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複雑な関係
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「ラファエル、カートライト侯爵夫人って知ってる?」
帰りの馬車に揺られながら、ティファニーはふと聞いてみた。
「カートライト侯爵夫人?」
ティファニーがそう聞くと、ラファエルは微妙な表情をした。
「名前だけは…」
「そう…」
(じゃあやっぱりラファエルの方じゃないのかな?)
ティファニーはもしかすると、既婚者だからラファエルという選択肢をはずしていたけれど、もしかするとジョルダンにもいい顔をしてたのに、ラファエルと婚約したことを腹立たしく感じさせたのかと思ったのだ。
「なに?その人がどうかしたのか?」
「お祝いを言われたのだけど…なんだか、妙な気がして」
「お祝いを、ね…」
「なに?何かあるの?」
「うーん。うちとはあまり、折り合いがよくないから、カートライト侯爵とは」
「それって所謂(いわゆる)派閥みたいな?」
「そう」
それはもしかすると、マクシミリアンの話も関係してくるのか?
「…その…エリアルド殿下の花嫁候補とかも、関係してくる?」
「誰かになんか言われた?」
「マクシミリアンに、ちょっと」
「気にしなくていい…と言っても、気になるよな。それじゃあ」
「そうね、気になる」
ティファニーが大きく頷くと、ラファエルは珍しく仕事モードのような厳しい顔つきをしている。
「うちは、グレイ侯爵を筆頭にする武門派、カートライト侯爵家は王家を支配したい新制派、アシュフォード侯爵とアンブローズ侯爵は王家を支える親王派、ウェルズ侯爵家は内政に力を持ついわば穏健派、オルグレン侯爵家は中立派、デボア伯爵家をはじめとする、様々な事業に乗り出している革新派と、と、まあ他にもいろいろあるわけなんだけど、王太子妃クリスタ様はオルグレン侯爵の娘なんだ。この事はしってるよな?」
そんなにたくさんの派閥があるとは知らなかった。
「そうなの、バクスターは?」
「ティファニーの父上はスプリングフィールド侯爵をはじめとする貴族至上主義な血統派だった。けれど、いまスプリングフィールド侯爵家は、最近アーヴィンの廃嫡と勢いが衰えている。その…ティファニーと縁談話があったエーヴリー伯爵も血統派で、多分この繋がりでレディ クロエに持ちかけたのだと思う。エーヴリー伯爵はベルナルド・ウェルズ卿とレディ キャサリンとの離婚のいざこざで力が衰えているからな…。だからルロイはまだ若いから今はどちらかといえば中立派、という位置付けかな」
「そうなんだ…」
血統派の筆頭であるその嫡男がよりにもよって平民の女性と結婚したいと言い出したのだから、それは家の方も大変だっただろう。それでは勢力が衰えても仕方がない。
「で、暗黙の了解だけど、次の妃は中立派からは選ばれない。だからマクシミリアンは中立派の家だから、次の妃レースには関係ないとでも言ったんじゃないかな?」
「そう、いうことなんだ…」
「大方、マクシミリアンはうちが有力とか言ったんだと思うけれど、ブロンテ家としては新制派と血統派以外の家の令嬢なら誰が選ばれても構わない…という考えだ。だから、ティファニーは気にしなくていい、と言ってるんだ」
「アークウェイン伯爵は?」
「キースの所はうちと同じく武門派になる」
「そうなんだ…じゃあ、レオノーラの赤ちゃんが女だったら、お妃候補になるの?」
「かも知れない。なんにせよ、最後は陛下とエリアルド殿下がお決めになることだ」
「そっか…。他にもたくさんの令嬢がいるものね」
「そうだ」
ティファニーがようやく納得したのでラファエルが安心したかのように微笑んだ。
「ま、そういうわけでティファニー、カートライト公爵夫人には俺のいない所で近づかないようにしろよ?」
「うん、わかった…。じゃあ…その派閥だか、なんだかで私の事を気にしてたのかな…」
「…そうじゃないか?」
何となく、気になってしまう…。
気がつけば馬車はバクスター邸に着いている。
「ラファエル…少しだけ寄っていかない?」
なんだか小難しい話で、このまま別れるのは嫌だった。
「じゃあ少しだけ、寄らせてもらおうかな」
夜にラファエルをバクスター邸に招待するのは、はじめてである。婚約してるのだから、許されるだろうとティファニーは思ったのだ。
「おかえりなさいませ」
デューイが出迎える。
「ようこそラファエル卿」
「こんな時間に悪いな」
「いえ、主の婚約者でいらっしゃいますから、主同様でございます」
応接室にラファエルと共に入ると、程なくしてデューイが酒肴を用意して持って入ってくる。
気を効かせたのか、デューイは直ぐに部屋を出ていく。しかし、扉は少しだけ開けてある。
「…ティファニー…結婚するの不安?」
「ううん、そうじゃないの…。だけど…思いもしなかった事を色々と聞いてしまって、私、無知で恥ずかしくなっちゃった」
「女の子は、そんなものだろ?ティファニーだけじゃないさ」
「知ってると思うけれど…私、本当に、令嬢としては駄目な方だから…出来ないといけない所は言ってね?」
「…わかった。びしばし言うことにするよ」
くくっとラファエルは笑った。
「びしばしね、でも…ちゃんと後で優しくしてね」
「…俺の優しいと、ティファニーの思う優しくは違うかも知れないけど?」
「…じゃあ…これは?」
ティファニーは、そっと自分からキスをしてみた。
「駄目?」
「ティファニー…これは、今は反則」
ラファエルはそう言うと、ティファニーがしたものより遥かに濃厚なキスをしてきた。
誘ってしまったその、恥ずかしさにティファニーの体温は一気に上昇した。
「顔、真っ赤」
「…やだ…」
「…もっと、…な事したのに恥ずかしい?」
「…必死すぎたし、それに…今の方がラファエルの事を好きすぎて…もぉ駄目」
言ってしまってさらに恥ずかしくなる。
「…これ、まずいな…」
「まずいの…?」
「…好きだよ、ティファニー」
「ん…」
ラファエルの唇が優しく触れてそっと離れる。
「帰る、な」
「うん…。早すぎるかなって、思ってたけれど…早く結婚したくなっちゃう」
「そうだな…」
そっとラファエルは離れると、グラスに入っていたお酒を飲み干し、コトンと音をさせてラファエルは置いた。
「おやすみ、ティファニー。見送りはいいよ」
「でも…」
「いい夢を」
ラファエルはそのまま、部屋を出てデューイに声をかけていた。
ティファニーはその後ろ姿を見送って、部屋に向かった。
深夜なので、邸内を歩いていても使用人達にも会わない。
二階の回廊の窓から、去っていく馬車を見送る。
ラファエルがきっぱりと帰ると言わなければ…また引き留めてしまいそうだった。
会った後の別れる時の淋しさがティファニーを襲う。
何があっても、何を言われても、ラファエルだけはもはや誰にも譲れない。そう改めて気付かされる。
我が儘かもしれないけれど、ラファエルにはティファニーだけをその瞳に映して欲しい。
部屋に戻って、メイドが着替えを手伝ってくれるけれど、ティファニーの意識はつい先程のラファエルとのひとときだった。
あの男らしく引き締まった胸にずっと抱き締めてほしくなる…。そんな思いを、自覚してしまうと眠れそうな気がしない。
上気した頬は、熱に浮かされたままもはや戻りそうな気配がなかった…。
帰りの馬車に揺られながら、ティファニーはふと聞いてみた。
「カートライト侯爵夫人?」
ティファニーがそう聞くと、ラファエルは微妙な表情をした。
「名前だけは…」
「そう…」
(じゃあやっぱりラファエルの方じゃないのかな?)
ティファニーはもしかすると、既婚者だからラファエルという選択肢をはずしていたけれど、もしかするとジョルダンにもいい顔をしてたのに、ラファエルと婚約したことを腹立たしく感じさせたのかと思ったのだ。
「なに?その人がどうかしたのか?」
「お祝いを言われたのだけど…なんだか、妙な気がして」
「お祝いを、ね…」
「なに?何かあるの?」
「うーん。うちとはあまり、折り合いがよくないから、カートライト侯爵とは」
「それって所謂(いわゆる)派閥みたいな?」
「そう」
それはもしかすると、マクシミリアンの話も関係してくるのか?
「…その…エリアルド殿下の花嫁候補とかも、関係してくる?」
「誰かになんか言われた?」
「マクシミリアンに、ちょっと」
「気にしなくていい…と言っても、気になるよな。それじゃあ」
「そうね、気になる」
ティファニーが大きく頷くと、ラファエルは珍しく仕事モードのような厳しい顔つきをしている。
「うちは、グレイ侯爵を筆頭にする武門派、カートライト侯爵家は王家を支配したい新制派、アシュフォード侯爵とアンブローズ侯爵は王家を支える親王派、ウェルズ侯爵家は内政に力を持ついわば穏健派、オルグレン侯爵家は中立派、デボア伯爵家をはじめとする、様々な事業に乗り出している革新派と、と、まあ他にもいろいろあるわけなんだけど、王太子妃クリスタ様はオルグレン侯爵の娘なんだ。この事はしってるよな?」
そんなにたくさんの派閥があるとは知らなかった。
「そうなの、バクスターは?」
「ティファニーの父上はスプリングフィールド侯爵をはじめとする貴族至上主義な血統派だった。けれど、いまスプリングフィールド侯爵家は、最近アーヴィンの廃嫡と勢いが衰えている。その…ティファニーと縁談話があったエーヴリー伯爵も血統派で、多分この繋がりでレディ クロエに持ちかけたのだと思う。エーヴリー伯爵はベルナルド・ウェルズ卿とレディ キャサリンとの離婚のいざこざで力が衰えているからな…。だからルロイはまだ若いから今はどちらかといえば中立派、という位置付けかな」
「そうなんだ…」
血統派の筆頭であるその嫡男がよりにもよって平民の女性と結婚したいと言い出したのだから、それは家の方も大変だっただろう。それでは勢力が衰えても仕方がない。
「で、暗黙の了解だけど、次の妃は中立派からは選ばれない。だからマクシミリアンは中立派の家だから、次の妃レースには関係ないとでも言ったんじゃないかな?」
「そう、いうことなんだ…」
「大方、マクシミリアンはうちが有力とか言ったんだと思うけれど、ブロンテ家としては新制派と血統派以外の家の令嬢なら誰が選ばれても構わない…という考えだ。だから、ティファニーは気にしなくていい、と言ってるんだ」
「アークウェイン伯爵は?」
「キースの所はうちと同じく武門派になる」
「そうなんだ…じゃあ、レオノーラの赤ちゃんが女だったら、お妃候補になるの?」
「かも知れない。なんにせよ、最後は陛下とエリアルド殿下がお決めになることだ」
「そっか…。他にもたくさんの令嬢がいるものね」
「そうだ」
ティファニーがようやく納得したのでラファエルが安心したかのように微笑んだ。
「ま、そういうわけでティファニー、カートライト公爵夫人には俺のいない所で近づかないようにしろよ?」
「うん、わかった…。じゃあ…その派閥だか、なんだかで私の事を気にしてたのかな…」
「…そうじゃないか?」
何となく、気になってしまう…。
気がつけば馬車はバクスター邸に着いている。
「ラファエル…少しだけ寄っていかない?」
なんだか小難しい話で、このまま別れるのは嫌だった。
「じゃあ少しだけ、寄らせてもらおうかな」
夜にラファエルをバクスター邸に招待するのは、はじめてである。婚約してるのだから、許されるだろうとティファニーは思ったのだ。
「おかえりなさいませ」
デューイが出迎える。
「ようこそラファエル卿」
「こんな時間に悪いな」
「いえ、主の婚約者でいらっしゃいますから、主同様でございます」
応接室にラファエルと共に入ると、程なくしてデューイが酒肴を用意して持って入ってくる。
気を効かせたのか、デューイは直ぐに部屋を出ていく。しかし、扉は少しだけ開けてある。
「…ティファニー…結婚するの不安?」
「ううん、そうじゃないの…。だけど…思いもしなかった事を色々と聞いてしまって、私、無知で恥ずかしくなっちゃった」
「女の子は、そんなものだろ?ティファニーだけじゃないさ」
「知ってると思うけれど…私、本当に、令嬢としては駄目な方だから…出来ないといけない所は言ってね?」
「…わかった。びしばし言うことにするよ」
くくっとラファエルは笑った。
「びしばしね、でも…ちゃんと後で優しくしてね」
「…俺の優しいと、ティファニーの思う優しくは違うかも知れないけど?」
「…じゃあ…これは?」
ティファニーは、そっと自分からキスをしてみた。
「駄目?」
「ティファニー…これは、今は反則」
ラファエルはそう言うと、ティファニーがしたものより遥かに濃厚なキスをしてきた。
誘ってしまったその、恥ずかしさにティファニーの体温は一気に上昇した。
「顔、真っ赤」
「…やだ…」
「…もっと、…な事したのに恥ずかしい?」
「…必死すぎたし、それに…今の方がラファエルの事を好きすぎて…もぉ駄目」
言ってしまってさらに恥ずかしくなる。
「…これ、まずいな…」
「まずいの…?」
「…好きだよ、ティファニー」
「ん…」
ラファエルの唇が優しく触れてそっと離れる。
「帰る、な」
「うん…。早すぎるかなって、思ってたけれど…早く結婚したくなっちゃう」
「そうだな…」
そっとラファエルは離れると、グラスに入っていたお酒を飲み干し、コトンと音をさせてラファエルは置いた。
「おやすみ、ティファニー。見送りはいいよ」
「でも…」
「いい夢を」
ラファエルはそのまま、部屋を出てデューイに声をかけていた。
ティファニーはその後ろ姿を見送って、部屋に向かった。
深夜なので、邸内を歩いていても使用人達にも会わない。
二階の回廊の窓から、去っていく馬車を見送る。
ラファエルがきっぱりと帰ると言わなければ…また引き留めてしまいそうだった。
会った後の別れる時の淋しさがティファニーを襲う。
何があっても、何を言われても、ラファエルだけはもはや誰にも譲れない。そう改めて気付かされる。
我が儘かもしれないけれど、ラファエルにはティファニーだけをその瞳に映して欲しい。
部屋に戻って、メイドが着替えを手伝ってくれるけれど、ティファニーの意識はつい先程のラファエルとのひとときだった。
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