傭兵ヴァルターと月影の君~俺が領主とか本気かよ?!~

みつまめ つぼみ

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第2章

43.新型高速交易船

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 夕食と入浴が終わり、ガウンコートを着た俺はベッドに横になっていた。

 同じように入浴を終えたアヤメは、コソデという下着相当の服を身にまとって俺に寄り添って寝ている。

 アヤメが俺の胸の中で告げる。

『のぅ、ヴァルターや。此度こたびの戦い、少し欲求不満じゃ。暴れ足りないわい』

 俺はため息をついて告げる。

「だから、公用語を話せ。
 ――お前が暴れすぎると領民も、王国内の人間もお前を恐れる。
 それに戦争ってのは、ただ敵を殺せばいいってもんじゃない。
 敵兵もひっくり返せば国外の人的資源だ。
 うまく活用して、国内を活性化させる力にできる」

 アヤメが俺の胸の上から俺を見上げ、ニヤリと微笑んだ。

『さすがはわらわの夫よな。
 理屈はわからぬが、考えがあっての行動だったわけじゃな?
 ではこの欲求不満は、稚児ややこを作ることで発散しようかのぅ』

「まーた『ヤヤコ』か。今のお前じゃ無理だと言ったろ。
 あと何年か、大人しく成長するのを待て。
 こうして俺にひっついて寝るだけじゃ不満なのか?」

 アヤメが俺の胸に頬を埋めながら応える。

『いんや? これはこれで、心が温まるのぅ。
 ヴァルターの愛を感じるようじゃ』

「だから、公用語で話せっつーの」

 アヤメが俺に強く抱き着きながら告げる。

「やっぱり愛だよね! って言ったの!」

 愛ねぇ……子供をあやしながら寝てる気分なんだが、これが俺の妻なんだよなぁ。

 大陸的にはまだ婚約者だが、俺にはアヤメと子供を作る『努力義務』なんてものを課せられた。

 ……セイランオウの野郎、無茶苦茶いいやがるよな。

 仮に子供ができた場合、婚約者に子供を孕ませた伯爵ってことになる。

 この事は国王とも相談して、対策を練っておかねーとなー。

 俺は足を絡めて抱き着いてくるアヤメをあやしながら、長旅で疲れた体を癒すため、目をつぶった。




****

 翌朝、朝食を済ませた俺は、中庭でテッシンと向き合っていた。

「最後に一勝負、遊んでいこうぜ」

 テッシンは大剣を抜き放ち、ニヤリと微笑んだ。

『承知!』

 俺たち戦士に、言葉はいらない。

 意味が通じなくても、言いたいことはお互いの気配で伝わる。

 俺も大剣を抜き放ち、テッシンに告げる。

「さぁ、最後の大暴れと行こうかぁっ!」

 俺たちは帰国前の一勝負に興じ始めた。




****

 俺は午前中の内に積み荷のリストをチェックし、新しい高速交易船の完成度も直接確認していった。

 新造船だからまだ実績はないが、セイラン国との交易に耐えられる船に仕上がっているように見える。

 造船職人たちも手応えが充分らしく、自信ありげな表情だ。

「それで旦那、この船の名前はどうするんですかい?」

 名前か。それは考えてなかったな。

 シャッテンヴァイデ伯爵家とセイラン国を結ぶ交易船。

 今後は大陸各地を結ぶことにもなる、新しい船。

 俺は少し考えてから、その名前を口にする。

「『シャッテンガレオン』ってのでどうだ?」

「いいんじゃねーですかい?
 シャッテンヴァイデ伯爵領の高速交易船、シャッテンガレオン。
 うん、悪くないですな!」

 俺は造船職人たちに笑顔で応え、背後のクラウスに告げる。

「じゃあ『シャッテンガレオン』で船名を登録しておいてくれ。
 乗組員の手配も終わっているな?」

 クラウスが頭を下げて応じる。

「はい、いつでも出航可能になっております」

「よし、じゃあ家に戻るか!」


 俺とクラウスを乗せた馬車は、港から伯爵邸に向けて走り出した。




****

 昼食のパンケーキを、セイランオウは満足気に口にしていた。

『これも甘いな……実に美味だ』

 通訳を介し、俺が微笑んで応える。

「バターで焼いたパンケーキに、メイプルシロップをかけたものだ。
 積み荷にメイプルシロップは入れてある。
 国に帰ってから堪能してくれ」

『……この夢のような食事も、これで最後か』

「何言ってやがる、調理人も菓子職人も連れていくんだ。
 セイラン国でも、同じ料理は食えるさ」

『そうだな、それを楽しみにしておこう。
 今回の遠征がもう終わってしまう。
 そのことに名残惜しさを感じてる』

「あんたみたいな王様が、半年も国を留守にするのは難しいだろうからな。
 だがまた、機会があったら遊びに来るといい。
 これからは、うちの船が毎月行き交うことになる。
 いつでも好きな時に、遊びにくりゃあいいさ」

 通訳を介し、セイランオウが大きく頷いた。

『そうしよう。こうして定期船が整備される事が、なによりの価値だ。
 ヴァルターよ、そちと独占契約を結べて良かった』

 通訳を介し、俺はへっと笑みを浮かべる。

「そう思ってもらえるよう、これからも努力していくよ」


 食事を終えると、俺はセイランオウたちを港まで送るため、全員で馬車に乗りこんだ。

 馬車は静かに港への道を走り出していた。




****

 港に付いた俺たちは、桟橋さんばしの前でセイランオウ、通訳の女性、テッシンと向き合っていた。

 セイランオウが俺に告げる。

『では綾女あやめのこと、しかと頼んだぞ』

 通訳を介し、俺は頷いた。

「契約書を交わした以上、それを破る真似はしねーよ。
 だが孫の顔は五年後まで待ってくれ。あれは正直、まだ無理だと思う」

 通訳を介し、セイランオウがフッと笑った。

『それもまた、仕方あるまい。
 つとめさえ怠らなければ、それでよい。
 ――では、達者でな』

 通訳を介し、俺は頷いた。

「ああ、あんたもな。セイランオウ。
 ――それにテッシン、お前と暴れられたこの一か月、楽しかったぜ。
 またいつか遊びに来い」

 テッシンは黙って頷いていた。


 俺たちに見守られながら、セイランオウは船に乗りこんでいった。

 甲板でこちらを見つめるセイランオウの姿を、俺たちも船の姿が遠くなるまで見守っていた。


「――さて、放り出していた積み荷の流通と事業計画の確認をするか!」

 アヤメが不満気に声を上げる。

「ちょっとー?! 妻とのスキンシップの時間を増やすのが先じゃないのー?!」

 俺はアヤメの頭を撫でながら応える。

「まぁそう言うな。ワサビは鮮度が命だ。
 他にも食料品が結構届いてる。
 クラウスに管理を任せていたが、新規に顧客開拓をするには俺が動かにゃならん。
 セイラン国に送る品の交易路も、新しく開拓する必要があるしな。
 今日、明日はやることが多い。
 アヤメの相手をするのは、夜まで待て」

 アヤメがパァッと頬を赤く染めて喜んだ。

「今! 私のこと『アヤメ』って呼んだ!」

 おっと、ついうっかり。

 アヤメはすっかり舞い上がり、ぴょんぴょんと飛び跳ねて俺に抱き着いていた。

わらわを妻と、ようやく認めたのじゃな!』

「はいはい、お前は俺の妻、それはわかってるよ。
 ――帰るぞ、仕事が待ってる」


 俺たちは馬車に乗りこみ、伯爵邸へ戻っていった。




****

 フロストギッフェル王国軍を撃退してから一か月経過した王都。

 国王の執務室に、宰相シュルツ侯爵や将軍レーヴェンムート侯爵の姿があった。

 国王がソファに座り、二人の臣下に告げる。

「今回のシャッテンヴァイデ伯爵の働き、実に見事だったな。
 この国はシャッテンヴァイデ伯爵に三度、窮地を救われた」

 レーヴェンムート侯爵が頷いて応える。

「今回こそは駄目だと、そう覚悟しましたからな。
 あれほどの戦場経験を持つ貴族は、そう居はしません」

 シュルツ侯爵がにこにこと微笑んで告げる。

「それだけじゃないね。
 彼の港湾都市経営は実に手堅い。
 流通経路を活性化することがいかに大事か、よく理解している。
 今やこの国は、港町オリネアを中心に栄えていると言っても過言ではないよ」

 国王が重臣二人に告げる。

「その彼への褒賞を今回考えているのだが、相談に乗ってもらえるだろうか。
 シャッテンヴァイデ伯爵が我が国を捨てぬよう、相応に見返りを与える必要がある」

 レーヴェンムート侯爵が眉をひそめた。

「ですが、彼はワサビ交易で莫大な富を築き上げています。
 金ではなびかないでしょう」

 シュルツ侯爵が考えこみながら告げる。

「その利益はほとんど、地元に還元しているようだけどね。
 おかげでシャッテンヴァイデ伯爵領は、農業、工業、商業の中心地となっている。
 私兵も増やしているみたいだし、順調な領地経営と言えるだろう。
 ああも見事な手腕を見せられると、王都に呼び寄せて内政を任せるのも難しいね」

 国王が悩みながら告げる。

「実は彼から、『アヤメ殿下と例外的に婚姻を認める法律を作れないか』という相談を受けている。
 セイラン国基準では公的に夫婦となった彼らを、大陸でも公的な夫婦として認める、例外法を作れないかと。
 ――シュルツ侯爵、それは可能だと思うか」

 シュルツ侯爵が眉をひそめて国王を見つめた。

「アヤメ殿下はセイラン国の王女です。
 であれば、『国外の王族の婚姻に限り、該当国の風習を考慮する』と言った例外規定を設けることは可能かと。
 ですが、それでも反発は避けられませんよ?」

 国王が小さく息をついた。

「それも彼は承知の上のようだ。
 アヤメ殿下を、婚約者ではなく妻として、公の場で扱いたいのだろう。
 ――侯爵位への陞爵しょうしゃくと共に、その例外法を作ることで報いる。
 これでシャッテンヴァイデ伯爵を、我が国に留めることに繋がると考えている」

 シュルツ侯爵が頷いた。

「それで彼を引き留められると言うなら、力を尽くしましょう」

 レーヴェンムート侯爵が頷いた。

「彼らは抑止力、何かあった時に動いてもらわねばならぬ人材です。
 決して他国に逃がす真似をしてはいけません」

 国王が頷いた。

「では、そのように動いてくれ――話は以上だ」

 シュルツ侯爵とレーヴェンムート侯爵がソファから立ち上がり、国王の執務室を辞去していった。

 国王がぽつりとつぶやく。

「傭兵上がりが侯爵か。なんとも面白い男だな、ヴァルターは」

 ソファから立ち上がった国王は、執務机に着き、執務の続きを開始した。
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