mistress

桜 詩

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終章

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新しい年となり、まず初めに行われる王宮舞踏会…。
そこは必ず、出なければならない類いの社交の場である。
エレナの社交界への出席はなんと、10年ぶりである。

しかもこの逆境の嵐が予想される中…。
エレナは大きく呼吸をして、馬車からライアンの手を借りて降りた。公爵夫人にふさわしい装い…
スモーキーなパープルのシンプルなドレスは、美しい身体のラインを演出していたし、細い首から肩には大振りな物は似合わないので、細工のこまやかなプラチナとダイヤモンドの石をちりばめたきらびやかな物。
淡く化粧を施したエレナは、周囲が思わず見惚れる程の美しさだった。

しかし、ひそひそと交わされる会話や、遠巻きに見つめられるその視線は決して居心地の良いものではない。
ちらりと目線を周囲にやり、圧倒的な存在感で威嚇するライアンに慌てて目を背けたり口を閉じたりとするが、根本は解決されるわではない。
エレナは、気合いを込めて表情を笑顔にする。
堂々として、笑えとライアンには言われていた。
不正な事は何もしていないから、と。
愛人であったのは、確かだが…。

エリザベスも寝室に乗り込んだ事は、自身の恥ともなるので口をつぐんでいるだろうが…。その事は噂にはなってはいなかった。
ざわりと背後がしたので、ふと見るとエリザベスの姿があり、ライアンとエレナ。そしてエリザベスを注目している。
エレナから、エリザベスにお辞儀をした。
「こんばんは…ライアン、そして新しい公爵夫人」
エリザベスがにっこりと笑んだ。
「こんばんはレディ エリザベス」
「良い夜になると良いわね、公爵夫人」
含みのある言い方に、エレナは
「そうですわねレディ エリザベス」
とだけ答えた。周囲が聞き耳をたてているのは明らかだった。

エリザベスが去り、ライアンがエレナに安心させるように微笑みかける。エレナもライアンを見上げて微笑みを向ける。
注目され続けながら会場の中で、時がたつのを必死で祈る。ひさしぶりの社交界を楽しむ余裕はなかった。

デビュタントが入場し、華やいだ少女たちにようやく空気が和む。
続いて王家の入場となり、ジェラルド王とミランダ王妃、シュヴァルド王太子とクリスタ王太子妃、アルベルト王子とエセル王子妃が揃って中央に出来た人垣の間を進む。

ジェラルドが新年を祝う祝辞を述べて、王家のダンスが始まった。
華やかな一族のダンスに、エレナもうっとりと見惚れる。
続いての曲でみんな踊りだした。
「さぁ、エレナ」
ライアンにエスコートされエレナもダンスの輪に入る。
華やかな曲が舞踏会の幕開けにふさわしい。エレナは自然と笑みを浮かべてライアンと踊る事を楽しんだ。

あとは誰もエレナをダンスには誘わないだろうけれど…。

エレナとライアンは、踊り終えて輪から外れる。
ライアンと二人でいると、エレナの周りがざわついた。
「ウィンスレット公爵夫人」
近づいてきたのは、ジェラルド王とミランダ王妃だったのだ。
エレナは驚きつつも、お辞儀をする。ライアンも一礼をした。
ミランダがエレナの前に立ち、微笑みかける。
「レディ エレナ。貴女が10年ぶりに社交界に戻ってきてくれたことを嬉しく思います。大変な苦労の末ご結婚なさったとか…おめでたいことだわ」
エレナの事を覚えている。そして、歓迎するとの言葉…。
それは、国王夫妻の心遣いに違いなかった。
「有難いお言葉をありがとうございます王妃様」
エレナは感激の余り、泣いて震えそうになりながらも冷静になるように自分を叱咤してやっと当たり障りのない言葉を口にした。
「美しい女性は社交界を明るくするわ、どうか今夜は楽しんで行って下さいな」
ミランダがたおやかな笑みを浮かべて、励ますようにエレナの手を握った。
ジェラルドがミランダの隣にたつと、ライアンに向かい笑みをむけた
「おめでとう公爵。離婚は不幸な事だがこのように若く美しい妻と結婚したとは、男冥利につきるな?ウィンスレット公爵」
「ありがとうございます陛下」
ポンとライアンの肩を叩くと二人はそのまま立ち去った。

続けて、シュヴァルドとクリスタ。アルベルトとエセルが祝いを言いに来た。
こうして、遠巻きにされていたエレナの状況は一変した。

「良かったなライアン」
そう声をかけて、まずジュリアン・ブラッドフィールド公爵とカレン夫妻が弟のオーウェンとリリィ夫妻と共にライアンとエレナに話しかけて、ジュリアンがエレナに次のダンスを申し込んだ。
続いてオーウェンとも踊ると、ブレンダの夫のエイセスもダンスの申し込みに来てくれると、エレナに人々はライアンを介して紹介された。
エレナは社交界に表面的には受け入れられたのだった。

そんな舞踏会の最中、エレナはライアンにバイロン・オルトゥール、マクミラン子爵を紹介された。そして隣には彼の妻のクラリッサ
彼は…エレナには覚えがあった…。
「ウィンスレット公爵夫人、今度、是非我が家の息子たちに会いに来ませんか?」
エレナは震えを押さえながら
「よろしいのでしょうか?わたくしがお会いしても?」
「ええ、もちろんですわ。子供たちは喜ぶ事でしょう」
クラリッサは穏やかにゆっくりとエレナに話し、目を真っ直ぐに見つめた。
「自慢の息子たちなんです。とても優秀なのですよ」
嬉しそうに話すクラリッサにエレナも笑みを向けた。

ライアンをちらりと見上げると、慈愛の籠った瞳でエレナを見ていた。

一通りの挨拶を済ませると、エレナとライアンは舞踏会を後にしにした。

「どうして…?会ってはいけないと思っていたのに…」
ライアンが手配をしてくれた… 
「…私は…ジョエルを得てようやく、君が苦しんでいる事に思いあたった…」
エレナの頬に手をやり
「辛い決断をさせたと今では思う…。手元に戻すことは出来ないが…会うことは出来る。彼らも大きくなったから、君の決断が理解が出来るだろうとマクミラン子爵と話し合って、決めた…」
「グレンとアイヴィーが、私をどう思うのか…不安だわ…」
ひさしぶりに、息子たちの名前を口にした…。
「大丈夫だ…子爵夫妻は大切に育てている」
エレナは微笑んでうなずいた
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