初恋

桜 詩

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王宮舞踏会

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王都に戻ると社交シーズンの始まる。まずは恒例の王宮での舞踊会がある。

ミセス・アヴァに仕立てを依頼していた今年のドレスはシンプルながら、胸元には大胆にカットが入り、すぼまった裾が膝下からまた広がり、カラーの花の様な形にデザインされていた。
それはレオノーラの雰囲気によく似合っていた。
キースはといえば、ダークネイビーのテールコートをきっちりと着こなして、黒髪をきっちり撫で付けて整えた完璧な貴公子ぶりであった。

キースと揃って会場に着くと、レオノーラとキースにはあちこちから新年の挨拶と結婚を祝う言葉が掛けられた。

「レオノーラ様は本当にドレス姿もお綺麗ですわ」
「ありがとう」
にっこりと微笑みを返す。返したその夫人はぽうっとレオノーラを見つめていた。
女装姿でもレオノーラは相変わらず女性に人気があるのだった
「いつもながら…レオノーラは女性にもてるね」
キースに言われて、女性に向けることの多い笑みを向けた。
「それはねきっと王妃様のご指導のお陰でだと思う」

そっと会場内に目をやると、目立たないように女性騎士と近衛騎士が配備されている。
いつもより心なしか多い…と仕えていたレオノーラには感じられた。
原因はすぐにわかった…

ざわりとホールの方から伝わり、人が道を開けてその人物を通す事でレオノーラにもわかった。
貴族の筆頭である、ライアン・ウィンスレット公爵と、新しい夫人のエレナ・ヘプバーン。
離婚と再婚という報が同時に流れた事で、社交界でスキャンダラスなニュースとなっていた。
「美人だ…」
レオノーラはエレナを見てキースに言った。
堂々としたライアンの横に控えめに微笑むエレナ。金髪に紫の瞳で小さめな顔に小さな顎、ほっそりとした首や腕に豊かなバスト。儚げでかつ包み込むような柔らかな雰囲気がある。
「それに色っぽいね」
男なら庇護欲をそそられるに違いない。

ライアンは、この状況を予測していたのだろう。
微笑みつつも、近寄れば叩き斬るというくらいの覇気を出して横に控えめに立つエレナを守ろうとしているのがレオノーラには感じられた。
ひそひそと話す声。それはライアンと、エレナに集中する衆目。
「…なんだかお気の毒だね…犯罪者でもあるまいし…」
そして突如、静まった。
エリザベス…ライアンの別れた妻が後ろから登場したのだ。
周りは息を飲んで見つめていたし、騎士たちがさりげなく近づいたのがわかった。

エリザベスは表面上はにこやかにライアンたちに挨拶をして、そのまま会場内に入ったようだ。
そっとまた配備に戻る騎士たち。

レオノーラはその一人、元同僚のアレクサンドラに声をかけた。
黒髪に黒い目に、白い肌が美しい騎士だ。
「アレク、物々しいね」
「レオノーラ、結婚おめでとう。王妃様がレオノーラが報告に来ないってご立腹だったよ」
「…エミリアにも聞いた」
くすっとアレクサンドラは笑う。
「ライアン卿とレディ エレナ…あのお二人が来るからこの警護?」
「うん、何が起こるか予測不可能だからね…念のためだ」
「第一の危険は去ったわけだ…」
「うん。修羅場にならずで良かったよ」
アレクサンドラは笑った。
「じゃあ戻るね」
アレクサンドラと話していると、離れた所にいたシャーリーンとエイプリルもレオノーラに目で合図を送っていた。
レオノーラも挨拶を返した。

会場内にはすでに着飾った夫人とテールコート姿の紳士たちで華やいでいた。
レオノーラはドレス姿で来るのは、10年ぶりであった。
去年はルナのデビューで騎士姿でダンスを踊ったのはすでに懐かしい思い出となっている。
拷問器具と思ってやまないコルセットも少しずつ慣れてきているから不思議である。
キースもレオノーラはその容貌から、目立つことこの上なく、しかもそれを自覚していたし、二人とも当然の如く受け止めていた。今年はその目立つ二人が夫婦となったことで、より視線を集めてもいた。

「お姉様」
声がかかりみると、ステファニー、ルシアンナ、ルナそれと寄宿舎を卒業したラファエル。
ブロンテ家の兄弟が揃った。そしてアンドリューとアルバート、フェリクスもそれぞれエスコート相手を務めているため共にやって来ると、とてつもなく目立つ一団となっていた。

注目具合では、ライアンとエレナと二分しているかもしれないな…とレオノーラは思った。
ステファニーは幸せそうに微笑んでいて、アンドリューとは上手くいっているようだ。ルナもフェリクスとは順調に交際が出来ているようで、自分に自信がないという雰囲気はほとんど無くなっていた。

心配なのは……

「ルシアンナ、今日も美人さんだね」
「レオノーラお姉様もとっても綺麗よ」
と微笑んだ。
「ありがとう」
ちらりとアルバートを見れば、優しい目でルシアンナを見ている。
「ラファエル今年からお前も忙しくなるね」
レオノーラにそっくりのラファエルは、さぞかし令嬢に狙われそうだ。しかもブロンテ伯爵の跡継ぎであるとくれば、人気が出ないほうが不思議である。
「姉上にそっくりだから、重ねられて大変なだけ」
ラファエルはニヤリと笑った。

「フェリクスは、レディ エレナに挨拶に行かないのか?」
「ここでは止めておくよ。きっと無駄に聞き耳を立てられて終わりだ。後日別邸を訪ねてゆっくり話すつもりだ」
と複雑な表情を浮かべた。
「…それもそうだ…」
見ると、遠巻きにされているライアンとエレナはお互いを大切にしている、という雰囲気がある。しかし、息子であるフェリクスからしてみれば複雑な心境だろう。ルナはフェリクスがそれでいいなら、という感じだろうか。

デビュタントが入場して、すこし空気が和んだ。
初々しい彼女達を皆ほほえましくみている。
王族が入場して、国王ジェラルドの挨拶とダンスが始まりいよいよ舞踏会が始まった。
「では一曲目は私と踊ってください。レディ レオノーラ」
キースが微笑みを浮かべて完璧な貴公子ぶりで、手を差し出した。
「喜んで」
レオノーラも微笑み返して、ダンスに加わった。
キースのダンスはさすがに巧みで、そしてその甘い声で話されればそれはモテるだろうなとレオノーラは思った。
そのキースがレオノーラだけを想い続けていたなんて、やはり信じがたい。

一曲踊り終えると、ジェラルドと王妃ミランダが揃ってライアンとエレナに声をかけていた。その事で、そのあとから二人は遠巻きにされなくなったのだ。

さすがは王妃様だ。とレオノーラはその心遣いに、かつての主の事を誇らしく思う。

そして、レオノーラもミランダに声を掛けられた。
「レオノーラ、貴女ったら本当に結婚の報告をしてこないなんてどういうつもりなの?」
「王妃様…。知らせなら王宮には届いているはずです」
「わたくしが言いたいのはどうして直接来ないの、という事よレオノーラ」
レオノーラは苦笑した。
「辞めた人間ですから」
「…辞めたとはいえ、貴女はわたくしの大切な臣下よ。いつでも訪ねて来てほしいのに」
もうとレオノーラを軽く睨む。
「まぁ、いいわ。お祝いを贈ったから是非使ってちょうだいね」
ミランダは微笑むと、立ち去って行った。

一体、ミランダからのお祝いとは何か気になりつつも、舞踏会をそつなくこなしたのだった。
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