騎士学院のイノベーション

黒蓮

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第二章 王女襲来

力の一端 4

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~~~ マーガレット・ゼファー 視点~~~

「頑張れ!合流地点まで、もうすぐだ!」

 王子殿下から避難の指揮を任ぜられた私は、最大限周囲を警戒しつつ、かつ班員の状態を確認しながら、足早に移動していた。

4人編成となったことで、中央にレンドールを背負ったライトとロベリアを配置し、先頭をセルシュ、後方を私が担っている。

「はぁはぁ・・・頑張ります・・・」

「ボクも・・まだ大丈夫です・・・」

避難に際して一番懸念していたのは、魔術師であるロベリアと身体強化出来たばかりのライトだ。そもそもロベリアは身体強化が出来ないため、現状はただのか弱い女の子だ。本当は私かセルシュが彼女を背負った方が早いのだが、その状態でもし魔物が襲いかかってくれば対処できないため、安全を期して彼女には走ってもらっている。

そして懸念通り彼女は体力の限界のようで、滝のような汗を流しながら力を振り絞って私の言葉に返答し、ライトもまだ安定した身体強化は出来ないようで、身体強化特有の輝きが明滅していた。どうやら魔力の制御に神経を擦り減らしているようだ。

特にロベリアは先程から嗚咽を堪えながら足を進めているが、ここで休憩を取るわけにはいかない。一国の王子殿下と王女殿下が私達の為に魔物の足止めをしているのだ、一刻も早く避難を完了しなければならない。

その時だった・・・

「お~い!!無事ですかっ!?」

「っ!グレイ先生!!」

あと数十分もすれば緊急時の合流場所が見えてくるという所で、前方から学年主任のグレイ先生が手を振りながら私達に声をかけてきた。

その様子を見たセルシュが、安堵したような声で応えていたが、私は先のレンドールの話から、警戒した視線を先生に送る。

「無事で何よりだが、王子殿下と王女殿下はどうしました?人数も一人少ないし、背負われていたレンドール君は大丈夫なのですか?」

グレイ先生と合流すると、休憩した方が良いだろうと言われ、ライトとロベリアは座り込んで体力や気力を回復し、私とセルシュは立ったまま息を整えていた。そんな中、先生は私とセルシュに対して、矢継ぎ早にこちらの状況を確認するように質問してきた。

正直、ここで休憩して情報を伝えるのではなく、合流地点へ移動しながらしたいのだが、緊急時でもある今は先生に従うべきだとセルシュが強く主張した結果だった。

「王子殿下と王女殿下は、私達を逃がすために殿しんがりとなって魔物を食い止めると・・・レンドールはその、色々とありまして・・・怪我をしたわけではなく、単に気絶しているだけなのでご心配なく」
 
このグレイ先生がレンドールにあの魔導具を渡したのだとすれば、何か思惑があってのことだろう。そう考えると、無闇と情報を伝えていいか迷った私は、最低限必要な事を伝えた。

「なんと!両殿下が君達のために危険をおかしてまでそんな行動に出てくださるとは・・・ならば私は必ず君達を無事に合流地点へと送らねばなりませんね。ところで・・・アル・ストラウスはどうしました?」

私の説明に先生は、大袈裟な仕草で反応していたのだが、最後にアルの事を聞く時の雰囲気は、背筋に冷や汗が流れるような殺意にも似た何かを感じた。

「あいつなら殿下達に言われて、魔物を食い止めるサポートをする事になりした。私に言ってくだされば獅子奮迅の活躍をしたのですが、魔術師のサポートが欲しかったようです」

先生の質問に答えるセルシュは、あの魔道具を用意したのが目の前の人物だと頭に無いようで、完全に信頼しきった表情を浮かべていた。そんなセルシュの様子に、先生はどこかわざとらしい笑みを浮かべた。

「そうですか。となると、両殿下と彼は一緒に行動していると・・・」

グレイ先生は意味ありげな表情を浮かべると、何事かを考えているようだった。疑問に感じるが、今は先生を警戒しながらも、何が起きているかの情報を知りたかった。

「グレイ先生は今どんな状況になっているかご存知ありませんか?私達では魔物の群れが迫っているということしか知らず、その規模も他の生徒達が無事なのかも分かりませんから」

「そうですね。私も事態を完全に把握しているわけではないですが、200匹前後の魔物の群れが迫っているとは報告を受けています。ただ、安心して下さい。今のところ生徒には誰一人被害は出ていません」

「良かった。それなら私達も早く合流地点へ急ぎましょう!」

その情報に私は胸を撫で下ろすと同時、周りの目や耳がある合流地点へと急かす。グレイ先生に何か思惑があって殿下達を陥れる可能性があるのなら、そんな事が出来ないようにと考えてのものだ。

「ええ、そうですね。しかし、レンドール君は大丈夫ですかね?詳しい容態を聞かないと、下手に動かすのも危ないですよ?」

ごく普通に、先生が一人の生徒を心配するような様子でレンドールの容態を確認する質問を、セルシュに向かって問いかけた。

「あぁ、実はレンドールの奴、あの平民にやられて気絶したんですよ。ほんと、情けない奴です」

「ん?アル・ストラウスに?どういう事だい?」

今日のレンドールの態度に思うことがあってか、セルシュは見下すような視線を、地面に横たえられたレンドールに向けながら口を開いた。

「いや、コイツ魔物の群れが近づいてきてるって聞いてから急におかしくなって。殿下達を守るのは僕だ~とか言い出して・・・あれ?そう言えば、あの魔導具を学年主任の先生から渡されたって言ってたな・・・それって、先生の事ですか?」

「ほう?魔道具について彼がそんなことを?」

セルシュの思い出した、という何気ない表情での質問の言葉に、先生は明確な返答をせず、目を細めてレンドールを見据えた。そして彼の側にゆっくり近づくと、何事か思案するような表情を向けていた。不穏な空気を感じ取った私は、意を決して口を開いた。

「グレイ先生。その魔道具は魔物達を狂乱状態にするものらしく、王子殿下達もかなり危険視していました。何故そのようなものを一介の生徒に持たせたのですか?」

「・・・あの魔道具は我が学院で製作された最新のものでしてね。効果として、魔物を狂乱状態に陥らせつつ、魔物だけで共食いさせ尽くし、周りに被害を出すことなく、安全に魔物の群れを殲滅可能にするためのものなんですよ。ほら、魔物達が起こしていた地響きも聞こえなくなっていませんか?」

私の質問に、先生は笑みを浮かべながら自ら地面に耳を当てて見せていた。少し疑問は残るが、筋は通っているようだったので、私とセルシュも先生に倣って地面に耳を当てた。

「本当だっ!地響きが聞こえなくなってる!!」

地響きが聞こえていないことを確認したセルシュは、喜びに声を弾ませていた。その言葉を聞いたロベリアやライトは、安堵でため息を吐いていた。

「どうやら、効果あったようですね。これで生徒に犠牲も出ず、王子殿下も王女殿下も大丈夫でしょう」

「・・・グレイ先生」

「はい?どうしましたか?」

先生の放ったある言葉が引っ掛かり、私が呼び掛けると、先生は笑みを崩さぬままこちらに振り向いた。 

「効果が不確かな魔道具をわざわざレンドールに持たせたのですか?第一王子殿下と第二王女殿下という、王国の重要人物が同行するこの班に、特別に」

「・・・何が言いたいのかな?」

私の言葉に先生は鋭い視線を向けてくるが、自分を叱咤して口を開く。

「そんなものを生徒に渡す必要性は無かったはずです。警護で見回りしている先生方が、必要に応じて使用すればよかった。何故レンドールに?」

「・・・・・・」

私の質問に先生は表情を崩すことは無かったが、無言でこちらを見つめる様は、いっそ不気味だった。

「マ、マーガレット様?何言ってるんですかっ?その言い方だと、まるでグレイ先生が何か企んでいるような言い方じゃないですか!?」

不穏な空気に皆が不安な顔をしていたが、そんな中でセルシュが焦りの表情を浮かべながら口を挟んできた。しかし私は彼の方を見ることなく、先生のことをじっと見つめていた。

「・・・マーガレット・ゼファー君。君も要領の悪い子だね・・・このまま話を終わらせていれば、死ぬのはレンドール君だけだったというのに・・・」

「っ?何を言ってーーーっ!!」

突然の言葉に、一瞬理解が追い付かなかったが、いつの間にか先生の左手にダガーがあり、その切っ先から僅かに血が滴っているのに気づいた。

「剣士でありながら、私の行動に気づかないとは・・・やはりまだまだ子供ですね」

「まさかっ!地面に耳を当てるように仕向けたのは!!」

「魔方陣展開・魔力供給・照準・発動!」

先程の先生の行動の真意に気づいた私だったが、既に先生は次の行動を開始しており、こちらに右手を向けながら魔術を発動してきた。さすがに学院の教師だけあって、その発動速度は生徒と比べ物にならなかった。

「くっ!」

「マーガレットさんっ!!」

発動された魔術は土魔術で、ナイフの様な鋭い形状をした5つの岩の塊が、私の急所目掛けて迫ってきた。その様子に、ロベリアが悲壮な表情を浮かべながら私の名前を叫んでいた。

警戒していなかったわけではないが、まさか教師が生徒を攻撃してくるとは思わなかったため、完全に反応が遅れてしまった。

(嫌だ!死にたくない!!)

「助けてくれ!アルっ!!」

目を閉じ、命の危機を感じた私が強く願ったのは、死にたくないという生物として単純な想い。そして、想い人に自分の気持ちを伝えていないという後悔だった。

「展開・供給・照準・発動!」

直後、どこからか美しい声が紡いだのは、グレイ先生よりも圧倒的に発動速度の早い魔術だった。そして、私のすぐ前方で硬質なもの同士がぶつかる音に、ゆっくりと目を開いた。

「お、王女殿下?」

「アル様でなくて申し訳ありませんね、マーガレット様?」

そこには何故か不敵な笑みを浮かべる王女殿下が、右手をこちらに差し向けていた。

「んなっ!?何故王女殿下がここに!?あいつらは何をやっている!」

「ああ、あなたのお仲間さんでしたら、わたくしとお兄様で一掃しました。まだ隠れている方もいらっしゃるようですが、そちらはお兄様が動いていますので、時間の問題ですね」

「なにっ!!」

王女殿下の言葉に、先生は目を見開いて驚きを隠せずにいた。どうやらグレイ先生が何事か企んでいたというのは本当だったようだ。

「さて、貴方には聞きたいことが山のようにあります。大人しく降参すれば、痛い思いをせずに済みますよ?」

「・・・・・・」

王女殿下の投降勧告に、先生は無言で俯いていたが、次の瞬間、勢い良く顔をあげて笑いだした。

「はははっ!残念だったな王女殿下!そこにいるレンドール君は、私が特別に調合した毒で、あと僅かの命だ!解毒薬を投与して欲しくば、そこで大人しくしていろ!」
 
「もはや貴方に逃げ場はありません!諦めなさい!!」

先生の言葉に、王女殿下はチラリと倒れるレンドールを見ると、少しだけ焦りの表情を浮かべながらも、強気に降参を促した。しかし先生は聞く耳を持たず、懐から漆黒の球体を取り出して天に掲げた。

「諦める?私が?どうして?まだ何も始まってさえいないというのにっ!!」

「何をっ!?」

先生はその球体に魔力を流すと、辺りを紫の不気味な光が包み、人の耳では聞き取れない、耳鳴りのような音が響き渡った。

「切り札というのは、最後まで隠しておくものだっ!!」

狂気に取り憑かれたような表情で叫ぶ先生に、王女殿下は厳しい表情で周辺を警戒していた。

そして、それはやって来たーーー

『ギルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!』

「「「っ!!」」」

「さぁ!絶望しろっ!!」

上空から私達を見下ろす、難度9の天災と称される、グリフォンの姿がそこにあった。
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