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52,花開く時
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春を迎える頃には、フィリスは高位の女性たちに受け入れられた事で、王都での社交はすこぶる順調で、上流社会に認められた証となるロイヤルクラブへの招待状も届いた。
初めて来場するロイヤルクラブのホールへは、フィリスは思いきってジョエルに案内役をお願いした。彼はもちろん快く応じてくれたのだ。
「支配人は君も知ってる、アップルガース伯爵夫人だから緊張する事はない」
「でも……紹介してくださった……、方をお断りしてしまったのだし」
さすがに名前を言うのは控えた。
付き添い夫人の自分にも優しくしてもらった事を思い出すと、申し訳ないと思ってしまう。
「紹介しても上手くいけば嬉しいものだろうし、上手くいかなくてもそんなものだ。アップルガース伯爵夫人はそんな事は気にしない」
ジョエルはなんでもないとそう言う。
しかし、フィリス自身が今日、自らジョエルにエスコート役を頼んだ。そんな事をよく……、とフィリスは自分に感心してしまえた。でもそれは……時が来たと、思えるからだった。
例え、二度目の結婚が………―――彼がまだそれを望んでくれているのならば、……きっとそうだと信じてる―――。……同じ結果に陥ったとしても、ジョエルならきっと、前のような辛い気持ちにはならないだろうという、そんな事が素直にふと思えてきて、先に待ち受けているかも知れない、辛いことも悲しいことも乗り越えられる気がした。
そして、例え離婚という傷は負っていたとしても、フィリス自身が持つ知識だとか素養は、損なわれてはいなかった。それは社交界における立場にも同様の事が言えて、もちろんそれには、父の力だとか属する派閥の力だとか、そういう諸々があっての事で……自らの檻に閉じ籠ろうとしていたのを助けてくれる存在がすぐ近くにあったのだとそう気付けたという事だった。
そう思えた時、何もかも霧が晴れたかのように世界は美しく目映く感じられる程に変化した気がしたのだ。だから……フィリスは、ジョエルを誘うことが出来たのだ。
「ジョエル、わたしたちの………互いの心を明かした夜を覚えている?」
フィリスが言うと、ジョエルは少しだけさ迷う視線を見せて、そしてすぐに、目尻を和ませた。
「覚えてる……何もない関係、そこから変わった夜だ」
「もう一度その夜をやり直したいの。叶えてくれる?」
ジョエルの瞳に、ほんの僅かに切ない色が滲みそして笑みを浮かぶ。フィリスはそれを見つめながら、緊張していた。
ジョエルは今はそれには、何も答えずにただ、
「では、行こうか」
と手を差し出した。そんな彼の手に、手を重ねてフィリスは馬車を降りた。
こんな風に、二人で歩を揃えて進むのは初めての事では無いけれど、それでも心の変化が以前までとは違う。
「こんばんは、シルヴェストル侯爵。それに、レディ フィリス、お揃いで来てくれたのね」
アップルガース伯爵夫人は、笑顔でフィリスを歓迎してくれた。
「去年は………後ろに控えて居たけれど、こうして相応しい立場で来てくれて嬉しいわ」
「ありがとうございます、アップルガース伯爵夫人」
「今夜は楽しんでいらして」
「はい」
「では若き侯爵閣下、案内をお願いするわね」
「はい、レディ ブレンダ。お任せ下さい」
ジョエルは、うっとりするほど麗しい笑みをアップルガース伯爵夫人に向けた。
ここに招待されるというのは、フィリスにとっては今シーズンは必要な事だった。大広間に足を踏み入れれば、そこかしこには顔見知りになった夫人たちが、フィリスに会釈をしたり声をかけてきてくれたりする。
昨シーズン、フィリスはヴィヴァースの元妻であったが、今はもう違う……。それは既に彼らの失墜が伝わり、それにフィリスの実家が関わっているという話が伝わっているから『元』、という余分なあだ名を切り取る事が出来たのだ。
社交界の話題は次から次へと移り変わる。
新年をまたげばそれはさらに加速する。
最新の話題に、ついこの間まで人々が口にしていた話題は古く記憶の片隅に追いやられ、いつしか誰も口にしなくなる。フィリスとブライアンの事の様に。
こうして、レディ フィリスとして数ヵ月過ごし、ふと気がつけば、フィリスはジョエルと一対の様にいることを最早誰も珍しく思ってはいないと気づいた……。
それは、去年から少しずつ外へと彼が連れ出していたから。そして、身につける宝石たちが、彼からの贈り物だと、何故か目敏い女性たちが、どうしてか気づいていたからだ。どこでだったかの夜会で、たしか『そのネックレス素敵ね、贈られたもの?』と尋ねられフィリスはそうだと答えた事があって、きっとそれがきっかけだったと思う。
ジョエルと踊るファーストダンス。
彼は……新年からずっと、他の誰ともこのファーストダンスを踊っていない。もちろんフィリスもだった。
まるで、息をするみたいに次々とダンスに入っていく人達に、フィリスもまた伴われて、その輪に入っていく。
フィリスの手を取り、背に手を回す麗しい男性。
間近で見れば見るほど、こんなにも完璧な人が存在することこそ奇跡みたいで……。
どこか今夜はより一層艶やかで、匂い立つような色香が辺りの空気さえ華やいだものに変えてしまえそうだった。
そんな彼に、まるで絡めとられたみたいに、目が離せなくて。でも頬が熱くて目が離したくなる。なのにやっぱりどんな些細な事も見逃したくない。
想いが溢れて……どうにかなってしまいそうで、きっと今のフィリスを見れば、誰の目にも読めてしまう文字で心の声が、顔にでも書いてあるかのように明らかな様な気がした。
一曲を踊り終えたところで、フィリスはシャンパンのグラスを受け取り、夢心地なままいつの間にか飲み干してそして次のグラスを手にしていた。立て続けに飲んでしまって、体の元々の熱と合間ってふわりと体が現実と離れそうになってしまった。
「こんばんは、レディ フィリス。それにジョエル」
声をかけてきたのは、珍しい銀髪に青い瞳のルーファス・アボットだった。
「こんばんは」
彼は、王妃の甥であり、未来のオルグレン侯爵。シャーロット・アボット伯爵夫人の息子であり、これまでに何度か踊る事もあった。彼はジョエルとはまた違う、端整で美しく容姿をしていた。綺羅綺羅した容姿はそれだけで他を圧倒しそうだ。
「今日は誰と来たんだ?ルーファス」
「それが……。エリーにはやはり断られたから、仕方なく一人でのこのこやって来た。それでジョエルに是非パートナーをダンスに誘う許可を貰おうかと思ってる」
「なるほどな、その綺麗過ぎる顔が一緒に居たくない原因かもな」
ジョエルがそう言うと、
「やはりそれかな?」
ルーファスは苦笑した。
それを誰が一体自意識過剰だと言えるだろうか?
「そんな訳なので、レディ フィリスは私と踊って下さいますか?」
「ええ、もちろん」
何となく、エリーの気持ちは分からなくはない。
女としてみれば、自分よりも美人とはあまり並びたくないものだ。
ルーファスと次の曲を踊るために前へ進み出て、ふと振り向くとジョエルは従者に何かを話しかけていた。
(珍しい……)
「どうかしましたか?」
「いえ……何も」
「大丈夫です、ジョエルはあんな風でいて女性に対しては誠実な男です」
フィリスがジョエルの事を気にしていると分かってか、そんな事を言ってくる。
「ルーファス卿は……レディ エリーの事を……?」
「彼女の事なら……身内の好きだな。別に結婚してもいいし、悪くない。それでもどうしてもという気持ちはない………ほとんどの女性が嫌ではないんだ。困ったことにね」
口元だけでルーファスは微笑んだ。
「いっそのこと、誰かが強引に押し倒してくれたら踏ん切りがつくかな」
ぎょっとするような事を言うけれど、ルーファスが至極クールな顔で、その顔に似合わない冗談を言ったのだと、見上げた瞳が可笑しそうに笑っていて気づいた。
それでフィリスは、彼がストレートな問いを見事に煙に巻いてしまったと感じた。
「あら、それでは本当にわたし、どこかでそれを言ってしまってもよろしいかしら?」
「いいですよ、お手並み拝見といきましょうか。でも私も簡単には押し倒されませんから……、もしも押し倒してくる女性がいたならば、それはきっと貴女のお墨付きの素敵な女性なのでしょう」
さすがに、ジョエルの友人だとフィリスは可笑しくなった。
「ええ、きっと」
くすくすと笑いながら、フィリスはルーファスとくるくる回りながら踊った。
「素敵な女性が多いですから、押し寄せても文句はおっしゃらないで下さいね」
「もちろん。楽しみに待つことにします」
微かに笑みを浮かべるルーファスは、それでもなおクールな面持ちだった。こんな彼を押し倒せる女性は余程の強いハートの持ち主だとフィリスは思った。それか余程、思い余っての事かと。
ルーファスと一曲を踊り終えて、その次はルーファスに声をかけてきたセスと踊り、そしてその次も、久しぶりにアイザックが誘いに来て、と立て続けに踊った。
その後にジョエルを見れば彼は兄のフェリクスと話していた。こういう場で兄弟で話しているのは珍しかった。
「こんばんは、公爵閣下」
フィリスは軽くお辞儀をして挨拶をすると、フェリクスは微笑んだ。
「お一人なのですか?」
「ああ……さすがに心配だから夜は休んで欲しいと伝えてる」
「そうなのですね、お元気そうに見えますが、やはり大変なものですね」
「そう、その元気過ぎるのが心配なんだ。行動力のある人だから、無茶な事をするのじゃないかと」
結婚してから20年近く経っても仲が良さそうで、フィリスは自然と笑顔になれた。
「そうなんですね」
「そう、だからそろそろ挨拶もして回ったし、帰る所なんだ。フィリスはゆっくり楽しんで」
「はい、ありがとうございます」
フェリクスはそう言うと、フィリスに笑みを向けてジョエルの肩を軽くぽん、と叩いて大広間から出ていった。
「フィリスは疲れたんじゃないか?少し休憩する?」
「実はそうなの」
「お決まりのテラスにでも行こうか?」
夜会で知り合った男女が行くと言えば、テラスが定番だった。
そんなお約束の場所に誘われてフィリスは、ジョエルの肘に手をかけた。
「テラスに行くのは初めてなのです、侯爵閣下。ご案内してくださいます?」
「もちろん」
二人は人を避けながら、テラスの方へと向かって行った。
初めて来場するロイヤルクラブのホールへは、フィリスは思いきってジョエルに案内役をお願いした。彼はもちろん快く応じてくれたのだ。
「支配人は君も知ってる、アップルガース伯爵夫人だから緊張する事はない」
「でも……紹介してくださった……、方をお断りしてしまったのだし」
さすがに名前を言うのは控えた。
付き添い夫人の自分にも優しくしてもらった事を思い出すと、申し訳ないと思ってしまう。
「紹介しても上手くいけば嬉しいものだろうし、上手くいかなくてもそんなものだ。アップルガース伯爵夫人はそんな事は気にしない」
ジョエルはなんでもないとそう言う。
しかし、フィリス自身が今日、自らジョエルにエスコート役を頼んだ。そんな事をよく……、とフィリスは自分に感心してしまえた。でもそれは……時が来たと、思えるからだった。
例え、二度目の結婚が………―――彼がまだそれを望んでくれているのならば、……きっとそうだと信じてる―――。……同じ結果に陥ったとしても、ジョエルならきっと、前のような辛い気持ちにはならないだろうという、そんな事が素直にふと思えてきて、先に待ち受けているかも知れない、辛いことも悲しいことも乗り越えられる気がした。
そして、例え離婚という傷は負っていたとしても、フィリス自身が持つ知識だとか素養は、損なわれてはいなかった。それは社交界における立場にも同様の事が言えて、もちろんそれには、父の力だとか属する派閥の力だとか、そういう諸々があっての事で……自らの檻に閉じ籠ろうとしていたのを助けてくれる存在がすぐ近くにあったのだとそう気付けたという事だった。
そう思えた時、何もかも霧が晴れたかのように世界は美しく目映く感じられる程に変化した気がしたのだ。だから……フィリスは、ジョエルを誘うことが出来たのだ。
「ジョエル、わたしたちの………互いの心を明かした夜を覚えている?」
フィリスが言うと、ジョエルは少しだけさ迷う視線を見せて、そしてすぐに、目尻を和ませた。
「覚えてる……何もない関係、そこから変わった夜だ」
「もう一度その夜をやり直したいの。叶えてくれる?」
ジョエルの瞳に、ほんの僅かに切ない色が滲みそして笑みを浮かぶ。フィリスはそれを見つめながら、緊張していた。
ジョエルは今はそれには、何も答えずにただ、
「では、行こうか」
と手を差し出した。そんな彼の手に、手を重ねてフィリスは馬車を降りた。
こんな風に、二人で歩を揃えて進むのは初めての事では無いけれど、それでも心の変化が以前までとは違う。
「こんばんは、シルヴェストル侯爵。それに、レディ フィリス、お揃いで来てくれたのね」
アップルガース伯爵夫人は、笑顔でフィリスを歓迎してくれた。
「去年は………後ろに控えて居たけれど、こうして相応しい立場で来てくれて嬉しいわ」
「ありがとうございます、アップルガース伯爵夫人」
「今夜は楽しんでいらして」
「はい」
「では若き侯爵閣下、案内をお願いするわね」
「はい、レディ ブレンダ。お任せ下さい」
ジョエルは、うっとりするほど麗しい笑みをアップルガース伯爵夫人に向けた。
ここに招待されるというのは、フィリスにとっては今シーズンは必要な事だった。大広間に足を踏み入れれば、そこかしこには顔見知りになった夫人たちが、フィリスに会釈をしたり声をかけてきてくれたりする。
昨シーズン、フィリスはヴィヴァースの元妻であったが、今はもう違う……。それは既に彼らの失墜が伝わり、それにフィリスの実家が関わっているという話が伝わっているから『元』、という余分なあだ名を切り取る事が出来たのだ。
社交界の話題は次から次へと移り変わる。
新年をまたげばそれはさらに加速する。
最新の話題に、ついこの間まで人々が口にしていた話題は古く記憶の片隅に追いやられ、いつしか誰も口にしなくなる。フィリスとブライアンの事の様に。
こうして、レディ フィリスとして数ヵ月過ごし、ふと気がつけば、フィリスはジョエルと一対の様にいることを最早誰も珍しく思ってはいないと気づいた……。
それは、去年から少しずつ外へと彼が連れ出していたから。そして、身につける宝石たちが、彼からの贈り物だと、何故か目敏い女性たちが、どうしてか気づいていたからだ。どこでだったかの夜会で、たしか『そのネックレス素敵ね、贈られたもの?』と尋ねられフィリスはそうだと答えた事があって、きっとそれがきっかけだったと思う。
ジョエルと踊るファーストダンス。
彼は……新年からずっと、他の誰ともこのファーストダンスを踊っていない。もちろんフィリスもだった。
まるで、息をするみたいに次々とダンスに入っていく人達に、フィリスもまた伴われて、その輪に入っていく。
フィリスの手を取り、背に手を回す麗しい男性。
間近で見れば見るほど、こんなにも完璧な人が存在することこそ奇跡みたいで……。
どこか今夜はより一層艶やかで、匂い立つような色香が辺りの空気さえ華やいだものに変えてしまえそうだった。
そんな彼に、まるで絡めとられたみたいに、目が離せなくて。でも頬が熱くて目が離したくなる。なのにやっぱりどんな些細な事も見逃したくない。
想いが溢れて……どうにかなってしまいそうで、きっと今のフィリスを見れば、誰の目にも読めてしまう文字で心の声が、顔にでも書いてあるかのように明らかな様な気がした。
一曲を踊り終えたところで、フィリスはシャンパンのグラスを受け取り、夢心地なままいつの間にか飲み干してそして次のグラスを手にしていた。立て続けに飲んでしまって、体の元々の熱と合間ってふわりと体が現実と離れそうになってしまった。
「こんばんは、レディ フィリス。それにジョエル」
声をかけてきたのは、珍しい銀髪に青い瞳のルーファス・アボットだった。
「こんばんは」
彼は、王妃の甥であり、未来のオルグレン侯爵。シャーロット・アボット伯爵夫人の息子であり、これまでに何度か踊る事もあった。彼はジョエルとはまた違う、端整で美しく容姿をしていた。綺羅綺羅した容姿はそれだけで他を圧倒しそうだ。
「今日は誰と来たんだ?ルーファス」
「それが……。エリーにはやはり断られたから、仕方なく一人でのこのこやって来た。それでジョエルに是非パートナーをダンスに誘う許可を貰おうかと思ってる」
「なるほどな、その綺麗過ぎる顔が一緒に居たくない原因かもな」
ジョエルがそう言うと、
「やはりそれかな?」
ルーファスは苦笑した。
それを誰が一体自意識過剰だと言えるだろうか?
「そんな訳なので、レディ フィリスは私と踊って下さいますか?」
「ええ、もちろん」
何となく、エリーの気持ちは分からなくはない。
女としてみれば、自分よりも美人とはあまり並びたくないものだ。
ルーファスと次の曲を踊るために前へ進み出て、ふと振り向くとジョエルは従者に何かを話しかけていた。
(珍しい……)
「どうかしましたか?」
「いえ……何も」
「大丈夫です、ジョエルはあんな風でいて女性に対しては誠実な男です」
フィリスがジョエルの事を気にしていると分かってか、そんな事を言ってくる。
「ルーファス卿は……レディ エリーの事を……?」
「彼女の事なら……身内の好きだな。別に結婚してもいいし、悪くない。それでもどうしてもという気持ちはない………ほとんどの女性が嫌ではないんだ。困ったことにね」
口元だけでルーファスは微笑んだ。
「いっそのこと、誰かが強引に押し倒してくれたら踏ん切りがつくかな」
ぎょっとするような事を言うけれど、ルーファスが至極クールな顔で、その顔に似合わない冗談を言ったのだと、見上げた瞳が可笑しそうに笑っていて気づいた。
それでフィリスは、彼がストレートな問いを見事に煙に巻いてしまったと感じた。
「あら、それでは本当にわたし、どこかでそれを言ってしまってもよろしいかしら?」
「いいですよ、お手並み拝見といきましょうか。でも私も簡単には押し倒されませんから……、もしも押し倒してくる女性がいたならば、それはきっと貴女のお墨付きの素敵な女性なのでしょう」
さすがに、ジョエルの友人だとフィリスは可笑しくなった。
「ええ、きっと」
くすくすと笑いながら、フィリスはルーファスとくるくる回りながら踊った。
「素敵な女性が多いですから、押し寄せても文句はおっしゃらないで下さいね」
「もちろん。楽しみに待つことにします」
微かに笑みを浮かべるルーファスは、それでもなおクールな面持ちだった。こんな彼を押し倒せる女性は余程の強いハートの持ち主だとフィリスは思った。それか余程、思い余っての事かと。
ルーファスと一曲を踊り終えて、その次はルーファスに声をかけてきたセスと踊り、そしてその次も、久しぶりにアイザックが誘いに来て、と立て続けに踊った。
その後にジョエルを見れば彼は兄のフェリクスと話していた。こういう場で兄弟で話しているのは珍しかった。
「こんばんは、公爵閣下」
フィリスは軽くお辞儀をして挨拶をすると、フェリクスは微笑んだ。
「お一人なのですか?」
「ああ……さすがに心配だから夜は休んで欲しいと伝えてる」
「そうなのですね、お元気そうに見えますが、やはり大変なものですね」
「そう、その元気過ぎるのが心配なんだ。行動力のある人だから、無茶な事をするのじゃないかと」
結婚してから20年近く経っても仲が良さそうで、フィリスは自然と笑顔になれた。
「そうなんですね」
「そう、だからそろそろ挨拶もして回ったし、帰る所なんだ。フィリスはゆっくり楽しんで」
「はい、ありがとうございます」
フェリクスはそう言うと、フィリスに笑みを向けてジョエルの肩を軽くぽん、と叩いて大広間から出ていった。
「フィリスは疲れたんじゃないか?少し休憩する?」
「実はそうなの」
「お決まりのテラスにでも行こうか?」
夜会で知り合った男女が行くと言えば、テラスが定番だった。
そんなお約束の場所に誘われてフィリスは、ジョエルの肘に手をかけた。
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