初恋

桜 詩

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突然の求婚

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 レオノーラはブロンテ伯爵家の長女。
王宮で美貌の女性騎士と称され17歳から今まで仕えてきた。

新年を迎えたある日、仕えていた主である王妃 ミランダにレオノーラは言われたのだ。
「レオノーラ、貴女もそろそろ25歳。自分の幸せを探してはどうかしら?」
「つまり、そろそろ辞めよとおっしゃるのですね?」
ミランダは柔らかな笑みを浮かべて
「レオノーラはとても美しいわ。これまで貴女に仕えて貰えて本当に良かった。でも、レオノーラ。女として結婚をして子供を持つことも考えてみてはどうかしら?」
王妃で主たるミランダにこう言われては、逆らえる筈もない。

レオノーラは春を前に騎士を辞することになったのだ。
しかし、先の事は全くわからない。ましてレオノーラには結婚する気など毛頭なかった。


 何故ならば、騎士を務めていた間に令嬢たちのエスコートを務めることもたくさんあった、とくにソフィア王女…彼女が結婚するまでは、女性であるレオノーラはソフィアの相手として重宝がられていた。
レオノーラからみた女性たちはみな女の子らしく、可愛らしい…微笑みを浮かべて、ドレスを着て、髪を複雑に結って、いい香りをさせて…。自分とは違い女らしい彼女たち。
自分には女性らしい気質がないのだと、レオノーラは思っている。

だから、なぜキースがこんなことを言い出したのか、さっぱりわからなかった。
「俺と結婚してくれレオノーラ」
甘く響く低い声…。
「えっ?」
キース・アークウェイン…伯爵家の長男。
背がとても高くすらりとした体に、ほどよい筋肉がついた男らしい容貌。形よい眉の下に切れ長の緑の瞳が煌めき、スッキリと通った鼻筋、形のよい唇は厚くも薄くもなくバランスがよくおさまっている。

つまり…とても見目も良くて尚且つ地位もあり女性にモテる…そんなキースがなぜ…嫁き遅れの可愛いげの欠片もないレオノーラに求婚をするのか…。


***


その夜、ブロンテ伯爵家では、晩餐会が行われていた。
晩餐が終わり、応接間にいたレオノーラと、隣室から入ってきた父アルマンが、キースと二人きりにしたところ、この状況になったのだ。

ぐいっとキースが歩みよるとレオノーラをその存在感で圧倒するので思わず後ずさった。

「俺の求婚を受けてくれ…」
ひどく真剣な眼差しにさらされて、レオノーラは思わず叫んだ。

「目を覚まして!キース」
ここは一先ず逃げよう!と、レオノーラは二人きりにさせられたその部屋から飛び出した。
飛び出した先に家族を含めて、客人も待ち構えるようにいて少しギョッとする。

「俺は至って正気だし、思い付きでいっているのでもなんでもない!」
キースも後ろから叫び返した。

「正気ならなおまずい!私は25でレディらしからぬ女でアークウェイン伯爵家の嫁には相応しくない」

なんでこんなことになったんだ…

「誰がそんな事を決める?俺の結婚は自分で決める」
怖いくらい真面目なキース…。
「私は結婚する気などさらさらない!」
そう、私は結婚などしない。せずに生きていくつもりだ。

立ち去ろうとすると、アルマンが両手を広げて立ちふさがった…。何をする気だ
「ここからは出さんぞ!レオノーラ。キース卿にはい、と申し出を受けるんだ!こんな良縁があるなど思いもしなかった!」
「レオノーラ、お願いよ。老い先短い私たちを安心させてちょうだい」
母リリアナが横に並んだ。
「何が老い先短いですか…!」
まだまだ両親は死にそうな年齢ではない… 

うるうると目をさせて見つめるリリアナにレオノーラの勢いは少し削がれた。
「姉上!キース卿は喧嘩も強い!俺は兄に是非なってほしい!」
弟のラファエルも両親に習い、レオノーラの行く手を阻む。
キースが強い事なら知っている…昔から強かった。
しかし、ここで負けてはならない。
レオノーラは瞳に力をいれて見返した。
「アントン!剣をもて!」
業を煮やしたらしいアルマンが叫んだ。

剣だって!?やりすぎじゃないか父よ!

執事のアントンが走って行った…アントン、ばか正直に命令に従うな!やめろ。戻れ!

「お姉様!そうよ。順番で言うならお姉様が一番に結婚をしなくてはいけないわ」
妹のステファニーがずいっと前に出てきた。

「お姉様が結婚しないならわたくしも結婚しません!」
ステファニーは婚約している。しかもすでに結婚の日取りも決まってると言うのに何を言い出すのか

「レオノーラ、ステファニーもこう言っているし、どうか受けてください。私もそろそろ身を固めたいんです」
ステファニーの婚約者のアンドリュー。
真剣な風で面白がっている…。絶対…
そこにアントンが走りよってきて、アルマンの剣をご丁寧に渡した。

気を利かせて持ってこない選択はないのか…… 
「ええい、レオノーラ。あくまで断って逃げると言うのなら、これで私を刺して行くがいい!」
と差し出した。

…まさかの、俺を殺していけ…ですか…

げんなりしてくると
「お姉様、お願い。もう一度部屋に戻ってキース卿とちゃんと向き直って!」
最近めっきり柔らかな雰囲気になった妹のルシアンナが涙を流して訴える。
「レオノーラお姉様。どうか落ち着いて、お父様を殺さないで」
末の妹のルナが祈るように見つめている。
昔からこの妹は可愛らしくて、邪険に出来ない。
レオノーラにとって家族は大切な存在で、無視する事は出来なかった

「…キース…謀ったな…」
レオノーラは背後にいるはずのキースに呟いた。
「こうなることを見越して、このタイミングで言ったんだな?」
そうまでして、なぜレオノーラと結婚したいと言うのか?酔狂にも程がある。
「まさか?今がチャンスだと逃す気はなかったけれど、君のご家族に頼んだりはしていない。れっきとした君のご家族の気持ちだよ」
「キースはそういえば思いっきり黒いことを考えつくやつだったね?逃げ場を塞ぐなんて卑怯な…」
「卑怯でもなんでもいい。レオノーラが、はい、と私の腕に飛び込んでくれるならね」
その微笑みはどこに謀があったのかな?とでも言いたげだ。
キースと、それから懇願してくる家族たち。
どうしたって求婚を受け入れるしかない状況下だ。

「わかった、後悔しても知らないから…覚悟を決めて、求婚を受けるよキース」

レオノーラがそう言った瞬間、キースはレオノーラの腕を掴んで抱き寄せてキスをした。
長身のキースとレオノーラ。その姿がぴったりと重なる…

思ったより熱いその唇にレオノーラはくらりとした。
いつも、女性と踊りエスコートをしていたレオノーラには、その腕が逞しく、男というものをその身に思い知らせた。

あまりの事態に茫然としていると、アルマンがレオノーラが正気になる前に、婚約と結婚の証明を取り付けるべく指示を飛ばしていた…。

こうして、周りの熱意によりレオノーラの結婚は決定したのだった…。
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