エナドリ転生 〜怠惰な暮らしが希望です〜

黒蓮

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第二章 学園生活

交流試合 4

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 ――サッカーボール・キック。
 不意にそんな言葉が浮かんできたのは、ドラコニル嬢の見事な蹴りを見たからだろう。

(一応、王子なんだけど、容赦ないな︙︙というか、翼を動かしているのに音がほとんどしないどころか、風も感じない。あれは脅威だな)

 生徒会長を一撃で気絶させ、悠然と地面に降りてくるドラコニル嬢を見つめながら、彼女の能力を分析する。

「さて、邪魔者はいなくなりました。では、始めましょうか」

 自然体に構えるドラコニル嬢は、不敵な笑みを浮かべて宣言した。私との戦いが待ちきれない様子だ。

「わかりました。薙刀はよろしいのですか?」
「この状態では、木製の武器など握り潰してしまいますわ」
「それは怖いですね。腕を掴まれたら降参しないと、潰されてしまいそうですね」
「先程の私の動きを見て、そんな軽口が叩けるとは︙︙やはりその目の金色は生来のものではなく、常にオドで強化していますね」
「︙︙ご明察の通りです。安全とは言い難いこの世界で暮らすには必要な能力と考え、幼少期より鍛えています」

 彼女の指摘に素直に返答する。小さな頃から満足に教育の機会をもらえなかった私は、とにかく見て覚えるしかなかった。知識は書物を、武力は兄たちの技術を見てきた。
 動体視力の強化とは便利なもので、スローモーションで体の動きをじっくり観察することができる。その観察眼は、戦闘においても有利に働いた。相手がゆっくり動いて見えるのだから、その動きを見てから対応すれば、怪我をすることもなかった。

「なるほど。では、どこまで私の速度についてこれますか――ねっ!」

 瞬間、彼女は音もなく私の眼の前に現れた。既に間合いの内側。手を出せば当たる距離だ。

「はっ!」
「おっと」

 私の頭部を狙った突きを、頭を傾けることで避ける。顔の横を通り過ぎる拳を見て、直撃していたら頭が破裂していたかもしれないと、想像させられるような鋭いものだ。

「まだまだですわ!」

 さらにドラコニル嬢は、体を捻りながら蹴りを放ってくる。それも紙一重で避けると、彼女は体を一回転させて裏拳を放つ。しゃがみ込んで躱すと、それを見透かしたように膝蹴りが襲ってきた。

「はぁぁ!」
「危なっ」

 態勢的に避けられなかったので、両手で彼女の膝を押さえつけるようにして止める。直後、危機感を覚えた私は、彼女の膝蹴りの勢いを利用して、自分から後方へ弾き飛んだ。

「︙︙この連続攻撃を避けられたのは初めてだわ」

 悔しさが感じられない声で話す彼女の方を見ると、手の甲と膝が接触し、甲高い衝撃音を放っていた。あのままだったら、頭を潰されていただろう。

「手合わせですから、相手を殺すような攻撃はしないでくださいよ」

 苦言を呈する私に対し、彼女は目を丸くして口を開く。

「何を言っていますの? ハルトなら多少の怪我をする程度でしょう?」

 私の実力を信頼しての言葉なのか、彼女は当然という表情を浮かべていた。

(いったい彼女の龍眼には、私はどのように映っているんだ?)

 ほぼ初対面の私に対し、過剰な評価の根拠となっている彼女の目に興味が湧く。この交流試合が終わったら、一度詳細に聞いてみたいものだ。

「それより、ハルト。防戦一方で一度も攻撃に転じてきませんね。ガイラスと対峙した時も防御に徹しているばかり︙︙今度はハルトの実力を見たいわ」

 挑発的な様子で、ドラコニル嬢が攻撃してこいと手招きする。このまま彼女の攻撃を防いでやり過ごそうと考えていたのだが、どうやらそれでは満足してくれないようだ。

「分かりました。ご希望とあれば。では、参ります」
「――っ!」

 言い終わると同時、間合いの内側に踏み込み、顔と鳩尾を狙った上下同時突きを放つ。彼女は一瞬、目を丸くして驚いた表情を浮かべたが、即座に反応し、両手で上下の突きを止められてしまった。

「素晴らしい反応速度と状況判断ですね。顔への攻撃に意識を取られると、鳩尾への突きを見落としがちになるのですが、さすがです」
「ハルトの速さには少し驚かされましたが、私も動体視力は鍛えてますのよ」
「では、続けて参りますね」

 止められた拳を引き戻し、その場で上体を捻ってから右の肘打ちを放つ。

「遅いですわ!」

 呆れたような声と共に片手で簡単に止められてしまったが、それこそが狙いだ。

「シッ!」
「くっ」

 止められた肘を起点とし、腕を伸ばして裏拳をドラコニル嬢の側頭部に叩き込んだ。しかし接触した感触は、まるで鉄でも殴っているような感覚だった。どうやら彼女の顔に浮かぶ漆黒の鱗の防御力は、尋常ではないらしい。

「︙︙硬いですね」
「女性に対して失礼な物言いですわね。しかし、まさか一撃もらってしまうとは思いませんでしたわ。なんなのですか、この技は?」

 やはり大したダメージがないようで、彼女は平然とした表情で、今の一連の攻撃について聞いてきた。

「失言は謝罪します。この技ですが︙︙見えているからこそ避けられない攻撃というものがあります。反応できるからこそ、その攻撃に対処してしまう。それ自体が罠ということです」

 昔読んだ格闘マンガの受け売りだったが、実戦でここまで上手く決まるとは思わなかった。やってみたかった技が成功すると気分が良くなり、説明も少し嫌味っぽくなってしまった。

「なるほど︙︙反射神経の高さを逆手に取った技ですのね。人間種は、このような技術を磨いているということですか。侮れませんわね」
「お褒めいただき光栄です」
 
 感心した表情で頷いているドラコニル嬢だが、この技術は私が前の世界から持ち込んだ知識だ。もしかしたらこの世界にも同様の技術があるかもしれないが、剣術が発達している人間の国では、武術自体を見たことがない。

「やられっぱなしは癪ですから、ハルトにも獣人種という存在に驚いてもらいましょう」
「っ!」
 
 ドラコニル嬢が不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、その姿が掻き消えた。
 次の瞬間、側面から彼女の蹴りが迫っていた。なんとなく避けてはいけない気がしたので、下から彼女の足を上に持ち上げるようにして攻撃の軌道を逸らす。

「この速度にも反応しますか。ならっ!」

 彼女は翼を動かし、あっという間に距離を取ったかと思えば、また別角度から襲いかかってくる。
 前後・上下・左右――あらゆる方向から繰り出される彼女の攻撃には、驚きを禁じ得ない。
 空を自在に飛べるというアドバンテージを活かし、ヒット・アンド・アウェイで攻め立ててくる。それを真正面から受けることなく避けて、躱して、逸らす。
 普通、手数が多くなれば一撃の威力は下がりそうなものだが、彼女の攻撃は、その全てが重い。一度でもまともに喰らってしまえば、もう立ち上がれないと直感するほどに。

(攻撃は単調。フェイントもない素直過ぎる攻撃だけど、とんでもない脅威だ。早く決着をつけないと、集中力が持たないかも︙︙)

 一撃でも受けたら終わりの状況下、集中力を極限まで振り絞り、研ぎ澄ました動体視力と判断力で彼女の攻撃を捌いていくが、人間の集中力には限界がある。防戦一方では押し切られると考え、こちらも反撃に出る。

「はあっ!」
「無駄ですわ!」

 突き込んでくる右腕を内側から掴み、そのまま捻り上げて関節技を試みるが、捻った回転と同じ方向に体を捻ねり、そのまま強引に掴んだ手を弾かれてしまった。

(空を飛べるのは厄介だな。組技にもっていこうとしても、特有の動きで逃げられる︙︙ならっ!)

 この交流試合を終わらせるため、勝負に出る。

「隙ありですわっ!」
「――っ」

 あえて僅かな隙を晒し、彼女の攻撃場所を誘導する。左の脇腹への回し蹴りに対し、一歩踏み込むことで攻撃の打点をズラしつつ、彼女の顎先を狙って、回し肘打ちを叩き込むと同時に、意を決して彼女の回し蹴りを受ける。

「ごふっ――」
「かはっ――」

 打点をズラしたとはいえ、彼女のとんでもない威力の蹴りで吹き飛ばされ、地面を盛大に転がる。
 痛みを堪えつつ、上体だけ起こしてドラコニル嬢の様子を確認すると、彼女は膝から地面へ崩れ落ち、そのまま倒れ込んだ。
 狙い通り脳を揺さぶることができたようで、彼女は気を失ったのだろう。

「︙︙やった︙︙」

 達成感に満たされるも激痛が襲いかかり、その場から動けなくなってしまった。
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