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黄昏の章
言葉は嘘をつむぐ
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レオノーラのお陰でどうにか招待状の返事を出すことが出来て、そして問題のドレスも、挨拶に行った向かいの屋敷に住んでいるドナ・ミッチェル夫人が丁寧に、オーダーでなく安く手にはいる店を紹介してくれたので、そこから夜のドレスと昼のドレスを古いものを売り、その差額で買うことが出来た。
貴族のレディたちが1回か2回着ただけの物を、いまの流行の形に手を加えて売り出しているのだという。中流階級の女性たちにこっそりと人気なのだそうだ。
アクセサリー類は幸いな事に、財産代わりなのかティエナがディールを介して持たせてくれた物があるのでそれで大丈夫そうだ。
そうして、招待を受けて向かったのはウィンスレット公爵家の舞踏会であった。
未亡人であるグレイシアは、エスコート役はホストである公爵家が探してくれるとの事で一人で向かったのだが……。
ウィンスレット公爵のライアン卿とその夫人のエレナが紹介してくれたのは、ジョルダン、その人だったのだ。
「知り合い、だったわよね?ジョルダンなら間違いなくエスコート出来るわ、安心して楽しんでいらして」
笑みを向けられて、グレイシアは
「ありがとうございます。レディ エレナ」
「では、中へ行きましょうか、レディ グレイシア」
「ええ、お願いしますわ、ジョルダン卿」
彼の肘に手をかけて歩み出すと、気まずいことこの上ない。
気まずいのは彼からの手紙に返事を書いていなかったからである。
「何故?という顔をしているね?」
ジョルダンは微笑みながら、少し顔を覗きこんだ。
「私の兄と、ウィンスレット公爵のご令嬢が結婚したという縁戚関係があってね」
「そう、なのですね」
そう言って少し見上げると、青い瞳と視線が合う。
ジョルダンといると、この夜もまたたくさんの人達と挨拶を交わしている。ウェルズ侯爵といい、このウィンスレット公爵といい、この国の中枢の家の舞踏会は田舎者のグレイシアには眩しすぎる。
華やかに始まった舞踏会で、グレイシアはジョルダンのエスコートで、彼の呼吸をするかのような自然と身に付いた社交術を、側でただ感じながら時おり向けられる問いに、決まった文言を口にすれば良かった。
そして、もちろんこの夜のダンスもグレイシアをただひたすらに
酔わせ、そして彼がそうしたのだろうけれど、グレイシアのダンスカードは埋まっていて、この間のように誰か、知らぬ人が近づける隙は無くされていたのだった。
「自意識過剰、と言われても仕方ないが、嫌われるような覚えは無い。と言うことは、きっと君の中で何かが返事を躊躇わせたのだとそう、思った」
ラストダンスとなるワルツを踊りながら、ジョルダンはそうグレイシアに言った。
「こうして触れていても、グレイシアは私を拒否していない。あの夜も、今夜も。君は確かに私の腕の中に」
そんな思わせ振りな事を囁きながらも、彼の一つ、一つのステップに揺るぎはない。
「君の、唇は嘘つきで、私はそれを信じることが出来ない。だから、無言の答えさえ疑ってしまう」
そう言うと、ふっと口元を緩めて微笑んだ。
「ジョルダン……貴方なら。どんな女性だって選べるわ」
「なぜそれが、グレイシア・ラングトンじゃ駄目なのか?」
「駄目なのよ。私は……何度も言わせないで」
ふぅ、とジョルダンはため息を出すと、
「言っただろう?信じることが出来ない、と。この後逃げたら、明日家に行って、レナの前で君を抱きしめてキスをしようか」
「人が悪いわ……。わかったわ、ジョルダン卿」
ウィンスレット邸を、この夜もジョルダンの馬車に乗り後にすると、馬車はしばらくゆっくりと走った。
「どこへ行くの?」
「私の屋敷、アリオール・ハウスに」
「貴方の屋敷に?」
王都の中心部から外れた少し郊外にあたるそこは閑静な屋敷街で、そのうちの一つが彼の屋敷であるらしい。
「それとも……君の家でよかった?」
そう問われてグレイシアは首をふった。
(レナがいるから……)
そこで自分が、ジョルダンとまたこの間のような一夜を過ごすことを期待していることに気がついて、思わず顔を伏せてしまう。
(私は………)
理性は、ついていっては駄目だといい、心は惑わされて、そして女の体は彼を欲している。
「君は何も、悪くない。私が強引に誘い込んだ。それだけだ」
この前の夜の再現のようなやり取り……。
グレイシアは、目の前のこの人を拒否出来ない……。
これまでパートナーを亡くしたその為に傷つき、冷えてしまった心が、癒しと温もりを飢えていたから……。
(でも……絶対に好きになっては……だめなのよ。グレイシア)
馬車は、望む通りにかそれとも歓喜に満ち溢れてか、二人を乗せでアリオール・ハウスへとたどり着いた。
貴族のレディたちが1回か2回着ただけの物を、いまの流行の形に手を加えて売り出しているのだという。中流階級の女性たちにこっそりと人気なのだそうだ。
アクセサリー類は幸いな事に、財産代わりなのかティエナがディールを介して持たせてくれた物があるのでそれで大丈夫そうだ。
そうして、招待を受けて向かったのはウィンスレット公爵家の舞踏会であった。
未亡人であるグレイシアは、エスコート役はホストである公爵家が探してくれるとの事で一人で向かったのだが……。
ウィンスレット公爵のライアン卿とその夫人のエレナが紹介してくれたのは、ジョルダン、その人だったのだ。
「知り合い、だったわよね?ジョルダンなら間違いなくエスコート出来るわ、安心して楽しんでいらして」
笑みを向けられて、グレイシアは
「ありがとうございます。レディ エレナ」
「では、中へ行きましょうか、レディ グレイシア」
「ええ、お願いしますわ、ジョルダン卿」
彼の肘に手をかけて歩み出すと、気まずいことこの上ない。
気まずいのは彼からの手紙に返事を書いていなかったからである。
「何故?という顔をしているね?」
ジョルダンは微笑みながら、少し顔を覗きこんだ。
「私の兄と、ウィンスレット公爵のご令嬢が結婚したという縁戚関係があってね」
「そう、なのですね」
そう言って少し見上げると、青い瞳と視線が合う。
ジョルダンといると、この夜もまたたくさんの人達と挨拶を交わしている。ウェルズ侯爵といい、このウィンスレット公爵といい、この国の中枢の家の舞踏会は田舎者のグレイシアには眩しすぎる。
華やかに始まった舞踏会で、グレイシアはジョルダンのエスコートで、彼の呼吸をするかのような自然と身に付いた社交術を、側でただ感じながら時おり向けられる問いに、決まった文言を口にすれば良かった。
そして、もちろんこの夜のダンスもグレイシアをただひたすらに
酔わせ、そして彼がそうしたのだろうけれど、グレイシアのダンスカードは埋まっていて、この間のように誰か、知らぬ人が近づける隙は無くされていたのだった。
「自意識過剰、と言われても仕方ないが、嫌われるような覚えは無い。と言うことは、きっと君の中で何かが返事を躊躇わせたのだとそう、思った」
ラストダンスとなるワルツを踊りながら、ジョルダンはそうグレイシアに言った。
「こうして触れていても、グレイシアは私を拒否していない。あの夜も、今夜も。君は確かに私の腕の中に」
そんな思わせ振りな事を囁きながらも、彼の一つ、一つのステップに揺るぎはない。
「君の、唇は嘘つきで、私はそれを信じることが出来ない。だから、無言の答えさえ疑ってしまう」
そう言うと、ふっと口元を緩めて微笑んだ。
「ジョルダン……貴方なら。どんな女性だって選べるわ」
「なぜそれが、グレイシア・ラングトンじゃ駄目なのか?」
「駄目なのよ。私は……何度も言わせないで」
ふぅ、とジョルダンはため息を出すと、
「言っただろう?信じることが出来ない、と。この後逃げたら、明日家に行って、レナの前で君を抱きしめてキスをしようか」
「人が悪いわ……。わかったわ、ジョルダン卿」
ウィンスレット邸を、この夜もジョルダンの馬車に乗り後にすると、馬車はしばらくゆっくりと走った。
「どこへ行くの?」
「私の屋敷、アリオール・ハウスに」
「貴方の屋敷に?」
王都の中心部から外れた少し郊外にあたるそこは閑静な屋敷街で、そのうちの一つが彼の屋敷であるらしい。
「それとも……君の家でよかった?」
そう問われてグレイシアは首をふった。
(レナがいるから……)
そこで自分が、ジョルダンとまたこの間のような一夜を過ごすことを期待していることに気がついて、思わず顔を伏せてしまう。
(私は………)
理性は、ついていっては駄目だといい、心は惑わされて、そして女の体は彼を欲している。
「君は何も、悪くない。私が強引に誘い込んだ。それだけだ」
この前の夜の再現のようなやり取り……。
グレイシアは、目の前のこの人を拒否出来ない……。
これまでパートナーを亡くしたその為に傷つき、冷えてしまった心が、癒しと温もりを飢えていたから……。
(でも……絶対に好きになっては……だめなのよ。グレイシア)
馬車は、望む通りにかそれとも歓喜に満ち溢れてか、二人を乗せでアリオール・ハウスへとたどり着いた。
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