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第3章
53.王宮の夜会(2)
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壮年の男――ファルケンラート公爵が微笑みながら俺に告げる。
「君がヴァルターだね。初めて会う顔だ」
俺も微笑みながら応える。
「あんたこそ、初めて見る顔だ。
この国が窮地に陥った時、戦場に居なかった顔ってことになる。
悪いが名前を教えてもらってもいいかい?」
野郎の顔がぴくりと引きつった。
「……オリヴァー・サリオン・ファルケンラート公爵だ。
『救国の英雄』に敢えてうれしいよ」
俺は軽く笑い飛ばしてやる。
「ハハハ、俺はそんな大層なもんじゃない。
ただの傭兵、それだけさ」
「その割には、王都の貴族たちに受け入れられているようだったね。
傭兵が陛下の催す夜会に居る――実に場違いだ」
俺は肩をすくめて応える。
「誰かが俺の悪い噂を流してると聞いてね。
しかもそいつが、俺とアヤメの結婚を邪魔してるらしいと聞いた。
仕方ないんで、暇な時間を見つけて王都に挨拶に来たって訳だ」
野郎が微笑みながら応える。
「そうなのかい? 初耳だね。
そんな奴がいたら、私に告げるといい。
私の力で善処してあげよう」
「ああ、そうするよ。
噂の根元を手繰り寄せようとしても、そいつの影もつかめない。
みんな黙り込んじまうんで、難儀してたんだ。
不思議なもんだよな、誰も名前を言えない相手なんて。
まるで公爵くらい偉い人間が、俺を悪く言っていたかのようだ」
野郎がニコリと穏やかに微笑んだ。
「ハハハ、私のように強い力を持つ貴族は、王都には居ない。
もちろん、この国の中にもね。
私は公爵、この国で陛下の次に力を持つ貴族だ」
俺はニヤリと微笑んで応える。
「――ってことは、必然的に言いふらしてたのはあんたってことになるな。
伯爵や侯爵が押し黙る程強い力を持つ相手。
なるほど、あんたなら、その理由も納得だ」
俺とファルケンラート公爵が笑顔を浮かべて視線で火花を散らせていると、アヤメが横から剣呑な顔で告げる。
『なんじゃ、こやつが件の下郎かえ?
心の卑しさが顔に出て居るわ。
下賤な輩は、素直に謝罪もできぬのか。
妾が大人しゅうして居る間に、素直に頭を下げれば許してやろう』
俺が目で合図すると、フランチェスカが蒼白な顔で頷いた。
フランチェスが通訳するアヤメの言葉に、ファルケンラート公爵の顔色が変わった。
「……私を下賎と、卑しいと言ったのか。
王家に連なる、この私を」
アヤメがジロリとファルケンラート公爵の顔を睨み付けた。
『生まれなど、さして関係がある訳もなし。
品性の貴賤は魂の在り方よ。
妾の邪魔をして命が無事で済むと思うな、下郎』
ファルケンラート公爵が頬を引きつらせながら、アヤメに告げる。
「私を侮辱することは王家を侮辱するに等しい。
田舎の王族はその程度も理解できないということか。
どうやらその頭の中には『ソ』でも詰まっているらしいな」
アヤメがニヤリと微笑んで応える。
『己が王が認る妾を、”田舎の王族”とは片腹痛い。
下郎は己が国が取る外交政策も理解できぬと見ゆる。
この国は青嵐国と友好的になろうとして居るというのに、高位にある貴族がそれを理解できぬのかえ?
おんしの頭こそ、腐り切って跡形ものうなって居るのではないかえ?』
ファルケンラート公爵とアヤメが睨み合っていると、野郎の背後から一人の貴族がふらりと近寄ってきた。
「おやおや、なんだか犬臭いな。なぜ陛下が主催する夜会で犬の匂いがするんだ?」
貴族の目が、アヤメの足元に居るゲッカに注がれていた。
アヤメが不敵な笑みのまま告げる。
『月華を”犬臭い”と、そう申したかえ?
月夜見様の力の象徴たる、妾の月華を罵ったのかえ?』
フランチェスカが通訳する言葉に、貴族の男が笑いだした。
「ハハハ! たかが犬っころを神の使いと言ったのか!
犬臭いからさっさと会場から追い出してもらえないかな。
毛が料理にかかったらどうしてくれるんだ」
空気が危なくなってきたアヤメを手で制し、俺は貴族の男に告げる。
「おいあんた、悪いことは言わねぇから今のうちに謝っておけ。
それ以上はあんたの命が危うくなる」
貴族の男が、今度は俺に蔑んだ目を向けてきた。
「おっと、これは少女愛者のシャッテンヴァイデ侯爵ではありませんか。
このように幼い子供を婚約者として、毎晩お楽しみだとか。
いやはや、野蛮な傭兵出身の考えることは、理解できませんな」
……自分で言わずに、取り巻きを使ってるのか。
こうして『公爵が直接触れ回ってる訳じゃない』という体裁を取ってるんだな。
何か問題があっても取り巻きを切り捨てれば済む。
取り巻きもそれを承知で、見返り目当てに公爵の手足となる。
まったく、めんどくせぇ世界だ。
アヤメから強い殺気が放たれた――やべぇ!
『下郎が妾の夫を、ようもそこまで愚弄した。
命を捨てる覚悟はできて居るとみてよいな?』
俺は慌てて声を上げる。
「待てアヤメ! 落ち着――」
俺が止める声も聞かず、アヤメの手がゲッカの首を鷲掴みにした。
『この下郎に己が分を弁えさせてやろうぞ!
ゆくぞえ白狼月華! 今ここに在れ!』
するりとゲッカの首が抜き放たれ、アヤメの手には大剣が握られていた。
そのままアヤメが大剣を振るい、貴族の男に向かって片手で大剣を縦一文字に振り下ろす。
刃が届いていないはずの距離で、貴族の男の服だけが綺麗に真っ二つに切り裂かれ、状況を理解していない貴族の男が全裸にされていた。
アヤメが大剣をゲッカに戻して告げる。
『その見苦しい物をさっさとしまうが良い。
妾の前で斯様な姿をとる輩こそ、少女愛者の真の姿ではないのかえ?
――次は命があると思うな、理解したなら疾く去ねい!』
アヤメに一喝された貴族は、気迫に負けて青い顔で走り去っていった。
……こんな場で全裸にするとか、アヤメもエグいな。
俺はため息をついてファルケンラート公爵に告げる。
「見て理解したか? 今のうちに謝るなら、あんたの命は俺が何とかして守ってやる。
だがこれ以上アヤメを怒らせるなら、次はあんたの身体が真っ二つになるだろう。
取り巻きを使って俺たちを攻撃するのは、アヤメを怒らせるだけだと思っておけ。
こいつは十歳の子供だが、道理を理解できない愚か者じゃあない」
戦慄している表情のファルケンラート公爵が、アヤメを困惑して見つめていた。
戦場慣れしていない人間には刺激が強い。
目の前で振るわれた暴力の真の意味は、その刃の輝きだけで理解できる。
服だけで済ませたのはただの温情、本来なら身体ごと真っ二つにできる――その場に残された貴族の服が、それを如実に物語っていた。
ファルケンラート公爵が震える声で告げる。
「……この私に、貴様に頭を下げろとでもいうのか」
「少なくとも、自分がしでかしたことは謝罪をしてもらおう。
それ以上は求めねーよ。
あんたが謝罪し、特例法を認めるって言うなら俺たちは領地に戻る。
王都の社交界に居座る気はねぇ。
俺たちが居なくなってから、好きなだけふんぞり返ってりゃいい」
「……それだけの力を持ちながら、政治に関わる気がないと言ったのか?」
俺は顔をしかめ、手で追い払うようにしながらファルケンラート公爵に告げる。
「あるわけねーだろ、そんなもん。
陛下から頼まれない限り、王都に近寄るつもりはねーよ。
俺の見立てじゃ、シュルツ侯爵は俺に領地経営に専念して欲しいようだ。
それなら俺は、領地でセイラン国の品を国内各地に流し続けるだけだ。
俺の領地は栄え、あんたの領地は凋落するかもしれんが、そこは経営手腕で乗り切ってくれ」
言葉もなく唇を噛み締めているファルケンラート公爵に、俺は言葉を続ける。
「一つアドバイスをくれてやる。
あんたの港は使いづらい。
リュゲンの港をもっと使いやすく整備しろ。
そして手数料を下げておけ。王都近郊だからと胡坐をかき過ぎだ。
そうすりゃあんたの港にも、少しずつ船は戻ってくるだろう。
あとはあんたが新規交易路の開拓をできるかどうか――これは半分、運が絡むがな。
動くなら早めに動けよ? そろそろ経営が傾き始めてるんだろ?」
ファルケンラート公爵が、青白い顔で告げる。
「我が領地を見たこともない貴様が、なぜそのようなことを言える」
「あー? そんなもん港に入ってくる商人たちから聞いたに決まってんだろ?
利用者の生の声は、金を払ってでも拾っておけ。
そして拾った声を検討し、吟味し、先を見て手を打っていけ。
その程度、そこらの商人でもやってることだ。
あんたにできねーとは言わせねーぜ」
アヤメが楽しそうに告げる。
『ヴァルターよ、”一つ”と言いながら大盤振る舞いよな。
良いのか? そのように敵を助くる真似をして』
「俺はそもそも、ファルケンラート公爵を敵と思ってねーからな。
同じ国を栄えさせようとする味方だろ。
何より、俺やアヤメに依存するような国家の運営をしちゃーならねぇ。
俺たちが居なくなっても国を保てるように手を打ってもらう。
万が一オリネアで疫病が発生しても、耐えられる程度にはリュゲンにもでかい港でいてもらわねーとな」
ファルケンラート公爵が、うつろな目で俺を見ていた。
「……貴様、私と戦いに来たのではないのか」
「あー? そんなわけねーだろ? 話をしに来ただけだ。
あんたが俺の話を聞くよう、根回しはしたがな。
あとはアヤメが納得する言葉を、あんたが口にすれば終いだ」
しばらく震えながらうつむいていたファルケンラート公爵が、俺たちに深く頭を下げた。
「……すまなかった、シャッテンヴァイデ侯爵。そしてツキカゲノキミ」
アヤメがニコリと微笑んだ。
『よかろう。おんしを許そう』
俺は両手を打ち鳴らして告げる。
「よし、これで手打ちだな!」
俺はアヤメやファルケンブリック伯爵、ヴァイスハイト伯爵を連れ、ファルケンラート公爵の前から離れた。
「君がヴァルターだね。初めて会う顔だ」
俺も微笑みながら応える。
「あんたこそ、初めて見る顔だ。
この国が窮地に陥った時、戦場に居なかった顔ってことになる。
悪いが名前を教えてもらってもいいかい?」
野郎の顔がぴくりと引きつった。
「……オリヴァー・サリオン・ファルケンラート公爵だ。
『救国の英雄』に敢えてうれしいよ」
俺は軽く笑い飛ばしてやる。
「ハハハ、俺はそんな大層なもんじゃない。
ただの傭兵、それだけさ」
「その割には、王都の貴族たちに受け入れられているようだったね。
傭兵が陛下の催す夜会に居る――実に場違いだ」
俺は肩をすくめて応える。
「誰かが俺の悪い噂を流してると聞いてね。
しかもそいつが、俺とアヤメの結婚を邪魔してるらしいと聞いた。
仕方ないんで、暇な時間を見つけて王都に挨拶に来たって訳だ」
野郎が微笑みながら応える。
「そうなのかい? 初耳だね。
そんな奴がいたら、私に告げるといい。
私の力で善処してあげよう」
「ああ、そうするよ。
噂の根元を手繰り寄せようとしても、そいつの影もつかめない。
みんな黙り込んじまうんで、難儀してたんだ。
不思議なもんだよな、誰も名前を言えない相手なんて。
まるで公爵くらい偉い人間が、俺を悪く言っていたかのようだ」
野郎がニコリと穏やかに微笑んだ。
「ハハハ、私のように強い力を持つ貴族は、王都には居ない。
もちろん、この国の中にもね。
私は公爵、この国で陛下の次に力を持つ貴族だ」
俺はニヤリと微笑んで応える。
「――ってことは、必然的に言いふらしてたのはあんたってことになるな。
伯爵や侯爵が押し黙る程強い力を持つ相手。
なるほど、あんたなら、その理由も納得だ」
俺とファルケンラート公爵が笑顔を浮かべて視線で火花を散らせていると、アヤメが横から剣呑な顔で告げる。
『なんじゃ、こやつが件の下郎かえ?
心の卑しさが顔に出て居るわ。
下賤な輩は、素直に謝罪もできぬのか。
妾が大人しゅうして居る間に、素直に頭を下げれば許してやろう』
俺が目で合図すると、フランチェスカが蒼白な顔で頷いた。
フランチェスが通訳するアヤメの言葉に、ファルケンラート公爵の顔色が変わった。
「……私を下賎と、卑しいと言ったのか。
王家に連なる、この私を」
アヤメがジロリとファルケンラート公爵の顔を睨み付けた。
『生まれなど、さして関係がある訳もなし。
品性の貴賤は魂の在り方よ。
妾の邪魔をして命が無事で済むと思うな、下郎』
ファルケンラート公爵が頬を引きつらせながら、アヤメに告げる。
「私を侮辱することは王家を侮辱するに等しい。
田舎の王族はその程度も理解できないということか。
どうやらその頭の中には『ソ』でも詰まっているらしいな」
アヤメがニヤリと微笑んで応える。
『己が王が認る妾を、”田舎の王族”とは片腹痛い。
下郎は己が国が取る外交政策も理解できぬと見ゆる。
この国は青嵐国と友好的になろうとして居るというのに、高位にある貴族がそれを理解できぬのかえ?
おんしの頭こそ、腐り切って跡形ものうなって居るのではないかえ?』
ファルケンラート公爵とアヤメが睨み合っていると、野郎の背後から一人の貴族がふらりと近寄ってきた。
「おやおや、なんだか犬臭いな。なぜ陛下が主催する夜会で犬の匂いがするんだ?」
貴族の目が、アヤメの足元に居るゲッカに注がれていた。
アヤメが不敵な笑みのまま告げる。
『月華を”犬臭い”と、そう申したかえ?
月夜見様の力の象徴たる、妾の月華を罵ったのかえ?』
フランチェスカが通訳する言葉に、貴族の男が笑いだした。
「ハハハ! たかが犬っころを神の使いと言ったのか!
犬臭いからさっさと会場から追い出してもらえないかな。
毛が料理にかかったらどうしてくれるんだ」
空気が危なくなってきたアヤメを手で制し、俺は貴族の男に告げる。
「おいあんた、悪いことは言わねぇから今のうちに謝っておけ。
それ以上はあんたの命が危うくなる」
貴族の男が、今度は俺に蔑んだ目を向けてきた。
「おっと、これは少女愛者のシャッテンヴァイデ侯爵ではありませんか。
このように幼い子供を婚約者として、毎晩お楽しみだとか。
いやはや、野蛮な傭兵出身の考えることは、理解できませんな」
……自分で言わずに、取り巻きを使ってるのか。
こうして『公爵が直接触れ回ってる訳じゃない』という体裁を取ってるんだな。
何か問題があっても取り巻きを切り捨てれば済む。
取り巻きもそれを承知で、見返り目当てに公爵の手足となる。
まったく、めんどくせぇ世界だ。
アヤメから強い殺気が放たれた――やべぇ!
『下郎が妾の夫を、ようもそこまで愚弄した。
命を捨てる覚悟はできて居るとみてよいな?』
俺は慌てて声を上げる。
「待てアヤメ! 落ち着――」
俺が止める声も聞かず、アヤメの手がゲッカの首を鷲掴みにした。
『この下郎に己が分を弁えさせてやろうぞ!
ゆくぞえ白狼月華! 今ここに在れ!』
するりとゲッカの首が抜き放たれ、アヤメの手には大剣が握られていた。
そのままアヤメが大剣を振るい、貴族の男に向かって片手で大剣を縦一文字に振り下ろす。
刃が届いていないはずの距離で、貴族の男の服だけが綺麗に真っ二つに切り裂かれ、状況を理解していない貴族の男が全裸にされていた。
アヤメが大剣をゲッカに戻して告げる。
『その見苦しい物をさっさとしまうが良い。
妾の前で斯様な姿をとる輩こそ、少女愛者の真の姿ではないのかえ?
――次は命があると思うな、理解したなら疾く去ねい!』
アヤメに一喝された貴族は、気迫に負けて青い顔で走り去っていった。
……こんな場で全裸にするとか、アヤメもエグいな。
俺はため息をついてファルケンラート公爵に告げる。
「見て理解したか? 今のうちに謝るなら、あんたの命は俺が何とかして守ってやる。
だがこれ以上アヤメを怒らせるなら、次はあんたの身体が真っ二つになるだろう。
取り巻きを使って俺たちを攻撃するのは、アヤメを怒らせるだけだと思っておけ。
こいつは十歳の子供だが、道理を理解できない愚か者じゃあない」
戦慄している表情のファルケンラート公爵が、アヤメを困惑して見つめていた。
戦場慣れしていない人間には刺激が強い。
目の前で振るわれた暴力の真の意味は、その刃の輝きだけで理解できる。
服だけで済ませたのはただの温情、本来なら身体ごと真っ二つにできる――その場に残された貴族の服が、それを如実に物語っていた。
ファルケンラート公爵が震える声で告げる。
「……この私に、貴様に頭を下げろとでもいうのか」
「少なくとも、自分がしでかしたことは謝罪をしてもらおう。
それ以上は求めねーよ。
あんたが謝罪し、特例法を認めるって言うなら俺たちは領地に戻る。
王都の社交界に居座る気はねぇ。
俺たちが居なくなってから、好きなだけふんぞり返ってりゃいい」
「……それだけの力を持ちながら、政治に関わる気がないと言ったのか?」
俺は顔をしかめ、手で追い払うようにしながらファルケンラート公爵に告げる。
「あるわけねーだろ、そんなもん。
陛下から頼まれない限り、王都に近寄るつもりはねーよ。
俺の見立てじゃ、シュルツ侯爵は俺に領地経営に専念して欲しいようだ。
それなら俺は、領地でセイラン国の品を国内各地に流し続けるだけだ。
俺の領地は栄え、あんたの領地は凋落するかもしれんが、そこは経営手腕で乗り切ってくれ」
言葉もなく唇を噛み締めているファルケンラート公爵に、俺は言葉を続ける。
「一つアドバイスをくれてやる。
あんたの港は使いづらい。
リュゲンの港をもっと使いやすく整備しろ。
そして手数料を下げておけ。王都近郊だからと胡坐をかき過ぎだ。
そうすりゃあんたの港にも、少しずつ船は戻ってくるだろう。
あとはあんたが新規交易路の開拓をできるかどうか――これは半分、運が絡むがな。
動くなら早めに動けよ? そろそろ経営が傾き始めてるんだろ?」
ファルケンラート公爵が、青白い顔で告げる。
「我が領地を見たこともない貴様が、なぜそのようなことを言える」
「あー? そんなもん港に入ってくる商人たちから聞いたに決まってんだろ?
利用者の生の声は、金を払ってでも拾っておけ。
そして拾った声を検討し、吟味し、先を見て手を打っていけ。
その程度、そこらの商人でもやってることだ。
あんたにできねーとは言わせねーぜ」
アヤメが楽しそうに告げる。
『ヴァルターよ、”一つ”と言いながら大盤振る舞いよな。
良いのか? そのように敵を助くる真似をして』
「俺はそもそも、ファルケンラート公爵を敵と思ってねーからな。
同じ国を栄えさせようとする味方だろ。
何より、俺やアヤメに依存するような国家の運営をしちゃーならねぇ。
俺たちが居なくなっても国を保てるように手を打ってもらう。
万が一オリネアで疫病が発生しても、耐えられる程度にはリュゲンにもでかい港でいてもらわねーとな」
ファルケンラート公爵が、うつろな目で俺を見ていた。
「……貴様、私と戦いに来たのではないのか」
「あー? そんなわけねーだろ? 話をしに来ただけだ。
あんたが俺の話を聞くよう、根回しはしたがな。
あとはアヤメが納得する言葉を、あんたが口にすれば終いだ」
しばらく震えながらうつむいていたファルケンラート公爵が、俺たちに深く頭を下げた。
「……すまなかった、シャッテンヴァイデ侯爵。そしてツキカゲノキミ」
アヤメがニコリと微笑んだ。
『よかろう。おんしを許そう』
俺は両手を打ち鳴らして告げる。
「よし、これで手打ちだな!」
俺はアヤメやファルケンブリック伯爵、ヴァイスハイト伯爵を連れ、ファルケンラート公爵の前から離れた。
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