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29,姫君のエール
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オペラの幕間で、トリクシー達が席を立ちパウダールームへと向かい、それから待っていたヒューゴとアイザックの元へと戻る。そこにはジョエルとそれからプリシラ、アンジェリン、ショーンが待っていた。
プリシラとアンジェリンがにっこりと微笑みながらトリクシーに目を向けた。
「プリシラ殿下、アンジェリン殿下。従姉妹のベアトリスと友人のエイプリル・ド・ラーラ、そしてレディ フィリス・ザヴィアーです」
隣に立っていたジョエルがいかにも上流貴族らしく礼儀正しく紹介する。
「私がプリシラ、そして妹のアンジェリンよ。はじめましてミス ベアトリス・ウィンスレット ミス エイプリル・ド・ラーラ」
そっと一歩近づいたプリシラが、お辞儀をするトリクシーとエイプリルに笑みを向ける。フィリスも二人の後ろでお辞儀をした。
「お声をかけて下さり光栄です。プリシラ殿下、アンジェリン殿下」
トリクシーが歯切れよく挨拶をする。
「ジョエルが邪魔をするなと言うのだけれど、どうしても話してみたくて」
にこり、とプリシラはもう一度微笑んだ。そして、後ろに控えていたフィリスの隣に立った。
「こんばんは、レディ フィリス。貴女にはぜひ、伝えたくて」
「光栄です、プリシラ殿下」
フィリスもまた恐縮しながら挨拶をした。
近くで会えば、背がすらりと高くて、輝く金髪に青い瞳の美しい顔。そして何よりもその王族らしい存在感に、ただ圧倒されてしまう、そんな女性だった。
「レディ フィリス、今はとても大変でしょうけれど……。せっかく下らない男から自由になれたのだと。今はだから自由の身を手に入れたと思って、それからいつかは自分の幸せを考えてみて。……あとは……弱い立場につけこんで男達が無体な事をしようとしたら遠慮なく急所を蹴りなさいね」
最後の一言にフィリスが目を見開くと
「殿下……なんて事を」
ショーンがこそっと注意する。
男性であるから、渋い顔をしている。
「いいのよ、レディ フィリスみたいな、繊細な雰囲気の方にはこれくらい過激な助言が必要なの。その場所はわかるわよね?」
にこりと、微笑まれてフィリスは反射的に頷いた。
「はい、殿下」
「あまり畏まられない方がいいのだけれど……。それから伝えておきたいのは、ジョエルにはお願いすれば、きっと何でも叶えてくれるっていう事。ええっとそうね、例えば、欲しいものを欲しいって言えば買ってきてくれるだろうし、元の旦那さまが目障りだって言えば、やっつけてくれるだろうし……」
プリシラがそこまでしか言えなかったのは、ジョエルが彼女の手を引いて
「いい加減に止めて下さい。返答に困ってます」
「あら、つい。つまりは、元気を出してって事なの」
「ありがとうございます、殿下」
ジョエルが差し出した肘に手をかけると、
「話せて良かったわ、皆さんも後半を楽しんで」
圧倒されつつも、フィリスたちは去っていくプリシラ達に向かってお辞儀をした。
困惑しつつ、アイザックを見上げると、
「ああいう、威勢のいい方なんだ」
「ええ、突然のお声かけに驚いてしまいました。突然でしたから、礼儀にかなっていたのか不安ですが……」
「大丈夫ですよ、両殿下とも気さくなお人柄ですから」
フィリスからすれば、雲の上のような人達である。
後半の幕が上がって、フィリスは舞台を眺めながらも綺羅綺羅しいボックス席が気になって仕方がなかった。
時折、視線があうとプリシラが扇を動かしてにこりと頬笑む。
確か、三歳ほど年上なだけ。だからこそ、より別の世界の住人のように思えた。
コーデリアもそしてプリシラも、フィリスから見れば眩しいまでに輝いて見える。
それは、一つには彼女達が意思をはっきりと伝えられている、と言うことだ。
だから、フィリスは舞台の幕が降りた後、アイザックに告げる事にした。
「ブレイク伯爵、はっきりとお伝えしておきます。わたしは再婚の意思はありません。ですから、時間の無駄にならないようあなたに似合う方が見つかりますようにと、祈ります」
アイザックは困ったように口を固くした。
「レディ フィリス、貴女の意思はよく分かりました。ですが、もう少し頑張らせて下さい。時間の無駄、と言われますが、貴女は再婚の意思が無いといわれる。それでも私を見るのが嫌なほど嫌われているとも思えない……。それならば、変える努力をしたい」
フィリスはその答えを聞いて、これ以上は今は話せないと思った。先に出ていった三人が外で待っているはずだからだ。
「変わってるわ、ブレイク伯爵」
「アイザックと、呼んで下さい」
慣れない事をしても、結局は中途半端だ。
コーデリアみたいに意思を通す事も、プリシラのように毅然と振る舞う事も出来ない。
「行きましょう、待たせてはいけませんから」
ボックス席の扉を開けて、外で三人と合流する。
オペラの夜は、何もかもが煌びやかだった。
しかし、フィリスのほんの少しの勇気は、何も変える事が出来ず、煌びやかさの影に落ちて行く気持ちがどうしようもなくあった。
楽しそうにしているトリクシーとエイプリルのポンポン飛び交う会話を聞き流しながらフィリスは馬車で自分がどうしたいのか、どうするべきかをつらつらと考えた。
プリシラとアンジェリンがにっこりと微笑みながらトリクシーに目を向けた。
「プリシラ殿下、アンジェリン殿下。従姉妹のベアトリスと友人のエイプリル・ド・ラーラ、そしてレディ フィリス・ザヴィアーです」
隣に立っていたジョエルがいかにも上流貴族らしく礼儀正しく紹介する。
「私がプリシラ、そして妹のアンジェリンよ。はじめましてミス ベアトリス・ウィンスレット ミス エイプリル・ド・ラーラ」
そっと一歩近づいたプリシラが、お辞儀をするトリクシーとエイプリルに笑みを向ける。フィリスも二人の後ろでお辞儀をした。
「お声をかけて下さり光栄です。プリシラ殿下、アンジェリン殿下」
トリクシーが歯切れよく挨拶をする。
「ジョエルが邪魔をするなと言うのだけれど、どうしても話してみたくて」
にこり、とプリシラはもう一度微笑んだ。そして、後ろに控えていたフィリスの隣に立った。
「こんばんは、レディ フィリス。貴女にはぜひ、伝えたくて」
「光栄です、プリシラ殿下」
フィリスもまた恐縮しながら挨拶をした。
近くで会えば、背がすらりと高くて、輝く金髪に青い瞳の美しい顔。そして何よりもその王族らしい存在感に、ただ圧倒されてしまう、そんな女性だった。
「レディ フィリス、今はとても大変でしょうけれど……。せっかく下らない男から自由になれたのだと。今はだから自由の身を手に入れたと思って、それからいつかは自分の幸せを考えてみて。……あとは……弱い立場につけこんで男達が無体な事をしようとしたら遠慮なく急所を蹴りなさいね」
最後の一言にフィリスが目を見開くと
「殿下……なんて事を」
ショーンがこそっと注意する。
男性であるから、渋い顔をしている。
「いいのよ、レディ フィリスみたいな、繊細な雰囲気の方にはこれくらい過激な助言が必要なの。その場所はわかるわよね?」
にこりと、微笑まれてフィリスは反射的に頷いた。
「はい、殿下」
「あまり畏まられない方がいいのだけれど……。それから伝えておきたいのは、ジョエルにはお願いすれば、きっと何でも叶えてくれるっていう事。ええっとそうね、例えば、欲しいものを欲しいって言えば買ってきてくれるだろうし、元の旦那さまが目障りだって言えば、やっつけてくれるだろうし……」
プリシラがそこまでしか言えなかったのは、ジョエルが彼女の手を引いて
「いい加減に止めて下さい。返答に困ってます」
「あら、つい。つまりは、元気を出してって事なの」
「ありがとうございます、殿下」
ジョエルが差し出した肘に手をかけると、
「話せて良かったわ、皆さんも後半を楽しんで」
圧倒されつつも、フィリスたちは去っていくプリシラ達に向かってお辞儀をした。
困惑しつつ、アイザックを見上げると、
「ああいう、威勢のいい方なんだ」
「ええ、突然のお声かけに驚いてしまいました。突然でしたから、礼儀にかなっていたのか不安ですが……」
「大丈夫ですよ、両殿下とも気さくなお人柄ですから」
フィリスからすれば、雲の上のような人達である。
後半の幕が上がって、フィリスは舞台を眺めながらも綺羅綺羅しいボックス席が気になって仕方がなかった。
時折、視線があうとプリシラが扇を動かしてにこりと頬笑む。
確か、三歳ほど年上なだけ。だからこそ、より別の世界の住人のように思えた。
コーデリアもそしてプリシラも、フィリスから見れば眩しいまでに輝いて見える。
それは、一つには彼女達が意思をはっきりと伝えられている、と言うことだ。
だから、フィリスは舞台の幕が降りた後、アイザックに告げる事にした。
「ブレイク伯爵、はっきりとお伝えしておきます。わたしは再婚の意思はありません。ですから、時間の無駄にならないようあなたに似合う方が見つかりますようにと、祈ります」
アイザックは困ったように口を固くした。
「レディ フィリス、貴女の意思はよく分かりました。ですが、もう少し頑張らせて下さい。時間の無駄、と言われますが、貴女は再婚の意思が無いといわれる。それでも私を見るのが嫌なほど嫌われているとも思えない……。それならば、変える努力をしたい」
フィリスはその答えを聞いて、これ以上は今は話せないと思った。先に出ていった三人が外で待っているはずだからだ。
「変わってるわ、ブレイク伯爵」
「アイザックと、呼んで下さい」
慣れない事をしても、結局は中途半端だ。
コーデリアみたいに意思を通す事も、プリシラのように毅然と振る舞う事も出来ない。
「行きましょう、待たせてはいけませんから」
ボックス席の扉を開けて、外で三人と合流する。
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しかし、フィリスのほんの少しの勇気は、何も変える事が出来ず、煌びやかさの影に落ちて行く気持ちがどうしようもなくあった。
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