恋じかけの錆びたはぐるま〜アンドロイド失踪と彼女の恋慕〜

きどじゆん

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捜索開始

#11

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 実は僕は、昔の森さん――森ちゃん先輩に憧れていたことがある。
 とは言っても、別に告白して付き合おうとかそんなハラハラする思いを抱いていたわけではなくて、純粋に彼女の言動への尊敬があったから、お近づきになりたいと思っていた。
 恋人になりたい、というよりは――そう、舎弟になりたい、に近い。
 まあ、あくまでも『どちらかと言えば』という前提はつくが。

 森ちゃん先輩は僕から見ても可愛らしかった――今が可愛らしくないというわけではない――し、付き合えるものなら付き合いたかった。
 僕だって異性に興味がないわけじゃないのだ。
 単純にストライクゾーンが狭いというだけで。

 年上で、面倒見がよくて、かつ僕にはできないことをやってのける人。そんな人に僕は憧れていた。
 年上の女性に面倒を見てもらいたいからという甘えた気持ちがあるわけでは……いや、無いわけでもないけど――それはともかく、僕は年上で面倒見のよい森ちゃん先輩に運良く出会い、一年間という短い間ではあったけど、楽しい思い出を作らせてもらった。

 僕は高校で、とあるサークルに入っていた。森ちゃん先輩とはそこで出会った。
 そのサークルは『古のデジタルガジェット交流会』という、サークルというよりは、ネット上の匿名ユーザーがチャットし合う場をリアルに持ってきたような胡散臭い集まりだった。
 実際、集まっている連中も、森ちゃん先輩を除いて怪しい野郎どもばかりだった――彼らのことを慮って言うと、見た目と語り口は独特だったが、じっくり聞けば彼らなりにちゃんと筋の通った話をしてくれているとわかったし、いずれも社会規範や公序良俗に反しないまともな考えの持ち主ばかりだった。
 ただ、トークスキルの磨き方の方向が、内向的趣味の持ち主、いわゆるガジェットオタクというマイノリティ向きに調整されているだけなのだ。
 
 そのサークルに僕が加入するきっかけは、サークル勧誘に応じたからだ。
 当時高校三年生の森さんから、おそらくはぼんやり歩いていたであろう僕に声をかけてきたのだ。
 今でもどういうわけかその部分だけ切り取って覚えているが、「そこのキミ、『パカパカ』とか好きじゃない?」と彼女は話しかけてきた。
 僕はなんと返事したんだったか――それは思い出せないが、『パカパカ』のことを知っている風な返事をしたのではないだろうか。
 だって、そうでなくては返答を聞いた後の森ちゃん先輩が喜色満面といった表情で僕の制服の袖を掴み、「はい、お仲間さん一名、ごあーんない!」などと言うわけがない。

 例のサークルに半ば強引に連れ込まれた後、僕が『パカパカ』を知っていることについての尋問が始まった。
 後に学校の外でも遊びに出かけるくらいまで仲良くなるサークルメンバーたちも、その時ばかりは警戒して近づいてこなかった。
 そのため、森ちゃん先輩が僕の尋問を担当した。
 尋問とは言っても、映画の中で敵国のスパイに対して執り行われる緊張感漂うシーンを思わせるものではなく、「お茶もお菓子もあるから、ゆっくり語っていってね」という緩いものだった。

 ちなみに、当時の僕は『パカパカ』というモノのことを詳しく知っているわけではなかった。
 まだ小学生の頃、なかなか物を捨てたがらない父の部屋で、偶然手のひらサイズの変形する玩具を見つけて遊んでいたところ、それが『パカパカ』という愛称で親しまれている――いや、親しまれていたレア物の通信デバイスであることを教えてもらった、という経験があるだけだった。
 しかし、その体験を語った僕はサークルメンバーに仲間として認識されたらしく、そのままなし崩しにサークルへ加入することとなった。

 僕が森さんを先輩として、あるいは舎弟として慕うようになったのはそれからだ。
 彼女はサークルのリーダーだった。
 自分の意見を持っていて、それを貫いてゆけるだけの芯が彼女にはあった。
 ろくに会話もしない、むしろ独り言の方がすらすら出てくるメンバーたちが意思疎通をはかれたのは、森ちゃん先輩がコミュニケーション能力を活かして間を取り持ってくれたおかげだろう。
 彼女の卒業後にサークルが自然消滅したことがなによりの証拠である。

「お前がそんな風に森先輩に接してたから、先輩は卒業してからもお前とたまに会ってくれてたんだぞ」
 雄志は、僕にヘッドロックを極めたままでそう言った。
 いや、少しばかり締める力が増したかもしれない。
「マンションの部屋を紹介してくれたのも、ちょっと家賃が安い下の階の部屋を割り当ててくれたのも、お前を思いやってのことだってのに……俺に鈍感だなんだと言う前に自分を振り返ってみたらどうだ」

 ギブアップの意思を込めて雄志の腕をタップするが、その手が振りほどかれる雰囲気はない。
 僕がいよいよ全力で抗おうとしたところで、唐突に拘束は解けた。
 雄志が腕を技を解き、僕の首を開放したのだった。

 僕が頭の血流を回復させている間に、雄志は自身の通信デバイスを使って誰かと通話を始めたようだった。
「もしもし……ああ、かな子か。何かあったか」
 どうやら話し相手は妹のかな子のようだ。
 ということは、僕は妹によって窮地を救われたらしい。
 ……待てよ、このタイミングでかけてきたということは、今の今まで躊躇していたのか。
 助けてもらってなんだが、遅すぎるだろう、さすがに。

「は? 兄貴の家に来てるって……今お前の兄貴は俺の部屋に居るけど――いやいや、『偶然なのでお邪魔してもいいですか』って、何が偶然なのかよくわからないが……ああ、こっちに来たいなら来てもいいぞ、ついでにうっとおしい兄貴の口も塞ぎに来てくれ」
 そんなやりとりの後、どうやら通話は終わったらしい。
 雄志が通話を切る素振りを見せなかったのは、彼の身につけている通信機器『ID-VICEアイデバイス』が完全ハンズフリーだからだ。
 耳に装着するこの機器は音声を認識して、あるいは眼球運動による細かな筋肉の動きを検知して、それに合わせたタスクを実行する。
 通話を受けるのも切るのも、目の動きだけで可能である。

「かな子がこっち来るってよ。丁度いいからお前、回収してもらうわ」
 と雄志が言う。まるで邪魔ものみたいな扱いじゃないか、僕は。
「黙ってても言いたいことが分かるのが嫌なんだが……実際お前、邪魔だぞ。いつまでもふざけるつもりなら帰れ、マジで。こっちは忙しいんだから」
「つれないな、親友」
「親友ならもう少し今の状況に緊張感を持てよ――無駄話する暇なんかないだろ、俺たちには」
「……そうだね、確かにその通りだ」

 そう、こうしているのはただの休憩であって、いつまでもこうしているわけにはいかないのだ。
 雄志の所有するアンドロイド、宝塚アンナは未だ捜索中。
 探偵の黒居さんにも、マンション管理人の森さんにも協力を依頼した。
 身近な友人で最もアンドロイドに詳しい梶一葉からの話も聞けた。
 この辺りで、一旦情報をまとめて共有しておくべきだろう。
 僕と雄志と――『偶然なのでお邪魔する』という、テンパって間違えたであろう言い分で好きな人の家に上がり込もうという魂胆の、僕の妹も交えて。
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