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終章
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ウィンスレットの舞踏会の翌日、ライアンはフェリクスと共にブロンテ伯爵家を訪れていた。
「ライアン、よく来てくれた!」
アルマンは機嫌よく出迎えてくれた。
ルナもフェリクスと婚約が決まった所なので、フェリクスが来て嬉しく仕方ないといった表情をしていた。
ライアンはあえてブロンテ伯爵家の全員に話さなければならない…とやって来たのだ。
「アルマン、伯爵夫人。うちの息子とレディ ルナの婚約についてだが…」
ライアンが言いづらい話を切り出すと
「あら、何か問題でもおありなのかしら?」
リリアナがライアンの、口調に何か感じたようだ。
「いや、当人同士には何も問題はないのだが、我が家の…というりは私のスキャンダルだ…」
「スキャンダルだって?ライアン、君にか?」
アルマンが驚いて言った。
「このシーズン終わりに、エリザベスとの離婚とそれから再婚を公表する」
ライアンは、友人でもあるアルマンに打ち明けた。
しかし…
「なんだ、そんな事か…」
とアルマンが軽く言ってしまったので、ライアンは苦笑した。
「そんな事、ではないかと思ってたんだが…」
アルマンらしいと言えばらしいと言えた。
「そんな事だ。借金まみれだとか犯罪に手を染めていたとかでは無いじゃないか、レディ エリザベスと君とは長年不仲だというのは有名な、話だったし…ああ、…フェリクス卿、すまないね。レディ エリザベスも君も別れて正解じゃないのかな?」
アルマンが、あっさりと言ってのけるのでフェリクスも笑った。
「レディ ルナを巻き込んでしまうと思い、事前にこうして謝罪に来た次第だ」
ライアンは、アルマンがまさかこんな風な反応を返すとは思わず、苦笑しつつ言った。
「うちなら大丈夫ですわ、閣下」
にっこりとリリアナも笑っている。
「それで、レディ エリザベスはどうなるの?」
リリアナは同じ女性として、エリザベスの事が気になる様子だった。
「母はヨーク・ブリッジの邸に住むそうです」
ライアンの代わりにフェリクスが言った。
「そう…ご実家のお屋敷ね?それなら落ちついて良いでしょうね」
リリアナは嘆息をついた。
「で、ライアン。君の再婚相手とは一体誰なんだ?」
アルマンが聞いてきた。
「多分面識はないはずだが…、レディ エレナ・ヘプバーンだ」
はじめて聞く名前にフェリクスもアルマンも首を傾げた。
「ヘプバーン…というと、ノースブリッジ伯爵家の方?」
リリアナが言い、ライアンはうなずいた。
「先代のご令嬢にあたる」
「まったく記憶にないわ…」
リリアナが言う。
「先代の、というと事故死されたのだったか…」
「その通りだ」
ライアンはうなずいた。詳しくは語ることの出来ない出会いだ…。ライアンは話を切り上げるように言った。
「アルマン、私の件が了承可能なら、どうかフェリクスとルナの婚約を正式なものにしたいと思うがどうだろう?」
「もちろんだ」
アルマンは笑って、ライアンが持参した婚約証明書にサインを書いた。
「ああ、本当に我が家は今年、慌ただしくなったわ!」
リリアナは、ライアンとエリザベスの事など忘れたかのように、嬉しそうだ。今年、四姉妹それぞれが婚約、結婚となりそうだった。
「あとの事についてはフェリクス、お前が話し合うといい」
ライアンはフェリクスの、肩に手をポンと置くと先にブロンテ家を後にした。
ライアンはそのまま、ブルーウィング・ホールに向かい、エレナに会いに行った。
元々が王家の離宮だったため、邸と言うよりは宮殿に近い風情がある。
王都からも外れていて、周りに家屋敷も見当たらない。
その、広大な土地にそびえ立っている。
ライアンか着いたと知らせがあったのか、広い玄関ホールにエレナが出迎えにやって来る。
ウィリスハウスでは、ライアンがそっと忍び入る状況だったため、出迎えがあるというのは新鮮な喜びだった。
「おかえりなさい」
微笑んでいうエレナは、間違いなく美しく可憐で愛おしさを感じさせる。
「ああ、ただいま」
歩き出すライアンの横をついて歩くエレナもまた新鮮だった。長年そのような機会がなかった。
染められていた栗色はどんどん薄くなり、もとの色に戻りつつあるエレナの髪は、軽く結いあげて、か細い首をさらしていた。
いつもなら折れそうな程の細い腰だか、そこは今はゆったりとしたドレスに変わっていた。
主夫妻の居住スペースとなっているフロアに行くと、そこはすでにエレナの好みの内装に変化をしていた。
エレナが刺繍したファブリックたちが、温かみのある空気感にしていた。
座って、隣にいるエレナを見ると、ドレスで分かりにくいが少し膨らんだ下腹に気がつく。
「触っても?」
聞くと、エレナは嬉しそうに笑うと、そっとドレスを押さえてライアンの手を導いた。
ライアンの手にまだすっぽりと収まる大きさの膨らみだった。
「思いがけず、この年で親になる喜びを与えてもらえるなんてな…」
二人の子持ちのライアンだが、妊婦のお腹に触れるのははじめてだった。
「順調だそうです」
にっこりとエレナが微笑んでライアンに告げた。
「しかし、どうしたものかな…。エレナには母がいない」
ライアンには、出産に関する準備の知識が全くないのだ。指示を出すにしても、何が必要なのか…。普通ならサポートを果たす女手がない。
エレナにしても以前は折り合いが悪かったとはいえ、ハワードの母もいたし、近所の夫人たちがたくさんいた。
今の立場で頼れる人はあまりに少ない…ライアンと、それから…
「あっ…ブレンダ…」
ブレンダなら、きっと知識をくれるに違いない。
「なるほど、アップルガース伯爵夫人か…」
エレナがブレンダに手伝いを依頼する手紙を出すと、ブレンダはすぐにやって来たのだ。
「アネリ…いえ、エレナね。ごめんなさい、癖はなかなか抜けないわ」
くすっと笑った。
「準備なら私に任せておけば大丈夫よ!」
頼もしく言ったブレンダは、イーディスとエドナも巻き込んで、産婆や乳母を探したり、産着やその他のベビーグッズを取り寄せたりと、それは実に楽しそうにしていて、エレナもとても楽しみな気持ちが強くなった。
「ライアン、よく来てくれた!」
アルマンは機嫌よく出迎えてくれた。
ルナもフェリクスと婚約が決まった所なので、フェリクスが来て嬉しく仕方ないといった表情をしていた。
ライアンはあえてブロンテ伯爵家の全員に話さなければならない…とやって来たのだ。
「アルマン、伯爵夫人。うちの息子とレディ ルナの婚約についてだが…」
ライアンが言いづらい話を切り出すと
「あら、何か問題でもおありなのかしら?」
リリアナがライアンの、口調に何か感じたようだ。
「いや、当人同士には何も問題はないのだが、我が家の…というりは私のスキャンダルだ…」
「スキャンダルだって?ライアン、君にか?」
アルマンが驚いて言った。
「このシーズン終わりに、エリザベスとの離婚とそれから再婚を公表する」
ライアンは、友人でもあるアルマンに打ち明けた。
しかし…
「なんだ、そんな事か…」
とアルマンが軽く言ってしまったので、ライアンは苦笑した。
「そんな事、ではないかと思ってたんだが…」
アルマンらしいと言えばらしいと言えた。
「そんな事だ。借金まみれだとか犯罪に手を染めていたとかでは無いじゃないか、レディ エリザベスと君とは長年不仲だというのは有名な、話だったし…ああ、…フェリクス卿、すまないね。レディ エリザベスも君も別れて正解じゃないのかな?」
アルマンが、あっさりと言ってのけるのでフェリクスも笑った。
「レディ ルナを巻き込んでしまうと思い、事前にこうして謝罪に来た次第だ」
ライアンは、アルマンがまさかこんな風な反応を返すとは思わず、苦笑しつつ言った。
「うちなら大丈夫ですわ、閣下」
にっこりとリリアナも笑っている。
「それで、レディ エリザベスはどうなるの?」
リリアナは同じ女性として、エリザベスの事が気になる様子だった。
「母はヨーク・ブリッジの邸に住むそうです」
ライアンの代わりにフェリクスが言った。
「そう…ご実家のお屋敷ね?それなら落ちついて良いでしょうね」
リリアナは嘆息をついた。
「で、ライアン。君の再婚相手とは一体誰なんだ?」
アルマンが聞いてきた。
「多分面識はないはずだが…、レディ エレナ・ヘプバーンだ」
はじめて聞く名前にフェリクスもアルマンも首を傾げた。
「ヘプバーン…というと、ノースブリッジ伯爵家の方?」
リリアナが言い、ライアンはうなずいた。
「先代のご令嬢にあたる」
「まったく記憶にないわ…」
リリアナが言う。
「先代の、というと事故死されたのだったか…」
「その通りだ」
ライアンはうなずいた。詳しくは語ることの出来ない出会いだ…。ライアンは話を切り上げるように言った。
「アルマン、私の件が了承可能なら、どうかフェリクスとルナの婚約を正式なものにしたいと思うがどうだろう?」
「もちろんだ」
アルマンは笑って、ライアンが持参した婚約証明書にサインを書いた。
「ああ、本当に我が家は今年、慌ただしくなったわ!」
リリアナは、ライアンとエリザベスの事など忘れたかのように、嬉しそうだ。今年、四姉妹それぞれが婚約、結婚となりそうだった。
「あとの事についてはフェリクス、お前が話し合うといい」
ライアンはフェリクスの、肩に手をポンと置くと先にブロンテ家を後にした。
ライアンはそのまま、ブルーウィング・ホールに向かい、エレナに会いに行った。
元々が王家の離宮だったため、邸と言うよりは宮殿に近い風情がある。
王都からも外れていて、周りに家屋敷も見当たらない。
その、広大な土地にそびえ立っている。
ライアンか着いたと知らせがあったのか、広い玄関ホールにエレナが出迎えにやって来る。
ウィリスハウスでは、ライアンがそっと忍び入る状況だったため、出迎えがあるというのは新鮮な喜びだった。
「おかえりなさい」
微笑んでいうエレナは、間違いなく美しく可憐で愛おしさを感じさせる。
「ああ、ただいま」
歩き出すライアンの横をついて歩くエレナもまた新鮮だった。長年そのような機会がなかった。
染められていた栗色はどんどん薄くなり、もとの色に戻りつつあるエレナの髪は、軽く結いあげて、か細い首をさらしていた。
いつもなら折れそうな程の細い腰だか、そこは今はゆったりとしたドレスに変わっていた。
主夫妻の居住スペースとなっているフロアに行くと、そこはすでにエレナの好みの内装に変化をしていた。
エレナが刺繍したファブリックたちが、温かみのある空気感にしていた。
座って、隣にいるエレナを見ると、ドレスで分かりにくいが少し膨らんだ下腹に気がつく。
「触っても?」
聞くと、エレナは嬉しそうに笑うと、そっとドレスを押さえてライアンの手を導いた。
ライアンの手にまだすっぽりと収まる大きさの膨らみだった。
「思いがけず、この年で親になる喜びを与えてもらえるなんてな…」
二人の子持ちのライアンだが、妊婦のお腹に触れるのははじめてだった。
「順調だそうです」
にっこりとエレナが微笑んでライアンに告げた。
「しかし、どうしたものかな…。エレナには母がいない」
ライアンには、出産に関する準備の知識が全くないのだ。指示を出すにしても、何が必要なのか…。普通ならサポートを果たす女手がない。
エレナにしても以前は折り合いが悪かったとはいえ、ハワードの母もいたし、近所の夫人たちがたくさんいた。
今の立場で頼れる人はあまりに少ない…ライアンと、それから…
「あっ…ブレンダ…」
ブレンダなら、きっと知識をくれるに違いない。
「なるほど、アップルガース伯爵夫人か…」
エレナがブレンダに手伝いを依頼する手紙を出すと、ブレンダはすぐにやって来たのだ。
「アネリ…いえ、エレナね。ごめんなさい、癖はなかなか抜けないわ」
くすっと笑った。
「準備なら私に任せておけば大丈夫よ!」
頼もしく言ったブレンダは、イーディスとエドナも巻き込んで、産婆や乳母を探したり、産着やその他のベビーグッズを取り寄せたりと、それは実に楽しそうにしていて、エレナもとても楽しみな気持ちが強くなった。
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