睡恋―sui ren―

桜 詩

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36, ささやかで大きな願い ☽

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 フィリスは正装用のドレスを脱ぐために、メイドを呼ぶ紐を引いた。間もなくやって来たメイドは、丁寧に脱がせバスルームに着替えを用意してあると告げた。

今夜あった事を、湯船に浸かりながらぼんやりと思い返してみる。セスの事、アイザックの事、そしてジョエルの事。
ヴィヴァースの家を出てから、想像すらもしなかった未来いまが存在していた。まさか……、自分がこんな風に男性たちと関わるなんて想像すらしなかったのに。

 そしてまた現在いま未来さきの事はもちろん、自分の心さえ制御出来ない。

ずっとフィリスは本音を隠して来たと言うのに……。
辛い、哀しいという感情すら自分に嘘をつき続けていたというのに。
なのに、この感情だけは……どうしてもジョエルを前にすると、沸き上がる押さえきれない感情に気づかざるを得なくて、毎日言い聞かせるのに、まだ無くす事も眠らせる事にも出来ない。

いくら自分に言い訳したって、楽な方へひたすら逃げている卑怯で、嘘つきで、愚かで………あさましくて。

月が沈み、朝日が昇るように、なぜそんな当たり前の事の様に、自分は好きな人と一緒にはなれないのだろう。

もしも、過去が無ければ……出会って恋した人と一緒になれるという事を、素直に喜びそしてそのようにしたであろうに……。
厭わしい身体だと、フィリスはそっと揺らぐ水面越しに自分を見た。大切に育てられたそれは、一見すれば何一つ、傷の一つも痣も、シミもない。彼が触れる、フィリスの身体。それは触れられて悦びを得る事は出来るのに……。

 
 鬱々とし出した思考をかぶりを振って、無理やり止め、ぱしゃりと水音を立てて湯船を出る。
メイドたちが気を効かせて用意してくれる湯船は、今夜はラヴェンダーとゼラニウムのエッセンスの入っていた。気持ちを落ち着かせる良い香りがして、更には肌を滑らかにしてくれる。ふんわりとフローラルな香りが纏い、フィリスの心を少し浮上させた。それから素肌に、ネグリジェとナイトガウンを羽織り部屋へ戻る。

 ドレッサーの銀細工のブラシで、湿った髪をゆっくりととかす。長い髪は腰を越えていて、それをとかすのは時間がかかるし、単純作業のそれは無心でいられた。
無心でといて居ると、髪は艶々と流れ滑らかに肩を覆う。

小さな物音が、耳に届き、フィリスはゆっくりと目を暖炉へと向けた。この時間に、この部屋にする物音と言えば一つの理由しかない。

「お帰りなさい」
フィリスはその音の正体を目にして思わずそう言っていた。

「ただいま」
まだ着替えていないジョエルは、軍服姿のままだった。

「髪を洗ったんだな」
ジョエルは側に来ると、髪を一房掬い軽く唇に寄せた。
「好きだな。この香りと感触」

フィリスは立ち上がると、頬を胸に当てた。

「軍服、良く似合ってる。わたしも好き、この姿」

顔を見合わせると、自然とキスを交わしたくなる。

「フィリス」
彼の、名を呼ぶ声が甘い……。
それからキスも。

触れ合う唇が、熱くてそれから甘美で。唇が少し離れると、はぁ、と少し切ない吐息が零れる。

「俺はどんな姿でも好きだけど……今みたいに、髪を下ろした無防備な姿はとりわけ好きだな」
「こんな姿が……?」

着飾ってもいない、今からすぐにでも眠るようなそんな格好だ。無防備な、というよりも人には見せられない姿なのに。

「俺はフィリスの全てを……支配する。だから今みたいな……他の誰も、知らない姿を独占したいんだ」
彼の唇が、耳朶に触れてなぞる。

「君だって、こんな姿を見せるのは俺だけ・・・だろ?」
過去は過去。今ではない、今のフィリスのこの姿を知るのは、彼しかいない。

「ええ……そう……。あなただけが、知ってるわたしよ」

フィリスは呟いて、ジョエルの両腕に手をかけて身体ごと寄りかかった。

「それでいい。そうじゃなくてはいけない」
こんな風に言われるのなら、いっそのこと、ずっとこのままでいたって構わない。

キスを交わしながら、二人はベッドへと倒れ込む。
顔の両側に腕があり、耳からうなじへと辿る唇と舌がフィリスの肌の全てを官能の入り口へと変える。

垂れ下がる飾り緒と紋章が、ネグリジェ越しのフィリスの身体に触れてそれさえも刺激になってしまう。
「ああ、そうか……これは擦れたら痛いな」

ジョエルが膝で立つと、フィリスを見下ろし、フィリスは彼を見上げる。そんな姿でボタンを外し禁欲的な軍服を脱ぐのはぞくぞくするほど色気がある。
ぼうっと見惚れて、思わずこくんと喉を鳴らしてしまう。

金属の鳴る音を立てて、ジョエルの上着はベッドの上に置かれそして、素肌が露になっていく。近頃一段と引き締まった身体は、芸術的ですらあって……フィリスは指を伸ばして、その腹筋の筋を辿った。上へと移動する指を捉えられ、それが唇に寄せられるのを眺めていた。

指先の爪にキスをされ、ジョエルの舌が指を這う。
掌から、腕へと移りフィリスの身体へ近づくのが……。何でもない箇所の筈なのに、まるで熱がそこから走っていくみたいに浮かされる。
「……っん……」

ちゅっと音を立てて、フィリスの左肩の鎖骨に唇の跡がうっすらと紅くなる。
「俺のここに、つけただろ?」
ジョエルはそういうと、もう一度きつくキスをして紅い跡をつけた。

「や、だめ……っ」
こんな所だと、着るドレスのデザインによっては見えてしまう。

抗議は許さないとばかりに、ネグリジェ越しの乳房の先端を摘ままれて、フィリスは声を上げた。
「……っやぁ……ん」

「やじゃないだろ?」
襟ぐりから、零れさせられた乳房とそれから覗く淡桃色の先端が、ジョエルとフィリスの視線の間でツンと主張して揺れていて……淫らだった。

左のその乳房をジョエルの唇とそれから舌で愛撫されてフィリスは身体をくねらせた。
「んっ………あ……っ……や……」
片側ばかり執拗に愛撫されて、フィリスは放置されたままの右側が疼いて仕方なくなってしまう。

「頼みがあるんだ」

「ん………なっ……に?」
ネグリジェ越しに、疼いて勃ちあがった右側の乳房にようやく触れられてフィリスは少し背を反らした。

「二人で出掛けたい」
「っ……そん……なこと?」

「簡単だろ?」
「おか、しく……ない?」
出掛ける?どこへ?

「おかしくない。でも、今はおかしくなるくらい俺を感じて」

フィリスの上半身を起こしたジョエルは、胸に背中を着けて抱きしめ後ろから胸を愛撫する。

「君は……完璧だな、フィリス。俺に誂えたみたいに完璧だ」

後ろからの首へのキスに、身体が反応して震える。指先で愛撫される乳房と先端は紅く色づき、考えるゆとりを奪い去って行く。

「か……んぺき?……うそ……そんなの……」 
「俺は……完璧じゃないか?フィリス……そんな俺に合う君は、完璧なんだ」

そう言って唇にキスをしたジョエルは、軽くフィリスを抱き上げると、そのまますでに潤って愛液が滴るそこへ彼の屹立を宛がい、フィリスの呼吸が止まるかのように喘がせ、ゆっくりと埋めて行く。その侵し侵される時の互いが擦れ、蜜壺なかの良いところをかすめ、奥を貫く感覚ですぐに達してしまう。両方の手が、乳房と花芯を愛撫して、言葉通りおかしくしていく。

「こういう時………そう感じる」
蜜壺を埋める彼を感じて絡め蠢くのを感じながらフィリスは、ジョエルの身体の上ではしたないまでに脚を開きそして、腰が意思とは別に艶かしく動いてしまう。

「淫らで……とても綺麗だ」
耳元で小さく囁く声に、更に官能が高められてしまう。
「……っあ……あ……ジョエル……」

彼の言うように、彼は完璧な男性だ、何もかもが……。

「俺の身体で……イって」
下から突き上げられ、指で膨らんだ花芯を愛撫されてフィリスはあっけなく言葉通りに絶頂に達してしまう。

ピクピクと震える身体を横たえられ、ジョエルは開いた脚の間に身体を入れた。

「気持ちいい?」
「……っ……いい……わ」

微笑んだ彼を潤んだ視界が捕らえる。
ジョエルの屹立は、フィリスの最奥まで貫き、意識を真っ白に染めた。

「………ああっ……!」

官能の痛みは、すぐに快感にとって代わり抽挿される度に、ぐちゅぐちゅと音は大きくなっていく。

「………っあっあっあっあ………ああ―――――っ!」
「俺も……」

フィリスが枕を握りしめ拳を唇に押し当て、ジョエルがフィリスのお腹に白濁を解き放つ。寝室には荒い呼吸と、汗の湿った空気が充満していた。

「……じゃあ……まずは、明日。買い物でも行こうか……」
髪にキスをしながらジョエルはそう言った。

「嘘でしょう……こんな時の約束なんて」

「簡単な願いだろ?ソールズベリとなら出掛けたんだから」

抗議の声は、再びのキスと愛撫に飲み込まれていった。
夜明けまでは……まだ、もう数刻……。
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