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だんまりの攻略法
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アークウェイン邸には、ティファニーの為にミセス アヴァが来ていた。
「お嬢様、どのようなデザインがお好みでいらっしゃいます?」
ミセス・アヴァがにこやかに問うても、綺麗なデザイン画を見せても、生地見本をみせも、ティファニーの体型にあった既製品の色とりどりの普段用のドレスを見せても、ティファニーのだんまりは続いていた。
「あのぅ…お嬢様?お気に召しませんか?」
あまりの反応の無さに徐々に自信無げな様子になるミセス・アヴァである。
彼女はどんな令嬢でも自分のドレスが気に入ってもらえるように努力しその仕事に誇りを持っている。しかし、このティファニーの無反応さには、たくさんの令嬢たちを相手に仕事をしてきたさすがのミセス・アヴァとはいえどのように接すれば心が解れてくるのかわからないようだ。
「ミセス・アヴァ、貴女の見立てでいくらか置いていってくれる?」
レオノーラがそっと助け船を出した。
「ティファニー、それで構わないかな?」
レオノーラが言っても、ティファニーはじっとそこにいるだけで、目を向けもせず、口を開くこともしなかった。
「ごめんねミセス・アヴァ。ちょっと難しいお年頃なんだ」
にっこりとレオノーラが微笑みかけると、ミセス・アヴァは頬を染めて、やっとひきつらない笑顔を見せた。
ミセス・アヴァの既製のドレスに着替えたティファニーはどこからどう見ても可愛らしい令嬢そのものの姿になったが、相変わらずのその態度にダイナもさすがに苛立ちを見せていた。
「なかなか手強いお嬢様ですわね!ティファニー様は」
レオノーラに様子を問われたダイナは、ピリッと眉を吊り上げて言った。
「お部屋でもずっとあんな風ですわ。普通どんなに機嫌が悪くっても女の子でしたら、新しいドレスとか髪型とか嬉しいものですのに、1つも反応がないんです。私、声1つ聞いておりませんよ…」
ダイナは少し溜め息をついて
「等身大のお人形遊びをしているようで…」
あまりにも反応が無くて、ダイナも苦労しているようだ。
「そう…苦労をかけてごめんねダイナ」
レオノーラが謝ると
「まぁ、レオノーラ様がそのように私におっしゃるなんてもったいないですわ」
とポッと頬を染めた。
「それであの子は部屋で何をしてるのかな?」
「すっごい大作の刺繍ですわ、レオノーラ様。それでようやく、人形でないとわかるくらいですもの。…ティファニー様はお話は出来るんですよね?」
「ちゃんと会話出来るはずだよ?迎えに言ったときには確かにミス メグと話していたから、喋ることが出来るはずだよ」
ダイナはそれに頷くと、ぐっと拳を握った。
「小難しい令嬢を手懐けてこそ良いメイドですわ!私必ずやりとげて見せます」
ダイナはにっこりと美しく微笑んだ。
レオノーラにしろ、キースにしてもティファニーがだんまりを決め込んでも、痛くも痒くもないしアークウェイン家にとって益もなければ、害もさほどない。
しかし…ティファニーがそのような態度でいると、仕えている使用人達にとってみれば放っておくことも出来ずに、気を揉むことであろう。
「…どうしたものかな…」
レオノーラは少し思案して
「ティファニーを連れて、ブロンテ家を訪ねてみようかな…」
「ブロンテ家に?」
キースが面白そうに聞き返した。
キースはすっかりいたずらっ子のような目をしている。おおよそティファニーがいつうっかりと口を開くのかと、わくわくしてすらいそうで、その心理はレオノーラもわからなくもない。
「お母様に言って、ルナとラファエル、ルシアンナと会わせてみる。あの子たちはそれぞれに個性的だからね、誰か波長が合うかも知れないと思って」
「ふぅん?なかなか見ごたえがありそうだね?」
キースは笑みを深くした。
リリアナにティファニーを連れて訪ねると手紙を出すと、リリアナからはまだアークウェイン邸に来て間がないのだからリリアナたちが訪ねると返事があったのだ。
そして、数日後にリリアナはラファエルとルシアンナとルナを連れてアークウェイン邸を訪れた。
「ティファニー、私の母のリリアナ・ブロンテ、それから弟のラファエルと、妹のルシアンナとルナ・レイア」
レオノーラがティファニーに紹介したが、相変わらずのだんまりを決め込んでいる。
「はじめまして、ティファニー。少しはこの屋敷にも慣れたかしら?私の事はリリアナで良いわよ。お母様の代わりになんでも相談してちょうだいね」
リリアナが愛想よく言う。
「はじめまして、ルナよ。ティファニー、あなたより1つだけお姉さんなのよ?」
ルナは柔らかな口調で言った。
ルナはデビューまでは派手な姉たちに押されて、萎縮気味だったが、社交界デビューと共に成長してレディらしく落ち着きそしてフェリクスと婚約したことで輝きを増したと思う。
「私には妹がいないから、ティファニーがお姉さんと思ってくれたら嬉しいわ」
にこっとルナが微笑みかけたが、相変わらずティファニーは見ようともしていなかった。
その水色の瞳は、じっと手元に向けられてピクリともしない。
リリアナがレオノーラをちらりと見て、眉をあげて興味深そうにティファニーとレオノーラを順に見た。
「あら、なあに?あんた口が聞けないの?」
ルシアンナが不愉快そうに話した。
「どんなに機嫌が悪くったって返事くらいするものでしょう?それとも耳が聞こえないの?」
かなりわざとらしく嫌な言い方をしたようだが、これにもティファニーは無反応で、びくともしない。
「ふぅーん?」
その様子を見ていたラファエルがつかつかとティファニーに近寄ったかと思うと、その頬を片手で摘まんで耳元で
「わっ!!」
と声を出した。
「何するのよ!いきなり」
さすがのティファニーもこれには思わず声を出して、ソファから立ち上がった。
「姉上、聞こえてるし喋れるみたいだよ?」
ラファエルがしれっと言った。
ティファニーははっと口を押さえて、ラファエルを睨み付けた。
「そのようね、ラファエル」
にっこりとルシアンナが笑った。
「ティファニー、私はルシアンナよ。私は20歳だからあなたよりもお姉さんだから、挨拶くらい返してよね?」
「反抗期だかなんだか知らねーけど、最低限の礼儀くらいしないと、恥ずかしいだけだぞ?」
立ち去ろうとしているティファニーの退路を塞ぐようにラファエルがティファニーの前に立った。
ムッとした顔を見せたティファニーに
「お前がちゃんとするまで、ここは遠さないからな」
なかなか良い展開になったな、とレオノーラはリリアナと共にゆっくりと様子を見ていた。
ルナがおろおろとラファエルとティファニーを見ている。
ルシアンナは、ラファエルと同意見らしく同じようにティファニーの進路を塞ぐように座っている。
何せ喧嘩では幼い頃から鍛えられている二人である。長期戦だろうがなんだろうが負ける気などさらさらないであろう。
「ね、ティファニー、一言挨拶すればお姉様もお兄様も納得するはずよ?」
ルナが調停役をかって出ている。
膠着した状態がしばし続いたが、立ったままでのにらみ合いに負けたのはやはり…ティファニーであった。
「はじめまして…ティファニー・プリスフォードです…」
小さく微かな声で言った。
「よろしくね、ティファニー」
にっこりとルシアンナが言い、ラファエルがニヤリと笑うと
「よろしく。座ろ、喉が渇いたな」
ラファエルは座って冷めきった紅茶を飲んだ。
「ああ、淹れ直すわね」
にこにこと、リリアナが紅茶を淹れ直して注いでいく。
「ティファニーはどう?」
リリアナがわざとらしくいるかどうか聞いている。
リリアナも返事を延々と待つつもりらしく、いたずらっぽく目が光っている。
無表情でいるティファニーだが、じっとリリアナが動く気配も見せずにティファニーの返事を待つので、ちらりと目を向けると
「…いただきます…」
と言った。
しばらく大人しく紅茶を飲んでいたティファニーだが、そうやってみんながティファニーに話しかけては返事を待つので、
「…部屋に戻ってもいいですか…」
と言ってきた。
「ああ、疲れたかな?構わないよ」
レオノーラはにっこり笑ってティファニーに返事をした。
ティファニーは、少し足早に去っていった。
ティファニーが去っていって、リリアナがクスクスと笑いだした。
「ちょっと…拗ねてるけど、素直そうなお嬢さんね」
「そうですね、なかなか頑固そうですけど」
レオノーラもにっこりと笑みを返した。
「それにしても、ラファエル。よくやったわ」
ルシアンナがラファエルを褒めた。
「だてに寄宿舎で何年も過ごしてないよ。あれくらい序の口だ。男なんて荒れた奴なんてもっといるからな」
「でもねぇ、ティファニーは女の子だから…いきなり頬をつまむのはどうかと思ったわよ?」
リリアナが柔らかく責めた。
「ふん。デビューしてない、挨拶もろくに出来ない子を一人前の女性扱いするつもりはないな。相手がらしくしていれば俺だって、それなりの対応をするさ」
ラファエルがレオノーラそっくりの仕草で脚を組んだ。
「ラファエル、お前が一番あの子の扱いが上手そうだな…。暇があったら是非来てくれ」
にっこりとレオノーラがラファエルに言った。
「ええっ!?あんな反抗期真っ最中の子の相手なんてめんどくさ…」
と途中でレオノーラの睨みを見て、
「…いや、喜んで訪ねます!」
ラファエルのありとあらゆる師匠はレオノーラである。幼い頃にインプットされたそれは覆せない。
「よろしく、ラファエル」
レオノーラはにっこりと微笑んでみせた。
帰宅したキースがブロンテ家の兄弟とティファニーのやり取りを聞いて、目を丸くしてそれから
「すごいな~さすが、兄弟ゲンカ慣れしてると言うか、なんと言うか…」
キースは、姉と二人であったこともあり兄弟ゲンカなんて経験がない。レオノーラの話を聞いていると、ブロンテ家の喧嘩はなんだか楽しそうでもある。
「今日くらいのなら日常会話だよ。喧嘩にはならないかな」
くすっとレオノーラは笑った。
晩餐の席に着いたティファニーは、出来上がったばかりの夜用のドレスを着ていた。
淡い水色と白のレースで少女らしく可愛らしいデザインである。
「ティファニー、今日は楽しかったかな?」
キースもわざとらしく聞いている。
ちらりとレオノーラとキースを見たティファニーは、
「全く…楽しくない」
とだけポツリと言った。
「そうか、楽しくなかったのか」
キースはそう言って
「俺はこうしてティファニーの声が聞けて良かったよ」
と笑みを向けた。
それに、ティファニーはポッと頬を赤らめてうつむいた。
「ティファニー、キースは私と結婚してしまったからな。君の相手にはなれないな」
にっこりとレオノーラが言うと、慌てたようにカラトリーの音をたてて、
「おじさんなんて相手にしないわよ!」
ぼそっとティファニーが言った。
「おじさん…」
おじさんと言われたキースがくくくっと笑った。
「確かに10歳も下のティファニーからしてみれば、俺もレオノーラもおじさんとおばさんなのかな」
ティファニーは、ばつが悪そうに晩餐を食べるとそそくさと部屋に戻っていった。
「会話が出来るようになっただけ進歩だな」
「そうだろう?ラファエルをもっと呼ぼう。暇があるだろうしな」
レオノーラが不敵な笑みを浮かべた。
「お嬢様、どのようなデザインがお好みでいらっしゃいます?」
ミセス・アヴァがにこやかに問うても、綺麗なデザイン画を見せても、生地見本をみせも、ティファニーの体型にあった既製品の色とりどりの普段用のドレスを見せても、ティファニーのだんまりは続いていた。
「あのぅ…お嬢様?お気に召しませんか?」
あまりの反応の無さに徐々に自信無げな様子になるミセス・アヴァである。
彼女はどんな令嬢でも自分のドレスが気に入ってもらえるように努力しその仕事に誇りを持っている。しかし、このティファニーの無反応さには、たくさんの令嬢たちを相手に仕事をしてきたさすがのミセス・アヴァとはいえどのように接すれば心が解れてくるのかわからないようだ。
「ミセス・アヴァ、貴女の見立てでいくらか置いていってくれる?」
レオノーラがそっと助け船を出した。
「ティファニー、それで構わないかな?」
レオノーラが言っても、ティファニーはじっとそこにいるだけで、目を向けもせず、口を開くこともしなかった。
「ごめんねミセス・アヴァ。ちょっと難しいお年頃なんだ」
にっこりとレオノーラが微笑みかけると、ミセス・アヴァは頬を染めて、やっとひきつらない笑顔を見せた。
ミセス・アヴァの既製のドレスに着替えたティファニーはどこからどう見ても可愛らしい令嬢そのものの姿になったが、相変わらずのその態度にダイナもさすがに苛立ちを見せていた。
「なかなか手強いお嬢様ですわね!ティファニー様は」
レオノーラに様子を問われたダイナは、ピリッと眉を吊り上げて言った。
「お部屋でもずっとあんな風ですわ。普通どんなに機嫌が悪くっても女の子でしたら、新しいドレスとか髪型とか嬉しいものですのに、1つも反応がないんです。私、声1つ聞いておりませんよ…」
ダイナは少し溜め息をついて
「等身大のお人形遊びをしているようで…」
あまりにも反応が無くて、ダイナも苦労しているようだ。
「そう…苦労をかけてごめんねダイナ」
レオノーラが謝ると
「まぁ、レオノーラ様がそのように私におっしゃるなんてもったいないですわ」
とポッと頬を染めた。
「それであの子は部屋で何をしてるのかな?」
「すっごい大作の刺繍ですわ、レオノーラ様。それでようやく、人形でないとわかるくらいですもの。…ティファニー様はお話は出来るんですよね?」
「ちゃんと会話出来るはずだよ?迎えに言ったときには確かにミス メグと話していたから、喋ることが出来るはずだよ」
ダイナはそれに頷くと、ぐっと拳を握った。
「小難しい令嬢を手懐けてこそ良いメイドですわ!私必ずやりとげて見せます」
ダイナはにっこりと美しく微笑んだ。
レオノーラにしろ、キースにしてもティファニーがだんまりを決め込んでも、痛くも痒くもないしアークウェイン家にとって益もなければ、害もさほどない。
しかし…ティファニーがそのような態度でいると、仕えている使用人達にとってみれば放っておくことも出来ずに、気を揉むことであろう。
「…どうしたものかな…」
レオノーラは少し思案して
「ティファニーを連れて、ブロンテ家を訪ねてみようかな…」
「ブロンテ家に?」
キースが面白そうに聞き返した。
キースはすっかりいたずらっ子のような目をしている。おおよそティファニーがいつうっかりと口を開くのかと、わくわくしてすらいそうで、その心理はレオノーラもわからなくもない。
「お母様に言って、ルナとラファエル、ルシアンナと会わせてみる。あの子たちはそれぞれに個性的だからね、誰か波長が合うかも知れないと思って」
「ふぅん?なかなか見ごたえがありそうだね?」
キースは笑みを深くした。
リリアナにティファニーを連れて訪ねると手紙を出すと、リリアナからはまだアークウェイン邸に来て間がないのだからリリアナたちが訪ねると返事があったのだ。
そして、数日後にリリアナはラファエルとルシアンナとルナを連れてアークウェイン邸を訪れた。
「ティファニー、私の母のリリアナ・ブロンテ、それから弟のラファエルと、妹のルシアンナとルナ・レイア」
レオノーラがティファニーに紹介したが、相変わらずのだんまりを決め込んでいる。
「はじめまして、ティファニー。少しはこの屋敷にも慣れたかしら?私の事はリリアナで良いわよ。お母様の代わりになんでも相談してちょうだいね」
リリアナが愛想よく言う。
「はじめまして、ルナよ。ティファニー、あなたより1つだけお姉さんなのよ?」
ルナは柔らかな口調で言った。
ルナはデビューまでは派手な姉たちに押されて、萎縮気味だったが、社交界デビューと共に成長してレディらしく落ち着きそしてフェリクスと婚約したことで輝きを増したと思う。
「私には妹がいないから、ティファニーがお姉さんと思ってくれたら嬉しいわ」
にこっとルナが微笑みかけたが、相変わらずティファニーは見ようともしていなかった。
その水色の瞳は、じっと手元に向けられてピクリともしない。
リリアナがレオノーラをちらりと見て、眉をあげて興味深そうにティファニーとレオノーラを順に見た。
「あら、なあに?あんた口が聞けないの?」
ルシアンナが不愉快そうに話した。
「どんなに機嫌が悪くったって返事くらいするものでしょう?それとも耳が聞こえないの?」
かなりわざとらしく嫌な言い方をしたようだが、これにもティファニーは無反応で、びくともしない。
「ふぅーん?」
その様子を見ていたラファエルがつかつかとティファニーに近寄ったかと思うと、その頬を片手で摘まんで耳元で
「わっ!!」
と声を出した。
「何するのよ!いきなり」
さすがのティファニーもこれには思わず声を出して、ソファから立ち上がった。
「姉上、聞こえてるし喋れるみたいだよ?」
ラファエルがしれっと言った。
ティファニーははっと口を押さえて、ラファエルを睨み付けた。
「そのようね、ラファエル」
にっこりとルシアンナが笑った。
「ティファニー、私はルシアンナよ。私は20歳だからあなたよりもお姉さんだから、挨拶くらい返してよね?」
「反抗期だかなんだか知らねーけど、最低限の礼儀くらいしないと、恥ずかしいだけだぞ?」
立ち去ろうとしているティファニーの退路を塞ぐようにラファエルがティファニーの前に立った。
ムッとした顔を見せたティファニーに
「お前がちゃんとするまで、ここは遠さないからな」
なかなか良い展開になったな、とレオノーラはリリアナと共にゆっくりと様子を見ていた。
ルナがおろおろとラファエルとティファニーを見ている。
ルシアンナは、ラファエルと同意見らしく同じようにティファニーの進路を塞ぐように座っている。
何せ喧嘩では幼い頃から鍛えられている二人である。長期戦だろうがなんだろうが負ける気などさらさらないであろう。
「ね、ティファニー、一言挨拶すればお姉様もお兄様も納得するはずよ?」
ルナが調停役をかって出ている。
膠着した状態がしばし続いたが、立ったままでのにらみ合いに負けたのはやはり…ティファニーであった。
「はじめまして…ティファニー・プリスフォードです…」
小さく微かな声で言った。
「よろしくね、ティファニー」
にっこりとルシアンナが言い、ラファエルがニヤリと笑うと
「よろしく。座ろ、喉が渇いたな」
ラファエルは座って冷めきった紅茶を飲んだ。
「ああ、淹れ直すわね」
にこにこと、リリアナが紅茶を淹れ直して注いでいく。
「ティファニーはどう?」
リリアナがわざとらしくいるかどうか聞いている。
リリアナも返事を延々と待つつもりらしく、いたずらっぽく目が光っている。
無表情でいるティファニーだが、じっとリリアナが動く気配も見せずにティファニーの返事を待つので、ちらりと目を向けると
「…いただきます…」
と言った。
しばらく大人しく紅茶を飲んでいたティファニーだが、そうやってみんながティファニーに話しかけては返事を待つので、
「…部屋に戻ってもいいですか…」
と言ってきた。
「ああ、疲れたかな?構わないよ」
レオノーラはにっこり笑ってティファニーに返事をした。
ティファニーは、少し足早に去っていった。
ティファニーが去っていって、リリアナがクスクスと笑いだした。
「ちょっと…拗ねてるけど、素直そうなお嬢さんね」
「そうですね、なかなか頑固そうですけど」
レオノーラもにっこりと笑みを返した。
「それにしても、ラファエル。よくやったわ」
ルシアンナがラファエルを褒めた。
「だてに寄宿舎で何年も過ごしてないよ。あれくらい序の口だ。男なんて荒れた奴なんてもっといるからな」
「でもねぇ、ティファニーは女の子だから…いきなり頬をつまむのはどうかと思ったわよ?」
リリアナが柔らかく責めた。
「ふん。デビューしてない、挨拶もろくに出来ない子を一人前の女性扱いするつもりはないな。相手がらしくしていれば俺だって、それなりの対応をするさ」
ラファエルがレオノーラそっくりの仕草で脚を組んだ。
「ラファエル、お前が一番あの子の扱いが上手そうだな…。暇があったら是非来てくれ」
にっこりとレオノーラがラファエルに言った。
「ええっ!?あんな反抗期真っ最中の子の相手なんてめんどくさ…」
と途中でレオノーラの睨みを見て、
「…いや、喜んで訪ねます!」
ラファエルのありとあらゆる師匠はレオノーラである。幼い頃にインプットされたそれは覆せない。
「よろしく、ラファエル」
レオノーラはにっこりと微笑んでみせた。
帰宅したキースがブロンテ家の兄弟とティファニーのやり取りを聞いて、目を丸くしてそれから
「すごいな~さすが、兄弟ゲンカ慣れしてると言うか、なんと言うか…」
キースは、姉と二人であったこともあり兄弟ゲンカなんて経験がない。レオノーラの話を聞いていると、ブロンテ家の喧嘩はなんだか楽しそうでもある。
「今日くらいのなら日常会話だよ。喧嘩にはならないかな」
くすっとレオノーラは笑った。
晩餐の席に着いたティファニーは、出来上がったばかりの夜用のドレスを着ていた。
淡い水色と白のレースで少女らしく可愛らしいデザインである。
「ティファニー、今日は楽しかったかな?」
キースもわざとらしく聞いている。
ちらりとレオノーラとキースを見たティファニーは、
「全く…楽しくない」
とだけポツリと言った。
「そうか、楽しくなかったのか」
キースはそう言って
「俺はこうしてティファニーの声が聞けて良かったよ」
と笑みを向けた。
それに、ティファニーはポッと頬を赤らめてうつむいた。
「ティファニー、キースは私と結婚してしまったからな。君の相手にはなれないな」
にっこりとレオノーラが言うと、慌てたようにカラトリーの音をたてて、
「おじさんなんて相手にしないわよ!」
ぼそっとティファニーが言った。
「おじさん…」
おじさんと言われたキースがくくくっと笑った。
「確かに10歳も下のティファニーからしてみれば、俺もレオノーラもおじさんとおばさんなのかな」
ティファニーは、ばつが悪そうに晩餐を食べるとそそくさと部屋に戻っていった。
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レオノーラが不敵な笑みを浮かべた。
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