初恋

桜 詩

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訳ありの令嬢

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数日後に、レオノーラとキースは、ランスロットとメグと共に、ティファニーの今いるタウンハウスに馬車で向かった。
この日は、ティファニーを帰りに乗せるためにウィンスレット家の一番大きな6人乗れる馬車を借りてきていた。

メグの道案内で王都から外れた、木立の並ぶ静かな地に馬車は向かう。

「この先よ」
メグが言った。

メグは、栗色の髪に若草色の瞳の柔らかな印象の令嬢で、美人とか可愛らしいというよりは癒されるような女性らしい容姿である。

なるほど、ランスロットと似合いだとレオノーラは思った。

馬車がたどり着いたそこは、管理の行き届いていない屋敷で、こんなところに人が住んでいるのかという寂しい雰囲気の所だ。

屋敷もしんとしていて、人気がない。

「ティファニー、メグよ」
ホールに入ってメグが声をかけたけれど、返事はなかった。
「どこかしら…」

「メグ?」
少しして、ひっそりとした声がかけられる。
「ああ、ティファニー」
にっこりとメグが微笑みかけた先には、小柄な少女が扉から顔を覗かせていた。

腰まで届く淡い栗色の髪に、水色の瞳をした可愛らしい少女である。しかし、服はおよそ令嬢らしからぬ質素なドレスである。

「…この間までいたメイドはどうしたの?」
メグが問うと
「辞めてもらったの…良くしてくれてたけれど…」
ティファニーはそっと答えた。

その淋しげな表情に、レオノーラとキースは顔を見合わせた。

「そんなことより、そちらはどなたなの?」
「ランスロット卿と、キース卿とその奥様のレディ レオノーラよ」
「はじめまして、ティファニー・プリスフォードと申します」
ティファニーはそっとお辞儀をした。

身なりはレディらしからぬ格好であったが、良家の令嬢らしい優雅な動作である。

にっこりとレオノーラは微笑みかけた。
「あのね、ティファニー。こちらのキース卿がティファニーをお屋敷に置いてくださるそうなの」
メグが言った。
「…メグ…私のことをお話したの?」
ティファニーは眉をひそめる。
「私たちは貴女を助けたいと思ってる。遠慮なく来るといいよ」
レオノーラはそう微笑みつつ言った。
「なぜ?縁も何もない私を?」
「私たちはね、ランスロットの古くからの友人なんだ。その友人の婚約者であるメグの従妹なのだからまぁ、遠い親戚だと思って頼ってくれないかな?」
キースもにこやかに言った。

「…メグ…困ってたのよね、ここに来るのも」
ティファニーはキースとレオノーラ、それからランスロットを見て、メグの方を見た。その瞳が不安げに揺らいでいる。
「そんな事無いわ。でも私じゃデビューのお世話もしてあげられないし」
メグは焦って言った。

ティファニーはしばらく考えていたが、
「…わかりました…お世話になることにします…」
ティファニーはうつむくと、荷物をまとめてくると言うと部屋に足早に向かっていった。

「…本当に、一人で住んでいたとは…」
ランスロットが絶句している。
「…実は、バクスター子爵家から連れてきた使用人たち……あんまりいい人をつけてもらえなかったみたいで、どうやら金目の物を持って逃げたみたいなの…。馬車も馬も、ドレスとか貴金属も盗られたみたいなのよ…」
メグが小さな声で囁いた。
「バクスター子爵家からの仕送りも、最近では途絶えがちだと聞いていたし」

少しの時間がたってティファニーは鞄を1つ持って戻ってきた。
「それだけで良いのかな?」
レオノーラが聞くと、ティファニーはこくんとうなずいた。


アークウェイン邸のレオノーラたちが居を構える一画とは少し離れた部屋に、ティファニーの部屋は準備していた。

「この部屋が今日からティファニーの部屋になるから」
ティファニーは、さっさと入ると、鞄を置いてお辞儀をひとつすると、扉をパタンと閉めてしまった。

馬車に乗っている間も、着いてからもひたすらティファニーはだんまりを貫いていた。

「ティファニー…」
メグが心配そうに、ティファニーの姿が消えた扉を見つめた。

「ミス メグ、確かにレディ ティファニーはお預かりしたから後は任せて」
とレオノーラはメグに微笑みかけると、メグは頬を赤らめた。
「はい…ティファニー…元はきちんとした令嬢らしく、おとなしいけれど、きちんと挨拶も出来る子なんです…」
「うん。わかるよ…今は、そう出来ないんだって事だね」
レオノーラはうなずいた。
「申し訳ありません…レオノーラ様…」
「気にしなくていいよ、だんまりくらい可愛らしいものだ」
キースもレオノーラに同意するように言った。

ブロンテ家から、ティファニー付きのメイドとしてダイナを連れてきていた。

「任せても大丈夫かな?」
「お任せください、レオノーラ様」
ダイナはにっこりと頼もしげな笑みを浮かべる。美人なメイドのダイナは若いがなかなか仕事の出来るメイドで、長くブロンテ家に勤めているだけあり、ちょっとやそっとティファニーが難しい令嬢だったとしても動じやしないだろうと、リリアナの推薦であった。

「やっぱりあれかな…。反抗、みたいなものかな?」
晩餐の時も、だんまりを貫き通しそのまま部屋にティファニーが戻っていくのを見送りキースが言った。
「…それに近いのかもな、状況を思えばティファニーが人間不信に陥っていてもおかしくはない。…この先も色々としてくるんじゃない?」
レオノーラが言うと
「なに?実体験?」
キースが笑いながら聞くと
「うちは兄弟が多いからね、みんなそれぞれに激しかったよ?」
レオノーラが笑った。
「ま、俺もなんだかんだと荒れてた時期があったしな…」

その荒んでいた時期に、レオノーラはキースと出会っているのである。

「そういうのも成長するには必要って事だな」
とキースは笑った。

レオノーラもキースもティファニーを見ていて、若い…というよりは幼かった自分達を思いだし懐かしく、そして少しばかり恥ずかしくもあった。
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