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第2章:幸福な蟻地獄
28.異能検査(2)
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全員がレクリレーションルームに集合し、デュカリオンの説明を待った。
白衣を着こんだデュカリオンが告げる。
「この施設に一度入ったら、勝手に外には出られないと思ってくれ。
出るのは検査が終わった時だ。
売店が施設内にあるから、欲しいものがあったらそこで買って欲しい。
部屋に検査着があるから、そちらに着替えておいて。
これは下着と共に、毎日新しいものを部屋に届けるよ。
食事は食堂でいつでも食べられる――何か質問はあるかい?」
由香里がおずおずと手を挙げた。
「服のサイズなんて、どうやって調べたんですか」
デュカリオンがにっこりと笑って応える。
「君たちの健康診断データぐらいは把握しているからね。
多少サイズが異なるかもしれないが、その時は言って欲しい。
――他には?」
美雪がそっと手を挙げた。
「食堂でいつでも食事ができるって、どういうことですか」
「常に職員の誰かが厨房に居るからね。
研究施設だと言っただろう? 徹夜する人間も珍しくない。
二十四時間食事ができるようになっているだけだよ。
――まだあるかい?」
俺が手を挙げて告げる。
「採血はいつやるんだ? 今日やるんだろ?」
「ああ、それか。
このあと着替えたら、再びここに来て欲しい。
今日はそれが済んだら自由時間だ。
明日からは朝九時から十時までが異能検査時間。
これは担当職員と共に、検査室で各々の異能を発揮してくれればいいよ。
――もういいかい?」
瑠那が手を挙げて告げる。
「お風呂はどうなってるの?」
「部屋に備え付けのユニットバスがある。
完全防音だから、時間を気にせず使うといい。
着替えは毎日五回分届けておくから、一日数回入っても大丈夫だ。
――もういいね?」
全員が頷き、デュカリオンも頷き返した。
「では言った通り、服を着替えてここに再集合だ」
俺たちはレクリレーションルームを出て、それぞれの部屋へ向かった。
****
半袖ショートパンツの検査着とやらに着替え終わった俺たちが、再びレクリレーションルームに集まり、職員が血を抜いて行った。
紙パックのオレンジジュースを手渡され、全員で部屋の中のテーブルに着く。
「自由時間って言われても、どうするかなぁ」
由香里が俺に告げる。
「少なくとも、悠人さんが自由になるのは土日だけですよ?
平日は私たち、曜日担当の女子の相手をしてもらわないといけませんから」
ああ、それがあったか。
今日は月曜日だから由香里の日だ。
俺たちは遅めの朝飯を食堂で頼み、それを食い終わると女子たちに告げる。
「じゃあ俺は由香里の部屋に行くから、何かあったら携帯端末にメッセージでも入れておいてくれ。
どうしても急ぎの用事があったら、由香里の部屋を訪ねて欲しい。それでいいか?」
女子たちが頷くのを見て、俺は由香里に手を引かれながら彼女の個室へと向かった。
****
部屋に入って扉が閉まると同時に、由香里は俺に抱き着いてきて告げる。
「これで朝まで、ずっと一緒ですね。
美雪じゃありませんが、きちんと朝まで愛してもらいますからね」
「えっ?! ここでもか?!」
美雪は俺を見上げ、大人びた微笑みを浮かべた。
「いけませんか? 完全防音らしいですし、気にする必要はないでしょう?」
由香里の女子らしくなりつつある身体が俺に強く食い込んでくる。
この一か月、由香里の身体は女子らしさが増して、女の色気を漂わせるようになっていた。
成長期だからってのもあるだろうけど、たぶん毎週俺の愛を受けてることの方が影響が大きそうだ。
俺は戸惑いながら頭をかき、由香里を抱え上げて、ベッドに連れて行った。
****
食堂に残っていた女子たちが雑談をしていた。
美雪が告げる。
「由香里の奴、こんな昼間から始める気だよ。
いったい何時間、愛を刻んでもらうつもりなんだか」
優衣が美雪に告げる。
「あなたがそれを言うの?
でも楽しみよね。今週と来週は、たっぷり愛を刻んでもらえる。
早く明日にならないかしら」
瑠那があきれた顔で告げる。
「あんたら、少しは慎みってものを覚えなさいよ?
女子中学生の自覚を持ってよ」
優衣がニコリと微笑んだ。
「ならあなたは、健全な時間を過ごせばいいじゃない。
担当者がその日に何をしようが、それは自由よ。
悠人さんが受け入れてくれる限り、私たちは愛を求めるだけ。
あなたは二回目を経験しても、まだ自分が我慢できると思ってるの?」
瑠那は言葉に詰まっていた。
彼女たちが言う通り、悠人が与えてくる『本当の愛』は、一回目より二回目の方がより強い歓喜を覚えていた。
三回目の歓喜がどれほどの大きさになるか、想像もつかないくらいだ。
あれを我慢しろと言われても、瑠那の自制心では無理な話だった。
それを五回も経験している彼女たちが、『本当の愛』を我慢できる訳がないのだ。
ため息をついた瑠那が観念して告げる。
「確かに、自分の曜日が待ち遠しいわね。
彼シャツは持ってきているから、それでなんとか耐えるしかないか」
ガラティアが無邪気に告げる。
「みんな、自分の日が待ち遠しいの?
私も楽しみになってきた!」
三人がぎょっとしてガラティアを見つめた。
美雪が目を丸くしてガラティアに告げる。
「まさか、ティアも『本当の愛』を刻み付けてもらうつもりなの?!」
ガラティアが無邪気に小首を傾げる。
「いけない? 私だって悠人の彼女なんだし、おかしなことはないよね?」
優衣が戸惑いながら告げる。
「だってあなた、今まで一度もそんなこと言わなかったじゃない」
「うん、そうなんだけど、デュカリオンが『私も愛されてきなさい』って言うから」
瑠那は呆然とガラティアを見つめた。
「まさか……私たちのそんな事情を、あの人に話したの?!」
「違うよ? でもデュカリオンは何でも知ってるから、そのせいじゃない?」
美雪が周囲を慌てて見回した。
「まさか、監視カメラで見張られてるとかないわよね?!」
優衣が冷静に部屋を見回した。
「……それらしいものは見当たらない。
今日過ごしていて、監視されているという感じもなかったわ。
でも気を付けて過ごした方が良さそうね」
ガラティアが無邪気な笑顔で告げる。
「デュカリオンはそんなもの要らないよ。
それに見張る時はちゃんと『見張るよ』って言ってくれる人だし。
変な心配はしなくていいと思うけど」
瑠那が深いため息をついて告げる。
「たとえ見張られていたとしても、悠人の愛を一種間以上我慢できる気がしないわ。
本音を言えば、今すぐにでも悠人の愛が欲しいくらいだもの」
優衣が楽しそうに瑠那を見つめた。
「あら、ようやく私たちと同じところに来れたのね。
一週間耐えきった後の愛の味は格別よ?
飢えれば飢えるほど食事が美味しくなるのと同じね」
瑠那もそれについては、二回目で既に実感を覚えていた。
だんだんと彼シャツ程度では我慢できなくなり、苦しい夜を過ごすのだ。
本物の悠人から受ける『本当の愛』が欲しいと心が渇望し始める。
一週間目、眠れぬほど切ない夜を過ごしてからの『本当の愛』の味は、苦しかったことを全て忘れられる禁断の味がした。
瑠那が深いため息をついて告げる。
「なんだか、中学生らしくない恋愛をしてしまってるわね、私たち。
こんなのよくないって思うのに止められない。
愛されれば愛されるほど深みにはまっていく。蟻地獄みたいよね」
美雪がニタリと微笑んだ。
「だからなんだっていうの? あの瞬間に覚える自分の確かな価値を、瑠那は捨てられるの?
私にはもう無理よ。悠人さんから価値を与えられなければ、私には何も残らないんだもの」
瑠那には反論ができなかった。
悠人に与えられる価値こそが自分の全て――その感覚を心の底から実感してしまったら、それ以外の感覚を思い出すことが出来なくなっていた。
それ以前の自分がどうやって自分であったのかなど、まだ二回しか愛されていない瑠那ですらもう思い出せないのだから。
彼女たちは自分の担当がやってくる日を渇望しながら、それぞれ自分の部屋に戻っていった。
****
瑠那は誰も居ないトレーニングルームで空手着に着替え、静かに型をなぞっていた。
ゆっくりと静かに、正確に型をなぞる。
眠れない夜を過ごすコツとして、悠人が教えてくれた方法で、彼の愛を渇望する心を抑え込んでいた。
そこに悠人との絆を感じられる気がして、瑠那は陶酔しながら演武を続けていく。
渇望と戦いながら陶酔する時間が過ぎて行き、もはや渇望を抑えているのか、自分から渇望を刺激しているのかわからなくなっていた。
演武の間、瑠那は悠人との一体感を思い出し、彼と共に演武を行っている錯覚すら覚えていた。
「まだやってるの?」
優衣の声で動きを止め、滴る汗を瑠那は手で拭った。
「どうしたの? 優衣」
優衣はあきれた顔で告げる。
「あなた、もう午後八時よ? 昼から今まで、もしかして休まずやってたりしたの?」
瑠那は驚いて目を見開いた。時計を見れば、確かに午後八時をだいぶまわっている。
窓のないこの施設では、時間の感覚がなくなる。そのせいだろうか。
瑠那は深いため息をついて告げる。
「教えてくれてありがとう。もう上がるわ」
「それがいいわよ。あなた、いくら体力が付いてきたと言ってもやりすぎよ」
「わかってる」
瑠那はトレーニングルームの更衣室で検査着に着替えたあと、シャワーを浴びてから食事を取り、再び部屋に戻った。
疲れ切っているはずなのに、疲労を感じない。
演武の間、確かに瑠那は悠人との一体感を感じていた。
充実感だけが心を支配し、眠れる気もしなかった。
「……明日はまだ火曜日、水曜日まで、あと二日」
それは絶望的な時間に思えた。
瑠那は演武に邪魔な検査着を脱ぐと、下着姿になって部屋で一人、再び演武を始めた。
本物には遠く及ばないが、心は充足していく。悠人との一体感に陶酔しながら、瑠那は演武で夜を明かしていった。
白衣を着こんだデュカリオンが告げる。
「この施設に一度入ったら、勝手に外には出られないと思ってくれ。
出るのは検査が終わった時だ。
売店が施設内にあるから、欲しいものがあったらそこで買って欲しい。
部屋に検査着があるから、そちらに着替えておいて。
これは下着と共に、毎日新しいものを部屋に届けるよ。
食事は食堂でいつでも食べられる――何か質問はあるかい?」
由香里がおずおずと手を挙げた。
「服のサイズなんて、どうやって調べたんですか」
デュカリオンがにっこりと笑って応える。
「君たちの健康診断データぐらいは把握しているからね。
多少サイズが異なるかもしれないが、その時は言って欲しい。
――他には?」
美雪がそっと手を挙げた。
「食堂でいつでも食事ができるって、どういうことですか」
「常に職員の誰かが厨房に居るからね。
研究施設だと言っただろう? 徹夜する人間も珍しくない。
二十四時間食事ができるようになっているだけだよ。
――まだあるかい?」
俺が手を挙げて告げる。
「採血はいつやるんだ? 今日やるんだろ?」
「ああ、それか。
このあと着替えたら、再びここに来て欲しい。
今日はそれが済んだら自由時間だ。
明日からは朝九時から十時までが異能検査時間。
これは担当職員と共に、検査室で各々の異能を発揮してくれればいいよ。
――もういいかい?」
瑠那が手を挙げて告げる。
「お風呂はどうなってるの?」
「部屋に備え付けのユニットバスがある。
完全防音だから、時間を気にせず使うといい。
着替えは毎日五回分届けておくから、一日数回入っても大丈夫だ。
――もういいね?」
全員が頷き、デュカリオンも頷き返した。
「では言った通り、服を着替えてここに再集合だ」
俺たちはレクリレーションルームを出て、それぞれの部屋へ向かった。
****
半袖ショートパンツの検査着とやらに着替え終わった俺たちが、再びレクリレーションルームに集まり、職員が血を抜いて行った。
紙パックのオレンジジュースを手渡され、全員で部屋の中のテーブルに着く。
「自由時間って言われても、どうするかなぁ」
由香里が俺に告げる。
「少なくとも、悠人さんが自由になるのは土日だけですよ?
平日は私たち、曜日担当の女子の相手をしてもらわないといけませんから」
ああ、それがあったか。
今日は月曜日だから由香里の日だ。
俺たちは遅めの朝飯を食堂で頼み、それを食い終わると女子たちに告げる。
「じゃあ俺は由香里の部屋に行くから、何かあったら携帯端末にメッセージでも入れておいてくれ。
どうしても急ぎの用事があったら、由香里の部屋を訪ねて欲しい。それでいいか?」
女子たちが頷くのを見て、俺は由香里に手を引かれながら彼女の個室へと向かった。
****
部屋に入って扉が閉まると同時に、由香里は俺に抱き着いてきて告げる。
「これで朝まで、ずっと一緒ですね。
美雪じゃありませんが、きちんと朝まで愛してもらいますからね」
「えっ?! ここでもか?!」
美雪は俺を見上げ、大人びた微笑みを浮かべた。
「いけませんか? 完全防音らしいですし、気にする必要はないでしょう?」
由香里の女子らしくなりつつある身体が俺に強く食い込んでくる。
この一か月、由香里の身体は女子らしさが増して、女の色気を漂わせるようになっていた。
成長期だからってのもあるだろうけど、たぶん毎週俺の愛を受けてることの方が影響が大きそうだ。
俺は戸惑いながら頭をかき、由香里を抱え上げて、ベッドに連れて行った。
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食堂に残っていた女子たちが雑談をしていた。
美雪が告げる。
「由香里の奴、こんな昼間から始める気だよ。
いったい何時間、愛を刻んでもらうつもりなんだか」
優衣が美雪に告げる。
「あなたがそれを言うの?
でも楽しみよね。今週と来週は、たっぷり愛を刻んでもらえる。
早く明日にならないかしら」
瑠那があきれた顔で告げる。
「あんたら、少しは慎みってものを覚えなさいよ?
女子中学生の自覚を持ってよ」
優衣がニコリと微笑んだ。
「ならあなたは、健全な時間を過ごせばいいじゃない。
担当者がその日に何をしようが、それは自由よ。
悠人さんが受け入れてくれる限り、私たちは愛を求めるだけ。
あなたは二回目を経験しても、まだ自分が我慢できると思ってるの?」
瑠那は言葉に詰まっていた。
彼女たちが言う通り、悠人が与えてくる『本当の愛』は、一回目より二回目の方がより強い歓喜を覚えていた。
三回目の歓喜がどれほどの大きさになるか、想像もつかないくらいだ。
あれを我慢しろと言われても、瑠那の自制心では無理な話だった。
それを五回も経験している彼女たちが、『本当の愛』を我慢できる訳がないのだ。
ため息をついた瑠那が観念して告げる。
「確かに、自分の曜日が待ち遠しいわね。
彼シャツは持ってきているから、それでなんとか耐えるしかないか」
ガラティアが無邪気に告げる。
「みんな、自分の日が待ち遠しいの?
私も楽しみになってきた!」
三人がぎょっとしてガラティアを見つめた。
美雪が目を丸くしてガラティアに告げる。
「まさか、ティアも『本当の愛』を刻み付けてもらうつもりなの?!」
ガラティアが無邪気に小首を傾げる。
「いけない? 私だって悠人の彼女なんだし、おかしなことはないよね?」
優衣が戸惑いながら告げる。
「だってあなた、今まで一度もそんなこと言わなかったじゃない」
「うん、そうなんだけど、デュカリオンが『私も愛されてきなさい』って言うから」
瑠那は呆然とガラティアを見つめた。
「まさか……私たちのそんな事情を、あの人に話したの?!」
「違うよ? でもデュカリオンは何でも知ってるから、そのせいじゃない?」
美雪が周囲を慌てて見回した。
「まさか、監視カメラで見張られてるとかないわよね?!」
優衣が冷静に部屋を見回した。
「……それらしいものは見当たらない。
今日過ごしていて、監視されているという感じもなかったわ。
でも気を付けて過ごした方が良さそうね」
ガラティアが無邪気な笑顔で告げる。
「デュカリオンはそんなもの要らないよ。
それに見張る時はちゃんと『見張るよ』って言ってくれる人だし。
変な心配はしなくていいと思うけど」
瑠那が深いため息をついて告げる。
「たとえ見張られていたとしても、悠人の愛を一種間以上我慢できる気がしないわ。
本音を言えば、今すぐにでも悠人の愛が欲しいくらいだもの」
優衣が楽しそうに瑠那を見つめた。
「あら、ようやく私たちと同じところに来れたのね。
一週間耐えきった後の愛の味は格別よ?
飢えれば飢えるほど食事が美味しくなるのと同じね」
瑠那もそれについては、二回目で既に実感を覚えていた。
だんだんと彼シャツ程度では我慢できなくなり、苦しい夜を過ごすのだ。
本物の悠人から受ける『本当の愛』が欲しいと心が渇望し始める。
一週間目、眠れぬほど切ない夜を過ごしてからの『本当の愛』の味は、苦しかったことを全て忘れられる禁断の味がした。
瑠那が深いため息をついて告げる。
「なんだか、中学生らしくない恋愛をしてしまってるわね、私たち。
こんなのよくないって思うのに止められない。
愛されれば愛されるほど深みにはまっていく。蟻地獄みたいよね」
美雪がニタリと微笑んだ。
「だからなんだっていうの? あの瞬間に覚える自分の確かな価値を、瑠那は捨てられるの?
私にはもう無理よ。悠人さんから価値を与えられなければ、私には何も残らないんだもの」
瑠那には反論ができなかった。
悠人に与えられる価値こそが自分の全て――その感覚を心の底から実感してしまったら、それ以外の感覚を思い出すことが出来なくなっていた。
それ以前の自分がどうやって自分であったのかなど、まだ二回しか愛されていない瑠那ですらもう思い出せないのだから。
彼女たちは自分の担当がやってくる日を渇望しながら、それぞれ自分の部屋に戻っていった。
****
瑠那は誰も居ないトレーニングルームで空手着に着替え、静かに型をなぞっていた。
ゆっくりと静かに、正確に型をなぞる。
眠れない夜を過ごすコツとして、悠人が教えてくれた方法で、彼の愛を渇望する心を抑え込んでいた。
そこに悠人との絆を感じられる気がして、瑠那は陶酔しながら演武を続けていく。
渇望と戦いながら陶酔する時間が過ぎて行き、もはや渇望を抑えているのか、自分から渇望を刺激しているのかわからなくなっていた。
演武の間、瑠那は悠人との一体感を思い出し、彼と共に演武を行っている錯覚すら覚えていた。
「まだやってるの?」
優衣の声で動きを止め、滴る汗を瑠那は手で拭った。
「どうしたの? 優衣」
優衣はあきれた顔で告げる。
「あなた、もう午後八時よ? 昼から今まで、もしかして休まずやってたりしたの?」
瑠那は驚いて目を見開いた。時計を見れば、確かに午後八時をだいぶまわっている。
窓のないこの施設では、時間の感覚がなくなる。そのせいだろうか。
瑠那は深いため息をついて告げる。
「教えてくれてありがとう。もう上がるわ」
「それがいいわよ。あなた、いくら体力が付いてきたと言ってもやりすぎよ」
「わかってる」
瑠那はトレーニングルームの更衣室で検査着に着替えたあと、シャワーを浴びてから食事を取り、再び部屋に戻った。
疲れ切っているはずなのに、疲労を感じない。
演武の間、確かに瑠那は悠人との一体感を感じていた。
充実感だけが心を支配し、眠れる気もしなかった。
「……明日はまだ火曜日、水曜日まで、あと二日」
それは絶望的な時間に思えた。
瑠那は演武に邪魔な検査着を脱ぐと、下着姿になって部屋で一人、再び演武を始めた。
本物には遠く及ばないが、心は充足していく。悠人との一体感に陶酔しながら、瑠那は演武で夜を明かしていった。
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