初恋

桜 詩

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カントリーハウス

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社交シーズンが終わり、レオノーラもキースと共に初めてアークウェインの領地に向かう事になった。
「キース…貴方のお父様って…普段どこにいる?」
「屋敷にいるはずだけれどね…」
レオノーラはキースの父と結婚式の時に会ったきりだ。結婚の挨拶のときも、『わかった、幸せにな』のみだった。

キースの母に至っては、会ってもいない…。
「気にしないでくれ…」
領地に帰るのもキースとレオノーラの二人きり。
レオノーラはキースが何故家にあまり帰らないで、友人と過ごす事が多かったと聞いていたが、その理由がわかった…。
「キース、寂しかったな…」
レオノーラはキースを撫でる。するとキースは驚いた顔をしつつ苦笑した。
「今はレオノーラが居るから、俺は物凄く幸せだ」
と微笑んでみせた。

アークウェインの領地は長閑な果樹園とワインを作っている。
そんな風景の中に、アークウェインのカントリーハウスはあった。
優美な白と水色の屋敷。広々とした庭と、川。それに大きな森があった。
「綺麗な所だね」
「乗馬をするにはとてもいい環境だ、レオノーラも乗馬は好きだろ?」
キースが微笑んだ。

幼い頃からキースは乗馬が上手いのは、この恵まれた環境があったからか…。と妙に納得する。

「俺の服でよければそれを着て、普通の鞍で乗らないか?」
「…いいの?」
レオノーラはドレスでなくて良いのか確かめた。
女性が乗馬するなら横乗りの鞍を着ける。ドレスでは跨げないからだ。
「ここは王都じゃないからね」
微笑むキースに、レオノーラはキスをした。
「キースのそういう柔軟な所、好きだな」
くすっとレオノーラは笑った。
「嬉しいな…」
キースもそっとキスを返した。

「さぁ入ろうか」
キースは馬車を降りて、レオノーラに手を貸す。
騎士を辞めて半年程だがすっかりエスコートをされる、そんな習慣も慣れてきた。

アークウェインのカントリーハウスは屋敷の中も優美だったが、使用人が少ないのかほとんどの部屋が布が被ったままで、二人が使う予定の所だけが綺麗にされていた。

「レオノーラ、紹介するよ」
キースは、出迎えてくれた執事を手で示した。
「キース様ご結婚おめでとうございます。私は執事のフリップでございます。こちらはメイド長のカリーナでございます」
「よろしくね」
にっこりとレオノーラは二人に笑って見せた。

人手が少ないと聞いていたので、レオノーラはメイドのジーンとヘーゼルを連れてきていた。
彼女らは、着くなりてきぱきとレオノーラの荷物を片付けてくれる。

レオノーラは、使用人の宿舎で何年か過ごしたし、キースも寄宿舎で過ごしたので二人とも身の回りの事は一通り出来るが、彼らの仕事を失わせない為にも主らしくゆったりと過ごした。

「フリップ、領地の事は問題なくいってるだろうか?」
「はい、順調でございますよ。旦那様はきちんとお仕事はなさっておいでですから」
「そうか…ありがとう」
キースは笑みを作った。

秋の気配の漂う晩夏、キースとレオノーラは乗馬をしに早起きをした。キースの昔の服を借りて着る。
凛々しくレオノーラには似合っているが、借り物感はぬぐいされない。
「そういう男の服を着ていてももう男には見えないな」
くすっとキースは笑った。
「でもまあ、行くかレオ」
昔の愛称で呼ばれてレオノーラもうなずいた。
「行くぞキース」

キースの愛馬は青毛で鬣が白い美しく大きな立派な馬だった。レオノーラにキースが選んでくれたのも、普通なら女性が乗らないような大きな馬体のこちらも青毛の馬だった。
似ているので兄弟馬かも知れない。
「綺麗な仔だねキース」
「そうだろう」
キースは自慢げに笑った。

レオノーラはひらりと騎乗すると、馬の首をぽんぽんと撫でて
「今日はよろしく」
と微笑んだ。
ドレスではないので踏み台も要らず乗れるので、レオノーラはとても上機嫌だった。

「じゃあ出発するか」
キースはレオノーラに声をかけると、森の方へ駆けさせて行く。
レオノーラも美しい景色を眺めながら、後を追うように走った。
少しずつ秋の風景に変わりゆく自然がきれいだった。

森の奥の方まで行くと小川のほとりで、キースは馬を降りて馬を休ませてやる。レオノーラも続いて同じようにした。
「さて、ここで人間たちも腹ごしらえだ」
キースはそういうと、ブランケットを敷きバスケットを鞍からおろしてサンドイッチを用意した。
「準備がいいなキース」
くすっとレオノーラが笑い遠慮なく手を伸ばした。

お腹が満たされると、屋敷ではさすがに行儀がわるいので、出来ないがゴロリとキースは寝転がった。レオノーラもうーんと伸びをしてから、寝転がる。

風がそよそよと吹いて、かさかさと葉をならし、小川が心地よい音を奏でていた。
木陰のお陰で太陽の光も葉を透かして差し込み、全てが丁度よい心地よさだった。
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