ふたりきりの閉鎖倶楽部

きどじゆん

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とある一柱と人間の男『カイトウ』の対話

#32

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「おや、そろそろ決着がつきそうですよ」
 女神の言った通り、いつのまにか画面に映っている制限時間は残り五分を切っていた。
 現在の勝ち星は、更科しらさの対戦相手の方が二つ多い。時間的に、更科しらさの勝利は無くなったと言ってよいだろう。
 そして今更だが、対戦相手の額に角が生えていることに俺は気づいた。
 ……ああそうか。架空のキャラクターだから別に人間である必要はないのか。角が生えていようが動物の耳が生えていようが、視聴者に受け入れられれば問題ないんだ。
 対戦相手は、唇の端から小さいキバを見せながら笑っている。

『さあさあ、しーちゃんのお泊りが近づいてきましたよ?』
『くっ、せめて……せめて最後に逆転のチャンスを!』
『いいよー、その代わりゲームはこっちが決めるから』
『この鬼……いや、鬼だったわこの子。もう、残り四分で二回勝ってなんとか引き分けに持ち込むしかない!』
『いやあ、今日から三日間しーちゃんとお泊りかあ。短いなあ……私が秒殺したらもう一日ぐらい伸ばさない?』
『格ゲーでやるとは決まってないでしょ、次こそは絶対に落ちモノ、もしくは頭脳系を引くから』

 更科しらさはそう言うと、画面上にくじ引きマシーンらしきものを表示し、一枚引いた。
 表示されたのは、先程も敗北を喫した対戦格闘ゲームのタイトル。
 その後、奇跡など起ころうはずもなく、順当に更科しらさは敗北した。

『じゃあ、しーちゃん。敗者はルール通りに私の家にお泊りしてもらいましょうか』
『くっ、仕方ない……従いましょう』
『ああそうだ、配信に必要なもの以外何も持ってこないでね』
『どうして? 寝巻きとか歯ブラシとかいろいろ持っていくつもりだったけど』
『いやもう、この企画が決まった時点でしーちゃんの身の回りのもの全部買い揃えてたんで。おそろいの歯ブラシも可愛いパジャマも用意してあるよ』
『え、やだ怖い、この子』
『怖がらなくていいよー、優しくしてあげるから。お風呂もお布団も一緒にしようね?』
『せめてどっちかにして!』

 そこからしばらく二人のやりとりが続く。
 そして、更科しらさの締めの挨拶とエンディングが流れ、動画は終わった。

「どうしました、カイトウ。怪訝な表情ですが」
「いや、対戦相手の鬼の子、距離感おかしくなかったか。好感度カンストしてるぞ。仲のいい女同士ってああいう感じなのか?」
「ふむ、人間の女同士の交友実態がどのようなものか、私は把握していませんが……少なくとも、更科しらさに対してあの鬼の娘は、過去の配信でもあのような距離感で接していたようですね」
「俺の知らない世界がここにある……」
 興味をひかれない対象は避けてきたが、これからはVRキャラクターの配信を見てもいいかもしれない。
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