傭兵ヴァルターと月影の君~俺が領主とか本気かよ?!~

みつまめ つぼみ

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第2章

31.万夫不当

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 俺たちは伯爵邸の中庭に移動していた。

 俺の手には愛用の大剣が握られている。

 対峙する男――テッシンの手にも、オオタチという大剣が握られていた。

 勝負ねぇ……傭兵相手に憂さ晴らしをしてたが、これだけの男を相手にするのは、いつ以来かな。

 セイラン国の国王やアヤメたちが見守る中、俺はゆっくりと大剣を肩に構えて告げる。

「いつでもいいぜ。かかって来い」

 俺の視線を受け、テッシンも大剣を肩に構えた。

『――参る!』

 素早い踏み込みからの斬撃――それを大剣で受け止める。

 思ったより重たい一撃だ。なまった身体には、ちっと厳しいな。

 俺も声を上げて応えていく。

「それじゃあ、俺も遠慮なくいかせてもらおうかぁっ!」

 押し合う大剣を力で押し返し、相手を弾き飛ばす。

 そのまま力任せに大剣を相手に叩きつけていく。

 向こうはこちらの斬撃を受け流すようにして、カウンターの斬撃を狙ってくる。それを大剣を素早く引き戻して受け止める。

 そんな流れをしばらく繰り返していくうちに、俺の心と体が温まっていった。

 ――これこれ! この緊張感だよなぁ?! やっぱりよぉ!

 俺はニヤリとした笑みを浮かべながら、次々と大剣を繰り出していった。

 テッシンは受け流してはカウンターを狙ってくる。

 俊敏さでは、テッシンの方が俺よりわずかに上かもしれねぇ。

 だが体格と腕力は、俺の方が上だ。

 俺の強烈な斬撃を、テッシンは受け流しきれなくなっていく。

 徐々に俺たちの立ち位置が変わり、俺の勢いがテッシンを押し込んでいき、ついに壁際に追い込んだ。

 壁を背にしたテッシンは、もう大剣を振るう隙間がない。

 テッシンは俺の振るう大剣を受け流すことに専念しはじめ、俺の一方的な攻撃が続いた。

「――やめだ、もう充分だろ。あんたじゃ俺には勝てん」

 俺は攻撃を止め、鉄心に背を向けて中庭の中央に戻っていく。

 背後からテッシンが声をかけてくる。

『――まだだ! まだ勝負は決しておらん!』

 俺は振り返ってテッシンに告げる。

「何を言ってるかは知らんが、何を言いたいのかはわかる。
 だがもう勝負はついた。それ以上やっても、あんたに勝ち目はねーよ」

 悔しそうなテッシンに、アヤメが微笑みながら告げる。

鉄心てっしん、おんしが弱いのではない。ヴァルターが強すぎるのじゃ。
 そう気落ちする必要はなかろう』

 テッシンは口を引き結んだ後、大剣を鞘に納めた。

 セイラン国の国王が声を上げる。

『ヴァルターの強さ、しかと見届けた! まさに万夫不当の武人よ!
 よかろう! 綾女あやめとの婚姻、許そうではないか!』

 アヤメが明るい声を上げる。

『本当かえ?! 前言撤回など、青嵐皇がよもやすまいな?!』

 セイラン国の国王が静かに頷いた――だから、どういう流れなんだよ?!

 驚愕する向こうの通訳とフランチェスカは、言葉を失ってるようだった。

 俺はただ、満足気に微笑むアヤメの笑顔を黙って見つめていた。




****

 応接間に戻った俺たちは紅茶で一息ついていた。

 セイラン国の国王が俺に告げる。

『伝え聞いた以上の武勇、見事なり。
 まさか、鉄心てっしんを赤子の手をひねるようにあしらうとは。
 大陸は、広いのだな』

 通訳を介し、俺はニヤリと微笑んだ。

「そう落ち込むなよ。
 俺の傭兵人生でも、ここまで強い野郎はほとんど記憶にない。居ても一人か二人だ。
 大陸の大国家でも、トップに上り詰められる剣の腕はある。保証してやるよ」

 フランチェスカを介して、国王が苦笑を浮かべた。

鉄心てっしんほどの武人が、そち以外にも居ると申したか。
 やはり大陸は広いな。
 ――そして、それほどの武人よりも腕が立つそちは、なぜ傭兵を続けていた?
 好きな国に仕え放題だったろうに』

 通訳を介し、俺はニヤリと微笑んだ。

「宮仕えなんてのは、俺の性に合わん。
 戦場で生き、戦場で死ぬ。それが俺の生き方――だった。
 今じゃ何の因果か、この土地の領主様だ。
 まったく息苦しくてかなわねぇ」

 フランチェスカを介して、国王が楽しそうにニヤリと微笑んだ。

『だがそちは綾女あやめの夫となる身、不自由をさせぬよう、きちんと成り上がってもらわねばな。
 孫の顔を楽しみにしておるぞ』

 通訳を介し、俺は慌てて声を上げる。

「孫の顔?! あんた、いきなり何を言ってやがる?!」

 アヤメがニタリと微笑んだ。

「さっき、そういう話をしてたんだよ。
 私とヴァルターの結婚を認めるって」

「待て待て待て! 年齢を考えろ!
 五年後、結婚できる年齢になったとしてもお前は十五歳! 俺はその頃三十五歳だぞ?!
 そんなおっさんに嫁いで、幸せになれるわけねーだろう?!」

「だからー、セイラン国だと、そのくらいの年の差は珍しくないんだって。
 四十歳で十二歳の子をお嫁さんにする人もいたし」

「俺をそんなレアケースと一緒にすんな!
 それにここは大陸だ! セイラン国じゃねぇぞ?!」

 隣の女性が俺とアヤメの会話を通訳したのか、国王が不敵な笑みを浮かべた。

鉄心てっしんを超える武勇、驚くほどのあきないの才覚、それは見せてもらった。
 ならば綾女あやめが言う通り、いくさも、まつりごとも、商才と同等以上のものを持っていよう。
 綾女あやめが惚れこむのも無理はない。それほどの男ならば、月夜見つくよみ様もきっとお許し下さるだろう』

 通訳を介し、俺は眉をひそめた。

「なんで神様の許しが要るんだよ?」

綾女あやめは特別な巫女、生まれつき月夜見つくよみ様の力を強く宿した子だった。
 この子は九歳まで巫女として育ち、いつか青嵐国を背負う娘だったのだ。
 できればセイラン国に来て欲しい所だが、そちほどの男をこの国は手放すまい』

「いやまぁ、今のこの国の状況じゃ、俺と嬢ちゃんの力が防衛力そのものと言ってもいい。
 手放せば国が滅ぶなら、頷ける話じゃねぇよ。
 だが嬢ちゃんがセイラン国に帰るなら、俺はこの国を離れて傭兵に戻る。
 だから早く嬢ちゃんを引き取ってくれ」

 フランチェスカを介し、国王の片眉が上がった。

『この国に忠誠心はない、そう言うたのか。
 それでも綾女あやめのために、この地の領主に納まったと?』

「そうだよ、全部嬢ちゃんのためだ。
 最初にトラブルの面倒を見ちまった。それを無責任に途中で見捨てられる訳がねぇ。
 だからきちんとセイラン国に戻るまで面倒を見る。それだけだ。
 国が滅ぶなんて、大陸じゃ珍しくもない。
 弱い国が滅びるのは、当たり前の話だからな。傭兵が気にする事じゃない」

 アヤメが横から、感激したような声を上げる。

「これって、愛だよね! 愛!」

「違うっつーの! なんでそう受け取るかね?!」

 通訳が俺たちの会話を教えたのか、国王が楽し気な笑みをこぼした。

『ククク……あくまでも綾女あやめを拒絶するか。
 の娘が、それほど不足か。魅力を感じぬか』

「そうじゃねぇよ! 嬢ちゃんもあと十年もすれば、いい女になるだろう。
 だが今はまだ子供だ。子供を妻にするなんぞ、考えられるか!」

『だが十年後、そちは四十だろう。そこから稚児ややこを作るのは、苦労するぞ?』

 通訳を介し、俺は頭を抱えた。

「なんで父親が止めねぇのかなぁ、娘の暴走を。
 ちっとは娘の幸福を考えられねぇのか?!」

 アヤメがクスリと笑った。

「だから、私はヴァルターの子供を産んで幸せになるから気にしないで。
 それに、月夜見つくよみ様もヴァルターを認めてくれてる。
 神様が認めた結婚を、否定なんてしないよ」

 俺は大きく息をついた。

「いつの間に神様が認めたのか、聞いてもいいか?」

「気づいてなかったの? ゲッカが懐くようになったでしょ?
 今のヴァルターなら、ハクロウゲッカも使えるはずだよ?
 月夜見つくよみ様が認めた男だからね!」

 ゲッカがやたらと懐いてくる事に、意味があったっていうのかよ。

 なんだそりゃ、いつからだった? ……駄目だな、覚えてねぇや。

 俺は足元のゲッカを見る――最近はアヤメのそばじゃなく、俺の足元で伏せてることが多い。

 犬は主人を見極めるとは言うが、まさか……俺を主人として見てるのか?

「おい嬢ちゃん、ハクロウゲッカを使えるってことは、俺にもツキカゲを使えるってことか?」

「それは無理だよ。ヴァルターは巫術ふじゅつを使えないもん。
 でも巫術ふじゅつがなくても、ハクロウゲッカはとっても強い剣だからね!
 困った時に力を借りると、今まで以上に暴れられると思うよ?」

「今まで以上、ねぇ……そんな機会、ねぇと思うんだがな」

 どうやら、もう国王とアヤメの中で俺との結婚は確定事項らしい。

 俺はどうやってこの窮地を乗り切ろうか、頭を悩ませていた。
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