ふたりきりの閉鎖倶楽部

きどじゆん

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とある一柱と人間の男『カイトウ』の対話

#31

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 白い空間に動画が映し出された。
 そこに映っているのは3D対戦格闘ゲームの対戦映像と、ゲーム画面外で各々の表情を浮かべて喋るVRの美少女二人。
 片方は知らないが、もう片方は知っている。
 あれは『更科しらさ』だ。そして彼女を操っているのは、俺の知るナンナだろう。

 ゲーム画面の、対戦開始の掛け声。
 速攻をかける2P側が1P側の防御を突き崩し立ち技のコンボ、からの足払いで宙に浮かし、そのまま空中での連続技を華麗に決め、最後は空中旋回からの投げ技で地面に叩きつける。
 この時点で1P側の体力は残りニ割。
 2P側の舐めプにより、1P側はダウン状態への追い打ちを食らうことはなかったものの、その後はなんというか、良いところを見せるどころか手も足も出ずに1P側の更科しらさは敗北した。
 見た感想? 上級者が素人プレイヤーをボコった、以上。

 更科しらさは「ちょっとは手加減して!」と叫び、対戦相手はゲラ笑いしていた。
 現実だとゲラ笑いなんてあまり見たくないが、VR美少女がやると可愛く見える。この感覚は、小型犬がキャンキャン鳴くのを微笑ましく見守る感じに近い。
 
『はい、これで一勝一敗ですよ、と』
『私が格ゲーで勝てるわけないでしょう、苦手って知ってるくせに……』
『いやあ、相変わらずしーちゃんは弱いねえ』
『次は負けないから、落ちものパズルゲー、もしくはボドゲなら私が絶対勝てる』
『いやあ、くじ引きでゲーム決めてるんだからまた格ゲーかもよ? 私が混ぜたゲーム全部そっち系だし』
『ちょ、なんでそういうことするの!』
『そりゃあ、絶対しーちゃんを負かせたいからに決まってますよ。負けられない戦いがここにある』

 なにやら下品な笑い顔を浮かべている更科しらさの対戦相手。
 一体この二人は何をやっているんだ。
「動画タイトルには、『第四回負けたら三日間強制お泊り大会ーーしらさは今日こそ勝って伝説を作ります!』とあります。どうやら、くじ引きで対戦するゲームを決めて、時間内に多くの勝ち星を上げた方が勝者となり、敗者を家に呼ぶことができるようですね」
「タイトルからすると、この動画はナンナのーー更科しらさのチャンネルでやってるんだな。なかなかファンキーな試みじゃないか」
「そうですね、第一回から負け続けているようですが、懲りずに挑戦を続けているようです」
「負け続け……何がしたいんだ、アイツ」
「貴方のアドバイスを受けて、彼女なりに考えて企画にしたのでしょう。敗者は勝者の家に泊まらなければならないということは、この企画に参加した時点で二人は三日間共同生活することに同意している、ということになります。貴方が言ったことは、そういった人間同士の繋がりを重視することだったでしょう」
「……なるほどね、考えたな」

 俺のアドバイスは『他人との関係づくりを大事にすること』だった。
 確かにこの企画なら、単純に動画としても面白いし盛り上がる。それに勝っても負けてもこの配信をしている演者二人はリアルな繋がりを作れる。
 それにーー得られるものとしてはこれが最も大きいだろうが、この企画を引き受けてくれるくらい心を許している人にアタリを付けられる、という点。
 一日ならともかく三日間泊まるとなれば、お互いに予定を調整しなければならないだろう。その手間よりも、ナンナと過ごすことを優先してくれる相手なら、彼女の心の拠り所となってくれるかもしれない。
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