ふたりきりの閉鎖倶楽部

きどじゆん

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とある一柱と人間の男『カイトウ』の対話

#33

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 ところで話は変わりますが、と女神が切り出す。
「あなたが以前希望していたこと、こちらには用意があります。貴方の了承を得られれば、すぐにでも契約を結べますよ」
 そして、予想もしないことを言い出した。
 詳細を聞く前から、もうめちゃめちゃ嫌な予感を覚えたので、俺はこう言った。

「お断りします」
「ほう、なんのことか聞かないのですか」
「全然話は見えないが、どうせ俺にとってメリットのある契約を結ぶ代わりに閉鎖空間に行ってこいとか、そういう流れになるんだろ。そんなのもう嫌だね」
「そんな話ではありませんよ。あと、そういう類の話なら、私が行くよう命令した場合はあなたに拒否権はありません。私にはそれぐらいの権能が与えられています」
 拒否権さえないのか。
 下位存在の扱いはブラックコーヒー並にブラック。

「俺が希望したことってなんかあったか?」
「神が時間に縛られているかどうかとあなたが疑問を浮かべた時のことです。もう忘れましたか?」
 そういえばそんなこともあった。「神様は時間にしばられているのか」と俺が考え、こいつは「それを知ったら処分、もしくは下僕にしなければならない」と言った。
「そうです。そのときにあなたは、一生養ってくれるならそれもいい、と考えましたね」
 ……まずい。完全に失言だ。
「失言ではありませんよ。私は喜ばしく思います。人類を救った英雄の魂が私の下僕となる……なんと素晴らしきことか、なんと美しき神への信仰か!」
「やめろ盛り上がるな! そもそも俺は下僕になるのもありかもとは考えたが、下僕になるとは一言もーー」
「ふむ、ならばこちらからも譲歩しましょう。貴方が下僕として忠誠を誓うなら、貴方の魂が消滅するまでは貴方の性的嗜好に合わせた姿で顕現します。確か、胸元が大胆に開いた白いドレス、一目で判別できるほど女性的魅力に溢れた豊満な肢体、清らかな雰囲気を感じさせる顔立ち、そして絹のようになめらかな金色の長髪でしたね……その程度なら容易いことです」
「いや待て、待ってくれ」
「今すぐにその姿で現れても構いませんよ。見ればすぐにその気になることでしょう……それでは、早速」
「やめろおおおっ!」
 それ以上攻められたら本当に欲望に忠実に決断してしまうから、やめてくれ。
 ……いや、心残りなんてないから、本当だから!

 というか、そもそもだ。
「俺を下僕にしてどうするつもりだよ。悪いが俺に期待しても損するだけだぞ。この口調は変えないし、考え方も変えないからな」
「むしろその方が好都合、というもの。あなたにはナンナのように、仮想現実--人間がVRと呼んでいる電子技術で作られた人物になってもらおうかと」
 多少遠回りな言い方をしていたが、つまりあれか? 俺にVRのキャラクターを演じる配信者になれと?
「あなたは向いていると思いますよ。口も達者ですし、ナンナと貴方のやりとりは神々にも好評だというのは先に話したとおりです。彼女との交流を神々は期待しています」
 期待されましても。
 そっちに用意があっても、こっちに用意はないんだよ。
 
「下僕になる話はなしで。あと配信者もお断り」
「理由を聞いても?」と女神が言う。
 対して俺は、
「こちとら夜更かしが嫌いなんだよーーアイツとは違って」
 と、動画配信者では維持できないであろう健全な生活リズムを守るため、保守的な姿勢をとるのだった。
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