茶を口に運んでいた。
『ねぇノヴァ、いつ頃、どこに攻め込むと思う?』
『やはり最初はミドロアル王国だろう。
エウルゲーク王国、エグザム帝国は災害復興があり、軍事だけに国力を注力できん。
どうしても対応が遅れる。ならば後回しだ。
こちらの兵が疲弊する前に、最大戦力で無傷のミドロアル王国軍を叩くだろうな。
時期は……一か月以内だろう』
アイリーンが微笑んで告げる。
『私たち夫婦、最初の共同作業ね! 楽しみだわ!』
ノヴァが楽し気な笑みを漏らして答える。
『そうだな。テディも張り切っているようではないか。
存分に力を使ってやるが良い』
『そうするわ。守りの力はテディに借りるつもりよ。
さすがに火竜の息吹まで使うのは、ミドロアル王国軍が可哀想かしら?』
『いや、初手だからこそ、きちんと全力で力を見せつけてやれ。
だが“殺しすぎないように気を付けろ”とも言われたな。
せいぜい最初の戦闘で見せつける程度にしておこう』
『テディも遺跡で火竜の息吹を使えば、負けることはなかったのに。
あの魔導工房を傷つけたくなかったのね』
『お前との思い出が詰まった、大切な場所だからな。
お前と再会するまで、奴にとって何物にも代え難い宝物だったのだ。仕方あるまい』
テディの命を奪ったミドロアル王国の部隊。
そんなミドロアル王国軍相手に、火竜の息吹が見舞われる――因果応報、だろうか。
アイリーンは胸にあるテディの鱗を大切に手で包み込んだ。
思い出を命よりも大切に想っていたテディに、感謝の念を伝えていた。
ノヴァはそんなアイリーンの頭を、ゆっくりと優しく撫でていた。
****
――ある朝、ウェルバット王国の第一離宮。
今では前国王ビディコンスと前王妃テナーが管理する場所である。
前の持ち主だった第一王子ウェルトは、今だ消息不明だった。
国内での目撃情報もなく、国外に身を潜めたのではないかと言われた。
元々、外見も王族らしからぬ王子だった。
市井に紛れたウェルトを探し出すのは、難しいだろう。
彼が自分から戻ってくるまで、見つかることはないだろうと思われた。
持ち主が変わった第一離宮は全て改装された。
ビディコンスが管理する現在は見違えるように清潔になっていた。
王の重責から解き放たれて一年。ビディコンスには往年の輝きが戻っていた。
人を惹きつけ、率いる力――全てではなくとも、それを取り戻していた。
たった一年の静養でここまで回復したのだ。表情も若々しい。
もうそこに、疲れ切った老人の姿はなかった。
その姿に妻であるテナーも、また臣下たちも胸に熱い思いを抱いていた。
そこまでの重責を背負わせて、また王の力になれなかったことに負い目を感じてもいた。
だがビディコンスはそんな彼らを笑い飛ばし、日々を笑顔で過ごしている。
「我が国もリストリットに任せておけば、なんの問題もない。
肩の荷が下り、ようやく目が覚めた。私はどれだけ目が曇っていたのだろうな。
テスティア女皇に働いた無礼の数々も、いつか詫びねばなるまい。
あの子供たちにも迷惑をかけた。
彼らにも詫びを入れ、いつかまた茶を共にしたいものだ」
テナーはその笑顔に、かつての王の姿を見た。
『自分が支えていくのだ』と決意させた、若き頃の姿を。
喜びの涙を浮かべつつ、ビディコンスに告げる。
「そうね……でも、ウェルトの行方が知れないのよ? 心配ではないの?」
ビディコンスはそれにも笑顔で答える。
「ウェルトに王族は荷が重すぎた。あいつは市井に紛れ、庶民として生きる方が幸せな男だ。
ならば好きなように生きさせてやろう。
今はきっと、どこかで伸び伸びと暮らしていると願っておこう」
前国王、前王妃として二人は、リストリットやニアの力になりながら暮らしていた。
ビディコンスは幸福な余生を妻テナーと共に過ごしていた。
そんな両親の姿を見て、改めてリストリットは『あれが潮時だったのだ。アイリーンは正しい選択をしたのだ』と思い知り、感謝をしていた。
****
ある日を境に、ウェルバット王国の軍部が慌ただしく動き始めた。
開戦の準備が速やかに進められていく。
ミドロアル王国に宣戦布告を行い、両軍が国境に部隊を展開していた。
ミドロアル王国軍一万に対して、ウェルバット王国軍一万五千と傭兵部隊五千。
合計二万の兵力が、互いに睨みを利かせていた。
ウェルバット王国内の全兵力を動員し、国内の守りをアルトゲイル皇国軍に全て任せる。
最初で最後の、大きな一手だ。
兵の質は明らかにウェルバット王国軍の分が悪い。
それを数で補い、互角に持ち込んでいる――傍目にはそう見えていた。
ミドロアル王国はアルトゲイル皇国軍の動きに目を光らせている。
伏兵の可能性を捨てることはできなかったようだ。
兵の一部を後詰に回し、小高い丘に布陣させていた。
これでウェルバット王国軍がわずかに有利だ。
陣頭指揮は国王リストリットが自ら執り五千の兵を率いて先陣を切ることになっていた。
その傍にはニアが付き従う。
ノヴァやアイリーン、テスティアやブルームスの姿もあった。
全員が騎乗し、戦場を一望していた。
六人が馬を寄せ、リストリットが告げる。
「まず、俺が第一軍五千で切り込む。
その後ろから後続の部隊がなだれ込むから、ノヴァたちはそれを補佐してくれ」
ノヴァがリストリットを手で制した。
『まぁ待て。最初の一撃だ。大暴れできる最後の機会とも言える。
あまり兵士を殺してはならんのだろう?
だがこの場にいるミドロアル王国軍は壊滅させる。
ここは俺とアイリーンに任せておけ。お前は兵士が怯えぬよう努めろ』
リストリットが逡巡してから頷いた。
「……わかった、そうしよう。
だがそこから先は俺たちに任せると約束してくれ」
ノヴァが不敵な笑みで答える。
『もちろんだとも。ウェルバット王国の兵士が勝たなければ意味がないからな。
敵の王都を陥落させるまでがお前たちの仕事だ。
俺たちはそれをやりやすいように、奴らに恐怖を植え付けるだけだ。
ついでにウェルバットの兵士にも、自分たちが受ける加護を心に刻み込んでもらうとしよう』
リストリットが頷き、ウェルバットの兵士たちに声をかける。
「ウェルバットの勇敢なる兵士たちよ!
これより我が友が敵軍を壊滅させる!
だがそれは、この一度きりだ! 彼らの力を、その目でしかと確かめよ!
ここから先は彼らの助力を得られる!
お前たちに力を貸してくれる存在の偉大さを、その目に焼き付けよ!」
ニアが拡声魔法で全軍に伝達した内容に、兵士たちは戸惑いを見せた。
リストリット王の友――ノヴァとアイリーンのことは、王宮でもよく知られている。
その年若い二人だけで、ミドロアル王国軍一万を壊滅させるなど、夢物語としか思えないだろう。
神話にしか登場しないほど非現実的な話だ。
再びリストリットが声を張り上げる。
「信じられない気持ちは分かる! だが彼らにはその力がある!
そのことは、これから現実として目にするだろう! だが決して恐れるな!
彼らは我が友、我が盟友だ! 決して我が国を害する存在ではない!
彼らを信じられなくとも、私を信じて付いてきて欲しい!
我が軍に一人の死者も出すことなく、必ずや勝利することをここに約束しよう!」
リストリットの人望は厚い。
その王がここまで言うのだから信じようではないか、そんな空気が流れ始めた。
そして王が言う『友の力』を目に焼き付けようと、彼らも状況を見守り始めた。
ノヴァは楽しそうに笑みをこぼしていた。
『ククク……上出来だ。これなら脱走兵は出まい。後は都度、声をかけてやれ。
――ではいくぞアイリーン。
テスティアとブルームスは、ウェルバット王国軍の面倒を見てやれ』
ノヴァとアイリーンを乗せた馬が、二騎のみで敵陣へ駆け出した。
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