mistress

桜 詩

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終章

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11月に入り…寒くなった頃に、エレナは無事に男の子を出産した。
ブレンダが手配した産婆と、イーディスとエドナもついていてくれての出産はひさしぶりにも関わらず安産で、エレナはとても元気だった。

ブルーウィング・ホールは主夫妻から使用人たちに至るまで、20年ぶりの慶事に喜びをあらわにしていた。
産まれた綺麗な赤ん坊は、ライアンにそっくりでジョエルと名付けられた。
ライアンの喜びはエレナの予想以上で、片時も離したくない位の勢いの可愛がりようだった。
「年がいってからの子供は可愛いっていうけれど、本当のようね」
ふふっとブレンダが笑ってエレナに言った。

エレナは日中の何度かは授乳もし、あとは雇った乳母に任せていた。貴族女性は余り授乳を行わないものだったが、近頃は自分で授乳をする風潮もあった。

ライアンは、王都にいても領地に時々は行き管理もしたり、と忙しくしていて不在もあったがエレナとジョエルに会いたいが為に出来る限りブルーウィング・ホールに帰ってきていた。

小さなジョエルは、たくさんお乳を飲んで眠って日に日に大きくなる。ライアンはそれを見逃したくないとばかりに20年ぶりの子育てを楽しんでいた。冬の間に丸々としてきたジョエルは、邸の一番の関心事だった。

社交シーズンが終わるのと同時に、ウィリスハウスを空き家にしてきたので、使用人だったデイジーとチェリー。ジェフリー、ブライアン、ディヴィもミセス シビルもブルーウィング・ホールについてきて、エレナにまた仕えてくれていた。

「エレナ様、本当に可愛らしいですわね」
デイジーがジョエルをみて言った。
お乳をたっぷり飲んでそのまますやすやと眠る愛らしさにデイジーもチェリーも揺りかごをそっと覗きこんでいた。
「そうね」
にっこりと微笑む。
しかし、エレナはハワードとの間に産んだ子供たちの事も忘れ去ってはいなかった。いつだってエレナの心に刺となって刺さり続けていた。

乳母に雇ったブレンダの知り合いのミセス シンディは5人を産んで育てたベテランの母で、末っ子が乳離れをしたばかり。
上の大きな子供達が下の子供達を見てくれていたり、夫の母がいるそうで、通いで勤めてくれていた。
「乳母なんて必要なさそうなんですけどね」
エレナはしっかりとお乳が出る体質だったので、笑いながらシンディは言った。
「そうね」
くすっとエレナも笑った。
しかし、社交シーズンがはじまると次の大きな社交にはエレナも出席する予定だった。その前に、エレナは授乳をやめる予定だった。それは胸が張って苦しいからだった…。

ライアンが領地から帰ってくると、エレナはジョエルと共に出迎えた。
「ただいま。…ジョエルはまた少し大きくなったね」
ライアンはエレナからジョエルを受け取って腕に抱くと丸い可愛らしい額にキスをした。
子煩悩なライアンを見るとエレナもほほえましく、嬉しい。
寄り添うようにして、居住スペースまで歩みライアンは揺りかごにジョエルを寝かせる。
「フェリクスが会いに来ると言っていた…」
はっとエレナはライアンを見た。
フェリクスはエレナを見てどう思うだろう…。
「フェリクスは驚くでしょうね…私を見れば…」
忘れていた…
「その事は話をしておいた。エレナというのは、アネリ・メルヴィルだと言うことは告げた。関係を、もったのはフェリクスがアネリと別れた後だという事にしているが…」
ライアンは苦笑した…。
そこは嘘を、伝えてくれてエレナも思わずホッとする…。

いよいよエレナが、人前にライアンの妻として出る時期が近づきつつあった。
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