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第一章 運命
月下草
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そうして彼女が落ち着いたところで、お互いに自己紹介することになった。
「僕はライデル。よろしくね」
「私はリーアよ。助けてくれたことには礼を言うわ。でも、私は人族を信用しない。私の両親を殺した人族はね!」
友好的に話しかけた僕とは対照的に、リーアと名乗った彼女は、憎しみの籠った表情で睨み付けてきた。そんな彼女の様子に、僕は少し胸が痛んだ。
「・・・そうか、君も親を殺されているのか」
「・・・あなたも?」
「僕は魔族に、なんだけどね」
「・・・そんなあなたが何故私を助けたの?魔族を憎んでいるんでしょ?」
彼女は理解できないといった表情で、僕に問いかけてきた。
「父さんが死んだのは僕が3歳の頃で、僕自身は何も覚えて無いんだ。ただ、魔族との戦争で殺されたって聞いただけ・・・今は母さんと一緒に生活してる」
「ふん!母親がいるだけ恵まれてるわよ!」
「そうだね。君は両親を殺されてるんだもんね・・・君は何故、人界へ?」
先程までの彼女の呟きからある程度推察は出来ていたが、一番気になっていたことを聞いてみた。
「・・・弟のためよ」
「薬草を採りに?」
「そうよ。弟は生まれつき病弱で、定期的にポーションが必要になるのよ。ただ、今回はいつもより病状が悪化したから、人界にしかないっていう稀少な薬草を探しに来たの」
彼女の言う薬草に心当たりがあるが、その前にもう一つ確認しておく。
「そうだったんだ。でも、さすがに魔界から人界に来るのに一人だった訳じゃないでしょ?良かったら、ここに一緒に来た人を探そうか?」
僕の申し出に、彼女は苦虫を噛み潰した様な表情をしながら口を開いた。
「言ったでしょ、私はお姉さんなの。薬草採取くらい一人で出来るわ」
「・・・・・・」
彼女の言葉から、何となくこの子の性格が分かったような気がした。周りに頼らず、一人で何でもやろうとしてしまうのだろう。
その結果、こんな状況に陥っているわけだが、その事を認めるのには抵抗があるようだった。
(きっと両親を亡くしたことで、弟さんのために自分が頑張らなきゃいけないと考えているんだろうな・・・)
彼女の今の様子に、少し前の自分の姿が重なる。僕も幼い頃に父さんを亡くし、病弱な母さんのために早く何でも出来るようになりたいと色々頑張ってきていた。
なるべく人の手を借りずに、一人で全てこなして、早く一人前の大人になりたかった。でも、子供の僕ではどうしても限界があり、見かねた周りの大人達が色々と手を差し伸べてくれた。
最初はその助けを断っていた僕の頭に、拳骨を振り下ろされてお説教されたのは良い思い出だ。そのお陰で、僕は助け合うことの大切さを学んだのだから。
出来れば彼女にもそう言った大切なことを知って欲しいと、会話をしながら考えていた。
「君が探している薬草だけど、月下草じゃないかな?」
「っ!!知ってるの!?」
「うん。君が倒れていた森の更に深層に、月が輝く夜にだけ花を咲かせる薬草だね。花が咲いている状態じゃないとポーションに加工しても効果がないから、かなり貴重なものだね」
「そ、そうっ!それよ、それ!やっぱりあの森にあるのね!!」
僕の話に興奮した彼女は、すぐに行動を起こそうとベッドから出ようとするが、やっぱり力が入らないようで、上手く動けずにいた。
「くっ!せっかく目的の薬草があるって言うのに!」
彼女は自由にならない自分の身体に苛ついて、太ももの辺りを叩いていた。
「あ、ちょっと待ってて、ポーションをあげるよ」
そういえば、自己紹介を始めたのでポーションを飲ますことを忘れていた。僕は机の引き出しに入っているポーションを持ってこようと立ち上がった。
「あっ・・・」
僕が背を向けると、彼女は小さく声を漏らした。
「ん?どうかした?」
何かあったのかと振り返ると、彼女は申し訳なさそうに俯きながら口を開いた。
「そ、その、あなたの背中・・・私が・・・」
「あぁ、気にしないで。これくらい大丈夫だよ」
彼女は僕の背中に爪を立てたことに罪悪感を抱いているようだった。あの時は混乱していただろうし、ああなるのも仕方ないことだと分かっているので、僕は彼女に気にしないように伝えた。
「ごめんなさい。自分を助けてくれた人を傷付けてしまうなんて・・・」
ばつの悪そうな彼女に、持ってきたポーションの小瓶を渡すと、僕に対する後ろめたさが残らないように僕もポーションを飲むことにした。
「さぁ、これを飲んで元気になって!」
そう言いながら、先に僕が飲んで見せた。すると、引っ掛かれてズキズキとしていた背中の痛みはスッと消えていった。僕は傷が治ったことを見せるため、彼女に背中を向けた。
「ほら、気にしなくても良いって言ったでしょ?」
「・・・ありがとう」
彼女は僕の背中の状態を確認したあと、何かを考え込むように俯き、小声で感謝を伝えてくれた。
そうして彼女もポーションを飲むと、驚いた表情で空になった小瓶を見つめた。
「・・・何これ?甘くて美味しい!」
「ははは、ポーションって薬草の味しかしなくて苦いでしょ?だからこれには蜂蜜を混ぜて飲みやすくしてるんだ」
僕は甘いポーションの種明かしをすると、彼女は更に驚いた表情で僕を見つめてきた。
「えっ!あなた、自分でポーションが作れるの?」
「そうだよ」
「そうだよって・・・私と変わらない位の歳なのに・・・」
愕然とした表情で僕の事を凝視してくる彼女に、何となく気恥ずかしさを覚えて、ポーションを作っている理由を教えた。
「僕の母さんも昔から病弱なんだ。でも、高価なポーションをそう幾つも買うのは難しかったから、自分で作れるようになったんだよ」
「そ、そう・・・あなたも家族が・・・」
お互いの身の上話で暗い雰囲気になってしまったので、話題を変えようとポーションの効果を確認する。
「ところで、体調はどうかな?」
「そ、そうね・・・」
僕の言葉に、彼女は身体の状態を確かめるように動かし始めた。腕を回し、足を動かし、肩を動かしていたところで急に動きを止めた。
「っ!」
「大丈夫?」
歯を食いしばって顔を歪ませる彼女が心配になって、覗き込むようにして体調を気遣った。
「・・・翼の付け根の辺りが折れてるかも・・・動かすと激痛が走るわ・・・」
「骨折か・・・僕のポーションは下級だから、治すには毎日ポーションを飲んで安静にしてないと難しいかな・・・ゴメンね」
翼という人にはない身体の造りだったので、骨が折れていることに気づかなかった。それに、骨折をすぐに治せるような高品質のポーションは今の僕では作れなかったので、申し訳なさに頭を下げた。
「何であなたが謝るのよ!あなたは人族なのに、魔族である私を手厚く治療してくれたわ。それに、傷つけてしまっても私に怒りもしなかった。そこまでしてくれている人に、私が怒る訳無いでしょ!」
彼女は心外だとでも言わんばかりに頬を膨らませて、腕を組んで僕を叱りつけてきた。そんな彼女の様子に、少しだけ打ち解けられたような気がして笑顔が溢れた。
「・・・ありがとう。治療の間、この部屋を使って療養してね。それから、僕の事はライデルって呼んでね」
僕が握手を求めて右手を差し出すと、彼女は膨れっ面のままだったが、僕の手を優しく握り返してくれた。
「短い間だろうけど、世話になるわ。私の事はリーアで良い」
彼女は僕と握手するとそっぽを向いてしまったが、その雰囲気は嫌がっているようなものではなく、どちらかというと照れ隠しのようにも見えた。
「よろしく、リーア」
「僕はライデル。よろしくね」
「私はリーアよ。助けてくれたことには礼を言うわ。でも、私は人族を信用しない。私の両親を殺した人族はね!」
友好的に話しかけた僕とは対照的に、リーアと名乗った彼女は、憎しみの籠った表情で睨み付けてきた。そんな彼女の様子に、僕は少し胸が痛んだ。
「・・・そうか、君も親を殺されているのか」
「・・・あなたも?」
「僕は魔族に、なんだけどね」
「・・・そんなあなたが何故私を助けたの?魔族を憎んでいるんでしょ?」
彼女は理解できないといった表情で、僕に問いかけてきた。
「父さんが死んだのは僕が3歳の頃で、僕自身は何も覚えて無いんだ。ただ、魔族との戦争で殺されたって聞いただけ・・・今は母さんと一緒に生活してる」
「ふん!母親がいるだけ恵まれてるわよ!」
「そうだね。君は両親を殺されてるんだもんね・・・君は何故、人界へ?」
先程までの彼女の呟きからある程度推察は出来ていたが、一番気になっていたことを聞いてみた。
「・・・弟のためよ」
「薬草を採りに?」
「そうよ。弟は生まれつき病弱で、定期的にポーションが必要になるのよ。ただ、今回はいつもより病状が悪化したから、人界にしかないっていう稀少な薬草を探しに来たの」
彼女の言う薬草に心当たりがあるが、その前にもう一つ確認しておく。
「そうだったんだ。でも、さすがに魔界から人界に来るのに一人だった訳じゃないでしょ?良かったら、ここに一緒に来た人を探そうか?」
僕の申し出に、彼女は苦虫を噛み潰した様な表情をしながら口を開いた。
「言ったでしょ、私はお姉さんなの。薬草採取くらい一人で出来るわ」
「・・・・・・」
彼女の言葉から、何となくこの子の性格が分かったような気がした。周りに頼らず、一人で何でもやろうとしてしまうのだろう。
その結果、こんな状況に陥っているわけだが、その事を認めるのには抵抗があるようだった。
(きっと両親を亡くしたことで、弟さんのために自分が頑張らなきゃいけないと考えているんだろうな・・・)
彼女の今の様子に、少し前の自分の姿が重なる。僕も幼い頃に父さんを亡くし、病弱な母さんのために早く何でも出来るようになりたいと色々頑張ってきていた。
なるべく人の手を借りずに、一人で全てこなして、早く一人前の大人になりたかった。でも、子供の僕ではどうしても限界があり、見かねた周りの大人達が色々と手を差し伸べてくれた。
最初はその助けを断っていた僕の頭に、拳骨を振り下ろされてお説教されたのは良い思い出だ。そのお陰で、僕は助け合うことの大切さを学んだのだから。
出来れば彼女にもそう言った大切なことを知って欲しいと、会話をしながら考えていた。
「君が探している薬草だけど、月下草じゃないかな?」
「っ!!知ってるの!?」
「うん。君が倒れていた森の更に深層に、月が輝く夜にだけ花を咲かせる薬草だね。花が咲いている状態じゃないとポーションに加工しても効果がないから、かなり貴重なものだね」
「そ、そうっ!それよ、それ!やっぱりあの森にあるのね!!」
僕の話に興奮した彼女は、すぐに行動を起こそうとベッドから出ようとするが、やっぱり力が入らないようで、上手く動けずにいた。
「くっ!せっかく目的の薬草があるって言うのに!」
彼女は自由にならない自分の身体に苛ついて、太ももの辺りを叩いていた。
「あ、ちょっと待ってて、ポーションをあげるよ」
そういえば、自己紹介を始めたのでポーションを飲ますことを忘れていた。僕は机の引き出しに入っているポーションを持ってこようと立ち上がった。
「あっ・・・」
僕が背を向けると、彼女は小さく声を漏らした。
「ん?どうかした?」
何かあったのかと振り返ると、彼女は申し訳なさそうに俯きながら口を開いた。
「そ、その、あなたの背中・・・私が・・・」
「あぁ、気にしないで。これくらい大丈夫だよ」
彼女は僕の背中に爪を立てたことに罪悪感を抱いているようだった。あの時は混乱していただろうし、ああなるのも仕方ないことだと分かっているので、僕は彼女に気にしないように伝えた。
「ごめんなさい。自分を助けてくれた人を傷付けてしまうなんて・・・」
ばつの悪そうな彼女に、持ってきたポーションの小瓶を渡すと、僕に対する後ろめたさが残らないように僕もポーションを飲むことにした。
「さぁ、これを飲んで元気になって!」
そう言いながら、先に僕が飲んで見せた。すると、引っ掛かれてズキズキとしていた背中の痛みはスッと消えていった。僕は傷が治ったことを見せるため、彼女に背中を向けた。
「ほら、気にしなくても良いって言ったでしょ?」
「・・・ありがとう」
彼女は僕の背中の状態を確認したあと、何かを考え込むように俯き、小声で感謝を伝えてくれた。
そうして彼女もポーションを飲むと、驚いた表情で空になった小瓶を見つめた。
「・・・何これ?甘くて美味しい!」
「ははは、ポーションって薬草の味しかしなくて苦いでしょ?だからこれには蜂蜜を混ぜて飲みやすくしてるんだ」
僕は甘いポーションの種明かしをすると、彼女は更に驚いた表情で僕を見つめてきた。
「えっ!あなた、自分でポーションが作れるの?」
「そうだよ」
「そうだよって・・・私と変わらない位の歳なのに・・・」
愕然とした表情で僕の事を凝視してくる彼女に、何となく気恥ずかしさを覚えて、ポーションを作っている理由を教えた。
「僕の母さんも昔から病弱なんだ。でも、高価なポーションをそう幾つも買うのは難しかったから、自分で作れるようになったんだよ」
「そ、そう・・・あなたも家族が・・・」
お互いの身の上話で暗い雰囲気になってしまったので、話題を変えようとポーションの効果を確認する。
「ところで、体調はどうかな?」
「そ、そうね・・・」
僕の言葉に、彼女は身体の状態を確かめるように動かし始めた。腕を回し、足を動かし、肩を動かしていたところで急に動きを止めた。
「っ!」
「大丈夫?」
歯を食いしばって顔を歪ませる彼女が心配になって、覗き込むようにして体調を気遣った。
「・・・翼の付け根の辺りが折れてるかも・・・動かすと激痛が走るわ・・・」
「骨折か・・・僕のポーションは下級だから、治すには毎日ポーションを飲んで安静にしてないと難しいかな・・・ゴメンね」
翼という人にはない身体の造りだったので、骨が折れていることに気づかなかった。それに、骨折をすぐに治せるような高品質のポーションは今の僕では作れなかったので、申し訳なさに頭を下げた。
「何であなたが謝るのよ!あなたは人族なのに、魔族である私を手厚く治療してくれたわ。それに、傷つけてしまっても私に怒りもしなかった。そこまでしてくれている人に、私が怒る訳無いでしょ!」
彼女は心外だとでも言わんばかりに頬を膨らませて、腕を組んで僕を叱りつけてきた。そんな彼女の様子に、少しだけ打ち解けられたような気がして笑顔が溢れた。
「・・・ありがとう。治療の間、この部屋を使って療養してね。それから、僕の事はライデルって呼んでね」
僕が握手を求めて右手を差し出すと、彼女は膨れっ面のままだったが、僕の手を優しく握り返してくれた。
「短い間だろうけど、世話になるわ。私の事はリーアで良い」
彼女は僕と握手するとそっぽを向いてしまったが、その雰囲気は嫌がっているようなものではなく、どちらかというと照れ隠しのようにも見えた。
「よろしく、リーア」
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