44 / 46
終章
44
しおりを挟む
新しい年となり、まず初めに行われる王宮舞踏会…。
そこは必ず、出なければならない類いの社交の場である。
エレナの社交界への出席はなんと、10年ぶりである。
しかもこの逆境の嵐が予想される中…。
エレナは大きく呼吸をして、馬車からライアンの手を借りて降りた。公爵夫人にふさわしい装い…
スモーキーなパープルのシンプルなドレスは、美しい身体のラインを演出していたし、細い首から肩には大振りな物は似合わないので、細工のこまやかなプラチナとダイヤモンドの石をちりばめたきらびやかな物。
淡く化粧を施したエレナは、周囲が思わず見惚れる程の美しさだった。
しかし、ひそひそと交わされる会話や、遠巻きに見つめられるその視線は決して居心地の良いものではない。
ちらりと目線を周囲にやり、圧倒的な存在感で威嚇するライアンに慌てて目を背けたり口を閉じたりとするが、根本は解決されるわではない。
エレナは、気合いを込めて表情を笑顔にする。
堂々として、笑えとライアンには言われていた。
不正な事は何もしていないから、と。
愛人であったのは、確かだが…。
エリザベスも寝室に乗り込んだ事は、自身の恥ともなるので口をつぐんでいるだろうが…。その事は噂にはなってはいなかった。
ざわりと背後がしたので、ふと見るとエリザベスの姿があり、ライアンとエレナ。そしてエリザベスを注目している。
エレナから、エリザベスにお辞儀をした。
「こんばんは…ライアン、そして新しい公爵夫人」
エリザベスがにっこりと笑んだ。
「こんばんはレディ エリザベス」
「良い夜になると良いわね、公爵夫人」
含みのある言い方に、エレナは
「そうですわねレディ エリザベス」
とだけ答えた。周囲が聞き耳をたてているのは明らかだった。
エリザベスが去り、ライアンがエレナに安心させるように微笑みかける。エレナもライアンを見上げて微笑みを向ける。
注目され続けながら会場の中で、時がたつのを必死で祈る。ひさしぶりの社交界を楽しむ余裕はなかった。
デビュタントが入場し、華やいだ少女たちにようやく空気が和む。
続いて王家の入場となり、ジェラルド王とミランダ王妃、シュヴァルド王太子とクリスタ王太子妃、アルベルト王子とエセル王子妃が揃って中央に出来た人垣の間を進む。
ジェラルドが新年を祝う祝辞を述べて、王家のダンスが始まった。
華やかな一族のダンスに、エレナもうっとりと見惚れる。
続いての曲でみんな踊りだした。
「さぁ、エレナ」
ライアンにエスコートされエレナもダンスの輪に入る。
華やかな曲が舞踏会の幕開けにふさわしい。エレナは自然と笑みを浮かべてライアンと踊る事を楽しんだ。
あとは誰もエレナをダンスには誘わないだろうけれど…。
エレナとライアンは、踊り終えて輪から外れる。
ライアンと二人でいると、エレナの周りがざわついた。
「ウィンスレット公爵夫人」
近づいてきたのは、ジェラルド王とミランダ王妃だったのだ。
エレナは驚きつつも、お辞儀をする。ライアンも一礼をした。
ミランダがエレナの前に立ち、微笑みかける。
「レディ エレナ。貴女が10年ぶりに社交界に戻ってきてくれたことを嬉しく思います。大変な苦労の末ご結婚なさったとか…おめでたいことだわ」
エレナの事を覚えている。そして、歓迎するとの言葉…。
それは、国王夫妻の心遣いに違いなかった。
「有難いお言葉をありがとうございます王妃様」
エレナは感激の余り、泣いて震えそうになりながらも冷静になるように自分を叱咤してやっと当たり障りのない言葉を口にした。
「美しい女性は社交界を明るくするわ、どうか今夜は楽しんで行って下さいな」
ミランダがたおやかな笑みを浮かべて、励ますようにエレナの手を握った。
ジェラルドがミランダの隣にたつと、ライアンに向かい笑みをむけた
「おめでとう公爵。離婚は不幸な事だがこのように若く美しい妻と結婚したとは、男冥利につきるな?ウィンスレット公爵」
「ありがとうございます陛下」
ポンとライアンの肩を叩くと二人はそのまま立ち去った。
続けて、シュヴァルドとクリスタ。アルベルトとエセルが祝いを言いに来た。
こうして、遠巻きにされていたエレナの状況は一変した。
「良かったなライアン」
そう声をかけて、まずジュリアン・ブラッドフィールド公爵とカレン夫妻が弟のオーウェンとリリィ夫妻と共にライアンとエレナに話しかけて、ジュリアンがエレナに次のダンスを申し込んだ。
続いてオーウェンとも踊ると、ブレンダの夫のエイセスもダンスの申し込みに来てくれると、エレナに人々はライアンを介して紹介された。
エレナは社交界に表面的には受け入れられたのだった。
そんな舞踏会の最中、エレナはライアンにバイロン・オルトゥール、マクミラン子爵を紹介された。そして隣には彼の妻のクラリッサ
彼は…エレナには覚えがあった…。
「ウィンスレット公爵夫人、今度、是非我が家の息子たちに会いに来ませんか?」
エレナは震えを押さえながら
「よろしいのでしょうか?わたくしがお会いしても?」
「ええ、もちろんですわ。子供たちは喜ぶ事でしょう」
クラリッサは穏やかにゆっくりとエレナに話し、目を真っ直ぐに見つめた。
「自慢の息子たちなんです。とても優秀なのですよ」
嬉しそうに話すクラリッサにエレナも笑みを向けた。
ライアンをちらりと見上げると、慈愛の籠った瞳でエレナを見ていた。
一通りの挨拶を済ませると、エレナとライアンは舞踏会を後にしにした。
「どうして…?会ってはいけないと思っていたのに…」
ライアンが手配をしてくれた…
「…私は…ジョエルを得てようやく、君が苦しんでいる事に思いあたった…」
エレナの頬に手をやり
「辛い決断をさせたと今では思う…。手元に戻すことは出来ないが…会うことは出来る。彼らも大きくなったから、君の決断が理解が出来るだろうとマクミラン子爵と話し合って、決めた…」
「グレンとアイヴィーが、私をどう思うのか…不安だわ…」
ひさしぶりに、息子たちの名前を口にした…。
「大丈夫だ…子爵夫妻は大切に育てている」
エレナは微笑んでうなずいた
そこは必ず、出なければならない類いの社交の場である。
エレナの社交界への出席はなんと、10年ぶりである。
しかもこの逆境の嵐が予想される中…。
エレナは大きく呼吸をして、馬車からライアンの手を借りて降りた。公爵夫人にふさわしい装い…
スモーキーなパープルのシンプルなドレスは、美しい身体のラインを演出していたし、細い首から肩には大振りな物は似合わないので、細工のこまやかなプラチナとダイヤモンドの石をちりばめたきらびやかな物。
淡く化粧を施したエレナは、周囲が思わず見惚れる程の美しさだった。
しかし、ひそひそと交わされる会話や、遠巻きに見つめられるその視線は決して居心地の良いものではない。
ちらりと目線を周囲にやり、圧倒的な存在感で威嚇するライアンに慌てて目を背けたり口を閉じたりとするが、根本は解決されるわではない。
エレナは、気合いを込めて表情を笑顔にする。
堂々として、笑えとライアンには言われていた。
不正な事は何もしていないから、と。
愛人であったのは、確かだが…。
エリザベスも寝室に乗り込んだ事は、自身の恥ともなるので口をつぐんでいるだろうが…。その事は噂にはなってはいなかった。
ざわりと背後がしたので、ふと見るとエリザベスの姿があり、ライアンとエレナ。そしてエリザベスを注目している。
エレナから、エリザベスにお辞儀をした。
「こんばんは…ライアン、そして新しい公爵夫人」
エリザベスがにっこりと笑んだ。
「こんばんはレディ エリザベス」
「良い夜になると良いわね、公爵夫人」
含みのある言い方に、エレナは
「そうですわねレディ エリザベス」
とだけ答えた。周囲が聞き耳をたてているのは明らかだった。
エリザベスが去り、ライアンがエレナに安心させるように微笑みかける。エレナもライアンを見上げて微笑みを向ける。
注目され続けながら会場の中で、時がたつのを必死で祈る。ひさしぶりの社交界を楽しむ余裕はなかった。
デビュタントが入場し、華やいだ少女たちにようやく空気が和む。
続いて王家の入場となり、ジェラルド王とミランダ王妃、シュヴァルド王太子とクリスタ王太子妃、アルベルト王子とエセル王子妃が揃って中央に出来た人垣の間を進む。
ジェラルドが新年を祝う祝辞を述べて、王家のダンスが始まった。
華やかな一族のダンスに、エレナもうっとりと見惚れる。
続いての曲でみんな踊りだした。
「さぁ、エレナ」
ライアンにエスコートされエレナもダンスの輪に入る。
華やかな曲が舞踏会の幕開けにふさわしい。エレナは自然と笑みを浮かべてライアンと踊る事を楽しんだ。
あとは誰もエレナをダンスには誘わないだろうけれど…。
エレナとライアンは、踊り終えて輪から外れる。
ライアンと二人でいると、エレナの周りがざわついた。
「ウィンスレット公爵夫人」
近づいてきたのは、ジェラルド王とミランダ王妃だったのだ。
エレナは驚きつつも、お辞儀をする。ライアンも一礼をした。
ミランダがエレナの前に立ち、微笑みかける。
「レディ エレナ。貴女が10年ぶりに社交界に戻ってきてくれたことを嬉しく思います。大変な苦労の末ご結婚なさったとか…おめでたいことだわ」
エレナの事を覚えている。そして、歓迎するとの言葉…。
それは、国王夫妻の心遣いに違いなかった。
「有難いお言葉をありがとうございます王妃様」
エレナは感激の余り、泣いて震えそうになりながらも冷静になるように自分を叱咤してやっと当たり障りのない言葉を口にした。
「美しい女性は社交界を明るくするわ、どうか今夜は楽しんで行って下さいな」
ミランダがたおやかな笑みを浮かべて、励ますようにエレナの手を握った。
ジェラルドがミランダの隣にたつと、ライアンに向かい笑みをむけた
「おめでとう公爵。離婚は不幸な事だがこのように若く美しい妻と結婚したとは、男冥利につきるな?ウィンスレット公爵」
「ありがとうございます陛下」
ポンとライアンの肩を叩くと二人はそのまま立ち去った。
続けて、シュヴァルドとクリスタ。アルベルトとエセルが祝いを言いに来た。
こうして、遠巻きにされていたエレナの状況は一変した。
「良かったなライアン」
そう声をかけて、まずジュリアン・ブラッドフィールド公爵とカレン夫妻が弟のオーウェンとリリィ夫妻と共にライアンとエレナに話しかけて、ジュリアンがエレナに次のダンスを申し込んだ。
続いてオーウェンとも踊ると、ブレンダの夫のエイセスもダンスの申し込みに来てくれると、エレナに人々はライアンを介して紹介された。
エレナは社交界に表面的には受け入れられたのだった。
そんな舞踏会の最中、エレナはライアンにバイロン・オルトゥール、マクミラン子爵を紹介された。そして隣には彼の妻のクラリッサ
彼は…エレナには覚えがあった…。
「ウィンスレット公爵夫人、今度、是非我が家の息子たちに会いに来ませんか?」
エレナは震えを押さえながら
「よろしいのでしょうか?わたくしがお会いしても?」
「ええ、もちろんですわ。子供たちは喜ぶ事でしょう」
クラリッサは穏やかにゆっくりとエレナに話し、目を真っ直ぐに見つめた。
「自慢の息子たちなんです。とても優秀なのですよ」
嬉しそうに話すクラリッサにエレナも笑みを向けた。
ライアンをちらりと見上げると、慈愛の籠った瞳でエレナを見ていた。
一通りの挨拶を済ませると、エレナとライアンは舞踏会を後にしにした。
「どうして…?会ってはいけないと思っていたのに…」
ライアンが手配をしてくれた…
「…私は…ジョエルを得てようやく、君が苦しんでいる事に思いあたった…」
エレナの頬に手をやり
「辛い決断をさせたと今では思う…。手元に戻すことは出来ないが…会うことは出来る。彼らも大きくなったから、君の決断が理解が出来るだろうとマクミラン子爵と話し合って、決めた…」
「グレンとアイヴィーが、私をどう思うのか…不安だわ…」
ひさしぶりに、息子たちの名前を口にした…。
「大丈夫だ…子爵夫妻は大切に育てている」
エレナは微笑んでうなずいた
2
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる